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コストの山から宝の山へ、IBMによるコンタクトセンター変革

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池田 大次郎

池田 大次郎
日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・ビジネス・サービス事業本部
インダストリアル・サービス事業部 マネージング・コンサルタント


日本アイ・ビー・エムにてSEおよびプロジェクトマネージャーとして、数々のITプロジェクトをリード。その後、主に製造業、特に、自動車業界向けのコンサルタントとして、数々の自動車メーカーの業務・システム改革を支援し、現在に至る。近年は、国内複数の製造業様のサプライチェーン領域、アフターセールス領域で業務・システム変革を支援。

 

富高 恵津子

富高 恵津子
日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・ビジネス・サービス事業本部 Bluewolf事業部 ジャパン・リーダー 理事/パートナー


国内大手IT企業において様々な分野のマネジメントを経験。特にクラウド領域においてはシステムサポート、アウトソーシングの経験を活かし基盤ビジネスを牽引。Salesforceビジネスでは、戦略アライアンス、事業部の立場から主に製造業、流通業のお客様のビジネス革新を実現。2019年より日本アイ・ビー・エムのBluewolf プラクティスのリーダーとして、IBM Watsonや同社の持つ業務知識を駆使しお客様へ卓越した顧客体験を提供。

 

三上 幸司

三上 幸司
日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・ビジネス・サービス事業本部 Watson AI & Analytics, Business Innovation Consulting シニア・マネージング・コンサルタント


AI・イノベーションコンサルタントとしてIBM Watsonプロジェクトのリードや研修講師経験多数。IBM Watsonでイノベーションを創出するIBMアイデアソンプログラムや、大企業の文化(DNA)をイノベーション体質に変革するためのイノベーションコンサルティングプログラムを開発。専門領域はコールセンターBPRやCRM。ソーシャルイノベーションに取り組むNPO法人ダイバーシティワールドの理事長兼グラミン日本CIOも務める。

 

2019年9月25〜26日にかけて、ザ・プリンスパークタワー東京および東京プリンスホテルにて「Salesforce World Tour Tokyo」が開催された。Salesforceを用いて新たなビジネス創造とイノベーションに取り組む日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)も、同イベントに参加。初日となる9月25日には「IBMのSalesforce製造業インダストリーソリューション」をテーマにシアターセッションを、翌26日には「世界最大規模IBM Watsonのコンタクトセンター舞台裏を一挙公開!」と題してランチセッションを実施。また展示エリアにも2つのブースが設置され、「インダストリー特化型ソリューション」のデモ動画や「Bluewolf(Salesforce導入支援専門のIBMのチーム)」によるSalesforceコンサルティングサービスも紹介された。

本記事では、それらセッションおよびブースのレポートを通じ、自身もユーザーとしてコンタクトセンター変革を進めるIBMのSalesforceを用いたソリューションを紹介。その変革がもたらすコンタクトセンターの重要性とデータドリブン経営などの事業展開を紹介する。

 

IBMのSalesforceビジネスが提供する“3つの強み”

「IBMのSalesforce製造業インダストリーソリューション」をテーマにした25日のシアターセッション前半に登壇したのは、IBM グローバル・ビジネス・サービス事業本部 インダストリアル・サービス事業部 マネージング・コンサルタントの池田大次郎氏。IBMのSalesforceビジネスの強みについて以下の3つにまとめている。

(1)企業変革の構想策定から構築・運用まで、トータルでお客様を支援できる

(2)Salesforce初のビジネスパートナーであるBluewolfにおいて、蓄積された知見、運用サービス・ツールなどを提供できる

(3)Salesforceと戦略的なパートナーシップを締結したことで、さらにお客様に密着した価値を提供できる

 

「IBMがSalesforceを用いたソリューションを展開していく上で重要なファクターとなるBluewolfは、『世界最大のSalesforce専門家集団』です。19年の歴史の中で、グローバルへの展開をはじめとした1万件以上の成功事例を蓄積しており、その結果、高い顧客満足度を獲得しています」(池田氏)

また池田氏は、Salesforceとの戦略的なパートナーシップについてもふれた。

「パートナーシップにより、さらにお客様に密着した価値提供が可能になりました。たとえば、IBM WatsonとSalesforce Einstein(Salesforceが提供するAI)の連携や、IBMのグループ企業であるThe Weather Companyが所有する気象データのAI活用が可能となっています」(池田氏)

 

製造業で起こる“複雑な課題”を、一気通貫で解決するサービス

セッション後半には、メインテーマである「IBMが提唱するインダストリー特化型ソリューション」の紹介がされた。

提案されたのは「製造業の“止まらないサービス”システムソリューション」。製造業では問題発生(製品の故障など)から解決までのプロセスにおいて、現場・管理部門の数々の業務やお客様との契約情報などが複雑に絡み合う。また、その過程において製造業ならではの現場の課題も同居する。そこで、IBMとSalesforceが協働し、「問題発生〜解決までのプロセスを一元管理する」「各業務を支援・強化する」「顧客管理を行う」という3つのシステムを組み合わせることで、一連の流れをよりスピーディかつスムーズに実行し、まさに“止まらないサービス”を実現できるという。その具体的な流れを、池田氏は以下の通りまとめた。

(1)メールまたは電話にて、故障連絡がコンタクトセンターに通知される

(2)コンタクトセンターは、製品情報や稼働状況などに基づいて、多面的に故障診断を実施

(3)AIによって推奨された候補を基に、対応策を決定

(4)作業が必要になった場合には、Salesforce Field Service Lightningを活用し、作業者とスケジュール調整の上、作業指示を行う

(5)手順書と実際の現場での故障状況が異なることがよくあるが、その場合はARを活用したリモート支援を実施。これにより、作業を効率的に完了させられる

(6)Salesforce Field Service Lightningにて実際の作業完了レポートの作成および署名を行い、請求作業へスムーズに移行

 

会場ではこれら一連の流れが実際のデモ映像として投影された。特に注目を集めたのは、現場作業補助ソリューションとして紹介されたAR「ピア・ガイド」の映像(下記動画1:37〜)だ。その映像によると、手順書と実際の現場での故障状況が異なる場合は、作業員がその現場を動画で撮影することで、その動画をリモートで待機しているエキスパートが確認し、あらためて作業指示をARコンテンツで作成・再指示できるような仕組みになっていた。ARコンテンツであれば、実際の現場状況に対して具体的な作業指示が紐づけられるため、現場の作業員も適切な整備を実施できるというわけだ。

 

IBM製造業向けSalesforceインダストリーソリューション

IBM製造業向けSalesforceインダストリーソリューション

 

このソリューションによって、まだ経験の浅い作業員でも現場の対応がスムーズに行えるようになり、認識の齟齬もカバーできる。さらに一連の流れで使われた動画・ARコンテンツや作業履歴は、データとして蓄積され活用されることで、さらなる業務の効率化にもつなげられるという。

シアターセッション終了後、展示エリアのIBMブースは多くの来場客でにぎわいを見せ、インダストリー特化型ソリューションに関する相談や質問が寄せられていた。ブースではその他にも、金融、公共分野におけるインダストリー特化型ソリューションが紹介された。また、相談者の個別状況に応じた説明や提案もなされ、当ソリューションが今後さらに盛り上がることを予感させるものだった。

 

素早い対応から“先読み・推測”へ、AI活用によるコンタクトセンター変革の推移

イベント2日目となる26日には、「世界最大規模IBM Watsonのコンタクトセンター舞台裏を一挙公開!」と題してランチセッションが行われ、IBM グローバル・ビジネス・サービス事業本部 Bluewolf事業部ジャパン・リーダー 理事/パートナー 富高恵津子氏、IBM グローバル・ビジネス・サービス事業本部 Watson AI & Analytics, Business Innovation Consulting シニア・マネージング・コンサルタント 三上幸司氏の2名が登壇。

まず、富高氏がコンタクトセンターのトレンドを踏まえた上で、IBMにおけるSalesforceを活用したコンタクトセンター変革の取り組みについて語った。

「コンタクトセンターはモノやサービスなどの購入後における『コンタクトマネジメント』から始まり、次に顧客に対していかに素早く効率的に対応できるかという観点で『エクスペリエンスマネジメント』が求められていたが、近年では社会の急速な変化によって新たなマネジメントが求められるようになりました」(富高氏)

ソーシャルメディアの普及に伴い、あらゆるチャネルで顧客とつながる時代となったことから「リレーションシップマネジメント」の重要性が増し、どのチャネルで顧客と接する時も高品質の対応が求められるようになったという。さらに今は、お客様に選ばれるため、お客様と長いリレーションシップを構築するために、AIを活用した“先読み・推測”による顧客満足度向上が求められる「ライフサイクルマネジメント」のフェーズに突入していると言われる。

 

お客様とサポートチーム双方から期待されたIBMのコンタクトセンター変革

「IBMはその企業規模の大きさゆえに、組織や製品・サービスが非常に複雑化していました。組織の数は18あり、One IBMとしてお客様と接していましたが、IBMのサポートチームは多くの問題点を認識していました。その結果、『コンタクトセンターを変革しなければならない』という意識が芽生えていったのです」(富高氏)

特に大きな問題は「システムが多過ぎる」ことだった。実際には286ものシステムを駆使しながらお客様に対応していた。そのような状況では、過去のお客様とのやり取りの履歴も見つけづらく、また複雑化してきているお客様からの質問に対しても適切な回答ができないなどの問題が引き起こされてしまう。そこで変革の第一歩として行われたのは、IBMのサポートとしてあるべき姿を定義することだった。それについて、富高氏は以下の4つにまとめている。

(1)オムニチャネル連携

(2)データに基づいた知見

(3)ナレッジ活用

(4)コグニティブ活用

 

富高氏が「最も重視した」と話すのは、コグニティブ活用だ。コグニティブとはIBMが提唱する概念で、自らが理解・推論・学習するシステムを指す。このコグニティブ・コンピューティング・システムが、コンタクトセンター変革においても求められるという。なお、その中心に“お客様”を常に意識し続けるべきであることは、言うまでもない。

「コンタクトセンターの最も大切なことは『お客様の満足度向上』と『お客様との長いリレーションシップの構築』です。2019年度からはSalesforceをベースにお客様のフィードバックに基づく“エクスペリエンスの改善”に焦点をあてて、さらなる進化を進めています」(富高氏)

この変革を推し進めたことで、実際に問題解決までの時間は50%削減できたという。特に大きな成果は、対応ケースに優先度付けを行う際かかっていた時間の短縮だ。これまでは、その日に割り当てられた対応ケースを、サービスエージェントが1つ1つ読んだ上で優先度を決定するというプロセスであったため、多くの時間を要していた。それが当ソリューションにより、一人当たり45分の時間短縮に成功したという。全世界でサービスエージェントは約2万人いるため、その成果は非常に大きいと言えるだろう。

 

SalesforceとIBM Watsonの相互補完で最大限享受できるAI技術のメリット

続いて登壇した三上氏は、SalesforceとIBM Watsonを活用したアセットである「Cognitive SFDC」について語った。その話を進めていく上で、まず三上氏は“Salesforce導入におけるよくある失敗談”を取り上げた。担当者なら必ずどこかで聞いたことのあるような事例である。

(1)業務プロセスをSalesforceの標準仕様に合わせきれないままカスタマイズを重ねたことで、バージョンアップに膨大な費用がかかり、気軽に更新パッチを当てられない

(2)Salesforceには音声変換インフラ基盤がないため、FAQ作りの材料を抽出する定常的な業務負荷を軽減できない

(3)Salesforceには自然言語処理を扱えるAIがないため、顧客の声を分析しインサイトを掘り出せない

(4)Salesforceのチャットボットは一問一答型であるため複雑な質問に答えられない。またお客様自身もどのような質問を投げれば適切な回答が得られるかわからないため、Q&Aセルフサービスとして拡大できない

 

このような失敗を解決に導くのが、SalesforceとIBM Watsonの連携だ。たとえばSalesforceには音声変換の機能がないため、その部分をIBM Watsonで開発したアプリケーション「AICC for CRM AIアシスタント」の通話音声テキスト変換機能ならカバーできる。また、コンタクトセンターで登録された膨大な数のチケットに対するタグ付けも、IBM Watsonのアプリケーションが自動で行ってくれる。このように、各サービスでお互いを補い合うことで、AIテクノロジーの活用によるメリットを最大限に享受できるという。

その他にも連携の手法はある。そもそもSalesforce とIBM Watsonの連携が必要になるのは、Salesforceに該当する機能がない場合、または業務・機能要件を十分に満たせない場合となるが、その中で多い連携を三上氏は以下の5つにまとめた。

(1)自然言語検索連携:自然言語での検索ができるようになる

(2)音声テキスト変換連携:お客様・オペレーター間での会話を音声テキストに変換することができるようになる

(3)IBM Watsonチャットボット連携:IBM WatsonのAIチャットボットによって、より複雑な質問にも答えられるようになる

(4)Salesforceチャットとの連携:IBM WatsonのAIチャットボットで答えられない場合、Salesforceチャットへ切り替えられる

(5)AIダッシュボード連携:自然言語のテキスト情報からインサイトを掘り出すことができるようになる

 

この連携を具体化したソリューションが「Cognitive SFDC」であり、窓口統合による顧客利便性の向上を図るとともに、ナレッジ蓄積によるオペレーターのお問い合わせ対応範囲の拡張・スキルの平準化や、サービスエージェントとの連携強化による対応の迅速化などを実現できるという。三上氏はこれを「Salesforceをスケールアップするための“装置”である」と語った。

 

コンタクトセンターの「プロフィットセンター化」が推進するデータドリブン経営と多様な働き方

「データを持たざる会社は淘汰される」とも言われる現在。コンタクトセンターに集積される顧客の声をいかに活用しながらデータドリブンな経営を行っていくか、その変革のタイミングに今差し掛かっていると三上氏は言う。

「設備が全てクラウド上に用意される完全クラウド化の時代が訪れ、“コンタクトセンターの革命”が起こると私は考えています。特に今後は顧客の声を活用したデータドリブンな経営の時代が訪れるのは明白なので、コストセンターのイメージが強いコンタクトセンターも、プロフィットセンターとして経営上のキーファクターとなるはずです」(三上氏)

AIテクノロジーであるチャットボットをはじめとした顧客対応の自動化ももちろんだが、三上氏が語るAIによる“コンタクトセンター革命”の真髄は、まさにその顧客の声から「インサイトを発掘する」ことにあると言えよう。AIを活用すれば、人間が読みきれないデータから顧客のインサイトを掘り当てることができる。つまり、コンタクトセンターは「インサイトが眠っている宝の山」(=プロフィットセンター)なのだ。

パートナーとして挨拶に立った、Vonage Japan, Account Manager 樽井竜祐氏

コンタクトセンターのインフラとして必須となる電話回線に関しても、現在さまざまなクラウド化の実験が行われている。IBMでも、世界2大IP電話事業者と言われるNEXMOと組み、クラウドPBX(構内交換機)、クラウドCTI(電話とコンピュータの統合システム)、クラウドPDS(AIボイスボット)、クラウドIVR(AIボイスボット)など、全ての設備をクラウド上で動かすという試みを共同で行っているという。2020年には全ての機能において完全クラウド化された状態を作り出せると見込まれている。

「設備が完全クラウド化されると、コンタクトセンターは拠点を選ばなくなります。PCとヘッドセットさえあればオフィスはどこでもよいので、国内だけでなく海外に拠点を置くこともできるでしょう。もしかしたら、育児をしながらでも家庭でコンタクトセンターの業務を行うことができるかもしれません。これにより、完全クラウド化が“働き方改革”にもつながっていくわけです」(三上氏)

最後に、三上氏はここまでに紹介してきた内容を背景として、あらためて「Cognitive SFDC」がもたらす効果についてまとめながら、自身のセッションを結んだ。

「『Cognitive SFDC』によって、一連の業務プロセスをAIによって自動化しながら、お客様・オペレーター双方の満足度を向上させつつ、顧客軸でのデータ管理・顧客接点強化が実現できます。また完全クラウド化されたAIコンタクトセンターの設立でインフラコストも大きく圧縮でき、さらには在宅ワークなどの働き方改革までサポートします。今後の競争市場を生き残る上でキーファクターとなる『データドリブン経営』を実現するにあたり、最適解がここに詰まっているのです」

ランチセッションの盛り上がりをそのまま映し出すかのように、26日の展示ブースにも多くの来場客が訪れていた。特にこの日はBluewolfによるSalesforceのコンサルティングサービス紹介の動画に多くの視線が集中していた。Salesforceをさらに効果的に活用するための提案・ソリューションに注目が集まる中、Bluewolfに対する高い関心が伺い知れた。

大盛況の中で幕を閉じた今回の『Salesforce World Tour Tokyo』。IBMが手掛けるSalesforceを用いたソリューションと事業展開も多くの注目と関心を集めていた。特に26日のランチセッションにて三上氏から語られた「AIによるコンタクトセンター革命」は、顧客インサイトを掘り起こし世界のビジネスシーンで勝ち抜いていく上で、そして多様なワークスタイルにも企業として柔軟に対応していく上で、重要な提言となるであろう。急速に技術革新が進むAIテクノロジーの活用とともに、IBMが目指すビジネス変革・コンタクトセンター変革も目が離せない。