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来るべき量子コンピューティングの時代におけるセキュリティーの要諦

顕在化するリスクと今すぐ必要な準備

量子技術は企業に計り知れないほど大きな利益をもたらすポテンシャルを秘めており、社会に大きな影響を及ぼすと考えられています。 量子コンピューティング・ソリューションの実用化は、2020 年代末までに、あらゆる業界のコンピューティング戦略に大きな影響を与えていく可能性があります。今後、企業が投資を考えていく上で、量子コンピューティングは、コンピューティングの考え方を根底から変えていくでしょう。またこれに伴って、デジタル経済を守るための「情報セキュリティー」の在り方も決定的に変わっていくことになります。

「耐量子」暗号機能の開発は、データの安全性と完全性を保つ上で欠かせないものです。量子コンピューティングの時代は今後、徐々に展開されていきますが、耐量子暗号ソリューションは今まさに必要とされています。ビジネス、テクノロジー、セキュリティーの各リーダーは、耐量子に関する戦略とロードマップの策定に、今すぐ取りかかるべきでしょう。実際のところ、過去から現在にかけて量子コンピューティングが登場する以前の時代の暗号技術移行でさえ、非常に複雑なことであり、何年もかけて戦略的な計画策定、修正、変革が必要となっている場合があります。

暗号技術の危機を克服する

事実上、すべてのデジタル取引を可能にしている伝統的な暗号化プロトコルは、量子コンピューターの登場により存亡の機に立たされています。

これから数年の間に、公開鍵暗号など、多くのデータ暗号化メカニズムが脆弱性にさらされることが指摘されています。実際のところ、従来方式によって傍受に備えている暗号化通信はリスクにさらされており、すでに、量子技術による複号化が実現したときを見越して、今のうちからデータが抜き取られかねない状態にあるのです。いわゆる「harvest now, decrypt later(暗号メッセージをまず収集し、コンピューティングの性能向上後に解読を試みる)」と呼ばれる攻撃手法です。

そのため、量子コンピューティング・ソリューションが普及する前に、データ暗号化の安全性を確保していくことは喫緊の課題です。データの中には、ハッカーにとって重要でないものや価値がすぐになくなるものも含まれていますが、国家安全保障やインフラ、医療記録、知的資本など、時間がたっても価値が保たれるどころか、さらに価値が高まるものもあります(図参照)。ある欧州の銀行の幹部は、「できればデータは、永久に機密にしておきたい」とも述べています。

種類別データの保管要件

Retention requirements for various data types

単純なデータ漏えいだけでも十分な脅威ですが、リスクのシナリオはさらに拡大していきます。今、私たちは通信ネットワークを保護し、電子取引を検証し、デジタル・エビデンス* を確保するために暗号を使用しています。また現在進められている自動車や飛行機のスマート化も、コネクテッドな(高度に相互接続された)デジタル・エコシステムに依存しており、そのシステムは今後、数十年間も利用することが想定されています。以前はデジタル・ネットワークから切り離されていた重要なインフラ・システムすらも、無線によるアップデートや、IoT を介在させたフィールド・データの取得が行われるようになってきているのです。

* デジタル・エビデンス:デジタル・データが本物であることを証明する方法

デジタル経済の規模は、2025 年までに20 兆8,000 億ドルを超えると推定されており、その影響の 大きさは計り知れません。

間違いなく、衝撃はやってくる。問題はそれがやって来るか否かではなく、それがいつやって来て、どのぐらいのインパクトをもたらすかである。

しかし、明るい兆しもあります。詳細は後述しますが、研究者は耐量子の安全対処に関する技術やアルゴリズムの開発に積極的に取り組んでいます。では、その最終的な目標は何でしょうか。それは、組織や社会が量子コンピューティングの力がもたらす巨大な恩恵を享受するとともに同技術を使ったサイバー攻撃から身を守るよう導くことです。

実用化が見えてきた耐量子アルゴリズム:NIST による公募コンペティション

耐量子暗号に関する懸念は高まっていますが、これは今に始まったことではありません。2016 年12 月、NIST は公開鍵方式の耐量子暗号アルゴリズムを募集し、その後何年にもわたることになる競争的開発プロセスを始動させました。 最終的に、NIST への応募は82 件でした。

NIST は詳細にわたる評価と試験を行った末、2022 年7 月、当初のアルゴリズム候補を4 つに絞り込みました。そのうちの3 つの候補が、IBM が産学界や学術界のパートナーと協力して開発したものです。またIBM は、ほとんどのユース・ケースに導入されることになる主要な2 つのアルゴリズム、CRYSTALS-Kyber(鍵確立)とCRYSTALS-Dilithium(デジタル署名)の開発に関与しています。

 

今こそ、量子リテラシーを高め、データと重要インフラのセキュリティーを強化する時です。

量子コンピューターがデータ・セキュリティーに及ぼす影響について、本レポートをダウンロードしてお読みください。またポスト量子暗号を構成する暗号化アルゴリズム・暗号化システムの詳細や、耐量子的な未来へのロードマップを構築するのに役立つ詳細なアクション・ガイドなど、併せてご確認ください。


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著者について

Ray Harishankar

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, IBM Fellow, IBM Quantum


Dr. Joachim Schaefer

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, Technical Delivery Lead, IBM Quantum


Michael Osborne

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, CTO, IBM Quantum


Dr. Sridhar Muppidi

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, IBM Fellow, VP, and CTO, IBM Security


Dr. Walid Rjaibi

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, Distinguished Engineer, CTO, Data Security at IBM

発行日 2022年12月1日

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