T
THINK Business

目指すのは「時短」ではなく「イノベーション」!? IBMが提唱する真の「働き方改革」

post_thumb

 
「自分たちの働き方はこれで良いのか」―― そんな疑問が、ひょっとすると多くの企業や社員の潜在意識にあったのかもしれない。当初は「残業時間の削減」や「ワークライフバランスの実現」という文脈で始まった『働き方改革』という言葉は、あっという間に日本中に広まった。少子高齢化による労働力減少の恐れと、他の先進国に比べての労働生産性の低さが指摘され、気がつけば「グローバルでの日本の競争力を高めるには」という大きな問いを直視せざるを得なくなってきた。にも関わらず、多くの日本企業では当初からの「効率化」「マンパワー削減」という方向からのアプローチのみが注目され「残業時間は削減できたけど、次はどうすれば…」という声が聞こえてくる状況だ

そんな日本において、グローバル企業の中でも高い利益率を誇るIBMは『経営的な観点での真の働き方改革』を提唱し、コンサルティングを行っている。IBM自身、100年を超える歴史のなかで常に時代が求めるサービスや製品を世に送り出し、そのたびに働き方も進化を遂げてきた。そこで「働き方改革」をIBM社内外で推進する立場の二人に、進める上での秘訣や課題を聞く。グローバルの視点から見た、日本企業が本当に取り組むべき「働き方改革」とは。

石田 秀樹
日本アイ・ビー・エム株式会社 IBMサービス GBS事業本部 コグニティブ・プロセス・トランスフォーメーション事業部 組織人財変革リーダー パートナー


現在、日本IBMにて、組織変革および人財マネジメント領域のコンサルティングサービス部門の責任者を務める。複数の外資系コンサルティングファームを経て、IBM Business Consulting Service(旧PwC Consulting)に入社、以後一貫して「組織」と「人」の側面から企業変革に携わり、大規模企業を中心に、18年以上のコンサルティング経験を基にした実践的な変革支援に従事している。近年では、人財マネジメント領域での様々な課題に対して、コグニティブ・コンピューティングを用いた“働き方改革”の活動を通じて、企業の持続的成長を包括的に支援している。

藤森 慶太
日本アイ・ビー・エム株式会社 IBMサービス GBS事業本部 インタラクティブ・エクスペリエンス事業部 事業部長 パートナー


電機メーカーを経て日本IBMに入社。2014年からモバイル事業に専念し、ビジネス領域におけるワークスタイルの革新をモバイル機器&独自アプリで実現している。

 

モバイルの活用で整備士の「働き方」を変える

一例として、IBMが支援した日本航空株式会社(JAL)の事例を見てみよう。整備士の業務プロセスを、モバイル、クラウドといったテクノロジーを活用して合理化した例だ。

旅客機ビジネスにおいて、トラブルによる機材変更や遅延は収益を大幅に低減するものであり、万が一の事態が起こらぬよう、多くの整備士が旅客機の整備に奮闘している。

しかし、これまでの業務プロセスでは、現場で整備作業を行いつつ、整備マニュアルやスケジュールのプリントアウト、整備記録の入力は、オフィスに戻って行っていた。つまり、軽微なミスでも整備格納庫とオフィスとを何度も往復しなければならなかったのだ。そこで、IBMは整備士専用モバイルアプリを開発し、整備マニュアルへのアクセス、整備記録の確認や入力がどこでも行えるようにした。これにより作業時間は大幅に低減した。

「整備士は飛行機のメンテナンスが仕事です。しかし、従来までは飛行機に触れない業務時間が長かったのです。そこで、オフィスの外でも事務作業ができる環境を整え、現場で本来の整備作業に集中できる時間を増やしました」(藤森)

JALモバイル事例

 

単純な“時短”目的では続かない

しかし、この事例はあくまで1つのケースに過ぎないと、二人は強調する。

「コストと収益の両方を念頭に置く必要があります。既存の『働き方改革』の内容を見てみると、コスト意識は非常に高いけれども、その取組みからの生まれるリターンや収益性の視点が非常に希薄な状態になっていることを懸念する必要があると考えています」(石田)

企業体である以上、コストダウンだけではなく、収益性をKPIに含めてコミットしていくことが重要となる。でなければ、マイナスだったものをゼロに戻すことはできても、その先が見えない。同時にプラスに転じられる取り組みがなければ、取り組みが一時的なものになる可能性がある。

「労働生産性の数式を見てみると、分母が『時間』で、分子はお客様が欲しいと思うものを生み出せているか、という『付加価値』で成り立っています。多くの会社で取り組んでいる『働き方改革』は、分母を改善することを主眼においたスコープとなっており、分子を増強して“競争力”を高める、という視点が非常に弱いように思えます」(石田)

働き方改革 図表

 
「多くの企業において『イノベーション』を謳い、その活動を必要としていますが、その理由は、この数式の分子に当たる活動そのものであると認識しています。「働き方改革」を本気で取り組むのであれば、企業のトップ、働き方改革を推進する部署が『付加価値の創出』や『競争力の向上』という具体的なビジョンがなければ、表面的な取組みで終わってしまう可能性が高くなります」(石田)

IBM石田秀樹

しかし、そこまで目指すにはトップの号令だけでなく、現場の意識や前向きな意見も重要になってくる。実際には、改革の際、変革に抵抗を示す従業員がハードルとなることが多いという。

「特に、業績に問題がない企業であれば、社内から、なぜ改革しないといけないのか、今まで通りでいいじゃないか、という声が上がることも考えられます。要するに、働き方を変える“動機”=Compelling Reasonが生まれないんです」(石田)

目の前の業務を効率化し、「未来」に視点を移させる

「働き方改革」には、社会的な側面を持つ広義のものと、社内的な要素となる狭義のものが存在する。狭義のものとしては、会議の進め方、情報共有のありかた、議事録の作成方法などが考えられる。誰もが、企業で培われてきた手順(=習慣)を共有してきたため、その方法が社内文化として根付いている。そんな状況で、突然「明日からは異なる方法で実践ください」と通達されても、直ぐに、頭を切り替え、行動変容に繋げるには、少々無理があるのかもしれない。

「未来に視点を移していくことが大事です。しかし、現場の従業員は、目の前の仕事で手一杯。未来=自分達の将来を考える余地がないんです。だからこそ、分母を減らして時間をつくるというアプローチは間違っていません。そこで生み出した時間を未来の仕事を考える時間へ振り分けて貰うための“フレームワーク”が必要です。例えば、業務効率化によって生まれた時間を、新しい取り組みに費やしてみる。結果として、新たに生まれたビジネスが大ヒットして臨時ボーナスを払うみたいなケースがあれば、従業員もモチベーション高く取り組んでくれます。会社としても「働き方改革」による恩恵としてイノベーションが起きたことになりますし、従業員にとっても本気で取り組む動機が生まれると考えています」(石田)

IBM石田秀樹
 

積極的にチームメンバーの声を拾っていく

社外に向けたコンサルティングを行う一方、日本IBM自身も一企業として社内で働き方改革を進めてきた。

「かつて、メインフレームのような競争力のある製品があった時代、毎日のように多くのお客様がやってきて、数億円のサーバーがものの数十分で売れていきました。これは夢物語ではなく、過去のIBMが辿ってきた道です。そうした過去があるからこそ、社内では『働き方改革』とはいえ、目の前のペーパーワークを減らすことだけを考えるのではなく、遠い将来であっても魅力的な製品やサービスを生み出すことに集中することも大事なんだという認識を持っています」(藤森)

コンサルティングを主要事業とするグローバル・サービス・事業本部(GBS)が働き方改革を推進する有志のチームを立ち上げた際「社員が幸せに働くためにはどうすべきなのか」をテーマにブレインストームを行ったという。また、アイデアを出し合うアイデアソンも積極的に開催。それはチームメンバーだけではなく、他のコンサルタントや他部署のメンバーを集め、侃々諤々と話していく。

「参加メンバーからは、すごく細かい話も出てきます。たとえば、あるプログラマーは、デュアルモニタがあればデバッグ作業が楽になるというんですね。また、アウトプットするときは1人で集中できる環境が欲しいと。しかし、そういった声に耳を貸さず、オフィス改革と称してオシャレで風通しの良いカフェ風な空間に変えてしまうと、彼らにとっては働きづらいオフィスとなってしまいます。

また、これからどんなスキルを身に付けていくべきか、キャリアをどう伸ばしていくべきか、といった不安の声も出てきます。そのため、弊社内の『働き方改革』では、個人レベルで未来を考えられるような情報共有の場を積極的に設けています」(藤森)

IBM藤森慶太
 

社内に赤裸々な情報を発信するというプロジェクト

先人たちが、どのようにIBMで人生を歩んできたのかもオープンにしている。また、ワークショップやアイデアソンに関しては、結果だけではなく、その過程も情報として発信する。どんな過程でアイデアが生まれたか、その情報にも価値があるものと認識しているからだ。

「この情報発信は、すごく重要だと思っています。ほとんどの『働き方改革』は、人事部などが分析して『こんな施策をやるべきだ』というのを管理側が決めています。だからオフィスを改造し、完成して社員が見た際に『違うよ。そういうことじゃないんだよ』という声が出てくる。だから、我々はいきなり進めるのではなく、オフィス改革もアジャイルで、部分的に進めながら、みんなで評価していきましょうということを重視しています」(藤森)

「従業員全員が、働き方改革を“自分事”として認識しているかどうか、経営者が改革するという確固たる意思を持ち、実行に移しているかどうか。その両軸がなければ、本当の改革には成り得ないと思います。だから、身近な情報発信で興味・関心を持ってもらい、全ての社員を巻き込んでいくんです」(石田)

IBM石田秀樹とIBM藤森慶太
 

人財マッチングシステムにWatsonを活用して付加価値を創造—人財マッチング精度が83%向上

ここで、働き方改革を実践し、新たな付加価値を創造した先進事例を見てみよう。エンジニア人材派遣大手のフォーラムエンジニアリング社では、IBMのAIテクノロジーである「IBM Watson」を活用して、人財マッチングシステムを構築した。これまで把握するのが難しかったエンジニアの興味・関心や人間性などの属性情報を、Watsonを通じて分析することが可能になり、属人的な手法では実現できなかった最適なマッチングを論理的に提言することが可能になった。

その結果、人財マッチングの精度が従来と比較し83%も向上。これにより、営業担当が派遣者を確定するために行っていた派遣先企業への訪問件数も大幅に減少した。従来の営業業務から解放されることによる業務効率化と、エンジニアと求人企業双方の満足度の向上が実現できた。

フォーラムエンジニアリング社は、営業職の役割を、従来の派遣先企業の訪問や人財のマッチング等から、より付加価値の高い業務へと再定義して取り組んでいる。

 

「将来どうなっているべきか」を定義し、自社オリジナルの『働き方改革』を

IBMでは、業種業界を問わず、様々な場面で企業が「働き方改革」を実行するための支援を行っている。それは、ペーパーレスやドキュメント管理、働く環境=場の設計、モバイルデバイスを活用した現場の業務改革などの従来からのワークスタイル変革における導入支援から、企業の経営戦略や事業方針の見直し、求める人材像などの整理、再定義する人事戦略コンサルティング、また、業務の自動化のための業務要件の洗い出しやRPA製品の選定、自動化のためのシステム開発支援など多岐に渡る。

一言で「働き方改革」といっても、取り組む“きっかけ”や置かれている状況、企業にとっての向かうべき方向は異なる。重要なのは、将来において企業がどうなっているべきか「ゴール」から逆算して考えること。また“思い込み”をリセットし、フラットな状態で、どんなことができれば競争力が高まるのかを考えること。そこに、企業が生き残るための将来がかかっている。

 

IBM Alert Notification
スタッフがすべての重大な IT アラートの通知を受け取ることができます
無料評価版はこちら