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THINK Business

課題だらけの日本のCMOが、企業の持続的成長を導くプロデューサーになるために

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藤森 慶太
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業
コンサルティング&デザイン
事業統括 シニアパートナー

企業における経営管理、ファイナンス戦略、事業戦略、モバイル・デジタル戦略の策定から実装まで、幅広い経験を持つ。米IBM本社ファイナンスにおいてグローバル事業計画策定の経験、国内ではファイナンスストラテジーリーダー、通信・メディア・公益サービス事業部長、モバイル事業事業部長、インタラクティブエクスペリエンス事業部長を経て、さまざまな業界・業種にてファイナンス・テクノロジー・UXを基点とした事業・業務変革を支援。


宮田 大輔
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業
インタラクティブ・エクスペリエンスパートナー
コンサルティング&デザイン統括

20年にわたり大手日本企業・海外企業のマーケティング、研究開発、商品開発、サプライチェーン、IT運営等の変革支援に従事。現在、IBMインタラクティブ・エクスペリエンス コンサルティング&デザイン部門のリーダーとして、デジタル・トランスフォーメーション領域の構想策定・顧客体験デザイン・組織設計・プロセス変革・グローバルWeb/ECプラットフォーム構築・マーケティングソリューション導入・運用支援など多岐にわたるプロジェクトを統括。


若松 幸太郎
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業
インタラクティブ・エクスペリエンス
アソシエイト・パートナー

国内大手広告代理店、および国内大手通信会社のデジタルマーケティンググループ、大手MAベンダーの取締役を得て現在に至る。多様なバックグラウンドを活かし、さまざまな角度から企業のデジタルマーケティングやセールス領域の課題解決を支援。近年は、データの収集からサイロ化された既存データの活用支援や、ニューノーマルに即した顧客接点の再構築など、マーケティング領域を軸としたデジタルトランスフォーメーション領域を強みとしている。

 

デジタル化により変革期に入っていた企業のマーケティングが、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナウイルス)の影響で、急速にさらなるデジタルシフトを求められている。そこで問われるのがCMOの手腕だ。グローバルではCMOに求められる役割が「Growth Producer(グロースプロデューサー)」に変化しつつあるが、そもそもCMOが定着していると言い難い日本企業はどうすれば良いのか。

日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)のグローバル・ビジネス・サービス事業に所属する、戦略コンサルティング&デザイン事業 事業統括・シニアパートナーの藤森慶太氏、インタラクティブ・エクスペリエンス パートナーの宮田大輔氏、インタラクティブ・エクスペリエンス アソシエイト・パートナーの若松幸太郎氏の鼎談から、日本企業のCMOを取り巻く現状と課題、企業の成長をプロデュースするための対策を提言する。

新型コロナウイルスからCMOが得るべき教訓とは

藤森 従来のデジタル化の流れに、新型コロナウイルスの影響が加わり、ますますデジタルへのシフトが加速しています。リアルな実体経済が一気にデジタル化を求められる中で、各企業はどのような対応をしているのでしょう。あるいはどのような対応を迫られているのでしょうか。

宮田 マーケティングの中心が、お客様に広告を通じて認知を促し、店舗に誘導して購買につなげる活動から、デジタル起点の顧客体験を作っていくことに移行しています。デジタル化により、さまざまなチャネルでお客様と直接つながり、行動変容を促して購買につなげるのです。

新型コロナウイルスの影響により、この流れへのアクセルが踏まれました。その結果、各企業の現状が鮮明に分かれたように感じます。ある程度デジタル化に投資してきた企業はその流れに追いついていますが、投資をしてこなかった企業は置いていかれたか、そうならないように必死という印象ですね。

たとえば、BtoBの製造業は、従来対面での営業活動が主でしたが、訪問できず営業ができなくなりました。このような状況で、いかに自社顧客との接点をデジタルで実現して商談を完結させるかを試行錯誤しているようです。

藤森 グローバルの例として、数年前に米国の小売業界が激動期を迎えました。Sears、Toys“R”Us(トイザらス)などが多くの小売が経営破綻しましたが、その原因として「デジタルシフトに乗り遅れた」とい言われ、Amazon.comの台頭と対比させる風潮がありましたね。

しかし、実はリアル店舗を持つ小売業全体の売り上げは減少していないんです。つまり、Amazon.comのようなデジタルな小売業が伸びたから劣勢になったとは一概に言えない。何が起きていたかというと、デジタルに投資し、リアルとデジタルの両局面で顧客体験を描いていたWalmartやTargetが業績を伸ばしていたのです。ここから言えるのは、リアルかデジタルのどちらがいいという話ではなく、リアルとデジタルの融合を進めてきた企業は今回のような有事の際にも、両面のアプローチから対策を打つことができるので結果として強いということです。

若松 過去には選択と集中(という方針)が良しとされた時期もありましたが、今はリスク分散型としてリアルもデジタルもと考える傾向にあります。マーケティングとして、顧客との接点をいろいろなところに持っておき、どれかがダメでも別の面でカバーできるようにしておこうという考え方です。最低限でもやっておけば、1を2にできる。何もやっていない0(ゼロ)から1にするのとは大きな違いですから。

日本では、なぜCMOが根付かないのか

藤森 デジタル化を進めているとしても、マーケティングにおいての課題は多いと思います。IBMのCMOスタディレポートによると、データの収集は進んでいても、それを効果的にマーケティングに活用できていない企業が多いことがわかりました。データの時代と言われて久しいのに、データ活用がなかなか進んでいな理由はどこにあるのでしょうか。

若松 組織の構造により、自分の担当する数字の改善だけを考えてデータを見ているという企業はよくあります。業務の個別最適化が全社的なデータ活用の阻害要因になってしまうんです。

宮田 そうですね。たとえば製品を売る場合、新聞広告・デジタル広告・SNSといった各施策に対してKPIを設定し、達成することがデジタル化と捉えてしまっている企業があります。個別の施策に関してはそれでもいいかもしれませんが、企業としてデジタル化されているのか、データ活用に向かっているか、というとそうではないんです。

藤森 組織が縦割りだからそうなってしまうんでしょうね。

宮田 日本企業においては、デジタルに特化したマーケティングをやる組織はあっても事業全体を俯瞰したマーケティング部門がない企業がまだあります。ここ5〜10年でマーケティング活動を可視化・自動化する「マーケティング・オートメーション(MA)」などテクノロジーを活用したマーケティング手法が先行してしまい、MAを入れればお客様とつながることができると思って組織を作ったためです。

また、企業によっては、マーケティング全体を見る役割を担うCMOを設置せず、経営企画部や広告宣伝部長などがマーケティングの取り組みを担当していることもあります。これも、データの活用につながっていない要因でしょう。

企業としてどのようにマーケティングを推進するのか、それをサポートする組織体制をどう作るのか、デジタルとリアルの予算配分をどうするのか、得られたデータを他の部門と共有してどう事業活動につなげるのか、といったアッパーマーケティング部分の整備が遅れていると言えます。

藤森 実は、日本にはCMOがいないという指摘も新しいものではありません。特に、CMOと名乗ってはいても、実際にやっていることは広告宣伝部長と変わらないということがよくあります。これについては何が原因だと考えますか。

宮田 日本でCMOが根付かない理由の一つに、日本の産業を牽引してきた製造業を中心に、「ものづくり信仰」みたいなものがまだまだあると感じます。品質が良い製品を作れば売れた時代があり、日本で作って海外販社で売ってもらう。その際に、日本の本社がマーケティングを考える必要はなかった。販売やマーケティングは海外販社の責任というスタンスです。これは国内市場においても同様で、日本の販社が売ればいいので自分たちは関係ないという考え方が背景にあり、これを今でも引きずっているように思います。

2000年頃から日本の製造業はプロダクトアウト型から脱却しなければならないと言われてきました。大量生産ではなく顧客の嗜好に合わせ、さらにはマーケットインに変わっていかなければならない、と。少しずつ変わってきたつもりだったが、根本的にはまだマーケットインになっていないと感じます。

若松 そもそも広告宣伝部が弱いという根本的な問題もあります。多くの企業が広告代理店にその部分を丸投げしてきたためで、デジタルマーケティングも広告代理店にやってもらうというところが多い。

日本の企業は3〜5年で人事異動があるため、専門家が育ちづらいと言われます。数年で異動するなら広告代理店に任せた方が効果的だ、となっても不思議ではありません。ただ、これではノウハウは自社には貯まらず、広告代理店に集約されることになります。

藤森 日本の企業特有のジェネラリストを作るジョブローテーション文化が阻害しているのですね。昨今は、ジェネラリスト型ではなく、マーケティングに限らず専門性を高めていく「ジョブ型人材」にシフトする企業も最近多くあります。

とはいえ、まだ主流は広告代理店でしょう。ですが、広告代理店においても、進化の早いテクノロジーを熟知してデータ活用を高度化するという支援は代理店の枠を越えはじめているのではないでしょうか?

若松 その通りです。広告代理店がやっていることはメールキャンペーンがメインで、包括的なデジタルマーケテイングとは言えません。

CMOの役割とともに、企業としてマーケティングを「事業」と位置付け、あらためて考えなくてはならない局面にきています。そのためには、基幹系とつなぐ必要があり、その点においても、IT活用やセキュリティ担保を考慮すると、広告代理店ができるレベルを超えていますね。

CMOはなぜ短命なのか——3年以内の離任が半数以上

藤森 グローバルでも、CMOではあるが実態は広告宣伝に特化した責任者という回答が46%ありました。その先の戦略的なところに関わり、「Chief Growth Producer(チーフグロースプロデューサー)」へ役割を拡大できている企業は23%程度です。

宮田 グローバルではCMOという役割自体が揺らいでいると感じますね。財務に責任を持つCFO、情報に責任を持つCIOなどは役割が明確であるのとは対照的です。CMOがやるべきことは何かというところがブレてしまい、CEOをはじめ他のCxOの人たちとの間で認識の差が生まれ、そして期待値と実態がずれていくということが起こっているようです。

たとえば、デジタル化が進むマーケットの中で、「マーケティングをどうする?」と聞かれても、広告宣伝部長としては回答ができない。

藤森 CMOスタディではCMOの短命化も顕著になりました。グローバルでは、40%以上のCMOが2年以内、57%が3年もしないうちに交代しています。宮田さんが指摘したCMOへの期待と実態のギャップが関係あるのでしょうね。

若松 そのように、CEOが期待しているCMOの役割に対して、宣伝部長的な立場であり期待を満たすことができないというパターンの一方で、真のCMOの役割ができる資質があるのにCEOが能力を発揮する権限を与えてくれないから辞めるというパターンも考えられます。

CMOを支える体制は大きな課題です。予算は十分か、理解やサポートは得られているかという点で、グローバルでも体制が整っていない企業は散見され、日本はさらに悪い状況にあります。これも短命化の大きな要因と見ています。

データ活用により、企業の成長をプロデュースするCGOへ

藤森 グローバルでも日本でもCMOは苦労していると言えますが、試行錯誤が進むグローバルでは一部でCMOを廃止してグロースプロデューサーとして「Chief Growth Officer(CGO)職」を設ける企業も出てきています。

CGOは単にCMOが昇華したものではなく、デジタルな社会においてデータを活用しながら成長に向かってドライブをしていく役割と定義できます。

宮田 グローバルではデジタル化の中で、アナリティクスのCAO(Chief Analytics Officer)、AIに責任を持つCAIO(Chief AI Officer)、デジタル担当のCDO(Chief Digital Officer)など、さまざまなCxOが生まれています。多ければいいというものでもありませんが、デジタル戦略で必須となるアナリティクスやAIなどにおいて、責任を明確にするという狙いがあるようです。

日本ではCxOを配置する企業の割合が低く、そのためにデータ、デジタル、AI、アナリティクスなどの分野について誰が推進していくのかが不明確で、また、そのための体制ができていないと言えるでしょう。

藤森 どのようなデータを、収集・管理・分析・活用するのか、という周辺の担当者の支えがあってCGOという役割が成り立つのに、そもそも、その体制が整っていないということですね。

そのような状況を考慮すると、日本企業のCMOは辛い立場にあると言えますね。爆発するデータの中で、データ管理や分析などのサポートが得られないとなると、データを活用して売り上げを伸ばせと言われても、なかなか苦しいものがあります。

宮田 この状態に拍車をかけているのが、データの種類の増加です。マーケットから上がってくる顧客関連のデータはもちろん、企業活動ではあらゆるデータが生まれています。さらに、最近は製品がコネクテッドになったことで、マーケットに出した製品からもデータが上がってくる。これらのデータ全てを活用するとなると、現在のCMOの職掌の範囲を超えてしまいます。CDOが会社に報告してデータを保管・管理するべきですが、その役割がいない。やはり、企業における体制の問題は大きいように思います。

既存資産を活用してグロース(成長)を図るために“プロデュース”する

藤森 そのような状況の日本企業において、CMOがグロースプロデューサーへ変革するにはどうすればいいのでしょうか。

宮田 CMO自身が、自分の役割が事業成長に貢献するものである、ということをまずは認識する必要があります。これまではメディアに広告を打っていればよかったかもしれませんが、デジタルの時代には「デジタル・マーケター」として自社のデジタルチャネルを作り、デジタルでお客様とつながり、リアルとの融合で体験を「パーソナライズする」必要があります。

さらには、「グロースプロデューサー」として、プロフィットセンターとなり事業成長に貢献するために、従業員(リアル接点)やビジネスパートナーをつないでエコシステムを作り、お客様により高い価値や体験を提供し自社商品やサービスがお客様に「浸透する」というところまで考え、ビジネスを作っていく必要があるのです。IBMでは、その概念を示すフレームワークを用意しています。


出典:IBM

その上で、IBMでは必要な組織能力として次の5つがあると考えます。

  1. ビジネスモデルを作る能力である「ビジネス・モデリング」
  2. ビジネスモデルにおいて、お客様との接点である顧客体験をデザインする「エクスペリエンス・デザイン」
  3. エコシステムとして継続していく「エコシステム・ガバナンス」
  4. データを検証・分析する「データ・アナリティクス」
  5. データを管理・活用するためのシステム「デジタル・プラットフォーム」の設計・構築・運用

自社で人材を育成し組織を作ることが理想ですが、時代は待ってくれません。そこで、外部の能力をうまく取り込みながら5つを揃える必要があります。どの能力を自社で持ち、どの能力で外部のリソースを活用するかを見極め、いかにして能力を調和させていくかという視点が必要だと考えます。

若松 だから、CMOは「プロデューサー」なんですよね。さきほど広告代理店に丸投げという話をしましたが、外部のリソースを活用しながらプロデュースすることと外部に丸投げすることは似て非なるものです。自社の意思をきちんと持ち、さまざまな専門家を使いながらプロデュースしていくのか、単に外部に依存するのか、ここには大きな違いがあります。

CMOはさまざまな役割があり、全てのスペシャリストになることは不可能と言えます。ですから、ちゃんとディレクションしてプロデュースしながら統合的に見ることが求められています。

宮田 たとえば「Uber Eats」は、お客様に対して料理を届けるというサービスを提供するために、自社は飲食店も配送体制も持たず、ビジネスパートナーである飲食店とリアル接点である配送人材をネットワークしています。

オーダー情報などのデータを一つのプラットフォームに集約させ、そのデータを自分たちのマーケティングに使う一方で、どの時間にどのようなものが売れているのかといった情報をビジネスパートナーと共有する。これにより、ビジネスパートナーはUber Eatsのプラットフォーム上で販売管理ができ、新しいマネタイズの機会を得られます。顧客、飲食店パートナー、配送パートナーと3つのステークホルダーをデータで結びつけて全員を満足させ、事業を成功させているんです。

藤森 持続的な成長をエコシステムで成し遂げている、グロースフレームワークを体現している例ですね。

若松 はい。グロースプロデューサーが考えるべきことは、UberがUber Eatsを作ったように、今自社にある資産を使い、ニューノーマルの生活様式で喜ばれるような事業をプロデュースすることです。全くないものから新しいものを作るのは難しいが、既存の資産を使って、どのようにして顧客との接点を作ることができるかを考えることはできます。

日本のトップ企業のブランド力とパワーを使えば、さまざまな可能性があることは確かです。自前で閉じようとせずに、今ある基盤やプラットフォームを使って周りを巻き込み、呼び込み、新しい経済圏を作ることができるかが、カギを握ると言えそうです。

藤森 成長をプロデュースする役割として、これまでのマーケティング力に加え、上記5つの組織能力を統合して事業をプロデュースしていける人材が必要ということですね。特に、その組織能力をどうやって閉鎖的になることなく作っていくのかは、喫緊のポイントでしょう。

そして、誰が先導するのかとなると、ITでも財務でも人事なく、やはりCMOになると思います。ただ周囲のCxOの理解、協力が何よりそのような体制を自社に構築していく上で大切と言えますね。

*本取材は、2020年8月に実施したものです。取材関係者に関しては、取材前14日間における新型コロナウイルス感染症発生国への渡航歴、また、咳、くしゃみ、鼻水、発熱などの症状がないことを確認した上で、消毒や換気など新型コロナウイルス感染症の拡大防止に最大限配慮して行いました。

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