T
THINK Business

気候変動リスク業界動向とIBMソリューション

post_thumb

鍋島 四郎

鍋島 四郎
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業
金融サービス事業部
リスク管理&コンプライアンス パートナー

銀行証券業界向けのリスク管理とコンプライアンス領域のコンサルティングからシステム導入までのサービス提供に従事。銀行の自己資本比率や流動性比率などに関する国際統一基準であるバーゼル規制の信用・流動性リスクの計測、実効的なリスクデータ集計とリスク報告に関する諸原則(BCBS239データ諸原則)対応のリスク管理領域、また、アンチマネーロンダリング(AML)に関するコンプライアンス、ガバナンス・リスク・コンプライアンス(GRC)を中心としたコンプライアンス領域についてのサービスを提供している。

気候がもたらすビジネスへの影響は近年重要視され、気候関連財務情報開示タスクフォース(以下、TCFD)は企業に対し、財務に影響のある気候関連情報、いわゆる「気候変動リスク」の開示を求める提言をおこなった。

金融業界においても、その対応についての関心は高まっている。株主総会で質疑が交わされ始めていることに鑑みると、今後、経営層が意識すべき主要テーマであることは明白であろう。本稿では、提言で求められている開示要件の詳細とその解決策について解説する。

金融機関の内部リスク管理に求められる気候変動リスクの分析

金融安定理事会(以下、FSB)の作業部会であるTCFDが2017年に公表した国際的な提言は、各企業に気候関連のリスクや(収益)機会の財務影響を分析して開示することを求めている。気候変動がビジネスや金融システムに与える影響は、FSBがTCFDを設立した経緯やバーゼル委員会が公表したサーベイ(※1)からもわかる通り、国際的に広く認識され始めているのだ。

日本は現時点において、この提言に賛同する企業や団体が世界で最も多い。また、投資家からの注目度の高さも、2020年の株主総会にて「TCFDに対する企業のスタンス」に係る質疑が出された金融機関があったことなどから、伺うことができる。

従来の金融機関の内部リスク管理は、取引先の信用リスク計量化によるリスク・リターン分析が主流であったが、今後は気候変動リスクも分析する必要が生じると推察する。国際的な対応状況は、特に英国・EU地域がTCFD提言に対する当局意欲の高さもあって先行しており、すでに気候変動リスク分析に関してより包括的で、粒度の細かい分析を行う金融機関も存在する。

(※1)「Climate-related financial risks: a survey on current initiatives (PDF, 488KB, 英語, IBM外のWebサイトへ)」(2020年4月30日)

気候変動リスクの影響を把握するために必要なもの

TCFDの開示要件は「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4項目で構成されており、各企業は自社の取組みを開示することとなる。開示の過程にて、各企業は気候変動に係る自社の「物理的リスク」「移行リスク」について将来シナリオを定義した上、リスクの影響把握を求められる。

このリスクの影響を把握するためにはシミュレーションが必要となり、「物理的リスク」では気候変動に伴う急性的な自然災害の影響、「移行リスク」では脱炭素社会に移行する中での産業構造や市場変化による影響の分析などが想定される。

TCFDは“全企業”に気候シナリオ*1を用いて気候関連リスク・機会を評価し、財務影響を把握・開示するよう求めている

出典:2017年の「TCFDによる提言(最終版)」をもとにIBMが作成

たとえば銀行業では、炭素関連資産の信用リスクや貸出におけるリスクへの影響を検討することが重要とされている。そのため、金融機関によっては、自社自身の資産評価とともに、自社取引先の資産評価が必要となるだろう。

さらに、このシミュレーションを実施する上で最も重要なのが「データ」であり、利用が想定されるデータは以下の4つである。

1:政府提供データ(気候モデルデータ/CMIP(※2)など)
2:パブリック公開データ(洪水予測、炭素価格など)
3:第三者販売データ(資産ロケーションデータ、サプライチェーンデータ)
4:自社データ

これら1、2、3の外部提供データを4の自社データと組み合せたストレスシナリオ分析を実施することで、より定量的な説明力ある分析が可能となるのだ。

(※2)Coupled Model Inter-comparison Project/結合モデル相互比較計画。モデルごとに異なる予測結果を相互に比較することで、予測の不確実性を把握する国際的な取り組みのこと

・明細の確認が可能で、一貫性・信頼性のあるデータを算出するためには、顧客の取引を含めた幅広い組織と協同したデータの収集が必要・クラウド環境にてシステムを導入し、取引先企業にシステム利用サービスを提供することにより手数料収益・顧客データを得るプラットフォーム事業のような仕組みを検討などが課題

出典:IBM

IBMはThe Climate Service社(以下、TCS社)とパートナーシップ契約を取り交わし、気候変動リスクに対応したソリューション「Climanomics」を米国、英国を中心に展開し始めている。このTCS社のソリューションは、2020年7月のForrester社のレポートにて最高レベルの「Leaders」として評価されている。今後は、日本の企業に対しても気候変動リスク対応ソリューションとして「Climanomics」を展開する計画だ。関心のある企業におかれては、まずは実証検証を通じた自社での利活用性評価をお勧めする。

・The Climate Service社(TCS)の「Climanomics」はSoftware as a Sercice (SaaS)提供されるリスク分析プラットフォーム・計量経済学に基づくビッグデータを保持、顧客データと併せて提供が可能

出典:IBM

email-img

各業界のデジタル変革事例や経営者のインタビューなど、『THINK Business』の最新記事をピックアップし、毎月のニュースレターでお知らせいたします。