AIが国防組織の意思決定にもたらす優位性

技術の発展と導入のギャップを解消する
技術の発展と導入のギャップを解消する

【このレポートでわかること】
 

 

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2024年を地政学的な視点から見ると、国家間の武力紛争が第二次世界大戦以降で最も多くなっています。しかし、武力衝突の可能性が高まるこの時代に、主要な国防組織はケイパビリティーの強化に努めているものの、人的資源は不足しています。例えば、米軍の現役軍人の数は1940年以来で最低のレベルにまで減少しており、英国でも2000年以降に軍人の数が30%減少しています。ますます複雑になるオペレーション環境で少数の人員が多くのタスクをこなす中、国防戦略担当者はデータやアナリティクス、AIの先進技術が戦力を何倍にも高め、戦力の実現基盤になると考えています。

物理的破壊を伴う作戦への投入のほか、戦力維持や支援業務、セキュリティーへの活用、その他のさまざまな用途で、AI(とりわけ生成AI)は急速に発展しつつあります。AIの発展に伴い、国防組織はAIが持つ能力の理解や試験利用、導入、活用を急ぎ、最も戦略的効果の大きい使い方を見極めようとしています。

 

国防組織はAIへの投資を重要視し、強化している

組織の将来のミッションに対するAIの重要性は、高まり続けています。リーダーの52%が、AIは3年後に「かなり重要になる」と考え、35%が「極めて重要になる」とみています。国防組織のリーダーは2020年以来、AI投資を増やすことにより、AIの価値に対する確信を現実のものにしようと努めています。実際、13%のリーダーは彼らの組織が「生成AIへの投資を過去3年間に大幅に増やした」と述べ、40%は「別のAI技術への投資を大きく増加させた」と回答しました。

国防組織のIT予算は増加し続けており、その中でAI投資が占める割合も高まりつつあります。国防組織のリーダーは次の3年間に、IT予算年額のうちクラウドコンピューティングとAIの伸びを最も高める予定であり、IT予算に占めるAIの割合も今後3年間で増加すると見込んでいます。

AIの投資水準の伸びに応じて、国防組織ではAIを活用すれば価値実現が可能になるという期待も膨らんでいます。調査ではゆうに半数を超えるリーダーが、AI(生成AIを含む)は、自組織の作戦能力と準備態勢を向上させるだろうと述べ、その可能性が「高い」とする回答は44%、「極めて高い」も18%ありました。

 

防衛分野の生成AIが生む新たな機会と、関心の高まり

米国防総省は60年以上にわたりAI技術に対し多大な投資を行ってきました。ただ、最近まで、AIを用いたシステムにアクセスできるのはエンジニアやデータサイエンティスト、開発者のような専門家に限られていました。しかし、今や生成AIの登場により、誰もが大規模言語モデルとチャット用トランスフォーマーを使用して、膨大な量の情報を瞬時にレビューしたり、意思決定に役立つインサイトをデータから抽出したりできるようになりました。生成AIの展開先として見込まれる上位3分野は、「情報技術」(60%)、「対人サービス(人員支援や家族向けサービス)」(58%)、「情報セキュリティー」(54%)です。

他の大企業のリーダーと同様に、国防組織のリーダーも生成AIとその影響に関して多くの懸念事項を共有しています。彼らはこうした懸念事項へ対処する上で、共通して必要となる要素を指摘しています。それは、生成AIを動かすモデルへの信頼の構築です。信頼の構築は、データ・ガバナンスを支えるデータ・ファブリックのアプローチから始まります。その際、頭に入れておくべきことは、データが使用に耐えるためには、保護が万全で、背景・内容・品質に信頼性があり、検証可能でなければならないということです。

 

防衛分野のAI導入・拡充は、期待より遅れている

しかし、AI導入がこれほど進んでいるにもかかわらず、多くのリーダーは進捗(しんちょく)状況が限定的でむらがあると指摘し、3年前の期待よりも遅れていると考えています。例えば、2020年には国防組織のリーダーの29%がAI導入について、自組織は実装段階にあると回答しましたが、この割合は23年に3%ポイントしか上昇していません。

領域別にみると、2023年にAI導入が最も進んだ領域は、半自律走行車へのAI搭載、医療・保健サービスの提供、そして自律走行車へのAI搭載となっています。しかし、これらの領域でも、国防組織のリーダーが3年前に見込んでいたより進展が遅れています。

本レポート内には、領域別に2020年の調査で国防組織のリーダーが示した23年のAI導入の見通しと、実際の23年の状況を比較しています。

 

国防組織はより多くのAIケイパビリティーを組織内に確保して、民間セクターへの依存を減らそうとしている

2020年には、国防組織のリーダーの半数以上が、多くの領域のAIケイパビリティーで民間セクターに大きく依存していると述べていました。しかし、国防組織のリーダーはこの3年間、多くのAIケイパビリティーについて民間セクターへの依存を減らすことを最優先に取り組んでおり、調査結果にもその成果が表れています。顕著な例としては、防衛・軍事に特化した高度なアナリティクス技術では、民間セクターへの依存は現在43%で、19%低下しています。

こうした自助努力への強い姿勢は見られるものの、今後も主要領域では、国防組織のリーダーの多くは民間セクターのパートナーに支援を求めていくでしょう。例えば、AIケイパビリティーの上位10カテゴリーのうち8つについて、2026年は少なくとも一定程度、引き続き民間セクターのパートナーに頼ると国防組織のリーダーは見込んでいます。この傾向から見えてくるのは、幅広いケイパビリティーに関して、民間セクターとの協力が有意な水準で推移していくということです。

2020年から変わらない傾向が1つあります。国防組織のリーダーがAIの専門性において民間セクターに大きく依存するのは、AI導入の初期段階(とりわけ検討・評価段階)ということです。これに続く試験導入や実装、運用、最適化といった段階へ進むにつれ、国防組織は自ら一層責任を担い、主体的に取り組むようになります。

国防組織が内部のAIケイパビリティーを高め、外部業者への依存を減らすには、より多くの経験豊富なAI専門家、特に上級レベルの専門家を採用し、定着させる必要があります。これは今まさに対応を迫られている課題です。AIプロジェクトに取り組むためにはITの専門性だけでは不十分で、高等数学や統計分析のスキルセットなどが必要とされるためです。その上、民間セクターの給与は一般的に政府機関より高額です。それでも防衛関連機関は、国家の重要ミッションにAIの先進技術を活かして貢献できる機会である点をアピールして、AI担当の候補人材の呼び込みに一段と注力しています。

 

AI導入を阻む障壁に立ち向かい、国防組織と民間セクターの共創を拡大

IBVの調査によると、AIの開発と展開を阻む主な障壁として国防組織のリーダーの多くが挙げたのは、データ・ガバナンス、セキュリティーとプライバシー、高度なスキルを持つ人材の獲得、そして文化的な問題でした。興味深いのは、IBM IBVが2023年にまとめた、エンタープライズ生成AI市場の状況に関するレポートで、AIの態勢整備に関わる課題として世界の企業経営層も、リスクとガバナンス、組織とスキル、データとプラットフォームを上位3位に挙げていたことです。

国防組織と民間企業双方のリーダーは、AI導入を加速するためにどの分野に注力し、AI関連の目標実現へ何を変革すべきかという点で見解がかなり一致しています。しかし、現実問題として、国防組織が民間の防衛専門家と高価値のAIプロジェクトで協力し、共創を通じて知識移転を促進するにはどうすればよいでしょうか。その一例として、イノベーション・センターを設立し、関連領域の専門家を結集し、AIの活用法やプロトタイプ開発とテストを行うことが考えられます。具体的な事例は、本レポートをご参照ください。

また、レポートをダウンロードいただき、ProMare、Octo社、米空軍の事例や、国防組織がとるべきアクションのご提案もぜひご確認ください。


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著者について

山中 邦裕(日本語翻訳監修), コンサルティング事業本部, ソーシャル・エンタープライズ&ライフ事業部,パートナー, 官公庁サービス部長

発行日 2024年5月13日