IBM Research、そしてIBM Garageとの共創を通してHGC SARS-CoV-2 Variant Browserを開発し、スーパーコンピュータSHIROKANE上でのシステム運用を開始しました。新型コロナウイルスのゲノム配列データを活用することで、ゲノム変異状況のモニタリングや懸念するべき変異株の迅速な発見、ゲノム変異情報を用いた感染経路の推定が可能になりました。
新型コロナウイルスは、懸念される変異株の幾度の出現も相まって、世界的な感染拡大が現在も続いている状況です。その状況を把握するための重要な要素として、ウイルスゲノムの変異情報があげられます。世界各地で収集されたゲノム配列はデータベースで公開されていますが、その登録数は2021年10月現在400万を超え、現在も増え続けています(*1)。新型コロナウイルス対策に従事する研究者は、この膨大な量のゲノム情報から自身の研究対象となる情報を抽出・調査・解析する必要があるため、それを行う時間やリソースを確保することは容易ではありません。また、昨今は音楽やスポーツ・イベントなどの事業再開を模索する活動も進められつつあり(*2)、変異情報のモニタリングやそのデータに基づいて対策を講じることのできる体制が求められていました。
東大医科研ヒトゲノム解析センターは、IBMとともに国内の新型コロナウイルスのゲノム変異情報を解析するためのウェブ・アプリケーション「HGC SARS-CoV-2 Variant Browser」を開発しました。本開発にあたり、IBM Researchがゲノム変異解析に取り組んできた研究成果(*3、4)、およびIBM ResearchとIBM Garageで開発したSARS-CoV-2 Variant Browserも活用しています(*5、6)。プロジェクトを推進するにあたり、短期間で効率的な開発を実現するためIBM Garageを採用し、Minimum Viable Product(MVP)ビルドアップを実施しました。一定サイクルでの開発とプレイバック(実働アプリケーションを用いて実装機能の確認と評価をアジャイルに行うアクティビティー)を繰り返し、約2カ月間でヒトゲノム解析センターが運用するスーパーコンピュータSHIROKANE上でのシステム稼働に至りました(*7)。
本システムにより、国内における新型コロナウイルスのゲノム変異状況のモニタリングやゲノム変異レベルでのウイルスの感染経路を推定することが可能となりました。また、解析情報の活用が必要な外部の研究者へのサービス提供も既に開始されました。現在は、新たに収集する新型コロナウイルスのゲノム解析や、大型イベントなどで人が動くことによって発生するウィルス感染のモニタリングなど、新型コロナウイルスの基礎研究ならびに感染拡大防止策への活用を進めています。さらに、新型コロナウイルスのゲノム断片情報を用いて検索・比較する機能の開発も進めており、下水中などから検出された新型コロナウイルスの解析に活用していくことが期待されます。
IBM Garageサービス
SARS-CoV-2 Variant Annotator
SARS-CoV-2 Variant Browser
東大医科研とIBM、COVID-19の国内感染拡大リスク軽減のため、ウイルスゲノム変異解析・可視化を迅速に実施するシステムを開発
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1.GISAID
2.“ワクチン接種が進む中で日常生活はどのように変わり得るのか”, 新型コロナウイルス感染症対策分科会. 2021.09.03
3.Koyama T., Platt D., Parida L. “Variant analysis of SARS-CoV-2 genomes.” Bull World Health Organ. 2020;98:495-504.
4.Tokumasu R., Weeraratne D., Snowdon J., Parida L., Kudo M., Koyama T. “Introductions and evolutions of SARS-CoV-2 strains in Japan” medRxiv 2021.02.26.21252555.
5.SARS-CoV-2 Variant Browser - IBM Functional Genomics Platform
6.「新型コロナウイルスの遺伝子変異可視化アプリケーション」をIBMが提供――遺伝子変異を素早くフォローし、医療研究者への情報提供を