コンピューター化された保守管理システム(CMMS)は、保守情報を一元化し、保守運用のプロセスを促進するソフトウェアです。車両、機械、通信、プラント・インフラストラクチャー、その他の資産などの物理的な機器の利用と可用性を最適化するのに役立ちます。CMMSはCMMIS(コンピューター化された保守管理情報システム)とも呼ばれ、製造、石油・ガス生産、発電、建設、運輸、その他の物理的インフラストラクチャーが重要な産業におけるシステムで使用されています。
CMMSの中核となるのは、そのデータベースです。これには、保守組織が保守を担当する資産、およびそのための設備、資材、その他のリソースに関する情報を整理するデータ・モデルがあります。
CMMSデータベース内の情報はシステムのさまざまな機能をサポートしており、それにより以下を実現できます。
リソースと作業員の管理:対応可能な従業員と利用可能な機器認証を追跡します。特定のタスクを割り当て、チームの編成を行います。シフトを編成し、賃率を管理します。
資産レジストリ:以下のような資産情報の保管、アクセス、共有を行います。
作業指示書管理:作業指示書管理は通常、CMMSの主要な機能と見なされ、以下のような情報を含みます。
作業指示書管理には、次の機能も含まれます。
予防保全:時間、使用状況、またはトリガーされたイベントに基づいて、作業指示の開始を自動化します。予防保全機能を使用して、複数の指示書にわたって資産を編成し、関連付けます。予防保全作業指示書の順番付けとスケジュール設定を行います。
資材と在庫管理:複数の保管場所、配送センター、施設にわたる、保守および修理作業(MRO)の設備と資材の在庫管理、配布、再利用を実施します。サプライヤーの管理、在庫コストの追跡、再供給の自動化を行います。
レポート生成、分析、監査:資産の可用性、資材の使用量、人件費と資材費、サプライヤーの評価など、保守カテゴリー全体のレポートを生成します。情報を分析して、資産の利用可能状況、パフォーマンスの傾向、MRO在庫の最適化などを把握します。それにより、ビジネス上の意思決定をサポートし、監査のための情報を収集して編成できます。¹
CMMSが登場する以前は、保守情報は紙のファイルに埋もれており、その後もいくつものスプレッドシートに分散して保管されていたため、一元的で動的な可視性と自動管理を実現することは、非現実的なものでした。
CMMSの最も古いバージョンは、1960年代に登場し、一般的には大企業によって使用されていました。技術者は、パンチ・カードとIBMメインフレームを使用して、コンピューター化された記録に通知し、保守タスクを追跡していました。1970年代には、パンチ・カードに代わってチェックリストが利用されるようになり、技術者がシフト終了時にCMMSシステムに入力していました。
CMMSは、1980年代から1990年代になると中小企業に普及しました。コンピューターが小型化され、より安価で分散型となり、接続性が高まったためです。1990年代、CMMSはローカル・エリア・ネットワーク(LAN)間で情報を共有するようになります。
2000年代には、イントラネットやWebベースの接続が可能になり、CMMSの機能はさまざまなモバイル・デバイス、現場アプリケーション、運用サイトに拡張されました。
最新世代のCMMSは、クラウド・ベースでモバイル性が高くなっています。実装を迅速化し、保守を容易にし、データ・セキュリティーを強化することができます。²
CMMSという用語は、EAM(設備資産管理)と混同されることや同義として使用されることが多くあります。両者は極めて類似した機能と目的を持ちますが、本質的には異なります。CMMSとEAMの間の重要な相違点を明確にするために、CMMSの歴史とCMMS、EAM、APM(アプリケーション・パフォーマンス管理)の関係について簡潔に説明します。
CMMSの進化に伴い、EAMの基盤が確立されました。基本的に、EAMにはCMMSの機能が含まれており³、その機能は重なることがあります。CMMSの機能に加えてEAMは、その接続性と情報共有の強化によって、複数のサイトにまたがることができ、部門間のコラボレーションを促進し、エンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)などの他のシステムとのより深い統合を実現します。⁴
これらの機能により、EAMソリューションには、資産のライフサイクル全体とその財務分析、調達、プロセス管理、リスクおよびコンプライアンス、資産の処分などに対する影響が考慮された、より広範なビジネス・コンテキストが提供されます。CMMSソリューションは、作業指示書とワークフローの自動化、作業員のスケジューリング、資材の管理、またそれらのタスクに関するレポートや監査の提供によって、固定資産の利用可能状況とアップタイムに焦点を置く傾向があります。
CMMSおよびEAMは、保守管理者と保守部門が、主な目的である信頼性の高いアップタイムの達成をより簡単かつ効率的に実現するうえで不可欠です。
資産と物理的な機器が長く稼働し続けるほど、それらが提供する価値は大きくなります。IBMのブロガーであるSarah Dudleyは、自身の記事「CMMSのメリットについての完全ガイド」の中で、「ある機器が、大きな修理の必要なく稼働し続けられる期間が長くなるほど、長期的にはより大きな節約へとつながる」と指摘しています。
アップタイムを確実に維持することで、企業は注文を受け付けて処理し、顧客の要求に応え、顧客体験を形にし、資産に依存する意思決定を確実に行えるようになります。IBMは、資産管理者を対象とした調査により、EAMに投資する主な理由としてシステムの信頼性が75%であることが判明したと報告しています。
CMMSのメリットには、以下が挙げられます。
資産の可視性:CMMSデータベースで一元化された情報により、保守管理者やチームは、資産が購入されたとき、保守が実行されたとき、故障頻度、使用部品、効率性評価などを瞬時に呼び出すことができます。
ワークフローの可視性:ダッシュボードと視覚化を、技術者やその他の役割に合わせて調整することで、実質的にリアルタイムで状況と進捗を評価できるようになります。保守チームは、資産がどこにあり、何が必要か、また誰がいつ作業すべきか、といった情報を迅速に特定できます。
自動化:部品の注文、MRO在庫の補充、シフトのスケジューリング、監査やその他の管理業務のための情報収集などの手動タスクを自動化することで、時間の節約、エラーの低減、生産性の向上を実現し、事務作業ではなく保守に重点を置くことができるようになります。
プロセスの最適化:すべての関係者が作業指示書を表示・追跡できます。モバイル・デバイス間で詳細を共有し、現場の作業を業務センターと調整することができます。資材およびリソースの分配と使用率に優先順位を付け、最適化することできます。
現場作業員の管理:社内外の現場作業員の管理は、複雑でコストがかかります。CMMSとEAMの機能によって、社内のチームと社外のパートナーシップを統合し、コスト効率よく配置できます。最新のEAMソリューションは、先進の接続性、モビリティー、拡張現実、ブロックチェーンを提供することで、現場のオペレーションを変革します。
予防保全:CMMSデータを使用すると、保守作業を事後対応型から事前対応型のアプローチに移行できるため、高度な資産保守戦略を策定することができます。日常的な活動やセンサー、メーター、その他のIoT機器から取得されるデータは、プロセスと資産に関するインサイトを提供し、予防策を通知し、資産が故障するかパフォーマンスの低下に陥る前にアラートをトリガーすることができます。
一貫性と知識の伝達:資料、修理用マニュアル、保守手順を記録したメディアは、CMMSに保管し、対応する資産に関連付けることができます。この知識の収集と維持により、一貫性のある手順が作成され、優れた作業の実施が可能となります。また、担当者の離職によって知識が失われることなく、新しい技術者へと知識を引き継ぐことができます。
コンプライアンス管理:コンプライアンス監査により、保守業務や資産集約型のビジネス全体に混乱が生じる可能性があります。CMMSデータは、監査の要求に合わせて調整された対応やレポートを生成することにより、監査を格段に簡単にします。
安全衛生と環境:コンプライアンス管理に沿って、CMMSとEAMは、安全衛生と環境に関する考慮事項についての重要なレポート作成を行います。この目的は、リスクを軽減して、安全な業務環境を維持することです。CMMSとEAMは、繰り返し発生するインシデントまたは障害を分析するための調査、インシデントと是正処置の追跡可能性、プロセスの変更管理機能を提供します。
効果的なCMMSを選択して実装するには、機能的要因と技術的要因を考慮する必要があります。プロバイダーと導入する企業は、この文脈においてはCMMSとEAMという用語を同じ意味で使用することがありますが、両者の機能は重なることから、ここでは支障ありません。
ITアナリストのIDC社によると、機能面で中心となる検討事項の1つは、増加し続けるデータの処理です。これについて同社は、「資産管理者が使用できるデータ・ソースの数(センサー、空間データ、ビジュアル・データなど)が増え続けているのを受けて、こうしたさまざまなデータの管理、統合、分析を高速で行うことが、EAM専門家にとって今後5年間の極めて大きな課題となります」と述べています。
IDC社はまた、人材の配置と開発のリソースを資産管理に合わせて調整することの重要性に触れ、「この機能は、人材の配置、トレーニング、開発の観点からは、リソースに乏しいことが往々にしてあります。このリソース不足はモチベーションを低下させ、スタッフの間に非生産的な文化を生み出します」と指摘しています。
最後に、IDC社は、CMMSとEAMの機能のモダナイズが重要であるとし、「組織の中には、修理注文管理、作業スケジュール、交換・修理の決定といった重要なEAM機能について、依然としてレガシー・システムとスプレッドシートから移行していないところがあります」と述べています。
CMMSとEAMのソリューションは、数多くの方法で機能上の課題に対処していますが、中でも主要な技術的アプローチの1つとなるのが、クラウド上でホストされるCMMSとEAMのソリューションをSoftware as a Service(SaaS)として導入することです。
これについてIBMは、「資産管理ソフトウェアを選択する際に、ベンダーによって一元的にホスティングされオンデマンドで利用できる、クラウド・ベースのデリバリー・モデルであるSoftware as a Service(SaaS)を選択する組織が増えています」との見解を示しています。
SaaSは、技術的アプローチとして、いくつかの主要な機能要因に対応します。
高レベルの資産を管理および保守するためのIBM Maximo Application Suiteでは、AIと分析を使用して、パフォーマンスの最適化、資産のライフサイクルの延長、運用のダウンタイムとコストの削減を実現します。
インテリジェントなモバイル設備資産管理(EAM)を使用して、接続している技術者が、タイミングと場所を問わずに資産を管理できるようにします。
データを実行可能な洞察に変えることにより、職場の安全性が向上します。安全の中心にコンプライアンスを据えることで、危険をより適切に識別して排除できるようになります。
1. CMMSの役割(リンク先は、ibm.comの外部です)
3. CMMSとEAMの本当の違い(リンク先は、ibm.comの外部です)
4. MRO在庫の合理化と最適化(リンク先は、ibm.comの外部です)