【このレポートでわかること】
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モビリティーを再定義する
自動車業界は、自動運転や電気自動車などの領域でAI導入の最前線を走ってきました。自動車はソフトウェア主導のモビリティーを実現するプラットフォームへと急速に変化しています。今後10年間でSDV化がますます進むと予想されており、AIはその進化の重要な原動力となります。
製品イノベーションと新たなビジネスモデル
ソフトウェアで実現される顧客体験は、車のブランド差別化の鍵となるでしょう。
AIを活用した体験の中でも自動運転は最も注目されるユースケースです。経営層は没入型エンターテインメントやコンシェルジュ・サービスといった新たな車内体験の提供にも意欲を示しています。
近い将来に目を向けると、AIによる売上が全体に占める割合は、現在の5%から今後3年で9%に増えると予想されています。特に有望視されている分野は、予測保全やサブスクリプションなどの車両管理サービスです。消費者向け新サービスの中では、音声アシスタントが注目されています。
自動車業界の経営層は、AIを用いることで、次の3年以内に製品の知覚価値が22%、デジタル・サービスの同価値が37%高まると期待しています。またデジタル・サービスの市場投入までの時間を21%短縮できると考えています。

エッジAIの可能性
AI主導の製品イノベーションで有望な分野の1つが、車載エッジAIアプリケーションです。自動車は常に安定した接続を確保できるわけではなく、クラウド上のコンピューティング・リソースに比べて車載コンピューターの処理能力は限定的です。しかし、小規模なAIモデルを車体で動作させ、重要なAIワークロードをエッジ(車体)で処理することで、クラウド上のAI処理をより効率的に活用できるでしょう。
エッジAIは簡単な音声コマンドの処理や、ローカルなパーソナライゼーション、車両状態の即時アラート、リアルタイムの運転行動監視などのタスクに対応可能です。
一方でクラウドベースのAIは、高度な作業の実行、さらに多くの文脈情報追加、きめ細かなパーソナライゼーション、そしてより高付加価値なサービス提供が可能です。そのためには、車載AIとクラウドAIの処理負荷のバランスを最適化できる、緻密に設計されたハイブリッド型アプローチが不可欠でしょう。
オペレーションモデルを変革し、成長に繋げる
自動車業界で競争優位性を保つためには、イノベーションとデジタル変革が不可欠
自動車業界はソフトウェア主導の未来へ移行中だが、経営層の74%が「この移行は簡単ではない」と考えています。
車両開発プログラムのSDV関連支出の割合が、今後10年間で約50%増加するという見通しがこの移行の難しさを物語っています。生産性が大幅に向上しない限り、製品開発の総コストが増加し、車両価格が多くの人の手が届かないレベルにまで上がってしまうでしょう。AIで開発効率をあげる期待が寄せられています。

例えば、自律走行システムの安全性、信頼性、セキュリティーを確保するためには膨大な量のテストやシミュレーションが必要ですが、AIで効率をあげられるでしょう。製造現場でも、AI搭載ロボットや自動化への期待は大きいです。自動車がSDVに進化していると同時に、製造過程もソフトウェア中心に移行しています。ところが、こうした転換をスムーズに行うためには、職務内容や必要スキルの見直しが不可欠です。事実、AI人材やスキルの不足は、業界全体の大きな課題の1つに挙げられています。AI関連スキルへアクセスできるかどうかが、AI投資の成否を決める重要な要素です。
セールス、マーケティング、アフターマーケットで新たな発想を
自動車会社はまず営業やマーケティングの分野でAIを活用
最も有望視されているAI活用分野は、顧客インサイトの獲得とデジタル・マーケティングです。
経営層は顧客に対して、より継続的で価値の高い関係を構築しようとしています。パーソナライゼーションにAIを活用することで、顧客生涯価値、営業成約率、顧客定着率が今後3年間で25%向上すると見込まれています。しかし、バーチャル・ショールームの提供や、ダイナミック・プライシングの最適化といった、より複雑なセールスおよびマーケティング変革には、販売ディーラーの協力が不可欠であり、実現には時間を要するでしょう。
自動車がSDV化していくことで、新たな機能のアップデートや、ライフサイクル全体にわたるセキュリティーの確保が可能になります。この実現にはソフトウェアのOTA(over-the-air)更新プロセスの導入と、新たなサービスやアフターセールス業務の構築が不可欠です。この転換のためには顧客との長期的で密接な関係が必要ですが、顧客体験を変革する機会にもなるでしょう。

Honda: 生成AIで技術文書を自動抽出し、ナレッジ継承を効率化
熟練エンジニアの知識を若手に継承するため、HondaはIBMと連携し、生成AIを活用して技術文書からナレッジを抽出・モデル化しました。従来3年かかっていたモデリング期間を1年に短縮し、開発業務の効率を30%、企画・管理業務を50%改善しました。
アクション・ガイド
安全性や信頼性、セキュリティー、プライバシーは、あらゆる自動車メーカーにとって将来の競争力を左右する基盤と考えられています。しかし他社との差別化にはそれだけでは不十分です。AIを差別化に役立てることが可能です。
- AIを活用し、新しいモビリティー体験を提案する
- SDVに関する技術やプロセスの基盤構築を進める
- オペレーティング・モデルやエコシステム全体にわたってイノベーションを進める
本レポートをダウンロードし、AIによって自動車業界がどう進化していくのかを探りましょう。本レポートの後半では、Honda社の詳細な事例やすぐに実行できる具体的なアクション・ガイドを解説しています。
著者について
Yuhko Nakamura, Senior Partner, Automotive Industry Leader, Japan, IBM ConsultingPeter Schel, Senior Partner, Industrial Sector Lead DACH and Lead Client Partner for BMW Group, IBM Consulting
Noriko Suzuki, Global Research Lead, Automotive and Electronics, IBM Institute for Business Value
Jun Tang, Automotive Lead, IBM Consulting
Jorge Malibrán Ángel, Senior Partner, Manufacturing Industry Leader, IBM Consulting
Gavin Sermon, Senior Partner, Automotive, Aerospace, and Defense Industry Leader, IBM Consulting
Biswajit Bhattacharya, Lead Client Partner, Industry Diamond, Industrial Manufacturing, IBM Consulting
発行日 2025年4月14日