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SMBCモビットのデジタル変革の狙いとクラウドネイティブによる新基盤が顧客サービスにもたらす価値

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「来店不要のWeb完結サービス」や「スマホアプリのログインへの生体認証の導入」など、常に業界に先駆けて新たな顧客体験の創造に挑んできたノンバンクカードローン大手の株式会社SMBCモビット(以下、SMBCモビット)様。同社は多様化する顧客チャネルやカードレス/キャッシュレスへの対応などをさらに強化すべく、最新のクラウドネイティブ技術を活用して顧客チャネル用システム基盤(インターネット基盤)を大きく刷新しようとしています。その背景と狙い、デジタル変革への取り組みなどについて、同社 代表取締役社長の中辻󠄀 信之様にお話しいただきました。

中辻󠄀 信之

中辻󠄀 信之
株式会社SMBCモビット 代表取締役社長

兵庫県出身。1986年京都大学経済学部卒、住友銀行(現三井住友銀行)入行。支店長、本社リテール部門の複数部署で部長職を歴任後、執行役員に就任。2016年より現職。

異業種からの参入で競争激化。ネットやアプリでお客様に寄り添うサービスが生き残りの鍵に

まず当社の経営課題についてお話しすると、中長期的には少子高齢化による国内市場の縮小、足下では異業種からの参入による競争激化が挙げられます。後者についてはニューノーマル時代に一層激しさを増してきました。現在のような混乱期が収まった後に業界の勢力図が大きく変わることは往々にしてありますので、これについては特に警戒しています。

このようなビジネス環境の中を生き残り、さらなる成長を続けていくためには、より一層お客様に寄り添ったサービスを展開し、他社との明確な差別化を図っていくことが大事だと考えています。

SMBCグループでは、今年度より「Transformation:既存ビジネスのモデル改革」「Growth:新たなビジネス領域への挑戦」「Quality:あらゆる面での質の向上」の3つを柱とする新中期経営計画をスタートしました。これに取り組む中で当社として特に力を入れているのが「お客様起点での発想とデジタライゼーションによる付加価値の創造」と「不断の自己変革」です。ニューノーマルの時代に、お客様の消費行動はこれまでと変わっていくでしょう。それにいかにスピーディーかつ柔軟に対応していけるかで、優劣が決まってくるのではないでしょうか。

当社もすでに実感しているところですが、今後は多くの方がネットやアプリなど、人と接することなくサービスが受けられるチャネルを利用するようになっていくでしょう。特に私たちのサービスはお金に関するものであり、購入したものを人に見せたり、共有したりするものではありません。そのため、プライバシーに配慮した提供形態へのニーズはより一層高まると思いますし、「どこでも、いつでも利用できる」というネットやアプリならではの利便性をより強く求められるようになるでしょう。

そうしたお客様のニーズに合わせて、当社のサービスも変化/進化させていかなければいけませんし、他社との幅広い提携も視野に入れる必要があります。すでにTポイントやLINEとの提携を始めているほか、グループ内では三井住友カードと連携し、クレジット一体型サービスを開始しています。ビジネスのスピードがますます加速している今日、業界を問わずサービス向上につながる提携を迅速に実現していくことが、お客様の行動の変化やニーズに応えることにつながるのです。

“モバイル×デジタル”の創業精神をデジタル変革として実践

私はここ数年、「今後どのようにビジネスをやっていくべきか、お客様との接点をどう変えていくべきか」をずっと考えてきました。当社の社名であるモビットは、Mobileの「Mo」とデジタルの基本単位である「Bit」の造語です。2000年の創業時はガラケーが全盛であり、iモードが始まったばかりという時代です。そんな状況の中で「これからはモバイルとデジタルを主軸にしてやっていく」と先進的な方向性を打ち出してきたのです。

中辻 信之

その一方で、お客様との接点としてネットへの集中に踏み切れていなかった面もありました。それを現在はデジタル変革(DX)として進めているのですが、経営資源には限りがありますし、DXを進めていくためには社内のコンセンサスが必要です。

当社は以前、リアルチャネルとして約400店舗を展開していましたが、前中期経営計画(2017〜2019年度)の中で全廃し、現在は三井住友銀行のリアルチャネルを共同利用させていただいています。それによって捻出したリソースを、これからの主戦場と定めたネットと、その効果を極大化するためのコールセンターにおけるワークフロー自動化に注ぎ込んでいます。

コールセンターのワークフロー自動化は2年程前から進めていますが、与信審査についても、これまで人が行っていた業務の大部分を自動化しました。これらの仕事を担当していた人たちからすれば、自分の仕事がITや機械に置き換わるのは、技術的な進歩で仕方がないことではあっても最初から素直に受け入れられるものではありません。これまでプライドを持って仕事をしてきたわけですし、そのために自己研鑽も重ねてきたのですから当然です。

そこで、当社が何のためにDXを進めるのかについて、社内でしっかりとした共通認識を作りました。それは、DXは人員削減のためにやるのではなく、会社の持続的な成長のため、お客様を増やしていくためにやるのだということです。今後はお客様の数に比例して社員やオペレーターを増やしていける時代ではありません。したがって、自分たちがより多くのお客様に、より良いサービスを提供していくためには、DXによるIT化、自動化が絶対に必要なんだということを皆で共有しました。

こうした取り組みの結果、同じ人数でより多くの件数を処理できるようになり、今では現場の人たちも「このシステムなしでは仕事を回せない」と言ってくれています。DXの効果を実感してもらえたので、「次はこういう具合に適用範囲を広げていこう」といった話もスムーズに進むようになりました。

DX推進で最も重要なのはビジネスの将来ビジョン

今後も新たな技術が次々に登場してくるでしょうが、DXを進めるうえで最も大事なのは、自分たちが将来どのようなビジネスを展開していくのかという“ビジョン”です。他社との提携についても、「そんなものは必要ない、自分たちでやればいいじゃないか」と考える人が社内にいたら、連携のためのシステム作りもスムーズに進みません。「自分たちはこういう方向性に進むんだ」ということを社内の共通認識として持ち、そのために必要な技術は何かを皆で考えるのです。自分たちだけで考えるのが難しいときには、頼りになるパートナーに相談に乗ってもらいます。

また、優れた技術を導入できたとしても、それを当社が独占的に使うことはできません。良い技術は必ず他社も使います。当社が先んじても技術面では必ず追いつかれてしまうので、どう付加価値を作って差別化していくかが肝心だという共通認識を持つこともDXでは大切です。

風通し良い議論で現場からDXによる業務改善の提案も

DXの推進では、現場部門とIT部門の協力が不可欠ですが、これに関してはとにかく「コミュニケーションをしっかりとっていこう」と言っています。風通し良く議論し、IT部門も含めて皆で考えながら進めることで、現場の仕事のやり方は大きく変わりました。

例えば、コールセンターというと広い部屋にヘッドセットを付けたオペレーターがズラリと並んでお客様に応対しているというイメージを持たれると思いますが、DXはそれを一変させる力があります。実際、「お客様がオペレーターを介さず、Webやアプリで、ご自身で要件を済ませられる“静かなコールセンター”を作ることはできないか?」といった発想が現場から上がってきています。

今はまだ理想とする段階にまでたどり着けていませんが、お客様へのサービスを高めながら、同時に業務の効率化も進められるという手応えを感じています。

また、この取り組みを進めていくうえで大事なのは、IT部門だけでなく、現場も含めて自分たちが使う技術やシステムへの理解を深めることです。せっかく良いシステムを作っても、使いこなせなければサービスや業務でシステムを生かせませんし、一度のリリースで完璧なものができることは絶対にありません。実際に使ってみることで「もっとこうしたほうがよい」といった意見が出てくるのです。したがって、使っている技術やシステムのことまで理解して改善を提案できる社員が必要です。

現場とIT部門の人的交流も活発に

いったんIT部門に配属されたらずっとIT畑を歩むというケースは多いと思います。そのほうが組織を安定させやすいので会社としては安心です。しかし、ITのことしか知らないのでは、現場でどう業務を回しているのか、現場は何を考え、何で困っているのかといったことがわからなくなってしまうため、できるだけ交流を促進するように気をつけています。

例えば、大きなシステムを作るときには社内全体でワーキンググループを立ち上げ、そこにIT部門、現場、本社の関係部門からメンバーを集め、その中で話し合って作ります。これを通じて、IT部門は現場のことを、また現場はシステムを作り上げるIT部門の苦労をわかるようにしたいと思っています。

中辻 信之

現場とIT部門の間の異動も行っています。IT部門から現場へ初めて移ると、最初は業務に慣れていないので苦労します。しかし、ITに精通しているため、やがて「この業務はこうシステム化したら楽になるんじゃないか?」といったことを提案してくれるようになります。現場からは「ずっと当たり前だと思っていたやり方が、別の切り口で見ることによってこんなに変えられるんだと驚いた」といった声が上がっています。

当社システムと業務に深い知識を持ち、自らも自己変革に挑み続けるIBMをパートナーに

IBMには創業以来、基幹系をはじめ数多くのシステムの構築/運用をご支援いただいてきました。

今回のインターネット基盤の更改でも、IBMの提案により最新のコンテナ技術(Red Hat OpenShift)を採用することで、これまでに蓄積した資産を将来にわたって有効に活用しながら、他社との提携や新サービスの提供を迅速に実現していくための基盤が整えられます。

私たちがIBMをパートナーとして選び続けている理由は、当社のシステムと業務に関して深い知識と経験を持ち、高い技術力に裏付けられた高品質なシステム開発と安定したシステム運用を行っていただいているのに加えて、IBM自身も常に変革に挑み続け、グローバルなネットワークを駆使しながら、最新の情報や技術をご提供いただけるからです。これは他のベンダーにはないIBMならではの強みだと感じています。

例えば、IBMには毎年、最新の技術動向について社内でレクチャーしていただいています。このレクチャーにはIT部門のほか、現場や本社の全幹部が参加しており、システムに関する知識をアップデートする良い機会になっています。私たち単独では知り得ない業界事情や他社動向まで含めてご紹介いただくことで、当社が全社的にDXを推進していくための基礎作りにもなっています。

こうした取り組みの効果は私自身も感じています。例えば、システムの案件が経営会議や取締役会に上がってくると、IT担当役員以外にはよくわからないのでお任せになりがちです。しかし、当社では現場担当を含めいろいろな役員から質問が飛び出します。これはIBMのレクチャーで基本知識が付き、さらに関心を持って自分でも調べるようになったからでしょう。私が「こういうことだよ」と話すと、「社長、最近のシステムでは違うみたいですよ」とIT担当以外の役員から教えられることも増えてきました(笑)

クラウドネイティブによる新インターネット基盤で新たな顧客価値の創造を

インターネット基盤更改のきっかけは、アプリケーションで利用していたフレームワークの老朽化ですが、実を言うと更改なしでもやり過ごすことは可能でした。しかし、ネットを当社の今後の主戦場に据え、そこでどうビジネスを展開していくかを考えたとき、やはり今、システムを刷新しておくべきだと判断しました。これまで以上に機動的にお客様にサービスを提供し、他社との柔軟な連携を実現していけるシステム基盤が不可欠だからです。

当社にとっては相当な投資ですが、システムはお客様との極めて重要な接点であり、フレームワークの更改にとどまらず、基盤やアプリケーションの高度化、セキュリティー強化を図ることに決めました。更改は新型コロナウイルスの感染拡大以前に決めましたが、コロナ禍の現在でも同じ決断をしたと思います。

新インターネット基盤のサービスインは2021年1月を予定しています。この基盤により、ユーザー・インターフェースの改善、既存システムとの連携インターフェースの共通化(API化)、強固な認証基盤による他社システムとの連携などが実現できるようになります。

新インターネット基盤の概要

今後も、新たなテクノロジーを活用することで、これまでにないお客様体験の創造にチャレンジしていきます。そのためには、IBMのグローバルな知見やソリューションが不可欠であり、今後も当社のパートナーとしてより一層のご支援を期待しています。IBMと組むことで、他社に先駆けてこれまでにないサービスやお客様体験を創り出していけると信じており、引き続き共に歩んでいきたいと思っています。

中辻 信之