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THINK Business

AIで世の中を変えるために

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前回まででWatson APIを使い、他社のサービスや自社のサービスを接続し、小さくどのように検証していくのかを説明した。では、AIが本当に社会にインパクトを残すためにはどのように使っていけばいいのだろうか?

 

何をしたいのか分かっていない

最近、Watsonを使っている事例の話をしたことで、私の会社にも引き合いが少しづつ来ているが、だいたい最初に言われることが自社の「ビッグデータ」を「ディープラーニング(深層学習)」で解析したいという依頼だ。もう少し深掘りして聞いてみると、データの件数は数万〜数十万。特殊なデータなのかもしれないが、その程度ならExcelでも十分に回帰分析など統計学の知識だけで処理できる。また、テキストデータの分析はディープラーニングは向いていないということは、さまざまな記事や論文でも語られていることなので、素直に形態素解析や自然言語解析を行うほうがいいはずだ。

そういう基礎知識を身に着けず、従来のSIのように開発を依頼するのは、本当に自分の無知をさらしているだけなので、止めたほうがいいだろう。まずは、自社の持つデータがどういう属性をもっていて、どういうアウトプットを出したいのかをよく考えてほしい。ディープラーニングにしろ、マシンラーニングにしろ、コンピューターなのだから、インプットとアウトプットがそろってこそ、コンピューターがインサイトした結果に対して理解ができるというものだ。

仮説思考でないと答えはなかなか見つからないだろう。

 

分析だけの時代は終わった

この数年のディープラーニングやマシンラーニングなどの人工知能ブームはある意味その道の研究者が長年やってきたことの集大成だった。まずは、この計算器を使ってありとあらゆる事象を演算できると社会に思わせたことで、データがあれば分析できる、相関が見えるという自分たちのビジネスは何かが足りないと思っている人ほど、機械に頼ろうとしたのだろう。

それは占いに頼るのと似ている。学者も言っているが、ディープラーニングが出す答えは、なぜそれがそのように導き出されたのかがまだわからないそうだ。ブラックボックス化されたプロセスが答えを導き出して、それがなんとなく当たっていそうと思わせることを「認知バイアス」と言う。

ニューラルネットワークという人間の脳のシナプスを模した回路設計というエポックメイキングな説明が、人間の脳を作り出したのかのように誤認されたのだ。そのため、人は先入観からバイアスが掛かり「なるほどね!」などと思ってしまう。これを証明するためには、証明のための証明が必要で「悪魔の証明」のようになるから、実は誰も正しく証明できていない。

しかし、ディープラーニング等によって、飛躍的に高められた認識技術は社会に大きな貢献をしている。つまり、すでに研究/分析をする時間から、社会にデプロイするための時間に大きくシフトしていくことを示唆している。

これを社会実装と言う。

社会実装とは、製品単体を世の中に出すというわけではなく、大きな枠組みとして社会に対してソリューションを提供するところまでを指す。古くは電力会社が電力を供給したり、自動車が人を遠くに運ぶ事ができるようになる、大型コンピュータが銀行の締め処理を行うなど、昔からモノとコトは互いが一つのセットとして提供されてきた。

この大きな枠組みを社会実装という。

 

社会に実装することの重要性

では、なぜソリューションとセットでなければ意味がないのだろうか? それは、道具とは人や環境に使われてなんぼ、だからだ。使われない道具はただのゴミと同じであって、社会という器の中で活躍できないものはガラクタと言ってもいい。つまり、生のデータをクラウドや専用サーバーにアップして計算した結果を見ても、その結果から次に何を生み出すのかを考え、社会に還元していかなければ、その計算は社長やマーケティング部門の部門長の自己満足、はたまた科学者の論文を書くための成果の一つでしかない。

そこから、一つの答えを導き出す必要がある。つまり、ビジネスや社会に応用ができるシンプルな真理「アルゴリズム」を生み出す必要があるのだ。それは、毎度毎度出来てくる膨大なデータを都度都度クラウドなどにアップして計算した結果を戻していたのでは、時間がかかって仕方がない。それはただの研究だ。

そこから、社会に実装するためにはアルゴリズム化して、エッジコンピューティング、つまりオフラインでも使えるぐらいの状態に持っていく必要がある。米AppleのiPhone Xでもディープラーニングの技術が実装されたが、それはカメラから上がってくるARデータなどを高速にスマートフォン上のアプリやOSが処理できるようにしたかったからだ。また、最近話題の人工知能系ベンチャーでもエッジコンピューティングによるリアルタイム解析は必要不可欠な技術になってきており、社会に実装するということは真理であるアルゴリズムを見つけることが第一条件になる。

AlphaZeroを生み出した、米DeepMindも囲碁で勝利するために、3つの数式に落とし込んだという。このように、シンプルな答えを素早く見つけ、どこの領域にこの技術を適用させていくのかを考えるのが重要だ。

 

今後の人工知能が本当に活用される分野はどこか

これは私の勝手な推測になるが、ディープラーニングがもたらした自動運転は自動車の世界では使われない気がしている。それは社会のルールが自動運転用にまだなっていないし、運転している人がすべて人間ではなくならない限り、自動運転のメリットは享受出来ないと思われるからだ。煽り運転されたら回避してくれるのだろうか?

こういう新しい分野は新しい分野と掛け合わせるか、留まった場所で活用されるかだと思う。

一つは、ドローンの自動操縦だろう。画像認識技術が非常に向上したことで、人を認識できるようになった。先日もニュースに上がったように、溺れた人を助けるドローンが登場した。しかし、人の手で運転している。通報から発信し、救命具の提供と人が助けるまでの間の時間稼ぎをすべて、オートでやれるようになれば、人の生命はもっと救われるだろう。動く障害物が存在しない空ならばとても活躍できると思う。同様に、山岳救助でも既にラジコンヘリコプターとIoTビーコンを組合せたサービスがあるので、そこを人工知能が制御するドローンに置き換えることでうまくいくだろう。同じように、農薬散布するラジコンヘリをドローンのオートパイロットに変更するだけで、5人かかっていた所が1人に運用が減るので、コストダウンになる。

もう一つが、アグリ(農業)ビジネスだ。従来は、人の目と感触などを使い確認していた勘と経験の世界がIoTと機械学習の組み合せで、オートで栽培することができるようになるだろう。こうすることで、機械が人の働く時間をどんどんと奪っていく。同様に、メロン農家が除草剤を巻かれたという悲しい事件も、警備ロボットが高度な目を手に入れることで解決できる問題だ。
 
すでにお気づきだと思うが、AIの社会実装とはすなわち、「人間を超えた装置が仕事を行ってくれることで、人が人らしく生きるための尊厳を取り戻すこと」だ。世の中をより便利にするために技術は存在しているのであって、分析して満足しているのはまだ始まりに過ぎない。

インサイトする時間はもう終わりで、次はあなたのプランを世の中にデプロイしていく時間だ。

それをスモールデータを使って容易に実装できるのが、繰り返しお話してきたIBM Watsonだと私は思っている。

 

人工知能という魔法

落合陽一という「現代の魔法使い」と呼ばれる科学者がいるが、実際に高度に発展した科学は魔法のそれと見分けがつかないとはよく言われる。映画スター・ウォーズのフォースの真似事は自動扉の前で簡単にできてしまう。

これは冗談だが、時計と会話すれば相手と会話ができるし、ガラスの石版から情報が得られる。声だけで音楽を奏でることもできる。どれも、人工知能がその役割を果たしてくれたおかげで、今がある。

これはまるで魔法のようだ。おとぎ話の魔法のようには、なかなかならないが、それも最近ARという技術やホログラムで実現しそうだ。言葉を自律的に話すロボットもできたし、中世の錬金術師が目指したその世界は、600年以上経ってようやく社会に実装できそうだ。

長い年月を経て私たちは、その技術という魔法を享受してきた。そして、Watsonを含めた人工知能という魔法は、社会に技術を還元するためにあるのだ。

ここまで長々と話してきたが、つまり、人工知能というものはすべての基盤となりうるのではないか、そのための始まりがWatsonになるのかもしれない。それは、とても簡単にAIが作れるAPIが提供され、きっとIBM Cloudライト・アカウントによって小さな科学者達がさまざまな開発をしてくれているだろう。これが10年20年と積み重なってくれば、もっともっと社会を豊かにするようなサービスが生まれてくることだろう。

大人も子供も関係なく、AIのAPIプラットフォームを使って行くことで、社会に還元していくことこそが、社会実装なのだ。

新しい時代のAIArtificial Intelligence(人工知能)からAugmented Intelligence(拡張知能)へとなっていくだろう。さらに、Embedded Intelligenceへも進化していくだろう。人に付与されるか、人に埋め込まれるかでまた変わっていく。人の進化とは肉体の強化もさることながら、外脳という形で新たな知性を得ることも一つの形だ。私はこの拡張する知性と言うものこそが、今後の社会への実装の形となると信じている。

 

川合 雅寛

川合 雅寛
クロスリバ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO

1980年2月生まれ、山形県出身。上京後、日立製作所にて電子政府構築、郵政民営化などに携わる。その後、ソフトバンクにて大企業向けのiPhoneを中心としたスマートフォン/G Suiteを中心としたSaaSのセールスエンジニアとして全国を飛び回り、会社のあり方を変えるクラウドを提案する活動に従事。2014年34歳のときに物語(ストーリー)を分析するクリエイティブ業界向けのソリューションを提供するクロスリバ株式会社を起業。

 

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