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身近に忍び寄るマネーロンダリング、対応遅れる日本の現状

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日本の金融機関の準備は万全か?

2019年10月、FATF(※)第四次対日相互審査が始まる。今回のレビュー結果次第だが、日本の金融機関はグローバル市場から信頼を失い、最悪のシナリオとして海外送金やコルレス業務の停止などの措置が取られ、産業界に対しても大きな打撃を与えることになりかねない。こうした危惧を背景に、金融庁は2018年2月6日、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(以下、ガイドライン)を公表し、金融機関が対応すべき点に関し方針を明らかにした。

※FATF(Finalcial Action Task Force:金融活動作業部会)1989年アルシュ-サミット経済宣言により設立された政府間機関。G7諸国を含む35カ国と二つの地域機関が加盟している。

瀧澤 則逸
日本アイ・ビー・エム株式会社 パートナー ファイナンシャル・クライム アンド フラウド プラクテイス


2017年6月に日本アイ・ビー・エム入社、パートナー就任。戦略コンサルタントとして企業の業務改革やアウトソーシング、基幹系業務ソフトウェアの選定と導入支援、及び2006年より金融業界に対するリスクコンサルティング及び管理用ソフトウェア製品の選定及び導入支援の経験を有し、金融犯罪及び不正領域のコンサルタントとして金融機関のお客様を支援。

 

アンチマネーロンダリングの強化は、今に始まることなのか?

アンチマネーロンダリングは、2000年代初頭から世界各国で強化されてきた。しかし、日本の場合、2008年のFATF第三次対日相互審査でのレビュー結果が、加盟国の中で下から5番以内という想定外に低い結果に終わり、政府・金融機関は慌てて対応を図ることとなったのだ。

それでは、前回の第三次と今回の第四次を比較した場合、求められる対策に違いはあるのか。この点については、プロモントリー・フィナンシャル・グループ企画部長の信森 毅博氏に解説してもらおう。同グループは、2016年末からIBMの仲間となった会社で、マネロン対策を含め、金融機関規制等のプロフェッショナルの会社である。信森氏の解説を受けて、私から今後の対応について解説していきたい。

信森 毅博
プロモントリー・フィナンシャル・ジャパン マネージング・ディレクター


1991年、日本銀行に入行し、高松支店勤務を経て、米国バージニア大学ロースクール留学後(NY州弁護士資格取得)、考査・金融機構局にて考査運営サポートや金融機関の動向調査(モニタリング)に従事したほか、国際局にて外貨の運用関連事務、市場局にて市場動向の長期調査にも従事。2012年にプロモントリー社へ入社し、バーゼルⅢ関連の規制対応、業務改善命令対応、組織活性化に向けた支援・研修等に従事。マネロン対策に関しては、キンザイ等での講演・論稿の執筆に加え、個別金融機関への対応強化を支援中。 

 

信森氏
今回のガイドラインは犯罪収益移転防止法に加えて、マネロン対策の強化を図ることを目指したものです。従来からの変化点は次のとおりとなります。

画一的な対応ではなく、お客様や商品に伴うマネロン関与の可能性(リスク)を踏まえた対応(いわゆる、リスクベースアプローチ)を強化。マネロン対策は、事務部門だけで行うものではなく、経営陣も関与すべき重大な課題であることを明確化したほか、専門家の設置・育成を求める姿勢を強調したこと。事務部門における人海戦術ではなく、各種システムを用いて管理部門が企画・データ分析を強化の上、効率的で高度な対応を目指すこと。

さらに、こうした強化策を取らない金融機関に対しては、いわゆる行政処分を課す姿勢も明確になっています。その背景を変化点ごとに整理してみます。これまでのマネロン対策は、ともすると画一的ルールに基づく対応が行われ、日々、「進化」(?)するマネーロンダラーの動きに対応しずらかったこと。また、画一的であるが故に、より危険度が高い対策が必要な顧客・商品に対して、十分な対応が取られてこなかった傾向があること。

マネロン対策は、振込詐欺同様、窓口現場での気付きや経験に基づく対応が中心であって、経営陣が主体的・積極的に取り組むべき課題との認識が薄かったこと。裏を返すと、経営陣こそ、顧客のリスク判断や口座提供の可否などの判断をすべきとの意識が低かったこと。さらに、(窓口での対応が主であることととも相まって、)実例を元にリスク分析を行うことを通じて高度化する意識が低く、その前提となるシステムの導入も遅れていたこと。

これらの点は、アメリカなど他国の金融機関での最近の取り組みと比べ、明らかな差があります。例えば、米国では、リスクに応じて対応を変える方針が経営陣により明確になっているのみならず、当該方針を実践するマネロン専門チームが行内に設置されています。また、日々の口座取引をシステムを通じてモニタリングやフィルタリングを行うことで、異例取引がないかを監視することが一般的になってきました。

さらに、最近では、内外の情報を一元化した上でAIで分析も行い、当行からの送金最終受取口座を確認したりしています。こうした取り組みを通じて、例えば、政治腐敗で名高い国の独裁政権に近い大物政治家との関連を注意喚起するフラグを立てた上で、当該口座からの資金移動のモニタリングを強化。すると、他のフラグ先口座へ毎週のように下限を下回る送金(想定したしきい値)が繰り返されるようになったことが発見しやすくなるよう、努力しています。
 

一般人にも忍び寄るマネロン手口

金融機関での取り組みが強化されると、我々の生活はどのように変わるのか整理してみましょう。今から10年前の2008年、10万円を超える現金をATMを通じて送金することが出来なくなったことを覚えていますね。これは、911NYテロ事件以降に規制が厳しくなった一つの現れです。昨今では、銀行口座の開設時に本人確認のために写真の提示が必要となりました。用意できない場合は、公共料金の領収証書の提示や住民票の写し等が必要です。(詳しくは各金融機関にてご確認ください)

金融機関にとっては、多少の利便性を犠牲にしても、国際基準に合ったより厳格な顧客管理を行う必要が生じています。私は10年前にマネーロンダラーが独自に“顧客のセグメント化”を行い、年齢別、地域別、職業別等に分類してマネロン作戦を実行していると予測しました。また、非対面(インターネット技術の活用)と犯罪のグローバル化に対する注意を喚起しています。昨今のマネロン犯罪を分析すると、残念ながら上記の予測に近い事件が日本でも実際に起きています。

こうした事件を防ぐための第一歩は、金融機関による厳格な顧客管理です。例えば、職場や住居から遠い銀行での口座開設や、所得に身合わない現金の入出金を繰り返す行為は疑う必要があります。一方で、我々消費者も気を付ける必要があります。特に、マネロンへの警戒心が低いことが多い学生や主婦、時には老人などの善意ある支援が、結果としてマネロン活動を手助けしているケースも起きています。国際的にはマネーミュール(MoneyMule)という手口がその一つで、電子メール、求人サイト、チャリティーサイトから“海外送金の援助”の名目で勧誘し、犯罪と知らずに不正資金の送金を代行し、マネロン(資金洗浄)に加担してしまうものもあります。

また、外国人労働者を社員としている企業経営者は、彼らの帰国時に国内口座をクローズさせてから帰国させているでしょうか。そうした対応を取っていない場合、意図せず口座売買に加担している可能性があるのです。近年、マネロンは私達の身近なところにまで手が伸びています。
 

今後、求められるマネロン対策とは?

いまだ現金のやり取りが他国に比べて多い日本は、マネーロンダラーの温床です。さらに、クレジットカードや仮想通貨を利用した新たな手口も、オリンピックやカジノ解禁に合わせて増加するでしょう。業界を超えてIoTの発展に伴う社会の変化の中で、国際的な手口が現れることも容易に想像出来ます。

より身近なところでは、不動産、宝石、高級車などの高額商品の売買に私達一般人も巻き込まれ、知らないうちに資金洗浄の手助けをしているかもしれません。デジタル化の発展と共に新たなマネロン対策が金融機関に求められるものの、私達個人も更なる自己管理とマネロンに対する正しい知識の取得が必須です。もはや、善意ある支援者(日本人)では居られないのです。

 

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