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THINK Watson

【前編】Pepper元開発リーダー林要氏が描く「ヒトとロボットが”共創”する未来」

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CTO久世のクロス・ワトソン ―― Robot x Watson

 

取材・文: 五味明子

日本IBM 執行役員 工学博士の久世和資氏は同社のCTO(Chief Technology Officer: 最高技術責任者)でもある。本コーナーでは、技術者として長年に渡って日本の「モノづくり」に最前線で関わり続けてきた久世CTOが、各界のスペシャリストとの対談を通して、日本のIT、そしてAIが進むべき道を探っていく。

記念すべき第1回目はGROOVE X代表取締役 林要氏。ソフトバンクのヒューマノイドロボット「Pepper」のデザイナーとして知られる国内ロボット業界の第一人者だ。現在はソフトバンクを離れ、みずから設立したGROOVE Xにおいて新たなロボット開発に取り組む林氏に、”ヒトとロボットとイノベーション”の関係を中心にお話をうかがった。

 

ヒトとAIの違い ーー 制限とバイアスとイマジネーション

久世CTO:GROOVE Xのオフィスは人形町(日本橋人形町・東京中央区)なんですね。当社(日本IBM本社)からも歩いていける距離にあるとは知りませんでした。

 

林氏:人形町は本当に素晴らしい食文化の街で、それこそ1個150円のたい焼きのお店から一人何万円もする料亭まで同じ通りに混在する空間です。水天宮の駅からオフィスまでの道もいつもいい匂いがするので、どこにも寄らずに帰ってくるのに苦労します(笑)。

こういう街にオフィスを構えていると、日本の職人は本当にディテールにこだわる気質を持っているんだなあとつくづく実感します。トヨタ自動車の社員時代、ドイツに住んでいたことがあるのですが、ヨーロッパのレストランには日本で言う専門店がないんですね。たとえば日本にはうどん屋があちこちにありますが、ヨーロッパにはスパゲッティ屋という存在はありません。イタリアでも見かけたことがない。

ところが日本にはうどん屋どころかスパゲッティ専門店もたくさんあります。メニューの種類もすごく豊富でバリエーションに富んでいる。料理に限らず、ある一つのパーツを深掘りして専門分野にまで昇華できる。日本人ならではの特性だと思います。

 

久世CTO:限られた材料から想像力を働かせ、新しいモノを生み出すというのはIBM Watsonも得意とするところです。せっかく料理の話が出たので「IBM Chef Watson(シェフ・ワトソン)」の紹介をしましょう。

シェフ・ワトソンはシェフの創造性を刺激するワトソンで、3万件以上のレシピ、食材の化学特性、食の地域や文化特性を学習しています。主食材と◯◯風といった情報を入力すると、複数の材料の組み合わせ候補をシェフに提示します。シェフはその候補から調理法を考案し、新たな料理を創造できます。

クックパッドの「レシピエール(クックパッドで人気のプレミアム会員)」3名の方とシェフ・ワトソンのコラボレシピなどはその顕著な例です。私はこのコラボで誕生したトルコ風のかぼちゃ料理がすごく気に入っていて、トルコ風なのにピーマンやしらすも使っているのですが、とても美味しくて、しかも健康にも良い。人間の想像力を IBM Watson が活性化させたユースケースの代表ですね。

 

林氏: いまのお話を聞いてまたトヨタ時代のことを思い出しました。私の専門は空気力学で、”コンセプチュアルなクルマ”を作るために理想的な空気力学を実現できるようなデザインをスタイリングデザイナーに依頼するわけです。

最初、私はデザイナーに対してあまり細かく要件を伝えることはしませんでした。「ヒトは自由であればあるほどイマジネーションが湧いていくる」と思っていたからです。ところがまったく案が出てこない。何も制限がない状態で想像力を働かせることは人間にとって至難の技なんですね。やはりクリエイティブな作業には”筋の良い制限”が欠かせないと学びました。

 

久世CTO:制限のあるところからイマジネーションが生まれるというのは非常に共感できます。シェフ・ワトソンでも食材のパラメータにすこし制限をかける —— たとえば「健康に良い」といった制限をかけることで新しいレシピが誕生しやすくなります。

シェフ・ワトソンから提示された意外な材料を見て、料理人は驚きながらも職人魂を刺激され、プロの技を駆使して新しい料理を作り上げる。世間ではよく「AIが人間の想像力を奪う」と言われますが、私はむしろAIは人間の想像力を活性化する存在だと考えています。AI単独で何かをやらせるよりも、人間と組み合わせたほうが、はるかに大きな効果を発揮するはずです。
林氏:まったく同感です。私はAIと人間の最大の違いは”バイアス”にあると思っているんです。先ほどのシェフ・ワトソンの例のように、機械は何かを選んだり決めたりするときにバイアスがかかりません。非常にフラットに事象を見ることができます。ところが人間には常識や過去の経験からどうしてもバイアスがかかってしまう。職人になればなるほどその傾向は顕著です。「僕はフラットにモノを見る」という人がたまにいますが、決して信用してはいけません(笑)。人間はバイアスがかかっていて当然なんです。

茶道や武道の世界には「守破離」という言葉がありますが、私が見るところ、人間は”守(型通りに行う)”と”破(型にアレンジを加える)”はかなり得意です。しかし”離(まったく新しい技術を開発する)”はなかなか難しい。この”離”をサポートするのがAIの役割になるんじゃないかと見ています。つまりバイアスを取り除き、新たな創造を助ける存在になるのではないかと。

 

 

五味明子(GOMI Akiko)

IT系出版社の編集部(雑誌/書籍/Webメディア)で編集者としてキャリアを積んだのち、2011年からフリーランスライターとして活動。フィールドワークはクラウドコンピューティング、データアナリティクス、オープンソース、プログラミングなどエンタープライズITが中心で、海外カンファレンスの取材も多い。メディアへの寄稿のほか、Twitter(@g3akk)やFacebookなどソーシャルメディアでIT情報を日々発信中。北海道札幌市出身/東京都立大学 経済学部卒。

 

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