「地域密着コンテナ型データセンター」が注目を集めています。生成AIの普及に伴い、多くの企業の「生命線」になりつつあるGPUインフラの確保。その答えの一つを示したのが株式会社ゲットワークス(以下「ゲットワークス」)です。
「GPUの消費電力、8割減」という同社とIBMの実証実験を報じた2025年12月の電氣新聞の記事は、業界で大きな話題となりました。
記事では主に次の点が示されました。
1. コンテナ型データセンター事業者のゲットワークスと日本IBMの実証実験で、GPU消費電力を従来比約8割削減(NVIDIA H200 x 8基、特定ワークロード条件下での参考値)
2. 削減は、監視ソフト「IBM Instana(インスターナ)」によるGPU稼働の可視化と、それに基づく運用者の判断による無駄な処理や不要な電力消費の制御最適化によるもの
3. AI処理に不可欠なGPUは電力負荷が大きく、世界的なデータセンター電力需要増の中で効率化が課題
4. 電力削減は運用コスト低減だけではなく、CO₂排出抑制などの社会価値にも寄与
そして2026年1月、ゲットワークスはこの実証結果を受けてIBM Instanaを正式に導入し、本番運用を開始しました。現在、GPU1基単位の電力・温度・利用率を24時間365日リアルタイムに監視する体制が稼働しています。
生成AIの拡大は、データセンターの在り方そのものを問い直しています。規模拡大と一極集中を前提とする従来モデルでは、環境負荷や地域格差の拡大を招きかねません。
そんな中で、「自然とテクノロジーの共進化」を掲げ、分散型・地域共生型モデルを推進しているのがゲットワークスです。
社会的関心の高さを表すかのように、取材当日はNHKのテレビクルーも特別番組の撮影に。今回、取材を受けていただいたゲットワークス システムマネージャ/AIエキスパート 境川 章一郎氏には、日本IBMとNHKの取材を同時並行で受けていただきました。
生成AIの進展とともに、GPUインフラは「調達」から「設計思想」のテーマへと変化しつつあります。その最前線でゲットワークスが取り組んでいるのが、地方分散型インフラの構築と、水冷技術の標準化です。
しかし、そもそもなぜ生成AIの普及が、データセンターの在り方をここまで大きく変えてしまったのでしょうか。
その鍵は、CPUからGPUへのプロセッサーの進化が握っていました。
こうした変化を受けつつも、ゲットワークスが大切にしているものとは何なのでしょうか。
「それは、地域とのつながりと、国産・内製へのこだわりです」
——境川氏のこの返答に、「今日の取材はデータセンターだったはずだが?」と、正直戸惑いを覚えました。しかし話を聞き進めていくと、「自然とテクノロジーの共進化」の実現が、ゲットワークスのビジネスモデルなのだと強く納得しました。
ゲットワークスのビジネス戦略の中核にあるのが、コンテナ型データセンターの分散配置です。背景には電力制約があります。
既存データセンターでは受電容量が限られ、特別高圧化には年単位の時間がかかります。そこで同社は、新潟県湯沢町・福島県白河市・大宮・鹿児島など電力を確保できる地点にコンテナ型データセンターを分散配置し、それらをネットワークで束ねる構成を採用しています。
この分散拠点を、ネットワーク上でつなぐことで、物理的な分散を論理的な仮想化で包み込み、電力・土地・冷却といった制約を乗り越えます。また、ゲットワークスのデータセンター内に、自社独自のデータセンターを所有するという「DC in DC」と呼ばれる形体も広がりを見せています。
さらに、ネットワーク事業者との連携により、GPU・CPU・ストレージをオンデマンドで接続するネットワークオーケストレーションも進行中です。
VPNやVLANによる論理結合に加え、電力価格や負荷状況に応じたジョブ分散を行うことで、拠点の違いを意識させない「仮想インフラ」の実現も視野に入っており、分散と仮想化を前提にした次世代データセンター像が描かれています。
今回訪問したのは前述の「湯沢GXデータセンター」と、2022年4月に湯沢町の休眠地活用にて操業開始した「湯沢DXデータセンター」です。
どちらのセンターも、再生エネルギーと雪や地下水(井水)を最大限に活用しながら、電力を大量消費するGPUコンピューティングと冷却に対応しています。
標準サイズで最大8台・32ノード規模のGPUサーバーを収容可能な20フィートコンテナは、内部設備の多くを国内で設計・製造しています。
さらに40フィートや10フィートのコンテナを組み合わせることで、サーバールーム化やクラスター拡張も可能に。コンテナ側面を開放して一室化する構成や、液浸装置対応の広域空間構成など、モジュール型ならではの柔軟性を備え、ゼロベース設計にも対応しています。
こうした国内設計と製造により、コンテナ構成費用は既存の3分の1以下に。また最短2週間でのスピード稼働も実現しています。
「内製化はコスト競争力を生み出しているだけではありません。既存地域事業者への電気工事、内装、清掃をはじめとした業務の発注や委託などの雇用も生んでいます。また、地域企業様との合弁事業の立ち上げも少なくありません。」
境川氏の言葉を示すかのように、今回訪問した両センターも、地域事業者との共同運営形式を取っていました。
また、近隣では新たなセンターの設営工事も行われており、多くの重機と地域土木・建築業者の方たちが出入りされていました。
GPU高性能化に伴い、データセンター設計は転換期を迎えています。
電力不足、重量問題、そして水冷導入――これらの課題への対応が段階的に進み、昨年2025年は「水冷元年」と呼ばれていました。
ゲットワークスはマイニングコロケーション時代から水冷に取り組んできた経験をベースに、サーバー直接水冷を採用。
水漏れ対策のセンシング技術やパッキン技術の検証に加え、水冷の中心となる井水利用量を最小限にするクローズドループの仕組みや、温水の融雪再利用など、地域共生型の運用も進めています。
そしてさらなる環境負荷抑制に、PUE(Power Usage Effectiveness: 電力使用効率)に加え、WUE(Water Usage Effectiveness: 水使用効率)の可視化を進めています。
また、特定ベンダーに依存しない「ベンダーフリー水冷」を確立。冷却基盤を標準化し、データセンターを「設備」から「プラットフォーム」へ転換しました。
これらの取り組みを通じて、同社はグリーンデータセンターとしての価値も訴求しています。
次章では、こうしたインフラ基盤の上でどのような事業機会が生まれているのかを掘り下げます。
ゲットワークスの地域密着コンテナ型グリーンデータセンター構想を大きく前進させる重要な転換点となったのが、IBM製品との連携による可視化・最適化の取り組みです。
本章では、PoC(概念実証)から見えてきた運用高度化の方向性と、未来に向けたストーリーとビジョンを整理します。
ゲットワークスはこれまで、オープンソースや内製開発によって電力消費や冷却効率を可視化してきました。
しかしエンタープライズ市場では、「削減できている」という主張だけでなく、その根拠を第三者視点で証明することが求められます。
そこで導入したのが、IBMの可観測性基盤「IBM Instana」です。GPU電力という新たなメトリクスを取得し、取り組みの効果をPoCで検証。その結果として確認されたのが、電氣新聞でも報じられた「GPU消費電力8割減」でした。
それでは、このPoCはどのように始まったのでしょうか。
ゲットワークスとIBMとの協業は、2025年4月の展示会での境川氏と日本IBMテクノロジー事業本部の平岡の再会が契機でした。
ゲットワークスの展示に触発された平岡は、LinkedInにIBMテクノロジーとの共創による未来展望を描きました。
そこから取り組みは急速に進展。IBM Instanaを活用した電力削減実証実験に加えて、リソース最適化やサステナビリティ管理といった周辺領域の取り組みへと議論が拡張されていきました。
IBM Instanaで利用状況を把握しワークロード配置を最適化。CO₂排出・電力使用量・資産情報を統合管理し、グローバル基準の主要サステナビリティ・レポートに対応――。
地域密着グリーンデータセンターの構想には見合うものの、境川氏は「これだけでは不十分」と指摘します。
ゲットワークスが目指しているのは、電力単価や負荷に応じてワークロードを柔軟に最適配置する「GPUオーケストレーション型データセンター」という姿だからです。
その役割を担うのが、電力可視化→最適化→実行の循環をさらに一段高いレベルへと引き上げる、自律型AIソフトウェア開発パートナーのIBM Bobです。
境川氏が描くシナリオは次の通りです。
この一連の流れを自動化する仕組みが完成すれば、待機電力削減のインパクトはさらに大きくなります。
また、従来のGPU単体計測に加え、サーバー全体電力や水冷CDUのデータも統合することで、IT効率と水効率を組み合わせた指標化も進化させることができるでしょう。
こうした取り組みをさらに加速するため、両社はIBM BobおよびIBM Enviziの技術検証に関する基本合意書を締結しました。
Enviziの環境レポートへの接続など、より包括的な運用最適化基盤の構築も視野にとらえています。
IBM Bobは、これらの運用全般を束ねる技術者の右腕として、そしてシステムエンジニアリングやコーディングに不慣れな社員の支援役としても、高いパフォーマンスが期待されています。
ゲットワークスが描く仮想データセンター構想は、単なるGPUインフラの分散配置にとどまりません。その視線は、電力と計算資源を動的に結び付ける、新たなインフラモデルへと向けられています。
本章では、再生可能エネルギー活用から事業展開ロードマップまで、同社が見据える未来像を整理します。
一部では知られていることですが、日本では再生可能エネルギーが大量に出力抑制されています。
こうした余剰電力が生じるタイミングに、生成AIやGPU計算を活用するような新しい使い方は考えられないのだろうか——。
取材を通じて感じていた筆者の「もやもや」を投げかけてみたところ、「まさにその方向性を含んだ計画を進めている」と境川氏が応じました。
以下は、ゲットワークスが描いている中期的なプランと、2026年のロードマップとしてお聞かせいただけたものです。
国内では地域や時間帯によって電力価格や供給状況が大きく異なります。そこで、電力が安価なエリアや再エネが余る時間帯に、実行可能なGPUジョブを振り分けマッチングする構想が、未来の仮想データセンターの中核アイデアです。
短時間のモデル学習などを電力条件の良い地域・時間に実行する運用は、技術的にも現実的です。
実現には、電力事業者との連携が不可欠です。
境川氏も、電力業界の多様化を背景に、売電中心の事業者や新規参入のエネルギースタートアップ、地域電力会社と対話を重ねながら、電力と計算資源を結び直す新たなモデルの最適な座組を模索していると語ります。
さらに、IBM InstanaやBobを組み込んだ統合データセンターパッケージを提示し、可視化と最適化を含めて参入ハードルを下げる構想も進行中です。
また他にも、オープンソースベース構成、ブランド訴求型構成など、目的に応じた選択肢を用意することで、投資負担の大きい領域においても導入しやすい座組を目指しています。
未来像だけでなく、今年度の具体的な計画も明かされました。ここでは、現時点でオープンにできるものを2つ紹介します。
1. 新規データセンター拠点の立ち上げ
2026年中に、少なくとも共同事業による拠点と自社単独拠点の2拠点が稼働予定です。
なお、3月の「データセンタージャパン」では、北海道拠点の発表と併せて、もう1拠点の地域密着型センターの立ち上げ発表の可能性があるとのことです。
2. Instanaの適用スコープ拡大
今回の取材で明確になったのは、ゲットワークスが単なるデータセンター事業者ではなく、電力と計算を接続するインフラプレイヤーとして位置付け直されつつある姿であり、なぜIBMテクノロジーがそのスピードアップを支援できるのかを示す、理念を具現化する具体的な実践方法でした。
コンテナ型グリーンデータセンターは、これらが交差する地点から、未来へと広がっています。
技術検証が示した想像を超える効果は、いまや事業実装フェーズへと入りました。
2026年は、その構想が一事業のものから、社会全体へと拡がりを見せる転換点となりそうです。
株式会社ゲットワークス | https://www.getworks.co.jp
2002年設立(創業1996年)、本社: 東京都千代田区。省エネや再生可能エネルギーを取り入れた、コンテナ型データセンター(DC)の設計・構築・運用を中核事業とし、高密度GPU運用や液冷・水冷技術、エッジAI向け小型コンテナDCなどを展開している。IBM Partner Plusメンバー(2026年より)。