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Smarter Business

「ガレージ」でゼロから1を作り出す

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金融機関を取り巻く経営環境はますます厳しくなり、さまざまな戦略をこれまでの発想にとらわれずに検討する必要が出てきた。たとえば、異業種との協業やセルフサービス化の推進、あるいは完全なデジタルオペレーション化などである。
今回紹介するIBMの“ガレージ”は、新しいテクノロジーを活用して「これまでにないもの」を創造する際、必要なタレントだけでなく、ソリューションやインフラ、協業の場所などを束ねて提供し、迅速な試行を支援する、まさにお客様とIBMの総力をかけて、新しい金融サービスや業務をゼロから迅速に作り上げるサービスである。

鹿内 一郎

鹿内 一郎
日本アイ・ビー・エム株式会社
バンキング&フィナンシャルマーケットセクター・コグニティブ推進リーダー


これまで金融機関における戦略策定、業務改革、M&Aやグローバルでの業務インフラ整備等の大規模変革プログラムの推進に従事。近年は、チャネル変革やデジタルマーケティング、コグニティブ技術の金融サービス・業務への適用案件を推進する。主な外部寄稿・講演に「コグニティブ・コンピューティングと銀行業務への適用」(全銀協協会機関誌「金融」、平成28年1月号)。「IBM ワトソン と銀行業務への適用状況そして今後の展開について」(FIT/金融国際情報技術展、平成27年・28年)、「次世代金融サービスの新しいカタチ(東洋経済セミナー、平成29年3月)」がある。

 

経営環境の変化が新たなアイデアを求めている

金融機関を取り巻く環境は、さまざまな要因により大きく変わりつつあります。その要因とは、例えば、マイナス金利による金融機関の収益環境の悪化、高齢化による資産移転の加速、生活環境の変化に対応し多様な人材を惹きつける「働き方改革」の機運の高まり、高齢者のデジタル・リテラシー向上、デジタル世代の新しいサービス体験への期待、AIを活用した業務の高度化/効率化、異業種連携など、枚挙に暇がありません。
それにともない、弊社が金融機関のお客様へ支援させていただく案件のテーマも多様化し、

  1. 異業種協業や連携余地の検討
  2. セルフサービス化の一層の加速
  3. 完全デジタル化を見据えたマーケティング
  4. 事務のオートメーション
  5. 対面応対や企画業務など人間系業務の高度化
  6. 法人取引における関連プレーヤーとのSTP(Straight Through Processing)化と分析

など、従来の考え方にとらわれない検討事例が増えてきています。
また、昨年までは、足元のビジネスへの収益貢献度を問われて具現化しなかった検討テーマでも、今年に入ってからは先行投資と称して組織内で承認あるいは推進されるケースもあり、金融機関の危機感が高まってきているように見えます。

 

「新たなアイデアを試行する」ときの理想と壁

これまでの考えにとらわれずに新たなテーマを検討するためにはどうすれば良いのでしょうか。
それには、

  1. 顧客や社員など、実際のサービスの“ユーザー”を起点に置き課題の洗い出しや対応策を検討すること。
  2. 自社の既存サービスを前提に検討するのではなく、ユーザーの満たされないニーズを充足するため、現状で自社が提供していないサービスも含めて議論すること。
  3. 一方で自社に眠ったまま活用し切れていないアセット(資産)の活用の余地も議論すること。
  4. 検討した内容を見える形に迅速に仕立て上げ、ユーザーに検証してもらうこと。

が必要になります。
そして「これまでにないもの」を市場に投入するには、事前に試行を十分に行うことが不可欠です。残念ながら、試行工程では往々にして、同工程での検証項目が充分に設定されず、 “できる範囲”でとりあえず検証を行うケースが多いのも事実です。

しかし「これまでにないもの」をカタチするためには、試行段階であっても検証可能な精度まで実際に構築し、本番リリースの可否判断を行う必要があります。そのためには、特にユーザー側の目的に合致した適切なテーマの設定、テーマに応じた適切な知見や感度を持っている人材の集約、そして、早期に仕立て上げるためのシステム環境やソリューションを利用できる場、すなわち「Practice」「People」「Place」の3つが重要になります。

例えばスマホを介して新たな金融サービスを提供するケースを考えても、新しいサービスをゼロから生み出す力、期待以上の顧客体験を提供する優れたUI設計力、迅速にスマホ機能を構築するフレームワーク、多くのお客様の自動応対を可能にするAI技術、蓄積されたデータからOne to oneを実現するアナリティクス、迅速にシステムを立ち上げるためのクラウド環境や、お客様自身のオンプレミス・クラウド環境との接続する技術力、異業種やFintech企業との協業を支える強力なプロジェクト推進力、そしてこれらの知見やスキルを持つさまざまなタレントを集約する強力なファシリテーション力などが必要になります。

ただ、現実的には、このような多様なモノを一同に揃えるのは困難です。

 

アイデアを高速に具現化する「ガレージ」サービス

IBMでは、お客様が「これまでにないもの」を創造する支援をするために、Practice、People、Placeをセットで用意し、お客様と共同で企画から試行を短期に推進する「ガレージ」サービスを本格的に提供しています(下図参照)。

「ガレージ」のサービスフローをフェーズ別に解説した図

図:「ガレージ」のサービスフローのまとめ

ガレージではまず、中期に渡って取り組むべき大まかなテーマと、期間内での検討項目を設定。その後、必要に応じてデザイン思考の検討フレームワークを利用し、1テーマにつき数週間〜数ヶ月をかけてサービス受益者のカスタマー・ジャーニーやサービスの実現イメージの作成と必要機能の実装、もしくは、新たな分析手法やデータを利用して示唆を抽出するといった活動を、アジャイル形式で試行します。

その試行作業にはお客様に参画いただくだけでなく、IBMからも検討テーマに必要なタレント、すなわち、多種多様な経験を積んだコンサルタントやエンジニア、アーキテクト、研究者を集結して参加させ、ソリューションやシステム環境を迅速に構築します。

「ガレージ」は、これまでのように、スーツを着てデスクで企画を練ったり、稟議ステップに応じて企画書をまとめたり、上席や声の大きいベテラン社員に気を使った議論をする、あるいは、変更や修正を事前に関係者とじっくり調整し、承認を経てから行うといった従来の時間をかけたスタイルとは一線を画します。協業のための外部スペースも用意し、常にカジュアルな雰囲気で検討を進め、年次に関係なく知見者が対等に意見を出し合い、実際に触れられるものを迅速に作り上げる、パイロットユーザーの反応を踏まえて柔軟にすばやく更新をかけるなど、まさに試行錯誤を行うのに適したワークスタイルで作業を推進します。

正解が見えない時代だからこそ、すみやかに正解に近づけるための試行をお手伝いする「ガレージ」サービス。多様なスキルを持つ人材はもとより、IBM Watsonやアナリティクス、クラウドサービス、さらにはブロックチェーンや量子コンピューターといった新しいテクノロジーに取り組む弊社だからこそ、多岐に亘るテーマをワンストップで迅速にサポートさせていただくことが可能であると考えます。IBMの銀行向けソリューションについては下記をご覧ください。

photo:Getty Images