タレント・アクイジションとは、組織が成長するために必要となる新しい従業員の発掘、惹きつけ、評価、採用、定着を行う際に用いる継続的な戦略とプロセスを指します。
タレント・アクイジション戦略 は、組織の現在および将来の人員配置のニーズを満たすために、適切な採用候補者を発掘して囲い込み、獲得するプロセスです。タレント・アクイジションを実践する上で軸となるのが、潜在的な採用候補者を組織に惹きつけ、募集中の職務に必要な条件を満たし、組織に適した人材を採用することです。ある調査によると、48%の組織(ibm.com外部へのリンク)は、2024年の最優先事項はタレント・アクイジション(人材の獲得)であると述べています。
組織は自社の成功の推進のために、戦略を立てて、適切な求職者を適切なタイミングで、適切な職務に採用できるよう努めています。効果的なタレント・アクイジション戦略は、人事戦略に沿ったものであるだけでなく、組織のより広範な戦略を反映します。
McKinsey社は、組織が新しい従業員の入れ替えるのに、55,000米ドルのコストがかかると見積もっています(ibm.com外部へのリンク)。1 タレント・アクイジション戦略を改善することで、新しい従業員を見つけて、採用するコストを最小限に抑えることができます。
タレント・アクイジションのプロセスには通常、職務分析、スカウト、書類審査、面接、新入社員の選考や新人研修などが含まれます。成果を上げているタレント・アクイジションには、組織のブランディングも取り入れられていることが多くあります。ポジティブなブランド・イメージを持つ雇用主に人材は惹きつけられる傾向があるからです。採用ストラテジーでは、候補者にリーチする手段として、オンライン求人サイト(LinkedIn、Indeedなど)や、ビジネス上のネットワーク、ソーシャル・メディアなどが活用されます。
さらに、候補者に採用プロセスをスムーズに進めてもらうためには、魅力的で効率的な候補者エクスペリエンスが必要です。テクノロジーの進歩により、応募者追跡システム(ATS)、人工知能(AI)ツール、データ分析などの利用が可能になり、プロセスを合理化し、優秀な候補者を見極めて、雇用主と候補者のやり取りをより明確にすることができるようになりました。
タレント・アクイジションはまた、職場内のダイバーシティー、エクイティー、インクルージョン(DE&I)を確保する上でも重要な役割を果たしており、採用担当者には多様な応募者の発掘と公正で包括的な採用プロセスの推進を促しています。
タレント・アクイジション、採用、人事という用語は同じ意味で使われることがよくありますが、実際には、組織における人材フレームワークの中では相互に関連しながらも異なる要素を持っています。タレント・アクイジションとは、組織における特定の役割に適した候補者を発掘して惹きつけ、採用するという長期的な戦略的的アプローチで、必要な人材の特定、候補者の発掘と適正の評価、最終的に採用された人材の受け入れを行う包括的なプロセスです。タレント・アクイジションでは将来を見据え、組織の長期目標を採用候補者のスキルや能力と一致させることに重点を置いています。ほとんどの組織では現在、タレント・アクイジションを独立したチームにしたり、人事部門の要となる機能にしたりしています。
採用はタレント・アクイジションの一部で、近い将来生じる欠員を埋めることに重点を置き、組織で空席となっている職務に対する候補者を積極的に発掘して囲い込みをします。採用活動のプロセスには、求人票の作成、履歴書の確認、一次選考の実施、面接の実施などがあります。採用ではその時点での欠員を埋めることに重点が置かれますが、タレント・アクイジションでは、組織の長期的な人材ニーズと潜在的な成長を考慮した、より総合的なアプローチが取られます。
人事(HR)とは、人材の獲得や採用を含め、従業員管理のさまざまな側面を網羅したより広範な組織機能です。人事担当者は、福利厚生管理、従業員関係、業績管理、研修と能力開発、労働法と規制の遵守などを監督します。タレント・アクイジションと採用は人事部門の機能になりますが、人事部門全体としては、前向きで生産的な職場環境の構築と維持、従業員満足度の管理、組織全体における発展の促進に重点を置いています。
タレント・アクイジションは、特にインターネットをはじめとした技術イノベーションの導入により、この100年の間に大きく進化しました。20世紀初頭の採用活動は比較的シンプルなもので、主に新聞広告や口コミによる紹介に頼った手作業によるものでしたが、産業とテクノロジーの進化に伴い、採用方法には人材紹介会社や就職説明会の利用などが徐々に取り入れられていきました。
20世紀後半にインターネットが台頭したことで採用活動に革命が起こり、オンライン求人サイトやデジタル・プラットフォームが登場し、リーチの拡大と候補者発掘の迅速化が可能になりました。これがタレント・アクイジションにとっての転機となり、より利用しやすく、効率的なものになりました。21世紀に入り、LinkedInのようなビジネス特化型のネットワーキング・サイトやソーシャル・メディア・プラットフォームが登場したことで、採用担当者は潜在的な採用候補者とつながる機会が増え、タレント・アクイジション戦略の幅が広がりました。
最近では、データに基づいた意思決定、候補者エクスペリエンス、採用企業のブランディングが重要視され、タレント・アクイジション戦略にも取り入れられるようになってきました。ATS、AI、予測分析などの高度なテクノロジーによりプロセスはさらに変革され、採用担当者は優秀な候補者をより効果的に発見して関与できるようになりました。この継続的な進化は、組織が必要とする従業員を惹きつけて定着させる方法を形成し続けており、タレント・アクイジション戦略を組織全体の目標と一致させることの重要性を強調しています。
タレント・アクイジションのプロセスには、通常、次のステップが含まれます。
職務における責任、必要な資格、スキルセットなど、当該ポジションの要件を決定します。
求人情報サイト、ATS、カンファレンス、交流イベント、社員からの紹介、ソーシャル・メディア(可能であれば在籍社員のソーシャル・メディアも含む)などを活用して、適任の候補者を積極的にサーチします。
応募書類や履歴書を精査して、職務基準を満たし、職務遂行能力があり、企業文化に合った候補者を絞り込みます。筆記試験、スキルアセスメント、身元調査、薬物検査は、候補者をさらに絞り込むために利用できます。
候補者のスキル、適正、組織文化への適合性を評価する目的で、電話による審査、事前面接、一歩踏み込んだ面接(関連性があれば、行動面接や状況面接を含む)を電話や対面などで実施します。
選考および面接プロセスからのフィードバックを評価し、職務に最適な候補者を決定します。
役職、職務内容、報酬の詳細、開始日、待遇やその他の関連条件などを含めて、選択した候補者に内定通知を提示します。
効果的なオリエンテーションとオンボーディング・プロセスを通じて、新入社員を迎え入れます。オンボーディングには、新入社員が自分の職務にスムーズに適応し、自分の職責、組織、組織の使命と価値観を理解するために必要な情報、リソース、トレーニングを提供することも含まれています。
組織内での新しいチームメンバーのエクスペリエンスをモニタリングし、サポートすることで、アクイジション・フェーズを超えて人材管理を広げることができます。コミュニケーションを維持し、従業員を業務に参加させて、人材開発ツールを活用して学習を奨励し、スキルを高めて、社内異動を評価します。不採用にした有望な候補者と連絡を取り合い、前向きな関係を築き、組織の人材パイプラインに追加します。
テクノロジー、データ、分析を活用することで、タレント・アクイジションのプロセスを最適化し、より効果的かつ効率的にすることができます。プロセスを通じて、候補者にはポジティブな体験を提供し、ダイバーシティー、エクイティー(公平性)、インクルージョンの原則を支持して、すべての候補者を受け入れる公平な環境を作ります。
成果を上げているタレント・アクイジション戦略には、通常、いくつかの要素が含まれています。これらの要素は総体的に、組織の現在および将来の採用ニーズに対応した最高の人材を惹きつけ、評価を行って特定し、定着させることが目的です。
タレント・アクイジション戦略の策定には、いくつかの重要な要素が含まれます。
スキル・ギャップ、ビジネス目標、予測される成長などの要素を考慮して、組織全体の従業員とリーダーシップを評価し、現在と将来の人材要件を評価します。
これにより、タレント・アクイジションの担当者は、現在および将来の求人に対して、すぐに採用できる採用候補者の人材プールと、適切に構築された人材パイプラインを構築することが可能です。
採用プロセスを進める中で、候補者に明確なコミュニケーション、透明性、フィードバックを提供する、魅力的で効率的な候補者エクスペリエンスをデザインします。
候補者や利害関係者のフィードバックを収集することで、タレント・アクイジションストラテジーの有効性を定期的に検証・評価し、必要に応じて調整を行い、プロセスと成果を改善します。
データに基づいたインサイトを活用することで、タレント・アクイジション・チームはさまざまな指標を分析し、より多くの情報に基づいた採用決定、将来の人材ニーズの予測、特定の職務に適した候補者の特定を行うことができるようになります。
多様な背景、アイデンティティー、経験を持つ人材を受け入れる、公平性と多様性を尊重した包括的な採用プロセスを育めるように取り組みます。
効果的なスクリーニング・プロセスを実施することで、期待外れの採用を回避して、より適切な採用決定を下します。履歴書の確認、面接に役立つ質問の作成、電話選考、面接、評価を実施し、候補者の適正や組織・企業文化に対する貢献度の可能性を評価します。
優秀な人材を惹きつけるために、組織の目的を強調し、その価値観、文化、メリットを含めた強力な対外的ブランディング・メッセージを開発します。
プロセス全体をより効果的に管理できるタレント・アクイジション・ソフトウェアを活用します。ATS、AI搭載の採用ツール、データ分析を通じて、採用プロセスを最適化し、優秀な候補者を見極めて、意思決定を改善します。
タレント・アクイジションのリーダー(ibm.com外部へのリンク)2 農地、既存の従業員が空きのある役職の候補者の主な供給源であると考えているのはわずか28%です。トレーニング、学習、開発戦略を改善することで、より多くの社内候補者を含めて候補者プールを広げて、後継者の育成計画を改善できます。
さらに、サクセッション・プランニング(後継者育成計画)は、突然の人材不足や指導者の交代に伴うリスクを軽減させながら、社内の人材が指導者の職務を担えるようストラテジー的に準備し、社内からの成長を促し、従業員のエンゲージメントと定着を促進することで、組織のレジリエンスを育みます。
求人掲示板やプロフェッショナル・ネットワーク、従業員の紹介、ソーシャル・メディアなどの複数のチャネルを活用して潜在的な候補者をターゲットにし、適切なスキルと資格を持つ候補者を惹きつけます。
AIは、その他の領域と同様に、タレント・アクイジションにも変化をもたらします。タレント・アクイジションの専門家が高度なテクノロジーを活用するための強力なユースケースがいくつかあります。タレント・アクイジション・プロセス全体をより適切に管理し、効率を高めて、優秀な候補者を見つけるのに役立ちます。
AIチャットボットは、すべての候補者エンゲージメントに取って代わるわけではありませんが、企業についてより詳しく知りたいと思っている潜在的な従業員にとっては、良い出発点として役立ちます。
組織が候補者について知るのに役立つ、基本情報の提供を候補者に求める優れた方法です。これらの情報は、今後面接を行う担当者がどのような質問をすればよいかを知るのに役立ちます。
採用担当者は生成AIを活用して、電話で話した内容に基づいて複数のバージョンのフォローアップ・メールを作成して、候補者に合わせてパーソナライズできます。このアプローチにより、コミュニケーションを拡張(ibm.com外部へのリンク)3 しながら、メッセージをより効果的にカスタマイズすることができます。
AIと自動化により、オンボーディング・プロセスが迅速化されます。最も重要な点として、タレント・アクイジション担当者が時間のかかる手動での作業を行う必要がなくなります。オファー・レターや契約条件など、フォーム・レター・テンプレートの情報を自動的に入力できます。候補者がすべての文書への記入を忘れた場合には、リマインダーを送信できます。
この自動化により、求人の複雑さ、理想的なマッチング、有力な候補者に関する洞察を得て、履歴書のスクリーニングを自動化できるため、採用担当者の業務が軽減されます。
脚注
1 Increasing your return on talent: The moves and metrics that matter, McKinsey, 15 April 2024.
2 Your Approach to Hiring Is All Wrong, HBR, May 2019.
3 Top 4 GenAI Uses for Sourcing and Recruiting, SRHM, 7 May 2024.
人材、AI、データを適切なバランスで活用し、タレント・アクイジションのストラテジーとプロセスを変革します。
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