公開日:2024年5月1日
寄稿者:Keith O'Brien、Amanda Downie

銀行業におけるAIとは

人工知能(AI)は、銀行業界にとってますます重要なテクノロジーとなっています。内部業務や顧客向けアプリケーションを強化するツールとして使用することで、銀行は顧客サービス、不正アクセス検知、資金および投資管理を改善できます。

テクノロジーのトレンドを先取りし、競争上の優位性を高め、価値あるサービスとより良い顧客体験を提供するために、銀行などの金融サービス企業は、デジタル・トランスフォーメーションの取り組みを導入しています。

AIテクノロジーの登場によって、デジタル・トランスフォーメーションの重要性はさらに高まっています。それは、業界を再構築し、どの企業が成功するかを決定する可能性があるからです。

銀行業におけるAIの台頭

歴史的に、既存の金融サービス・プロバイダーはイノベーションに苦戦してきました。McKinseyの調査1(ibm.com外部へのリンク)によると、大手銀行の生産性はデジタル・ネイティブ企業と比べて40%低いことがわかりました。銀行業界の多くの新興スタートアップ企業が人工知能のユースケースを開拓しており、伝統的な銀行は、流れに追いつき、自ら革新することがより重要になっています。

投資銀行は長年にわたり、自然言語処理(NLP)を使用して、社内にある、またはサードパーティーのソースから取得した膨大な量のデータを解析してきました。NLPを使用してデータ・セットを調査し、主要な投資や資産管理に関してより多くの情報に基づいた意思決定を行っています。

特に銀行部門は、AIテクノロジーがもたらす望ましいメリットを吸収しています。顧客はデジタル・バンキング体験を望んでいます。デジタル・バンキングでは、顧客はアプリを使って、提供されるサービスの詳細な情報を学んだり、人々やバーチャル・アシスタントとやり取りしたり、財務管理を改善したりできます。企業は、そうした顧客の満足度を維持するために、ユーザー・エクスペリエンスを向上させる必要があります。AIソリューションの採用と展開は、その方法の1つです。

AIは単独でも強力ですが、オートメーションと組み合わせることで、さらに大きな可能性を引き出すことができます。AIを活用したオートメーションは、AIのインテリジェンスとオートメーションの再現性を兼ね備えています。例えば、AIはロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)を強化して、データ分析をより適切に解析し、AIが最適と判断した内容に基づいてアクションを実行することができます。一例として、KYC(Know Your Customer)、AML(マネー・ローンダリング防止対策)、CDD(カスタマー・デュー・ディリジェンス)の規制を満たすために必要な顧客データを検証するために、RPAを使用している銀行があります。

金融サービス組織にとってAIが重要な理由

金融サービス組織は、リスク管理、顧客体験、市場動向の予測など、さまざまな理由で人工知能(AI)を採用しています。

AIは、顧客が金融問題に関する意思決定を強化するのに役立ちます。顧客は、最先端のAIテクノロジーを使用して資金をより適切に管理できるよう支援してくれる銀行を利用し続ける可能性が高くなります。

しかし、業界の広範な規制を考慮すると、銀行やその他の金融サービス組織は、AIにアプローチするための包括的な戦略を必要としています。AIを使用するには、リスクとエクスポージャーを軽減するための思慮に富んだフレームワークが必要です。

銀行がAIにアプローチする方法

IBM Institute for Business Valueは、2024銀行業界グローバル展望レポートの中で、AIツールと慣行を業務に組み込もうとしている銀行向けのガイドを発表しました。主なアクションは以下のとおりです。

  • 銀行のAIガバナンスとリスク・プロファイルを定義する:各銀行はそれぞれ異なっており、各銀行のリーダーはAIのリスクと導入について独自の決断を下す必要があります。銀行は、強力なセキュリティー対策によって潜在的なリスクに対抗する必要があると認識した上で、AIを採用すべきです。
  • ユースケースに優先順位を付ける:AIの導入は、測定可能な効果をもたらし、組織の目標に合致する特定のビジネス・ユースケースと結び付いている必要があります。具体的な使用例としては、顧客向けのチャットボット、パーソナライズされた投資戦略、詐欺防止、信用度スコアリングなどがあります。
  • 信頼できるAIプラットフォームを選択する:エンタープライズAIのアプローチの多くは、組織の成功に必要なものをすべて確実に揃えるために、複数のAIモデルを適用する必要があります。したがって、銀行は、オープンソースのモデル、社内で構築したモデル、またはその両方のどれを使うかを選択する必要があります。
  • ハイブリッドクラウド・アーキテクチャーを採用する:AIは、銀行が既存のテクノロジーの非効率性に対処し、アプリケーション・リソース管理(ARM)を優先することを求めています。ハイブリッドクラウド・アーキテクチャーを使用することで、銀行はパブリッククラウドとプライベートクラウドを切り替えて、リアルタイムのデジタル・バンキングのためのレジリエンスと応答性を高めることができます。
  • 初期導入から学ぶ:リスクを懸念する銀行は、新たな実装を拡大および展開する前に、小規模なテストやユースケースを実施して、影響を評価する必要があります。初期段階で得られる教訓は、銀行が他にどのようなインフラストラクチャーを導入する必要があるのか、どこを調整する必要があるのかをよりよく理解するのに役立つため、価値があります。
  • 「AIファクトリー」を構築する:組織が特定のユースケースのためにAIを構築または採用するための実行可能な戦略を確立したら、AIを業務に追加し、すべての開発およびビジネス手法の中心に据える構想を構築する必要があります。
銀行業におけるAIのメリット

AIを採用し、導入している銀行には、いくつかの重要なメリットがあります。

  • サイバーセキュリティーと不正アクセス検知の強化:サイバー攻撃者は、金融機関から騙し取るためのより巧妙な方法を編み出すために、ますますAIを利用するようになっています。AIが作成した音声2(ibm.com外部へのリンク)を使って顧客の真似をし、カスタマー・サービス担当者を混乱させる可能性があります。AIを使って、フィッシング・メールをますます合法的に見せることができます。その結果、これらの金融機関はAIアルゴリズムを使用して、従業員をサイバーセキュリティーの脅威からリアルタイムで保護するとともに、顧客が同じ手口を回避するためのツールを作成する必要があります。金融機関や政府機関は、マネー・ロンダリングやなりすましなどの金融犯罪を阻止するために、AIシステムを利用することもできます。
  • 拡張API:銀行業務では、顧客がさまざまなアプリケーションで資金を追跡できるようにするために、アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)を使用することがますます増えています。例えば、銀行は、顧客が複数の銀行口座を監視できるように、サードパーティーの予算作成アプリにAPI権限を与える必要があります。AIは、より多くのセキュリティー対策を可能にし、反復的なタスクを自動化することで、APIの利用をより強化にします。
  • 組み込み型バンキング:これは、スターバックスが独自の決済アプリを始めたように3、従来とは異なる体験に銀行サービスを導入することです。組み込み型バンキングはサービスとしての成長が期待されています。特にAIにおいては、小売業者やその他の企業が潜在的な市場機会に関するデータを収集・分析し、信用度を予測し、顧客へのサービスをよりパーソナライズするのに役立ちます。
  • よりインテリジェントな顧客ツール:ディープラーニングを搭載した生成AIの台頭により、投資業界や銀行業界は、より洗練されたツールを導入して、カスタマー・サービスを合理化できるようになります。AIを搭載したチャットボットとバーチャル・アシスタントは、カスタマー・サポートを向上させ、顧客が小さな問題を自分で解決できるように支援します。また、AIは顧客が財務をより適切に管理し、より多くのお金を節約するのを助ける予算管理アプリを強化することもできます。
  • 新たな市場と機会:また、顧客に関するより良い洞察を得るために、予測分析にAIを使用しています。AI を活用した予測分析により、ビジネスと顧客の新たな成長分野を特定し、どの顧客が解約リスクにあるかをより正確に推定できます。例えば、銀行は、ログインや入金の頻度といった顧客の習慣を分析し、それを他のデータ・ポイントと比較して、個々の顧客が解約しそうかどうかを判断することができます。
  • よりスマートなクレジット・カードと信用スコアリング:信用度の判断は、銀行サービスにおいて非常に重要な業務です。銀行は、クレジット・カードの申請を受理するかどうか、また与信の増額を承認するかといった重要な与信判断を下すために、膨大な量の顧客データを処理する必要があります。AI アルゴリズムと機械学習は、金融機関がクレジット・カードや与信の増額、その他の顧客の要求を高速で承認または拒否するのに役立ちます。

 

銀行業におけるAIの課題

銀行業にAIを導入するには、リスクや複雑な問題が伴います。IBM Institute for Business Valueの2024銀行業界グローバル展望の調査によると、銀行のCEOの60%以上がAIによってもたらされる新たな脆弱性を懸念していることがわかりました。例えば、次のようなものです。

  • サイバーセキュリティー:生成AIテクノロジーは、不正防止やコンプライアンス管理に活用できますが、リスクも生み出します。AIモデルは悪意ある攻撃者にとって特に貴重なターゲットとなるため、オープンなAIツールやテクノロジーを銀行のITシステムに組み込むと、セキュリティー上の課題が生じます。そのため、銀行は、イノベーションとリスク管理のバランスを効果的に取る包括的なAIガバナンス・アプローチを必要としています。
  • 事業に関する法的不確実性:生成AIモデルが効果を発揮するには、既存のデータ・セットでのトレーニングが必要です。ニュース記事や解説ビデオのような一般に公開されているデータを分析することが著作権侵害にあたるかどうかについては、まだ未解決の問題が残っています4(ibm.com外部へのリンク)。この問題を回避する1つの方法は、カスタマー・サービスのやり取りや独自の調査など、銀行が所有するデータで学習されたAIモデルを使用することです。
  • 結果の精度を制御することの難しさ:現在、AIモデルは出力を推論したり、「理解」したりはしません。代わりに、AIモデルは与えられたデータ内のパターンを検出5(ibm.com外部へのリンク)、結果を生成します。そのため、モデルはデータが間違っているか不正確であるかを人間の従業員に伝えることはできません。
  • モデルのバイアスによる偏見:銀行は、自らの行動に対する透明性と説明責任を示す方法として、環境・社会・ガバナンス(ESG)イニシアチブへの投資を増やしています。AIモデルは人間が作成したデータでトレーニングされるため、人間に影響を与えるバイアスの一部を受け継ぐ可能性があります。銀行は、商品を販売する方法や信用度などの要素を判断する方法において、これまで特定の層に悪影響を及ぼしてきたバイアスをなくす必要があります。
銀行業の未来はAIが主導

金融機関はデジタル・トランスフォーメーションをますます迫られています。顧客は、セルフサービス機能を備えた自動化されたエクスペリエンスを求める一方で、個別の対話や、人間らしさを感じられることも望んでいます。

銀行は競合他社の一歩先を行き、顧客に資金や投資を管理するための高度化されたツールを提供するために、AIへの投資を優先し続けています。顧客は、金融上の機会を可視化するパーソナライズされたAIアプリケーションを提供できる銀行を引き続き優先します。

今後、銀行は、AIの利用や自行がどのように競合他社よりも早く進歩を展開できるかをアピールするでしょう。AIは、銀行が新たな業務モデルに移行し、デジタル化とスマート・オートメーションを取り入れ、コマーシャル・バンキングとリテール・バンキングの新時代において継続的な収益性を確保するのを支援します。

 

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脚注

1 Why most digital banking transformations fail—and how to flip the odds(ibm.com外部へのリンク)、McKinsey、2023年4月11日。

2 AI Is Making Financial Fraud Easier and More Sophisticated(ibm.com外部へのリンク)、Bloomberg、2024年。                      

3 Why Starbucks Operates Like a Bank(ibm.com外部へのリンク)、WSJ YouTube、2022年。

4 Copyright law is AI's 2024 battlefield(ibm.com外部へのリンク)、Axios、2024年1月2日。

5 If AI's So Smart, Why Can't It Grasp Cause and Effect?(ibm.com外部へのリンク)、2020年3月9日。