ジェンダー・インクルージョン施策の危機(日本版)
2021年公開のグローバル・レポートに日本のインサイトを加えた日本版をお届けします。
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ジェンダー・インクルージョン施策の危機(日本版)

2021年公開のグローバル・レポートに日本のインサイトを加えた日本版をお届けします。



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2019年、IBMは初めて女性の管理職登用に関する調査を行った。その目的は、職場での女性活躍支援のために行われている取り組みが、実際にジェンダーギャップの解消に効果をもたらしているのかを明らかにすることであった。それから2年が経過し、世界中はコロナ禍に見舞われた。その間、状況に何か変化はあったのだろうか?

本レポートでは、日本に拠点を置く組織に属する300人を含む、9つの地域・10業界の経営層や中間管理職などの男女2,600名以上を対象に調査を行い、その結果に基づく日本のデータ分析、日本の市場に関するインサイト、および日本企業の複数の事例を通じて考察を深めた。

調査から分かったことは、起こった変化の多くが、望ましいものではなかったということだ。ジェンダー格差自体は広く認識されるようになった一方で、上級管理職に就く女性の数は、この2年間ほとんど変わっていない。また、企業が掲げる目標の上位10項目の中に、「女性の登用」を含める企業は4社に1社のみであった。さらに最も懸念されるのが、女性の経営層候補者の人数が2019年よりも減少していることだ。そして、その傾向は日本でも顕著に見られたのである。

ジェンダーギャップの解消を妨げる要因は多々あるだろう。しかし、今すぐに行動を起こせば、企業は大胆な躍進を遂げることができるはずだ。ジェンダー・エクイティーやダイバーシティーの推進は、企業の存続にかかわる重大な問題であることを認識しなければならない。女性の活躍の場を広げることは、正しいだけでなく、ビジネスにとっても間違いなく良いことなのである。

女性の登用を積極的に行うジェンダー・インクルーシブな企業は様々なメリットを享受している

収益成長率が、その他の企業を61%も上回っている


60%企業が、自社は競合他社よりも革新的だと回答した


73%の企業が、業界で最高の顧客満足度を誇ると回答した


“やればやるほど本質的な意識改革が必要と感じられる活動だが、だからこそ決して後戻りせず、会社全体の取り組みに必ずやつなげていける、いかなくてはいけないと信じて進んでいく”
— 旭化成株式会社 SSWC 植竹伸子 (上席理事グリーンソリューションプロジェクト副プロジェクト長)
男女平等はいまだ「道半ば」
関心を持つことが最初のアクションだとすれば、2020年ほど様々な出来事が起こることはそうそうないだろう。パンデミックにより、あらゆる世代の女性就労者が甚大な影響を受け、米国だけで年間500万人以上の女性が失業、または休業を余儀なくされた。さらに、「ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter)」の抗議運動が根強い人種差別に光を当て、特に黒人女性やその他の有色人種の女性が直面する障壁を明らかにした。
海外へ目を向けると、女性への差別に加え、人種の壁があり、日本の女性がグローバルで活躍するには、いくつもの障壁を乗り越える必要があることがわかる。
38%
黒人女性の賃金が白人男性と比べて平均的にどれほど少ないか
23 ヵ月
白人男性が1年に稼ぐ金額をヒスパニックの女性が稼ぐのにかかる期間
1 人
Fortune 500社のCEOの黒人女性の数
こうした混乱は、キャリア・アップを目指す女性が直面する課題を改めて浮き彫りにした。例えば、「セカンド・シフト」と呼ばれる終業後の家事育児の負担や、育児休業などを終えて職場復帰する際の困難に至るまで多岐にわたる。これらは決して目新しい課題ではない。世界中の国々で、未だ育児や介護は女性の仕事だとみなされている中、一部の企業はこの1年の間に、保育サービスを拡充したり、柔軟な勤務形態を導入したりするなど、積極的な取り組みを行っていた。しかし、今回の調査からは、ジェンダー・エクイティーの取り組みは決して順調に進んでいるわけではなく、むしろ後退の兆しさえ見せているということが明らかになった。
見えてきたのは、世界の企業の取締役会メンバーや経営幹部が、基本的に2年前と変わっていないという厳しい現実である。ノルウェーやスペイン、フランス、アイスランド、ドイツのような、積極的にダイバーシティーを推進し、法制化する国が増えているにもかかわらず、女性が上級管理職に占める比率はいまだ低いままだ(世界では、取締役は8%、経営幹部は10%であるが、日本では各々、6%と7%である) 。
驚くべきことに、ただでさえ低いこの比率はさらに低下する恐れがある。調査からは、女性が経営層のポジションに就くためのパイプラインが縮小していることが明らかになった。2021年の時点で、執行役員、事業部長、上級管理職などのポストに就いている女性の数は、2019年よりも減少している。さらに他の統計からは、キャリアの初期から中期にある女性が、最もパンデミックによる失業率が高く、中でも20~34歳の女性への影響が最も深刻であることがわかっている。このような、将来の経営層を担う有能な人材の喪失は、直ちに対策を講じなければ、企業、ひいては経済全体にとって長期的なリスクとなるだろう。
パイプラインの縮小:
日本では、経営層を担う女性管理職のパイプラインは2019年以降、縮小し続けている
一方で、2020年は新たな可能性を示唆する年でもあった。コロナ禍のロックダウンによって、世界経済が急激に悪化する中、ダイバーシティーとインクルージョンへの取り組みは真っ先に影響を受けた。しかし、ブラック・ライブズ・マターの抗議運動がダイバーシティーとエクイティーへの関心を高め、企業による大胆な取り組みを促進させた。例えば、Adidas社は今後募集する人材について、少なくとも30%を黒人とヒスパニックから採用する計画を打ち出した。またPepsiCo社では、250名以上の黒人従業員を管理職に登用し、その内最低100名は経営層に登用すると発表した。さらにEstée Lauder社は、米国の黒人人口比率を目安に、管理職を含むすべての階層において、今後5年間で黒人従業員の比率を高めることを約束した。

こうした事例は、たとえ短期間でも、企業がその気になれば大きな変革を起こすことができることを示している。企業は、ジェンダー・エクイティーの向上や、自社の業績向上のために、このような献身的な取り組みを行っていかなければならない。ただ、成功するためには戦略が必要になるだろう。

インサイト
女性の登用を積極的に行うジェンダー・インクルーシブな企業は、収益成長率がその他の企業を61%も上回っている
企業の取り組みにみられる問題点
ジェンダー・エクイティーの進んでいる企業は、業績のみならず、従業員満足度も高いことが、多くの調査結果から裏付けられている。McKinsey社の調査によると、女性幹部の比率が高い企業は、比率が低い企業と比べ、株価値動きや利益率が50%近くも高い。我々の調査からも、経営層の女性比率が高い企業に勤務する男性社員の方が、比率が低い企業の男性社員よりも、仕事に対する満足度が高いことがわかった。ストレスの多いコロナ禍の時期に調査が実施されたことを考慮すると、この傾向は注目に値する。
しかし、懸命な取り組みを行っていても、これらの恩恵を得ている企業は極めて少ない。今回の調査から、企業がエクイティーとインクルージョンの向上に取り組む際に、以下の4つの問題点があることがわかった。
  • 調査によると、ジェンダー・エクイティーとインクルージョンを推進するための制度・プログラムを実践した企業の数は、 2019 年よりも増加していた。男女を区別しない採用基準や、女性の育児休業制度は、最も多くの企業が導入した施策だった。
    より多くの企業がジェンダーに関するダイバーシティー研修を必須としている
    28%
    in 2019
    52%
    in 2021
    しかし、2019年と2021年の両方の調査に参加した企業429社を見てみると、多くの制度・プログラムを実施したからといって、 必ずしも良い結果には結びついていないようだ。つまり、企業の取り組みの多くが、インクルーシブな企業文化の醸成や、ビジネスでの優位性構築に向けたマインドセット変革や行動に繋がっていないのである。
    例えば、ダイバーシティー研修が増えているにも関わらず、「経営層が率先して性差別的な言動に配慮を見せている」と回答した企業は、 2019年と比較して減少していた。また、「人事評価の高い女性社員と男性社員とが同等に昇進している」と回答した企業の数も減少している。さらに、これらの質問に対し「どちらでもない」と回答した企業の割合が増加した。 これは、最も重要な分野において、男性だけでなく女性の従業員も変化を明確には感じていないことを示す。
    曖昧な意見の増加
    女性の昇進を支援するための慣行に対する日本企業の見方は楽観的である

    マインドセットはもちろん重要であるが、その変革のために制度・プログラムを導入しても、十分な効果は得られないようである。調査からは、男性と女性で大きな認識の差異があることがわかった。特にそれは、有望な社員を見つけ、キャリアアップをサポートすべき中間管理職に顕著に見られた。
  • 2019年の調査では、「自社はジェンダー・エクイティーに関する目標を設定している」と答えた回答者は、全世界では66%、日本では45%であったのに対し、今回の調査では世界は48%、日本は49%と、ともに回答者の半数に満たなかった。調査回答者の過半数(世界57%、日本62%)は、「上級管理職はジェンダー・エクイティーに責任を負うべきだ」と答え、約3分の1(世界、日本ともに32%)が 「わからない」、残り(世界11%、日本6%)は「自社ではそのような問題は起きていない」と回答している。ジェンダー・エクイティーが注目されない理由は何かと問うと、「女性のキャリア・アップは、すでに重要なビジネス目標として位置づけているから」と答えた人は4人に1人しかおらず、一方で「できるときにやればよい」というスタンスをとっている人は半数(世界58%、日本74%)を超えていた。
    ジェンダー・エクイティーの目標を設定している日本企業の数は増加したものの過半数に満たない
    45%
    in 2019
    49%
    in 2021
    正式なコミットメントとビジョン抜きに、成功への道筋は見えてこない。企業文化を根本から改善するための一貫した戦略がなければ、多くの施策にやみくもに資金を投じる結果になりかねない。責任を曖昧なままにしておくと、ジェンダー・エクイティーとダイバーシティーを向上させる取り組みは、善意だけに支えられた持続力を欠いたものとなり、最終的には膠着状態に陥ってしまうだろう。
    調査データは、女性も男性も共に、疲労と幻滅を感じ始めていることを示唆している。2019年の調査では、世界の女性の71%、日本の女性の60%が、これからの5年間で自社の男女機会平等は大幅に改善されるだろうと予想していた。男性の多くも(世界67%、日本59%)同様の予想をしていた。ところがその2年後、各々の比率は、世界の女性では62%に下がり、一方日本では男女ともに同程度(女性62%、男性59%)だった。男女ともに過半数以上は、改善の可能性に依然として楽観的ではあるものの、その傾向は減少、または停滞している。
  • 最高レベルのデータを収集し、それを分析し、人材を投入する。こうした取り組み抜きに、主要製品を市場に出そうとする企業はほとんどいないだろう。ところがジェンダーやインクルージョンへの取り組みとなると、従来の常識だけに頼ろうとする企業が少なくない。こうした企業は、「過去に実施したことがある」という実績だけで、無批判にそれが最善であると信じ、別のアプローチを検証することもなく、進む道を決めてしまっている。
    視点:ダイバーシティ&インクルージョン(D&I) の壁  (日本版独自インサイト)
    日本アイ・ビー・エムのD&Iを推進する活動であるJWC(Japan Women's Council)では、「D&Iの壁を超えた世界としてどうありたいのか、逆算してD&Iに立ち塞がる壁の正体は何なのか」という観点から、D&Iの壁と背景や真因を議論し、活動方向性を検討している。企業により、D&Iを阻む壁は異なるかもしれない。貴社のD&Iの壁を、一度検討してみてはいかがだろうか。
    (より詳細な情報はレポートをお読みください)

    例えば、多くの企業は、ダイバーシティーに対する社内教育を研修だけで済ませている。しかしハーバード大学の調査によると、こうした研修では、チュートリアルを強制し、 その後はテストで確認するというタイプが主流で、研修の効果はせいぜい1日か2日しか持続しない。なぜなら、社員はテストの正解を容易に推測することができ、表面的な学習で終わってしまうからだ。それよりも効果的なのは、体験型の自主的な制度・プログラムであることが調査から明らかになっている。いずれにしても企業は、試行錯誤と改善を繰り返すことで、 初めて何が効果的であるかを把握することができる。例えば、大学卒業を採用の条件とする慣例に固執する企業は多い。ところがこの採用基準が、求める職域において本当に必要なものなのか、その条件が本来採用すべき候補者を排除する要因となっていないかを確認している企業はほとんどない。
  • ジェンダー・エクイティーの実現には、高度な計画性や難しい判断が要求される。もし社内の管理職の構成比を国の人口構成に合わせるなら、今後全ての管理職は、女性や有色人種を採用しないといけないだろうと、ある経営者は語る。これほど大規模な変化を望む企業はほとんどない。また、これほど劇的な変革ではなくても、現職の社員にとっては脅威に感じられるだろう。
    調査データからは、男性はジェンダー・エクイティー の重要性を理解し、女性の地位向上を概ね支持していることがわかる。例えば、「ジェンダー・インクルージョンは、自社のミッション・ステートメントの 1 つである」と答えた人は半数を超えていた。また男性の40%が、 ジェンダー・インクルーシブな企業は、経営的に成功する確率が高いという見方に同意していた。彼らは、ジェンダー・エクイティーは、社員と企業の双方にとってメリットがあると考えているからである。 しかし一方で、女性の活躍は自分の可能性を阻み、新たな働き方を強制されるものだと考える男性もおり、そうした人は自身の態度や行動をわざわざ変えようとは思わないだろう。女性の管理職が増えない理由を調査したところ、上位の回答には、ポリシーの硬直性に関するものは挙がらず、 その代わり、変化に伴う苦痛や説明責任の欠如を示す回答が多かった。
女性管理職が増えない理由トップ5
1. 従業員は男性の下で働くことを好むという思い込み

2. 男性管理職は女性と管理責任を分担することに消極的だという思い込み

3. 女性は管理職に就きたいと考える女性は少ないという思い込み

4. 女性の管理職登用に関する経営層の説明責任の不徹底

5. 社会のジェンダー・バイアスや性差別

視点:女性活躍を妨げるアンコンシャス・バイアス (日本版独自インサイト)
意識的か否かに関わらず、偏ったものの見方は存在する。「育児中の女性社員には、重責あるポジションは与えない方が本人にとって良いはず」との気遣いは正しいのか?女性社員の成長の機会を奪っている可能性について、思いを馳せないことの根底には、どのようなアンコンシャス・バイアスが横たわっているのだろうか。 (詳細はレポートをお読みください)

“ほとんどの男性が、平等に向けた行動の舵取りをするよりも、波風を立てないことに集中している”
— Women's Leadership Jam 参加者

一歩先を行く先駆的企業

我々が調査において「先駆的企業(First Movers)」と名付けた企業には、いくつかの際立った特徴が見られた。

女性のキャリア・アップを会社の最優先事項の1つとしている(その他の組織では、世界は16%、日本は19%)

ジェンダー・インクルージョンが業績向上の原動力であると認識している(その他の組織では、世界と日本ともに36%)

ジェンダー・エクイティーの実現を目指して継続的に行動を起こそうとしている(その他の組織では、世界は63%、日本は68%)

先駆的企業は、調査を行った経営層のすべての役職において、女性の占める割合が高かった。男女の割合は均衡にまでは至っていないものの、ジェンダーや人種のインクルージョンにより、平均以上の業績伸長とイノベーションの促進を実現しており、顧客も従業員も満足度が高かった。
先駆的企業の勢い
先駆的企業では経営層に占める女性の割合が高い

先駆的企業はリーダーシップのジェンダー・バランス均衡がもたらすメリットを十分に享受している

優れた財務業績

先駆的企業は、他の企業よりも収益成長率が61%も高かった。さらに、この業績はそれを支える社員のマインドも物語っており、先駆的企業の社員は、自分の働く企業の将来性により強い自信を抱いていた。


優れたイノベーション能力

国際労働機関の調査によると、ジェンダー・インクルーシブな企業は、創造性やイノベーション能力、開放性が、その他の企業を54%上回っている。先駆的企業も同様の効果を報告しており、60%が自社は競合他社よりも革新的だと述べ、その他の企業と比較しても22%高かった。


顧客満足度の向上

インクルーシブな企業は、多様な視点を持つことによって、外部の考え方をより取り入れやすくなり、顧客のニーズにも応えやすくなる。こうした外部からの視点の活用は実際に効果を上げており、先駆的企業の約4分の3(73%)が、業界で最高の顧客満足度を実現していると回答した。一方で、その他の企業で同様の回答をした割合は、半数以下(46%)であった。


従業員の定着率と満足度の向上

女性社員の増加や、効果が目に見える制度・プログラムの導入、よりインクルーシブな環境は、社員の幸福度を高めている。先駆的企業の68%が自社の従業員満足度は競合他社を上回ると回答し、64%が社員の定着率が競合他社を上回ると回答した。


基本から飛躍的な変革へ:卓越したジェンダー・エクイティーの実現には抜本的な変革が必要

今後2、3年で卓越した成果を上げるためには、革新的なマインドセットをもって女性の地位向上に取り組まなくてはならない。

ジェンダー・エクイティー実現のための5つのステップ
1. 大胆な思考で最大限のコミ