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THINK Business

生産性向上とリスク対応力を併せ持つ業務変革の実現

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鈴村 敏央

鈴村 敏央
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
コグニティブ推進 本部長

20年近くにわたり、サプライチェーン戦略立案や業務改革、見える化、システム構想・導入に携わる。米国にてIBMグローバルのサプライチェーンコンサルティングのソリューション開発にも参画した。近年はAIやIoT、アナリティクスを活用した業務改革プロジェクトをリード。また、サプライチェーン戦略コンサルティングにおいても日本のリーダーとして活躍。現在、先進テクノロジーを活用して新しい変革を実現するコンサルティング部門、コグニティブ推進部門の本部長を務めている。

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、我々の生活やビジネス環境は一変した。各企業は経済変動に伴う短期対策に取り組むとともに、その先の中長期的なインパクトに備える施策が急務となっている。これまでも製造業を中心とする企業は、“インダストリー4.0”や“2025年の崖”対策を背景にデジタル変革(DX:Digital Transformation)を進めてきたが、今回のコロナ・ショックによってデジタル変革の重要性が一層増している。そうした中で製造業は、いかにして変化の激しい不確実な社会への対応を図り、事業継続力を高めていく業務変革を進めていくべきか――。この課題解決に向けた基本的な考え方とアプローチを紹介する。

 

“ニューノーマル”を見据えたデジタル変革が急務に

企業におけるアフター・コロナ対策を考えるとき、景気が後退期に入る中で浮上してくるのは、いかにして事業を継続して社員の雇用を守るかという課題だ。そのためにまず取り組むべきはコスト削減と収益改善であり、同時に考慮しなければならないのが“アフター・コロナ”社会への対応だ。今後の事業のあり方を模索しながら、新しい働き方や新しい商流・商習慣を見据えたデジタル変革が経営に求められるのだ。

では、現在の企業の対応状況はどうなっているかというと、例えば「情報収集のためのバーチャル・ハブの設置」や「オフィスの衛生管理」といった短期施策についてはすでにかなりのレベルで達成され、成果を上げていると見ることができる。

一方で、例えば「新たな販売チャネルの拡大」、「需要回復に向けたサプライチェーンの準備計画」といった中長期的な施策はあまり進んでいないのが実情だ。混乱期、状況適応期を乗り越え、コロナ以前とは異なる新たな常態“ニューノーマル”に向けたアクションを推進する企業こそが、今後の成長のチャンスを掴むことができると考える。

人道的な課題に最優先に対応し、事業継続により社員を守り、new normalを見据えたdxを進める
出典:IBM

 

次々に顕在化するリスクへの対応が課題に

そもそも企業は先の見えない様々なリスクと常に対峙している。

代表的なリスクとして、顧客嗜好の変化や企業間競争の激化に伴う価格破壊等の「戦略リスク」、供給途絶や製品の品質不良等に起因する「オペレーショナル・リスク」、今回のようなパンデミックや地政学的リスク等の「環境リスク」、さらに新たな政府規制等による「規制リスク」、為替や株価変動等の「財務リスク」などが挙げられる。

振り返れば2008年のリーマンショック時は主に戦略リスクと財務リスクが発生した。

これに対して今回は環境リスクを起点としながら、サプライチェーンの途絶、あるいは社員のテレワーク移行に伴う作業品質低下などオペレーショナル・リスクが拡大する可能性が高まった。さらに市場の需要そのものも不安定となることで戦略リスクや財務リスクも上昇するなど、かつてない多様かつ複合的なリスクへの対応が必要となる。

仮に場当たり的な対応を続けていたのでは、時間の経過につれてこれらのリスクが次々に顕在化し、経営に大きなインパクトを与えることになるだろう。

したがって先の読めない難しい状況にあっても、想定されるあらゆるリスクを的確に管理していくオペレーションを確立することが、企業の存続や持続的な成長にとってきわめて重要な要件となる。“レジリエントな”(回復力のある)オペレーションの下では、新たなリスクが発生した場合でも迅速に対処してインパクトを緩和し、より短期間での課題解決を図ることができる。さらにいえば問題の予兆を見つけて未然に対応することで、リスクの発生そのものを抑制(予防)することが可能となる。

そこでIBMが提唱しているのが、「生産性とレジリエンスを併せ持つオペレーション」の実現である。

レジリエントなオペレーション
出典:IBM

 

生産性とレジリエンスを併せ持つオペレーションを実現する4つの目標

生産性とレジリエンスを併せ持つオペレーションに向けてIBMは、以下の4つの目標およびそれに即した検討テーマを策定し、より高い生産性と回復力を両立しようとする企業に変革を促進していく考えだ。

1つ目は「コア顧客との関係強化」。従来の訪問や対面を基軸とした営業活動での新規顧客の開拓が難しい現在、既存顧客との関係性強化による収益確保を目指すとともに、ニューノーマルの新しい働き方や新しい商流・商習慣を確立すべく、デジタルを活用した顧客ニーズの発見や顧客接点の再構築などを検討する。

2つ目は「コスト削減」。それぞれの社員が自宅やブランチオフィスなどに分散して働く、テレワーク環境下での業務運営コストやシステムの保守・運用費なども想定した上で固定費や変動費を低減し、企業の持続的成長につなげる。

3つ目は「省人化の加速」。社員が働く環境に様々な制約がある中で、省人化や遠隔からの業務支援を加速させ、人に依存した業務負荷を低減する。

4つ目は「リスク態勢強化」。業務の可視化を進めることで、個々の社員および組織のキャパシティを適正に保持するともに、既存の業務プロセスの見直しや再整理などを進めることで、様々なリスクの管理態勢を強化していく。

生産性とレジリエンスを併せ持つオペレーションの検討テーマ
出典:IBM

 

全体像の策定を起点に変革のシナリオを描き出す

上記の4つの目標に向けてIBMでは、AIとIoTを中心としたソリューションを提供している。本記事では特に製造やサプライチェーンといった領域にフォーカスし、まだ多くの企業で手付かずのままとなっている中期プランに資する課題解決のコンセプトを紹介しておきたい。

まず起点となる取り組みとして「全体像の策定」がある。これは各企業の事業特性に適した、生産性向上およびレジリエンスを併せ持つオペレーションを確立していくためのアクションを明確にするものだ。

これに臨む基本戦略として、「機能別」と「機能横断」の2つの観点からテーマを分けて取り組みを開始することが得策だ。

起点となるソリューション:全体像の策定
出典:IBM

 

機能別の観点では、例えば「調達」「製造」「ロジスティクス」「マーケット」といったテーマを設定する。さらに、このうちの「調達」については、サプライヤーごとの対応能力の可視化や代替プランを検討するとともに、ITを活用して様々な外部情報をクローリングしながら早期にリスクを検知していくというように、個々の機能を深堀しながら、あるべきオペレーションを具現化していく。

一方の機能横断の観点では、サプライチェーン全体をとらえた中でのイベント(モノ)の所在およびステータスの可視性を高め、問題の兆候を早期に把握することを目指す。また、計画外のことが起きた場合に部材やサプライヤー能力の適正配分を行い、動的にサプライチェーン計画を見直すことも重要だ。そして、これらのテーマに連動する形で収益・キャッシュフロー計画の見直しなどを進めていくのである。

このように全体像を素早く描き出すことが、より良い中期プランの策定へとつながっていくのである。ここで重要なことは、基礎となるインプット資料をしっかり準備することだ。例えば収益や生産性に関する分析レポート、リスクに対する考え方などは、サプライチェーン戦略や生産計画のKPIに直結する重要な資料となる。加えて自社が抱えている既知の課題とともに、その解決策としてIBMが提供する先進事例や個別のテクノロジー、ソリューションなどの情報をインプットしていく。

その上で、自社のものづくりの体制および製造プロセス、サプライチェーン全般にまたがる生産性とレジリエンスについて、どのような顕在的および潜在的な課題があるのかを洗い出していくのだ。さらに業務/組織風土/ITの観点に基づいたAs-Is(現状)とTo-Be(理想形)のギャップを埋めるべく施策をまとめて全体のシナリオを描き、投資対効果を最大化するためのロードマップ作成をクイックに進めていくことが求められる。

全体像の策定するアプローチ
出典:IBM

 

繰り返すがニューノーマルの社会では、従来とまったく異なる価値観や世界観をサプライチャーンや顧客、さらには社員との間で共有することになる。過去の常識や成功体験はもはや通用しないと考えるべきであり、そのためにもできる限り具体的なオペレーション戦略を策定し、同時並行的にアクションを実行していくことが肝要である。

なお、革新的なオペレーション戦略を実践していくために、IBMでは基礎研究所が持つ実験レベルの最先端テクノロジーからビジネス向けに汎用化されたアプリケーション、すでに多くの企業で導入実績を重ねてきたクラウドサービスにいたるまで、広範なソリューションを取り揃えている。

なかでもAIとIoTを活用した現場の自動化は、コスト削減および人に依存した作業からの脱却にも大きく寄与することになるだろう。一層強固な事業構築を実現するこれらのソリューションについては、ウェビナーをはじめ様々な機会を通じてその詳細な内容を紹介していきたいと考えている。

photo:Shutterstock