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人とテクノロジーの新しい関係——企業間の「デジタル・デバイド」を勝ち抜く

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森 祐之
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業
戦略コンサルティング パートナー

国内システム・インテグレーターを経て、PWCコンサルティング株式会社(現・日本IBM)に入社。以来、IT戦略立案、システム化計画、グローバルEA、大規模システム構築プログラム管理、デジタル変革推進など、ビジネスとITを融合させるためのコンサルティング・プロジェクトを中心に長く活動。テクノロジーの進化が企業のあり方を大きく変えることに伴う、新たな変革アプローチ発信し、その実行をリードしている。現在は、IT/デジタル戦略・IT変革コンサルティングチームのリーダーとして、デジタル技術をはじめとする先進技術を活用したビジネス変革を推進。

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナウイルス)影響下の現在、テクノロジーはソーシャルディスタンスを保ちながら生活や仕事を継続するために威力を発揮している。当初は違和感がある手段であったとしても、時間とともにメリットの方に目が向き始め、工夫が加えられて、ニューノーマルと呼ばれる新しい活動様式が生み出されていく。

この現状から、アフターコロナの世界では、テクノロジーと人との境界はより自然な形で埋まり、人はテクノロジーを「使う」というストレスを感じることなく自らの能力を拡張していくと推測される。その流れの中で、人とテクノロジーの新たな関係をいち早く構築した企業が、企業間に「デジタル・デバイド」が生じる時代を勝ち抜いていくのだ。

本稿は、連載「ニューノーマル時代のDX経営モデル」の第6回。前回(第5回)までも合わせて参考としていただきたい。

※デジタル・デバイドとは、テクノロジー利用の成熟度により生じる情報格差のこと

企業間で広がりつつある「デジタル・デバイド」

新型コロナウイルスの影響により、オンライン会議・電子決済・電子ハンコ・チャット・クラウドストレージといったデジタル時代のテクノロジーは、さまざまな制約の中でリアル世界の企業活動を再現するための手段として一気に普及した。普及に強制力が伴った結果、本来なら相当の時間を要したであろうバーチャルな働き方への受容が短期間で進むこととなった。

しかしながら、IBMの調査によると、それらテクノロジーを梃子(てこ)としたデジタル変革の進み具合は、少数の先進的な企業では実用段階に入っている一方で、それ以外の多くの企業ではまだ実験段階にあり、企業間における「デジタル・デバイド」が広がりつつあることがわかっている。

企業が「デジタル・デバイド」を勝ち抜くための要因

新型コロナウイルスの影響が始まった当初において、従来からテクノロジーを活用して業務の可視化や自動化を進めていた企業は、リモートワーク環境でも比較的容易に業務を継続させることができた。さまざまな制約による影響範囲の特定がしやすかったことと、人とシステム、システムとシステム、といった業務の切れ目が少なかったからである。

しかし、アフターコロナ時代においては、このニューノーマルと呼ばれる新しい生活スタイルやワークスタイルすらも固定的なものとは限らない。新しいスタイルを模索する中で、より優れたやり方が見つかったり、ウイルスの変異などによりまた違ったスタイルが求められたりするかもしれない。そのような変化が続く世界においては、継続力に加え、より迅速で柔軟な変化への対応力こそ、企業が「デジタル・デバイド」を勝ち抜くための差別化要因につながるはずだ。

そしてそこで必要となるのは、一連の業務の流れ(ワークフロー)を状況に応じて機動的に変更できる「インテリジェント・ワークフロー(1)」であり、そのとき人とテクノロジーの関係は「ひとつ新しい段階(2)」へと進化していく。

(1) 各点のAIを連動させ、インテリジェント・ワークフローを構築する

たとえば、突如売れ始めた商品とSNS上を飛び交う情報から消費者心理の変化を察知し、仕入れ計画を変更すると同時に営業要員に推奨活動を通知する。また、設備の発する音から故障する予兆を検知し、稼働時間を一時的に調整するのと同時に、保守スケジュールや生産計画を変更する。

このような、一連のワークフローを変更させるにあたり、「仕入計画の変更」「推奨活動の判断」といった一つ一つ(点)の変更を行うために、AIが人間の判断を支援することはすでに実現している。しかし、これらのAIを相互に連動させると、ワークフロー全体(線)を人間が介在することなく動的に変更することが可能になる。このAIが点から線となって人間と協働するワークフローを「インテリジェント・ワークフロー」と呼んでいる。

インテリジェント・ワークフローの構築には、個々のAIを賢くすることよりも、人とAIが協働するワークフロー全体を賢くすることに重点が置かれる。そのため、顧客視点での全体最適を共通の目標として、組織横断で取り組むことが成功要因となる。

(2) テクノロジーは、人の道具から人の能力拡張ための機能へ

人との接点となるテクノロジーも進化を遂げ、人の動作を認識する技術や、「インプランタブルデバイス」と呼ばれる、人体に埋め込まれるなど、人と一体化して動作するデバイスも実用化されてきた。これにより、キーボードを打つといったコンピューターを“使う”ための動作が不要となり、人の感覚や意思とテクノロジーが直結される。すなわち、テクノロジーはより自然なかたちで人の能力を拡張する存在として機能することができるようになる。

テクノロジーが意識されないほど自然な、人を中心としたデジタル変革

人とテクノロジーの新しい関係が構築された世界では、エンド・トゥ・エンドで人と人のコラボレーションがシームレスに実現されるだろう。たとえば、設備の保守要員による発見に基づいて診断が瞬時に行われ、現場の作業に活用されるのと並行して、必要と判断される製造や保守の改善プロセスが自動的に開始されるといったことなどである。その原動力となるのがテクノロジーであり、当該ビジネスに関わる人からは存在が意識されることがないほど、人の動きを妨げることなくその役割を果たす。

デジタル変革が提唱され始めて以降、人がテクノロジーに合わせようとして振り回される時期が続いてきたが、顧客や従業員にとっての価値(体験価値)を軸に、あらためて人を中心にデジタル変革を考えられる時代がようやくやってくるのである。

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