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THINK Business

ウィズ/アフターコロナ時代に求められる経営戦略とは——鍵を握るDXの実現に向けて

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小鹿文清

小鹿文清
日本アイ・ビー・エム株式会社
戦略コンサルティング パートナー
シナリオプランニング、中期経営計画、新規事業企画など経営全般に関わるコンサルティングを豊富に経験・リードしている。経営層向け各種セミナーの講師を多数実施。戦略コンサルティング部門のリーダーを務める。

田中啓朗

田中啓朗
日本アイ・ビー・エム株式会社
戦略コンサルティング アソシエイトパートナー
中期経営計画、事業ポートフォリオ変革、業務・組織改革、M&A、マーケティング戦略、新規事業創出・立上げ、アナリティクスの経営活用など、企業経営・事業戦略の幅広いコンサルティング領域をリードする。IBM米国本社赴任経験を持つ。

室井啓介

室井啓介
日本アイ・ビー・エム株式会社
戦略コンサルティング シニアコンサルタント
大手製造・流通業を中心に、長期ビジョンや中期経営計画の策定、先端テクノロジーを活用した新規事業立案、グローバルマーケティング改革の構想・実行、DX実現に向けた全社変革の構想・実行など、デジタルトレンドを捉えた経営コンサルティングに従事。
 

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの中、日本においては緊急事態宣言の全面解除を迎えた(2020年5月現在)が、今後は第二波を想定し、経済的な影響の大きさや地域別の状況の違いを考慮の上で、いかに地域・産業・状況ごとに自粛と経済のバランスを取るべきかを考える“フェーズ2”とも言える時期に入った。特効薬やワクチンの開発・普及は年単位で見込まれ、経済はV字回復ではなくU字もしくはL字となることも予想される。そのような状況を見据えた「ウィズ/アフターコロナ時代」に向け、企業全体の戦略・組織・業務・システムの抜本的見直しが急務となっている。

本稿は、今後数回にわたり連載する「ニューノーマル時代のDX経営モデル」の第1回として、鍵を握るDXをすでに実践しながら時代に最適化しつつある企業とそのポイントを紹介する。

ウィズ/アフターコロナに最適化するニューノーマルの時代

2020年5月20日現在、新型コロナウイルス感染症の影響で業績予想の下方修正を発表した上場企業は累計643社、その売上高合計は約4.8兆円弱にのぼった。全国での関連倒産も5月21日時点で171件となり、今後さらなる拡大も見込まれている(出典:帝国データバンク)。そのインパクトは、リーマンショック時や東日本大震災時を上回り、日本全国・世界全体の実体経済を急速に冷え込ませている。

第2波を想定し、企業はリスク耐性を高めるために現金や流動資産を増やす一方、経済活動全体、そして自社を持続的に成長・発展させていくために従業員や未来への投資は継続していく必要がある。さらには、株主からの資産効率への圧力も、一時的に弱まる事があっても、中長期的には益々強まる可能性もある。そのような不確実な経営環境が年単位で続くと想定される「ウィズ/アフターコロナ時代」において、まずはいち早く新型コロナウイルス感染症に対応し、いわゆる3密(密閉・密集・密接)を避け続けられる、事業継続が可能となる企業活動の準備が求められる。すなわち、オフィスや工場のつくり、働き方、人材採用、営業やマーケティングの仕方など、ビジネスモデルのあらゆる面を「ウィズ/アフターコロナ時代」に適した「ニューノーマル」へ変革することが急務となっているのだ。

アフターコロナの時代に備え。戦略・業務・組織を根本から見直すことが急務

出典:IBM 
 

コロナ環境に対応している企業から見える多様性の確保と変化への対応力

「ウィズ/アフターコロナ時代」の企業像について、すでに一部の動向から見えてきている傾向がある。たとえば、甚大な被害を受ける外食産業において、いち早く立ち直りの兆しを見せているのが日本マクドナルドホールディングス株式会社(以下 日本マクドナルド)である。公表されている決算情報によると、2020年3月既存店売上高は前年同月比で-0.1%減、全店売上高(※)は同0.5%増であった。それに対し4月の既存店売上高は同6.5%増、全店売上高で同6.7%増を達成している。

※全店売上高=既存店売上高+2019年の比較月(3月)の翌月以降に加わった店の売上高

同社の好調の理由は、元々ドライブスルーやテイクアウト、Uber Eatsなどの店内利用以外のチャネルを持っていたことに加え、巣ごもり消費への変化に素早く追随したことにある。セット商品やクーポンも家族向けを中心とした構成にするとともに、モバイルアプリも大きく変更をかけた。クーポンなどの認知度・利用度の高かった公式アプリと、これから伸ばしていこうとしていたモバイルオーダーアプリを4月に統合したのである。IBMの独自調査においても2020年2月時点で、公式アプリはロイヤルユーザーの80.1%程度が利用しているのに対し、モバイルオーダーアプリの認知は40.5%程度、利用はわずか8.1%であった。公式アプリにモバイルオーダー機能を統合することで、危機をチャンスとし、需要を適切にすくい上げたと言える。

アパレル産業では、株式会社ワークマン、株式会社西松屋チェーンが注目に値する。2020年3月および4月の月次売上高速報において、両月とも前年同月比で成長している。両社は、アパレル産業でありながらも衣料品以外を扱っており、またプライベートブランドの品揃え、eコマースへの積極的な取り組みが寄与したと考えられる。

IBMが実践する「オペレーションの多様性確保」と「リモートならではの体験設計」

ここで、IBMの事例も紹介する。弊社では、緊急事態宣言前からリモート業務(在宅勤務)対応を推奨し、4月1日から全社員に在宅勤務を要請し、事業所への出社は事業部長の許可を必要とした。強制力を持たせた在宅勤務へと舵を切り、6月現在も継続している。従来から、対面だけでなくWeb・チャット・電話(アウトバウンド・インバウンド)での営業チャネルを持っており、業務プロセスも20年以上前からリモート化に対応してきていた。全ての社内ITシステムにリモート環境から接続が可能であり、社内手続きにおける押印プロセスも廃止していたからこそ、全社一斉のリモート業務へスムーズな移行が可能であった。

さらには、2020年の新入社員約800名についても、多くがリモートでの業務遂行を進めている。入社式は株式会社ニューズピックス(NewsPicks)の協力を得て完全オンラインで実施した。チャット機能を活用して全新入社員とその両親・親族、および全世界のIBM社員も参加可能とし、物理的制約のない同時多発的相互交流を生み出す場を提供し、「ならではの体験」を創出することに成功した。続く新人研修についても、Slack、Mural、Webexなど多様な社外のリモートツールを駆使し、対面での研修以上の相互交流や成果物作成につなげている。

日本IBMは2020年の入社式をオンラインで実施

ウィズ/アフターコロナ時代は、ビジネスモデルの複線化と変化への対応力(アジリティ)が鍵

これらの例に共通することは、コロナ危機以前からデジタルを活用し、ビジネスモデルの各要素について可能な限り複線化・ポートフォリオ化を実現して選択肢のオプションを持っていたこと、そして組織としての変化への追随力の高さである。

日本マクドナルドは、幅広い顧客層の開拓、店内利用以外にも複数の商品提供チャネルの維持・確保、現金以外のさまざまな決済やポイントシステムへの対応が進んでいた。西松屋やワークマンも、コロナ危機以前から、プライベートブランドの充実、eコマースの拡充などを戦略として打ち出し、投資し続けていた。IBMがリモートワーク前提の業務プロセス・業務システムを20年以上前から構築してきたことは、すでに述べたとおりである。

このように、顧客層、製品・サービス、チャネル、パートナー企業、収益モデル、業務プロセス、ITシステムなどのビジネスモデル各要素を複線化・ポートフォリオ化していた企業が、その資産を活かして変化に対応し、コロナ危機をチャンスにすることができている。

DXにて目指すニューノーマル時代の経営

従来からポートフォリオ・マネジメントは重要な経営手法の一つであり、適切な運用により資本効率を高度化させつつ「選択と集中」を支えてきた。これに加えて「デジタル」と「リアル」の融合が益々進んだ現在、複数のビジネスモデルやマーケティングチャネル、市場、マネタイズモデルを選択的に組み合わせることが可能な世界が到来している。

セールスフォース・ドットコム、SAP、オラクル各社の Sales CloudなどのSFA(営業支援システム)・CRMツール、Uber Eats、出前館などの複合的なチャネル、Zoom、Microsoft Teams、Webexなどのリモート会議システム、Apple Pay、PayPay、au PAYなどのモバイル決済システムなど、自社でITシステムやオペレーションを構築しなくてもビジネスモデルの各要素を即時・低投資規模で複線化できる環境が整ってきているのだ。このように、環境変化に応じたデジタルな戦略オプションを準備し、「株式市場の求める資産効率」と、「不安定な時代におけるリスク耐性」、そして「変化への迅速・柔軟な対応」の3つを高度に両立する企業こそが、「ウィズ/アフターコロナ時代」に適応した企業と言えるのではないか。

DXにて目指すニューノーマル時代の経営

 
出典:オスターワルダー他「ビジネスモデル・ジェネレーション」、各社Webサイト、IBM
 

ニューノーマル時代の経営に必要となる4つの視点

今求められているビジネスモデルの複線化は、従来の思考ではコストや実現性の観点からあり得ないと思われていた領域の複線化を、同時並行・複層的なデジタル活用により推進していくことである。そのために、「顧客・市場」「エコシステム・パートナー」「企業・従業員」「データ」という企業の資産それぞれの観点から、デジタルによる関係を再構築し、複線化していくことが重要であり、今後複数回にわたり、それぞれの観点から「ウィズ/アフターコロナ時代」のDX経営モデルについて寄稿することとする。

ニューノーマルに向けて「顧客・市場」「エコシステム・パートナー」「企業・従業員」とのデジタルによる関係再構築
出典:IBM

 

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