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THINK Watson

【後編】Pepper元開発リーダー林要氏が描く「ヒトとロボットが”共創”する未来」

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取材・文: 五味明子

 

 

情熱が情熱を、才能が才能を呼ぶ – 人形町をイノベーションのテックハブに

久世CTO:林さんの現在の取り組みについて聞いていると、IBMがWatsonを世に出そうとしていたころを思い出します。最初のWatsonは2005年から6年かけて作り上げ、2011年の米国のクイズ番組「Jeopardy!(ジョパディ!)」でチャンピオン二人と対戦することになっていました。

「Jeopardy!」は50年以上に渡ってウィークデイに毎日放送されていた30分間の人気番組で、それまでに一度も同じ問題が出たことがないことでも知られていました。対戦までにIBM Watsonが読み込んだ文献のページ数は2億にも上ります。聖書から最新ヒット曲の歌詞まで、あらゆるコンテンツを読み込み、オープンクエスチョンに備えました。

質問から解答までの時間は1秒です。開発初期のころのIBM Watsonの正答率はわずか12%でした。それを開発陣が必死で頑張って32%まで上げたのですが、それでもチャンピオンの正答率よりはやや低い状態だったんです。一部では出演をやめたほうがいいのでは、という声もあったのですが、開発者たちがジョン・ケリー(John Kelly: 当時のIBM Researchの責任者)に直談判し、開発を続け、結果として番組で勝利することができました。

「機械がチャンピオンに勝てるワケがない」という周囲のバイアスを打ち砕いた開発陣の情熱には心を動かされましたね。その情熱が周囲を巻き込んで勝利につながったんだなと今では思います。

 

林氏:機械は人間と違って物怖じしませんから、正答率が少し低いくらいなら十分に勝てる可能性はあるのではないでしょうか。クイズ番組は心理戦ですし、人間の持つ畏怖の念なんか、機械には皆無ですからね。

そして情熱が周囲を巻き込み、人を呼ぶというのはまさしくおっしゃる通りだと思います。GROOVE Xは2015年に創立したばかりの会社で、まだ何もモノを出していません。投資家の方々には「2019年まで何もリリースしません」とお伝えしています。

しかも出そうとしているのは”仕事をしないロボット”です(笑)。それで開発者や協力者が集まるのかというと、これが驚くことにすごく優秀なメンバーが集ってきているんです。

私はトヨタ時代、F1チームのプロジェクトに参加していたのですが、あの精鋭チームを上回るレベルの人材が、我々と共に旗を掲げたいと言ってくれています。やはりイノベーションの原点は人と情熱だと実感しますね。

 

久世CTO:林さんのロボットへの強い情熱が優秀な方々を引きつけているのはとてもよく理解できます。才能が才能を呼び寄せているという表現がまさにしっくりきますね。ヒト同士のシナジーがこの人形町で生まれている感じがします。

 

林氏:ありがとうございます。そういう意味で言えば、私はイノベーションとは「同じ釜の飯を食う」という環境の下で起こると思っているんです。異なる才能をもった者同士が同じ場所にいることで、グルーブが生まれるという感覚がものすごくあります。

いまはハードの開発者もソフトの開発者も同じオフィスで作業をしていますが、これまでPythonでコードを書いてきたプログラマがハードの開発者に触発されてはんだごてを握るようになるんです。その逆もしかり。もちろんリモートワークやアウトソースを全否定するわけではありません。

リモートワークのほうが効率的な業務もたくさんあります。しかし今までにない製品を作って世に問うといったかたちのイノベーションの場合、ハードとソフトの人間が同じ場所で刺激し合うことは欠かせないんじゃないでしょうか。

 

久世CTO:私もそのお考えに同意します。IBMでは電話会議やリモートワークの体制はこれからも維持していきますが、リモートワークの基本は”情報の文字化”にあるので、どうしてもインスピレーションにもとづくイノベーションが起こりにくいんですね。

世界的にも、1カ所にヒトが集まったほうがイノベーションが生まれやすいという認識が拡がっています。そして私は、これは日本にとっては大きなチャンスだと見ています。ほかの国や地域に比べて一流の知識と技術をもつ人間が近い場所に集まりやすいからです。林さんのオフィスがあるこの人形町はまさにそうしたテックハブになる可能性がありますね。

 

林氏:人形町はもともと江戸時代に人形芝居の人形を掘る人形師たちが数多く暮らしていて、それぞれの技術を競っていた、いわば日本のモノづくりを原点とする街です。

日本の古き良き文化が息づく一方で、我々のようなベンチャーも拠点を構えるようになっています。日本IBMもすぐ近くですし、本当にこの一帯を世界中のギークが集まるイノベーティブな場所へと成長させていければうれしいですね。

先ほど、教育の話が出ましたが、これからの時代を生きる子どもたちにはAIを扱える能力と同じくらい、周囲を巻き込んで共に何かを成し遂げていくという人間力が問われるようになると思っています。

 

久世CTO:そのお手本となる実例に我々がなれればいいですね。IBM自身も新しいイノベーションに対して積極的に挑戦を続けていかなくてはなりません。ベンチャーなど外部からの刺激も重要です。今後ともぜひ、一緒にいろいろと取り組ませてください。今日は本当にありがとうございました。

 

五味明子(GOMI Akiko)

IT系出版社の編集部(雑誌/書籍/Webメディア)で編集者としてキャリアを積んだのち、2011年からフリーランスライターとして活動。フィールドワークはクラウドコンピューティング、データアナリティクス、オープンソース、プログラミングなどエンタープライズITが中心で、海外カンファレンスの取材も多い。メディアへの寄稿のほか、Twitter(@g3akk)やFacebookなどソーシャルメディアでIT情報を日々発信中。北海道札幌市出身/東京都立大学 経済学部卒。

 

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