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人材育成でスキル不足を乗り越える

人材を育て、従業員に組織が必要とするスキルを習得させるために、企業、教育機関および政府はどのように協力して取り組めばよいのだろうか。

人材のスキル不足を乗り切る

世界中で経済、社会、政治における破壊的変化が生じる中で、人々の不安は日々募っている。継続的な技術の進歩に後押しされる形で、従来の業界におけるバリュー・チェーンとビジネスモデルが役に立たなくなりつつある中、それに合わせて必然的に従来の業務も変化せざるをえなくなっている。人材のスキルが要件の変化に追いついていないことが、次第に事業経営の足かせとなってきているのである。世界的な人材のスキル不足をこのまま放置すれば、経済に計り知れない影響を及ぼす可能性がある。

人材スキルに迫る危機

デジタル技術はビジネス環境を根底から破壊しようとしている。テクノロジーによりビジネスのあり方そのものが変化することで、さまざまな業種・業界のバリュー・チェーンにも変化が起きている。こうした劇的な変化は、多くの事業において求められる「人材スキル」の内容にも大きな影響を与えるようになった。

IBM Institute for Business ValueはOxford Economicsと共同で、世界48カ国における18業種の経営層・幹部5,600名以上(政府機関800名、高等教育機関1,500名を含む)を対象に、現在の人材スキルにおける課題を精査し、将来のニーズを把握するための調査を実施した。

世界のあらゆる業界で破壊的変化が起こり、テクノロジーが消費者に多大なる影響を与えていることが、調査により改めて浮き彫りになった。たとえば、世界中の企業の経営層、政府機関および高等教育機関の幹部のうち、消費者の購買行動が製品やサービスのみに基づくもの(Output)から、経験・価値に基づくもの(Outcome)に変化しているという回答が実に75%もあった。また回答者の80%は、競合は新規あるいは想定外のところから生まれていると述べている。そして、67%の回答者が業界再編成が進む中、業界を隔てていた従来の境目がなくなりつつあると回答している。これらの回答が意味することは、事業構造とプロセスの刷新の必要性であり、事実、現在の市場環境で従来のビジネスモデルを持続することはできないとの回答が74%にも上った。

テクノロジー・スキルが引き続き重視される一方、ソフト的なスキルなど他のタイプの人材スキルの重要性も高まっている。特に、企業は経済的要因の変化に合わせて自らを変革し、順応する必要性に迫られていることから、コミュニケーションや柔軟性、あるいは俊敏性といったコア能力を高いレベルで併せ持つ人材を強く求めるようになった。

また、人材スキル開発に関する責任は誰にあるのか、あるいはどの事業体が負うべきなのかを尋ねてみた。すると、政府に主な責任があると回答した人の割合が80%近くに上った。しかし、この問題を政府にだけ押しつけるのは少々無理がある。地政学的な問題や人口に関する問題、より良い行政サービスを求める市民の増加、および経済的な制約に直面し、行政機関はすでに少ない予算で多くの業務を遂行しなければならない事態に陥っている。

高等教育機関は責任を負うべき所在の第2位となっている。しかし、回答者には高等教育機関がスキル・ギャップ拡大を解決できるという確信があるわけではない。中等教育機関にしても、学生が生産性の高い労働力となれるよう適切にサポートしていると考えているのはわずか半数であった。また、業界の変化に対応して、教育機関はカリキュラムやプログラムを適切に改変していると回答した割合も55%にとどまっている。

企業経営層も人材スキルの問題解決に対する自らの能力不足を痛感している。経営層のうち、自社の組織文化が従業員のキャリア開発を支えていると考えているのは、わずか51%であった。逆に、民間企業の人材育成に対する投資が不十分であることが、将来のスキル育成に向けて克服すべき最重要課題であると回答した割合は55%に達している。

個人はスキル開発の当事者であるにもかかわらず、最下位にランクされている。調査対象者のうち、個人が自らのスキルの維持と向上に大きな責任を負うべきだと考える人は、わずかに39%であった。

深刻化する人材スキル不足の解決が遅れている理由として、問題の大きさに対する危機感の欠如とともに、企業や政府、教育機関、個人といった各種の利害関係者の間に存在する意見の食い違いが、さまざまな地域で報告されている。さらには、主要な課題には対処できると過信している経営層が、景気低迷に見舞われている国の中にすら見受けられる。調査対象の経営層の半数は、各地の労働市場で適切なスキルを持つ人材が不足していることが、人材スキルに関する最大の課題であると述べている。

本レポートでは、調査結果だけでなく、変化を続ける経済に対応できる人材やスキルを育成するために、政府、教育機関、企業、個人が取るべき具体的なステップを紹介する。


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著者について

Dave Zaharchuk

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, Research Director, IBM Institute for Business Value

発行日 2017年10月31日

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