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「可視化」が導く次世代のサプライチェーン――今対応するべきパラダイムシフトとは

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IBM志田 プロフィール写真

志田 光洋
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
IoT&ビジネストランスフォーメーション
アソシエイト・パートナー

コンサルタントとしてキャリアをスタート。20年近くに渡り、製造・流通業のSCM/ロジスティクスにおける変革を、構想策定から変革実行・システム導入まで多数推進。現在、サプライチェーン領域のコンサルティングの責任者を務めている。

 

IBM新嶋 プロフィール写真

新嶋 若菜
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
シニア・マネージング・コンサルタント

コンサルタントとしてキャリアをスタート。15年近くに渡り、製造業のSCM変革、AIやIoTなど活用したDX変革の戦略企画・構想策定を多数推進。現在、サプライチェーン戦略のマネージャを務めている。

2020年に世界を襲ったパンデミックは、人やモノの動きに大きな制限を与えた。そうした変化の中で、生活者の行動変容や物流の状況に柔軟に対応するべく、サプライチェーンの見直しの重要性があらためて確認された。求められるのは、デジタル化および自動化の拡大によるエンドツーエンドの連携と、サプライチェーン全体の可視化だ。日本IBMは、AIなどの技術を用いた次世代の自動化として「インテリジェント・ワークフロー」を提唱し、この課題の解決をサポートしている。

サプライチェーン領域の自動化のメリットと具体的な実践方法について、また、今後重要となるSDGsへの対応について、日本IBMのIサプライチェーン・トランスフォーメーションリーダーの志田光洋、サプライチェーン戦略担当の新嶋若菜が解説する。

この1年で浮き彫りになったサプライチェーンの課題

IBM志田 IBM新嶋 インタビューカット

——2020年から続いている世界的な変化により、自動化や効率化の機運がさらに高まっていると感じます。サプライチェーンの視点から見た日本企業の現状はどうでしょうか。

志田 IBMが2020年に実施した、新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下、新型コロナウイルス)の影響に関するグローバルレベルの調査によると、一連の流れにより変化した生活者のニーズへの対応に課題を感じるという企業は93%にのぼりました。

特にサプライチェーンは、人とモノの動きが制限される状況において影響が大きかった領域の一つです。そんな状況の中で、EC需要の増加などによりこれまで以上の輸送量が求められるケースも増えています。各社は新たな物流パートナーとの提携や、これまで以上のサービスレベルが求められ、対応に追われています。

また、近年消費者のフェアトレードに対する関心の高まりもあり、原材料を生産する農家や工場が不当な対応を受けていた場合、最終的にメーカーがバッシングを受けることになります。

こうしたことから、これからのサプライチェーンを考えるに当たり、エンドツーエンドで透明性を高め、状況に合わせて即座に意思決定をして動く必要性があらためて認識されたという段階にあると思います。

新嶋 フェアトレードなどを含むサステイナビリティについては、近年のSDGsやESG経営の浸透などにより、現在パラダイムシフトの段階にあると思います。1社ではなく、企業や業界の垣根を超えて対応する必要があります。そしてスムーズな企業間連携には、やはりデジタル化が不可欠です。こうした変化へ乗り遅れないために、デジタル化の必要性について危機感を感じている企業は多いようです。

——デジタル化のお話が出ましたが、最近は「DX」がもはや流行語のようにどこでも聞かれるようになっています。以前から必要性については言及されていた概念かと思いますが、現在でもまだ進んでいるとは言えない状況なのでしょうか。

志田 状況に応じて即座に意思決定をするという点に関しては、特に状況把握の部分でまだまだ人海戦術で対応している企業が多いとみています。とはいえ、可視性を高めようという取組みは少しずつ始まっています。

顧客のニーズや、自然災害などの環境の変化に柔軟かつ迅速に対応するという点は課題です。さらには、「製造業のサービス化」というトレンドがあるように、モノからサービスへのシフトも進んでおり、サプライチェーンはこれまで以上に差別化を意識していく必要がある段階に入っています。

個々のニーズに応えるプロダクトとなると、これまで以上に詳細な仕様を実現しながら、リードタイムはこれまで通りというオペレーションが求められます。クオリティや仕様の面は、これまで熟練の人の経験とノウハウに頼っていましたが、それでは対応しきれないスピード感が必要となるため、デジタルの活用で熟練でなくても対応できる仕組みを整備することが必須となります。

新嶋 すでに多くの企業が自動化などの取組みを進めているのも事実です。しかし、自動化の範囲が業務や事業部の単位で、サイロ化した部分的なものに留まっています。また、新しいルールやプロセスの変更のたびに時間をかけた調査や、例外的な業務や調整が発生すると、人間の意思判断が必要になり結果的にデジタル化による効率化の恩恵が充分に受けられていない状況です。

次世代サプライチェーン・マネジメントの“あるべき姿”

IBM新嶋 インタビューカット

——デジタル時代で求められるサプライチェーン・マネジメントに向けて、どのような対応が必要になるでしょうか。

新嶋 理想的なサプライチェーンの条件として、市場の需要や顧客ニーズの急激な変化、不確実性・リスクへの対応力を備えていることが挙げられます。そのためには、エンドツーエンドで業務をいかに短サイクルで回すかが重要です。

人間の判断、例外業務の処理などはこれまで自動化が難しいといわれてきた分野ですが、AIやIoTといった革新的技術により自動化が可能になりつつあります。IBMではこうした次世代の自動化を「インテリジェント・ワークフロー」と呼んでいます。

「組織横断的」かつ「動的」であることに加え、「人間的判断」の自動化を実現する、IBMの「インテリジェント・ワークフロー」について、詳しくはこちらをご覧ください。

——サプライチェーン・マネジメントにインテリジェント・ワークフローの考え方を取り入れることについて、詳しく教えてください。

志田 サプライチェーンとは文字通り、製品の原材料の調達から、製造、在庫管理、配送、販売、消費までの各工程を、一連の流れとしてつなぐという意味ですが、特に日本の企業はそこを人がつないでいるケースがまだまだ多く見られます。製造・保全の保全計画調整、サプライチェーン計画の生産計画調整など、人が調整している工程については、自動化によるメリットが期待されるところです。

——実際にそうした対応を行ったことでメリットが生まれた事例は、どんなものがあるのでしょうか。

新嶋 受発注実行業務でインテリジェント・ワークフローを導入した電子部品の製造業のお客様事例をご紹介しましょう。

このお客様は1日数万件の繰上げ納期処理の依頼に、人が直接対応していました。在庫やリードタイムの確認から、優先顧客などの判定を行いつつ納期調整をする業務で、経験と知識が求められるためベテラン社員が対応していました。

ここにインテリジェント・ワークフローの考え方を用い、現時点での在庫、リードタイム、顧客のランク、ロット別の特徴など必要な情報全てをAIが俯瞰して判断し、納期の推奨案を出すという仕組みにしました。そして、AIの案を参考に人間が最終判断を下すという形で、大幅な効率化につながりました。さらに、人間が選んだ結果をAIが学んでいくので精度はどんどん上がります。また、ベテラン社員への依存が減り、若手社員も的確な判断ができるようになるメリットもあります。

自社の現在地理解と変革の第一歩をサポートする“診断プログラム”

インテリジェント・ワークフローの実現ステップイメージ

 

——いきなり全ての工程を自動化するのは難しいように感じますが、サプライチェーンへのインテリジェント・ワークフローの適用にはどのような段階があるのでしょうか。

新嶋 IBMでは、5つのステップでインテリジェント・ワークフローを実現していくことができると考えています。

最初のステップとして、事業部ごとにツールやシステムがバラバラだったり、受発注のやりとりを人の手で管理していたりといった部分の改善から着手します。

ステップ2では、基幹業務にERPを入れてはいるものの、コア業務間で未連携の部分や例外処理といった手作業の洗い出しをします。

そしてステップ3では、ステップ2で連携させた部分をRPAに置き換えるなど単純作業の自動化を進めます。

ステップ4からは、インテリジェントの度合いが高い領域になります。RPAに加えてAIなどを組み合わせながら、意思決定、調整業務などについても自動化を進め、自社内でエンドツーエンドの業務を整流的につなげます。

最後のステップ5では、企業の枠を超えた企業間連携を自動化します。たとえばサプライヤーのPSI(生産・販売計画・在庫)情報や、顧客企業の在庫の状況、需要予測の状況などもリアルタイムでつなげます。これにより企業のコラボレーションが完全に自動化できる状態になります。

——自動化の必要性やプロセスを概念として理解できていても、実際に始めようとしたとき、どこから取組めばいいのかわからないなど、実践の部分でハードルを感じている企業も多いと思います。

新嶋 日本企業のDXにおける課題は、技術的なものよりも人にまつわる部分が大きいと考えています。経営陣の理解度やコミットが不十分というケースもあれば、逆に現場がついてこないというようなお話も聞きます。

サプライチェーン・マネジメントにおいてデジタル技術を導入することで現場のオペレーションがどう変わるのか、それが経営にどう貢献するのか、経営と現場をつなぐようなシナリオを外部の客観的な視点を入れながら描くと、現場も経営陣も納得できるのではないでしょうか。現場は、自分たちがどこをどう進めると経営のどの部分の評価につながるのかを具体的に描くことができれば腹落ちすることでしょう。ストーリーを描くことは重要です。

インテリジェント・ワークフロー シナジーマップイメージ

 

IBMでは、インテリジェント・ワークフロー実現のための「成熟度診断」というプログラムを用意しています。企業ごとに自動化が必要なポイントやメリットも異なり、それらに応じて必要なストーリーも変化します。まずは自社の現在地を正確に理解することが重要です。

——成熟度診断プログラムについて詳しく教えてください。

新嶋 IBMでは20年以上前からサプライチェーンの診断を行ってきました。インテリジェント・ワークフロー成熟度診断プログラムは、そこでのノウハウを最大限に活かしたものです。

企業の課題感やニーズにもよりますが、2日間程で実施するケースが多くなっています。サプライチェーンのプランニング、保全管理、購買など領域ごとにヒアリングをしながら成熟度のレベルを判定します。

インテリジェント・ワークフロー成熟度診断概要例

 

また、他社の事例紹介、ベストプラクティスのポイントについてもIBMのコンサルタントが説明します。自分たちの現在地がわかり、次はこのステップにいきたいという目指す到達点を定めることができます。目指す到達点と現状のギャップが今後の取組み分野となり、これを元にロードマップを描いていきます。

重要なのは、オペレーション・レベルの担当者だけでなく、各領域で判断ができる人や決裁権を持つレベルの方に参加していただくことです。インテリジェント・ワークフローはエンドツーエンドで横断的に業務を自動化していくため、組織を超えた課題認識をあぶり出すことがポイントになるからです。製造、調達、販売と、それぞれの責任者が集まって話し合うことができれば、成熟度診断プログラムの効果はさらに大きくなります。

パラダイムシフトを見据えた総合的なアップデートをIBMと共に

IBM志田 インタビューカット

——サプライチェーン・マネジメントを次のレベルに引き上げるお手伝いをするに当たって、IBMの強みはどこにあるとお考えですか。

志田 IBMの強みは技術と業務の両方から支援ができるという総合力にあります。DXでは業務に変革を起こしながらデジタル化を進めていくことになります。

業務変革において、IBMは他社の改革を進めてきただけでなく、自分たち自身の改革も進めてきました。全てを一気にデジタル化するのではなく、まだ人間がやった方が早いと判断した場合は、IBMのBPOを利用することができます。AI、IoT、ブロックチェーンなどエッジの効いた技術も有するので、幅広いニーズに応えることができます。

——各企業がデジタル化を完了し、サプライチェーンがエンドツーエンドで完全につながったとき、ビジネスはどのように変化するとお考えですか。

志田 会社をまたいでバリューチェーンが作られるので、一つの大きなサプライチェーンとして回すことができると、まずは無駄な作業を省略できます。消費財を例に取ると、現在は全員が計画情報を共有しておらず、無駄な予測が多い状況です。小売、卸、メーカーなどが計画などの情報を連携すれば、各社の個別の予測は不要になります。全員が一つの情報に基づいて動くことができることが理想です。さらには、プラットフォーム・レベルに昇華させて、調達も動的になると考えられます。

新嶋 ESGやSDGsの視点でもサプライチェーンのアップデートは重要です。たとえばリサイクルやリユースでは、自社製品が市場に出た後、製品がどこにあってどのように回収するのかまで考慮したモデルの作成が必須になると予想されます。こうしたトレーサビリティの実現にはブロックチェーン技術を活用できます。

また、現在サステイナビリティの観点ではカーボンフットプリントやプラスチック問題が話題に上がりますが、それ以外にも、製品に含まれる有害物質量や、製造過程における人権への配慮はどうかと、見るべき軸はたくさんあります。こうした観点でも可視化や透明性の確保は欠かせない要素となってきます。

志田 製品がすでに市場に出た後で何かトラブルが発覚した際の復旧は、高コストになります。原材料レベルから品質を担保していくことで、トラブルを事前に抑えることができます。

自分たちがESG経営をしていることをきちんとデータで証明できることは、グローバル化する経営環境において今後ますます重要性が高まってくると考えられます。結果としてサプライチェーンも改善するので、ぜひIBMと一緒に取組んでいただきたいですね。