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THINK Business

顧客体験はシステムとコンテンツで変える——IBMとADKの共同事業「alphabox」の価値

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宮田大輔
日本アイ・ビー・エム
インタラクティブ・エクスペリエンス事業部
アソシエイト・パートナー

20年にわたり大手日本企業・海外企業のマーケティング、研究開発、商品開発、サプライチェーン、IT運営等の変革支援に従事。現在、IBMインタラクティブ・エクスペリエンス コンサルティング部門のリーダーとして、デジタル・マーケティング領域の構想策定・顧客体験デザイン・組織設計・プロセス変革・グローバルWeb/ECプラットフォーム構築・マーケティングソリューション導入・運用支援など多岐にわたるプロジェクトを統括。

 

瀬戸口健三
日本アイ・ビー・エム
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
クリエイティブ&デザイン パートナー

IBM インタラクティブ・エクスペリエンス事業部で顧客体験デザインをリード。過去には大手広告代理店、事業会社で広告およびマーケティングの要職を歴任。広告代理店時代には米国ニューヨークで4年間にわたりグローバルのコミュニケーションプランニングを担当し、日本とグローバルのコミュニケーションプランニングに精通している。

 

藤田岳志
ADKマーケティング・ソリューションズ
エクスペリエンス・デザインセンター
エクスペリエンスドリブン・ユニット長

クレジットカード会社でデータドリブンマーケティングを担当した後、ベンチャー企業でマーケティングのコンサルタントに従事。その後ADKに入社し、マーケティング・プランナーとして数多くのクライアントおよびプロジェクトをリード。2017年からはマーケティングのDXに取り組み、2019年より現職。

 
なぜ今、カスタマーエクスペリエンス(以下、CX)なのか? 企業の業績を見渡すと、顧客ニーズを把握し、CXの設計・開発を効果的に行う「改革者」企業は、「高売上成⻑」「高収益」を実現していることが明らかになっている。日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)は、BtoC企業の変革力を強化し「改革者」企業になるための取り組みをサポートすべく、ADKマーケティング・ソリューションズ(以下、ADK MS)との共同事業「alphabox(アルファボックス)」を始動させた。

2019年7月23・24日に、「Adobe Experience Cloud」を利用する企業を国内外から迎えて開催された「Adobe Symposium」のレポートから、BtoC企業のCX変革を進めるIBMの取り組みを紹介する。

 

売上高成長・高収益を呼び込むCXの取り組み

近年、多くの企業がCXに注目している。IBMの調査レポート『グローバル経営層スタディ 守成からの反攻』における、12,000ほどの企業を対象にしたクラスター分析によれば、顧客ニーズを把握し、CXの設計・開発を効果的に行う「改革者」企業は、組織能⼒の開発・強化と新たなビジネスモデルに取り組む「実践者」企業やデジタル化に伴う事業機会を捉えることに遅れを取っている「野心家」企業に比べ、売上高成長・高収益を実現していると考えられている。

出所:『グローバル経営層スタディ 守成からの反攻』

IBMは「顧客をうれしい気持ちにさせる」ことこそが、CXの本質だと考えている。これは世界的な投資会社バークシャー・ハサウェイCEOであるウォーレン・バフェット氏の“Don’t just satisfy your customers, delight them(顧客を満⾜させるだけでなく、彼らをうれしい気持ちにさせよう)”という考えと軌を一にするものだ。

 

IBMとAdobeの協同は2015年から始まった

24日には、同シンポジウムにプラチナスポンサーとして参画するIBMによるランチセッションが開催された。その冒頭に登壇したのは、IBM インタラクティブ・エクスペリエンス事業部 アソシエイト・パートナーの宮田大輔氏だ。

「IBMでは、企業のデジタル変革を支援する取り組みとして、IBM Interactive Experience(以下、IBM iX)事業を推進してきました。『デジタル戦略コンサルティング』『クリエイティブ&デザイン』『テクノロジー』を3つの柱とするIBM iXは、クライアント企業のデジタル変革をワンストップで支援する組織として機能し、15,000名のコンサルタントがサポート。お客様企業との共創的空間として、東京のほか、アトランタ、バンガロール、ベルリン、シカゴ、大連など、世界に40以上のスタジオを持っています」(宮田氏)

2015年に米国で開かれた「Adobe Summit 2015」において、IBMとAdobeの戦略的業務提携が発表された。「IBM iX」と「Adobe Experience Cloud」により法人向けの専門的コンサルティング機能を構築し、2社協働で大規模プロジェクトを完遂している。なおIBMはAdobeのビジネス・パートナーに送られる「Emerging Partner of the Year」(2017年)、「Partner of the Year」(2018年)を2年連続で受賞し、多くの実績・ノウハウが共有されている。

 

複雑化したCX戦略を支援するために生まれた「alphabox」

次に、IBM グローバル・ビジネス・サービス事業本部 クリエイティブ&デザイン パートナーの瀬戸口健三氏、そしてADK MS エクスペリアンスドリブン・ユニット長の藤田岳志氏が登壇し、両社の共同事業であるコンサルティングサービス「alphabox」についてセッションした。

「alphabox」は2019年2月からスタートした新しい取り組みだ。「企業のCX向上を包括的に支援するサービス」を提供することを目的にしている。

両氏によれば、CXは対象となるペルソナの心理的・感情的な動きを時系列で表した「カスタマージャーニー」を用いて説明できるという。一般的には認知・情報収集・比較検討・購入・共有・継続利用などのフェーズが存在し、各フェーズで顧客とのタッチポイントが生まれている。

これまでマーケティングの領域では、主にADKのような広告会社がメディア選定や購入を行い、企業と顧客のタッチポイントを作り出してきた。しかし、近年は急速なデジタル化が進んで企業のCX戦略は複雑化。戦略策定などの“上流”から関わるアプローチが求められるようになったのだ。

alphaboxは、「事業戦略策定」「ソリューション設計」「顧客タッチポイント構築」「体験マネジメント」「実行・クリエイティブ」——5つのサービス領域で成り立っている。これにより「ブランディングのプロセス全工程」において、End-to-EndのCX変革が実現可能になるという。

「ブランディングのプロセスのなかでは『戦略を立てる』、『実際のソリューションの計画を立てる』、『それを実行するための仕組みを作る』、そして『顧客に届ける』というフレームがあると思います。alphaboxは、これらの全工程に加え、本当に顧客に喜んでもらえているかどうかを検証するまで、すべてを包括しながらEnd-to-Endで支援します」(瀬戸口氏)

さらにエントリーサービスとして、カスタマーエクスペリエンスの“現状”を知ることのできる簡易診断ツール「CX360° CHECKUP」を実装。経営とマーケティングに関わる8つの視点からの設問に回答することで、特別レポートが作成され、企業は自社のCX課題を把握できるという。

 

マーケティングの3つの課題に対する「alphabox」の“答え”

セッション後半に行われたパネルディスカッションでは、alphaboxは企業にどんな価値をもたらすのかについて、3つの課題ごとに話し合った。

 
課題①:最新システムは導入したが、顧客は本当に喜んでいるのか

マーケティングオートメーションのようなシステムを導入していても、「顧客が本当に自分たちとのタッチポイントを喜んでいるのか不安になる」という声は多い。ツールの導入ありきでは、「顧客体験」という大命題を見失いがちとなるからだ。瀬戸口氏は「最適なタイミングで最適なコンテンツを届けるための仕組みがあったとしても、顧客が接するのはあくまでコンテンツである」と提言する。

「CXの一連の流れを考えたとき、ユーザーが何を体験するのかといえば、最終的には“コンテンツ”なんです。たとえばスマートフォンであり、そこにどういう画像があって、どういうコピーがあって、それが自分に合っているのか……といった具合に、ターゲティングされたコンテンツ、パーソナライズ化されたコンテンツを通じてその商品・サービスを評価・検討します。

すなわち“コンテナ”があって、しっかりデリバリーする仕組みがあっても、そこにユーザーのことをとらえた“荷物=コンテンツ”がなくてはならない。IBMとADKの協働により『システムはどうあるべきか』『コンテンツはどうあるべきか』『それで顧客にどう感じていただけるのか』ということを一緒にシームレスに考えていけることが、alphaboxの最大の強みだと感じています。また、システムとコンテンツの両方の専門性により、IBMサイドとADKサイドのお客様、すなわちIT部門とマーケティング部門、その双方のリクエストにお応えできると考えています」(瀬戸口氏)

「我々のような広告会社は、『情報をいつ届けるのか』、『どんな情報を届けるのか』を考えながら“コンテンツ”の設計を行います。しかしCXを鑑みると情報のデリバリー手段が欠けていることがあります。alphaboxでは、そのデリバリー手段である“コンテナ”をIBMが作ることで、両社がWIN-WINの関係を築けていると考えます」(藤田氏)

課題②:デジタルとフィジカルの融合

CXにおけるタッチポイントは「デジタル」と「フィジカル」の両面から考えなければならない。メッセージを配信する側である企業が両者を区別していても、受け手である顧客からみれば「メッセージはメッセージ」でしかなく、タッチポイントを意識することなく受け取っているからだ。送り手側が顧客の立場で設計しないと、CXはちぐはぐになってしまう。デジタルコンテンツを作ったり、イベントを開催したり、さまざまな手段をミックスすることがとても大切だ。

「顧客は必ずしも“デジタル”の世界から商品・サービスを知るとは限りません。テレビや新聞で知ってくれるのかもしれないし、電車の中吊り広告なのかもしれない。我々IBMだけだとデジタルの世界だけに特化しがちですが、ADKのような広告会社では“フィジカル”の世界も踏まえながら、マーケティングですべてのストーリーを考えています」(瀬戸口氏)

「CXにまつわるストーリーは近年とても複雑化し、顧客とのタッチポイントも増えています。たとえば自動車ならば、欲しいと思ってから購入するまでの間に700回のタッチポイントがあると言われている。デジタルでのタッチポイントもあれば、ディーラーのようなフィジカルなタッチポイントもありますが、ウェブで問い合わせをしてディーラーに行ったら、またイチから説明しなければいけない、なんてことではいけません。alphaboxでは両社の力を結集し、デジタルとフィジカル、その両方に発生する“すべてのタッチポイント”をつなぎ、CXを設計しています」(藤田氏)

近年、顧客体験を提供する場は、店頭やイベント会場などフィジカルな場が主戦場となっており、これまでなんとなくひとまとめになっていた「体験」と「購買」は、中長期的に見ると分かれていく可能性がある。また、こうしたフィジカルな場がテクノロジーで構成される余地もあると考えている。

「イギリス・ロンドンの街角には、展示されている自動車は1台のみという実験的な自動車の販売所が設置されています。そこでは、ほとんどのCXがバーチャルの世界で完結している。ADKでもポップアップストアを提供していますから、それらとIBMのテクノロジーが組み合わさることで、体験の場から今までになかった新しいタッチポイントを生み出すこともできると思います」(瀬戸口氏)。

課題③:ITとマーケティングの見えない壁

CXという同じ目的のもとでプロジェクトが動き出したとしても、企業のIT部門とマーケティング部門にギャップが生じる、ということはたびたび起こりがちだ。IBMとADKが今回の共同事業を開始するにあたっても、最初に直面した課題が、慣習やプロセスなど「IT部門とマーケティング部門の見えない壁」だったという。

そこで正式なスタートの約1年前から、IBMからは事業戦略コンサルタントやデータサイエンティストなど、ADKからはクリエイティブ・プランナー、リサーチャーなど、必要な人的リソースを集め、解決を図ってきた。

「両社のスペシャリストを一堂に会し、ディスカッションを進めたのですが、会社の方針も日頃使用している言語も違うので最初はかなり大変でした。しかしその壁を取り払うために、『これはIBMの仕事、これはADKの仕事』という分け方をせず、どんな問題にも一緒に取り組んできました。現在は、IBMとADK両社において、それぞれに専用のオフィスを構え、スタッフが自由に行き来しています。複数企業による共同事業では、誰も手をつけないタスクが出てきたり、あるいは“見ているだけ”の人が出てきたりしがちですが、そうしたことがまったくありません」(瀬戸口氏)

「お客様企業からRFP(提案依頼書)をいただくとき、IT部門とマーケティング部門双方の部長から連名で要望をいただくケースが増えており、部門を横断して『一緒にやらなくては』という意識が、多くの企業でも拡がっていると感じます。そのため、IBMの営業から呼ばれてADKのスタッフが同席することもあります。ワンチームで挑んでいるからこそ、ITの課題とマーケティングの課題が分断されることがないのです」(藤田氏)

さらに藤田氏はマーケッターの観点から「多くのITビジネスで、『十分なアウトプットのためにはこういうデータも取っておかなければいけない』『このデータをいくら分析しても十分なアウトプットは出ない』と感じることがしばしばある」と明かし、「ITサイドが組み立てるデータベースと、マーケッターが組み立てるデータベースでは乖離が生じる場合があるが、ワンチームならばそうした乖離が埋まる」と話した。

 

「ファン・エクスペリエンスを高める」——サッカークラブのCX事例

IBM iXとalphaboxで協業したユースケースも紹介された。IBM iXは静岡県静岡市をホームタウンとするプロサッカークラブ「清水エスパルス」の「ファン・エクスペリエンス」の向上のため、スポーツビジネス・プラットフォームの構築・運営を支援している。具体的には、座席にいながらスマホアプリから飲食類を注文できるキャッシュレス決済の導入や、顧客データベースと販売管理システムの統合などである。alphaboxはiXとの協業で、ファンとの接点を戦略からデザインまでを支援している。

「テクノロジーを使って“ファン・エクスペリエンス”を高める施策です。スタジアム観戦者も、グッズ購入者も、さらにはライブ観戦に来られずに試合中継を視聴する方も、すべて包括的に『ファンの拡大』を目指す取り組みで、8月中旬にはそのためのアプリのリリースも予定しています」(瀬戸口氏)

「Jリーグでは1シーズンにつき十数回のホームゲームがあります。10回以上観戦する方を『ヘビーユーザー』としていますが、同じ『10回以上』でも、選手の近くで応援したい熱狂的ファンはフィールドに近い場所で観戦しますし、サッカーの戦術に関心のある方はフィールドを俯瞰できる高い位置から観戦します。そのように細かく見ていけば違う点がある。それぞれのファンに適したシステム、コンテンツを提供することでエクスペリエンスを向上させるのです」(藤田氏)

「Adobe Symposium 2019」では、本セッションのほかに、alphaboxのブースも開設された。多くの来場者で賑わうなかで、alphaboxに関心を示した企業はさっそく相談に訪れていたようだ。

「企業のビジネスにおいて、CXはますます重要視されていくでしょう。複雑化、多様化しながらも統合したワンメッセージ、ワンストーリーを顧客に伝えていくために、システムとコンテンツをうまく融合していくことが大事になる。システムに強いIBMと、コンテンツに強いADKが手を組んだことで生まれたalphaboxで、お客様企業のCX向上を支援したいと考えています」(宮田氏)

 

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