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AI によるスポーツ・ハイライト動画編集の神速機敏

AIイノベーションとハイパー・パーソナライズされたユーザー体験がもたらす放送事業者と視聴者の新たな関係

世界中で日々開催される何十ものスポーツ・イベントを、放送事業者が手作業で10 分間の映像に編集する総作業量を想像してみてほしい。人間の目では見落とされてしまうさまざまな事象も考慮すると、すべてのプレイ、投球、ゴール、落球、警告を人間が把握することは不可能である。

スポーツや映画、テレビといったメディアの違いを問わず、動画市場においてハイライト動画は最も急成長しているセグメントであり、エンタープライズ動画市場は、2023 年までに200 億米ドル近くまで拡大すると予想されている。この急成長市場でシェア拡大をめざすコンテンツ制作会社にとって、人工知能(AI)は大量の動画やデータの分析に活用できる。

その瞬間を逃さない

ウィンブルドン選手権(全英オープン)やFIFA ワールドカップのような大規模イベントでは、動画編集にAI を活用することで、制作クルーでは到底不可能な速さでスタッツや結果情報を提供することができる。例えば、ウィンブルドンでは、2017年にAIシステムを導入したことで、ハイライト動画提供までの時間を従来よりも15 分短縮することができ、動画コンテンツの視聴回数は1,440 万回に達した。

AI はコート・サイドでデータを収集・分析し、球速160km のサービス・エースを捕らえ、画像認識機能を駆使して観客の反応を評価した上で、どのシーンをハイライト映像に取り込み、どれを排除するかを選別する。

AI は、動画ハイライトの編集プロセスを迅速化・簡素化するために、以下の機能を提供する。

––採用する場面の選択: どのプレイをハイライト動画に含めるかを評価するために、得点シーンの選手のガッツポーズなど、試合中に盛り上がった瞬間を画像認識API によってランク付けする。

––クリッピングと微調整: データ・アナリティクスに基づき、取り込む映像の開始と終了のタイム・スタンプなど、クリップの長さに応じて時間制限を設ける。画像認識機能では、観衆のワイド・ショットなど、編集でカットすべき試合以外のコンテンツを特定することもできる。

––制作: クリップは、ストーリー・テリング用のグラフィックスと権利保護のための透かしが追加された後、業界標準フォーマットに統合され、制作サイドに手渡される。

––配信: コンテンツが承認されると、Web サイト、モバイル・アプリ、ソーシャル・メディアなどでの公開に向けて、デジタル編集者に配信される。

ファンと市場の画期的なエンゲージメント

FOX Sports は2018 年FIFA ワールドカップにおいて、AI ベースのプラットフォームを立ち上げた。ファンはこのプラットフォームを使って、自身でカスタマイズした特別なサッカー・ハイライト動画を作成したり、共有したりすることができる。また、FIFA が所有する現在および過去の試合のアーカイブ映像を、開催年、チーム、選手、およびペナルティー・キックやゴールといったプレイの種類ごとに検索・閲覧することも可能だ。このインタラクティブ・プラットフォームは、ユーザーの操作により映像を数秒間で分析・編集する。例えば、試合後感動を分かち合いたければ、ファンは自作映像にタイトルを付けて保存し、電子メール、テキスト、Facebook、Twitterなどを通じて共有も可能である。

個人の好みに合わせてパーソナライズしたスポーツ・ハイライトを作成するということは、すなわちトーナメント、チーム、好きな選手、特定のプレイに基づいてコンテンツのキュレーションを行うことと同義である。もちろんこの他にも、視聴者の好みを反映することは可能だ。例えば、視聴時間や、5 インチのハンドヘルド・デバイスか大型スクリーンかといったデバイスの種類などがある。さらに、コンテンツの一時停止や再生、早送りといった視聴行動に基づいて、その傾向に沿ったものを作成することもできる。

エンゲージメントを生み出すプラットフォーム

新たな手法で視聴者とのコミュニケーション能力を獲得した放送事業者は、ファンと市場を媒介するプラットフォーマーとなった。このことは広告会社の注目を集めているだけでなく、通信事業者も顧客ロイヤルティーとユーザー1 人当たりの平均売上高(ARPU)の向上に向けて、ブロードバンド、固定電話、携帯電話、テレビ契約をパッケージとしてバンドル化した「クアッド・プレイ」を差別化するために、スポーツ放映権への投資に積極的に動くものとみられる。

高速インターネット回線を通じて提供されるオーバー・ザ・トップ(OTT)コンテンツの場合、AI によって実現されるイノベーションが顧客の開拓と維持に役立つ。ウィジェットやモバイル・アプリなど補助的なエンゲージメント・チャネルは、広告会社のメッセージと通底し、親和性を持って文脈に沿う形でファン体験を創出することで、広告インベントリーを促進することができる。広告収入に支えられるスポーツ・ビジネスにおいて、こうした体験は収益化が可能な新たな広告スロットを生み出す。

動画の価値とパフォーマンスを高める

スポーツ以外にも、分類と検索を簡易化することによって、AIがデジタル・コンテンツ消費を促進できる分野はある。Netflixなどのサブスクリプション・ストリーミング・サービスであれ、広告収入をベースとするモデルであれ、消費者がそれを利用するかどうかの最終判断は、コンテンツの提供手法にかかっている。

データが主導する動画体験の詳細については、レポートを参照ください。


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著者について

Rob van den Dam

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, Global TM&E Industry Leader - IBM Institute for Business Value


Fabien Lanne

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, Technical Leader, TME Industries, Europe, IBM Global Markets


Jay (Mrutyunjaya) Hiremath

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, Industry Solutions Leader, Media and Entertainment, Lead Partner, Global TME, IBM Consulting


Mario Cavestany

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, VP, IBM Telecommunications, Media and Entertainment, (TME) Industries, Europe, IBM Global Markets

発行日 2021年3月2日