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デジタル時代に銀行が解くべき3つの問いとアクション

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酒井 大輔

酒井 大輔
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業(GBS)
金融サービス事業部
デジタル・リインベンションコンサルティング部長

国内大手金融機関、外資系コンサルティング・ファームを経て、IBMに入社。IBMでは、「金融×デジタル」をテーマとしたコンサルティング組織および金融イノベーション CoC(Community of Competency)のリーダーとして、全社デジタル・トランスフォーメーション戦略策定、次期中期経営計画策定、先端技術活用戦略策定、新規事業・サービス創成、コンセプトムービーコンテンツ制作などのプロジェクトに従事。また、IBMビジネスシンクタンク(IBM Institute for Business Value)にも所属しており、IBMの金融業界Thought Leaderとして、講演などを通じて次世代金融ビジネスのあり方を提言している。
<寄稿・講演>
デジタル時代の銀行とは?(2)——デジタル化の浸透で再定義される銀行の未来像(THINK Business/2020年2月)」「銀行デジタル・トランスフォーメーションの潮流(金融国際情報技術展/2019年10月)(IBM外のWebサイトへ)」「金融デジタル・トランスフォーメーションの潮流 ~デジタル変革第二章~(IBM Webinar/2019年8月)」「COVID-19後の世界を見据えて銀行が解くべき3つの問い(IBM Webinar/2020年7月16日開催予定)」など多数。

 

 

筆者の前回記事では、「デジタル時代の銀行とは?(2)——デジタル化の浸透で再定義される銀行の未来像」というテーマで、銀行ビジネスのデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)の方向性について解説した。本記事では、銀行DXを実現するためのアプローチについて、3つの問いとアクションを手がかりに解説する。

 

銀行DXの実現に向けた3つの問いとアクション

銀行DXは、その必要性や方向性は理解していても、実際には以下3つの問いを解かない限り、実現は困難である。

解くべき3つの問い

Q1)DXの戦略的位置付けを明確にするには?
Q2)行員の前向きな変革マインドを醸成するには?
Q3)DX推進人材やスキルを確保するには?

 

DX実現に向けた3つの問い
出典:IBM

 

そして、これらの問いを解くためには、以下3つのアクションが必要と考える。

3つのアクション

A1)DXビジョンと戦略ロードマップの策定
A2)チェンジマネジメントのためのコミュニケーション
A3)DX人材のリソースをプールする仕組み作り

 

DX実現に必要となる3つのアクション

出典:IBM

 

アクション1:DXビジョンと戦略ロードマップの策定

スイスのビジネススクールIMD(International Institute for Management Development、国際経営開発研究所)のMichael Wade教授は、DXの実現には「変革を生み出す“ビジョン”と、やり方を素早く変えながら行動する“アジリティ”の組み合わせが重要」と述べている。これはまさに、銀行DXの実現においても極めて重要な要素である。

たとえば、高齢者を中心とした顧客層は、デジタルサービスにそこまで慣れているわけではないため、DXによる収益が生まれるのは将来のこととなる。しかし、コストは先に発生することから、ボトムアップで動く案件単位ではなかなかROI(投資利益率)の壁を越えられず、「PoC(概念実証)貧乏」とも呼ばれる悩みが生じてしまう。

そのため、大きなビジネスモデルをチェンジするためには、トップダウンで将来を見据えて、あるべき姿を定義し、そこに向けて今何をするのかという「バックキャスト」の発想で取り組みながら、適宜アクションを見直していく必要があるのだ。

DXビジョンと戦略ロードマップの策定
出典:IBM

 

ここでは、以下の3つのステップを提言する。

1)将来の世界観可視化
将来のテクノロジー、社会、顧客などの観点で仮説を立て、自行の「市場/サービス・人材風土/組織・業務プロセス/インフラ」にどのようなビジネスインパクト(ネガティブ、ポジティブ)があるのか具体的に検証する。たとえば、テクノロジーの観点では、以下のような論点から検証していく。

テクノロジー観点での論点例

・5GやVR/MRが社会インフラとして普及した時、営業店のあり方はどうなるのか
・AIや量子コンピューターが本格的に実用化された時、人の役割・働き方はどう変わるのか
・IoTによって爆発的に増加したデータをどのように活用するのか

 

2)中長期ビジョンの策定
1)で検証したビジネスインパクトを踏まえ、ビジネスモデル、オペレーションモデル、システムアーキテクト、収益構造、人員構成などの観点で、将来的に「自行が目指す姿」つまり「ビジョン」を定義する。DXに成功したと言われる金融機関の多くは、トップがコミットメントした以下のようなビジョンを掲げている。

グローバル金融機関のDXビジョン

アジア圏における金融機関:
・Live more, Bank less
・Embedding ourselves in the customer journey

米国における金融機関
・Putting clients first
・Leading with exceptional ideas
・Do the right things / Give back

欧州における金融機関
・To bring the age of opportunity to everyone

 

その上で、たとえばビジネスモデルの観点では、以下のような論点から目指すポジショニングを決めていくが、銀行の特性や意思によって全く違ったものにもなる。

ビジネスモデル観点での論点例

・将来でも変わらない本質的な強みは何か
・解決すべき社会課題は何か
・金融に特化するか、非金融も視野に入れるか
・フロント、ミドル、バックを全て残すか
・フロントはプラットフォーマーに任せて、BaaS(Bank as a Service:異業種と連携して提供する金融サービス)のようにオペレーションに特化するか

 

3)中長期ロードマップ概要策定
全社的にどのような道筋で、2)で定義したビジョンを実現していくのかを策定する。策定の実行には、具体的なアクションプランが必要である一方、「方向性」を決めたら後は走りながら適宜見直していく「アジリティ」も重要である。

IMDが2019年9月に発表した「世界デジタル競争力ランキング2019」における「企業のアジリティ」に関して、日本は63か国中最下位であり、日本企業にとっての大きな課題と言える。計画にこだわり過ぎずアジリティを取り入れるためには、以下のような組織運営も見直し、新たな組織の在り方を作っていく必要がある。

見直しを検討すべき組織運営例

・短期ROIを重視した投資意思決定
・短期業績を重視した業績評価体系
・縦割り組織
・チャレンジが評価されづらい企業風土

 

 

アクション2:チェンジマネジメント・コミュニケーションの進め方

銀行DXの実現には、行員の「ビジョン」に対する理解と納得、さらにポジティブな行動変容を促進していくことが重要である。

たとえば、大手繊維製品会社社長が述べた「100人の社員に分かってもらおうと思ったら同じ話を10回繰り返す。『√100=10』。1万人なら100回になる。これが、言わんとしていることを多数の人に理解してもらうために、同じ話を繰り返す最低限の回数だと思っている」という有名な言葉からも伺い知れるように、組織(企業)には強い慣性の力が働いていて、その風土を変えるのはとても困難だということは論をまたない。

それを踏まえ、多くの人に理解してもらい、企業風土を変える具体的な方法を紹介する。

チェンジマネジメント・コミュニケーションの進め方

出典:IBM

 

必要なのは、ビジョンの定着化に向けてPDCAサイクルを回すことであり、まず「コミュニケーション/啓蒙プラン」を作成する。(上図、計画P)

低金利長期化や異業種の金融ビジネス参入などといった銀行への逆風や、デジタル変革などに伴う営業店の統廃合や人員削減などに関する情報が飛び交う昨今、行員は「これから銀行や自分たちはどうなってしまうのか?」という漠然とした不安を抱えているだろう。「わからない状況」はさまざまな憶測を呼び、不安に拍車をかける。そこで、変革を成功に導く錦の御旗として、行員にビジョンを漏れなくブレなく共有することが重要となる。

それを実現するため、伝えるべきメッセージをコンパクトに凝縮し、ヴィジュアライズした、数分間の「ビジョン動画」を何回も繰り返し流すことによって、具体的なイメージを持たせるとよい。米国大手IT企業では、危機を迎えるたびに、このような動画を活用してメッセージを発信し、従業員を鼓舞してきた。昨今、本邦銀行でも、中期経営計画を従来型の「紙面」ではなく「動画」で共有するという例が増えている。

もちろん、動画だけでなく、それぞれの行員に最適な形でコミュニケーションを取り、ビジョンの浸透を図る必要もある。ここでは、自分ごととして捉えてもらうため、社内インフルエンサーをいかに巻き込めるかが何よりも重要であろう。

次に、作成した「コミュニケーション/啓蒙プラン」を、全行員の意識や行動変革に向け着実に実行する。(上図、実行D)

最後に、その結果を、DXの必要性などの理解度アンケートやインタビューにより検証、次の打ち手へ反映し、継続的な改善を行っていくのだ。(上図、定着度検証C・A)

 

アクション3:銀行DXにおける人材リソースをプールする

将来的には、DXのコアになるケイパビリティは銀行内で内製化し、一部の必要な部分についてのみ外部人材を活用する姿を目指すべきだと、日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)は考えている。とはいえ、すぐにその体制を実現するのは困難なため、まずは外部人材をフル活用して人材リソースのプールを作り、ノウハウを外部から銀行内にトランスファーしていく仕組み作りが重要だ。

銀行DXにおける人材リソースをプールする
出典:IBM

 

変化の激しいデジタル時代の新たなサービス開発手法として、「アジャイルアプローチ」が注目され、先進的な銀行ではすでに体制を組んで進めている。アジャイルアプローチは、細かいターゲット顧客やテーマ毎に分けて、いつも複数のスクラムがサービス検討をしていくものである。

アジャイルアプローチ
出典:IBM

 

スクラムというのは、1スクラムが10人~15人くらいの単位の幅広い立場の人材から成り、新しいアイデアを考えて、その場でサービスを作り、お客様に試してもらいながら改善していく。これには、業務内容やIT・非ITの区別なく、スピード感をもって協力して進めていくことが求められる。

しかし、現時点では、特に以下3つのケイパビリティが銀行内だけでは不足しているという声が多いため、パートナー企業との協業が必須となろう。

強化すべき3つのケイパビリティ

・アイデア創出やデジタルビジネスの企画
・アジャイル開発
・データ分析

 

そのために、従来型の「案件毎でプロジェクト開始前にスコープ詳細を決めてパートナー契約」といった形式ではなく、行内外問わず、必要な人材を都度アサインする「人材リソースをプールしておく」仕組みが最適だと考えている。また、さまざまなDX施策の企画・開発・実行そのものが人材育成につながる重要機会であり、関係各部の取り組みと連携したうえで、実践の場を早期に整備・導入することも重要である。

案件毎でプロジェクト開始前にスコープ詳細を決めてパートナー契約
出典:IBM

 

IBMだからこそできる、銀行ビジネスにおけるDX実現

デジタル時代では、テクノロジーを媒介とし、非連続の変化が起き続けることが想定される。そのため、テクノロジートレンドのキャッチアップ、DXに必要なケイパビリティの強化、デジタル人材育成が急務である。その点において、IBMは、スピード感を持って銀行DX実現を強力にサポートできる。

筆者がリーダーを務めているIBMのデジタルリインベンション・コンサルティングは、「金融のデジタルリインベンションをリードする」というビジョンを掲げ、本記事で紹介したような金融機関のDX実現に向けたプロジェクトを数多く行っている。

もちろん、研究者、デザイナー、クリエイター、データサイエンティスト、アーキテクト、エンジニアなど、幅広いケイパビリティを持つIBMメンバーと協業して「One IBM」で取り組んでいることは言うまでもない。

IBMだからこそできる、銀行ビジネスにおけるDX実現

出典:IBM

 

IBMは、技術研究・コンサルティング・SIを兼ね備えた唯一のグローバル企業であり、レガシーシステムのトランスフォーメーションも含めて、最適かつ現実的な銀行DX実現ができると自負している。お客様のDXを実現するため、新しいテクノロジー・カルチャーを融合させた新しい働き方を実践していく必要があるが、今般IBMは変革の触媒役として、「金融イノベーション」「金融デジタル開発」「オープンDSP*」「レガシー変革」「IT Work Anywhere」という5つの専門家コミュニティ (CoC: Community of Competency) を設立した。IBM自身も、デジタル時代に合わせた組織変革を行っており、まさに変革の真最中なのである。

*DSP(デジタルサービス・プラットフォーム)は、2018年8月にIBMが発表した「デジタル時代の次世代アーキテクチャー」を、金融サービス向けに、クラウドネイティブ技術、Red Hat OpenShift、マイクロサービス技術、アジャイルなどの新技術・新手法で具体化したソリューション。

新しい働き方の実践と人材育成

出典:IBM

photo:Getty Images

 

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