戦略的ポートフォリオ管理（SPM）とは

これにより整合性と透明性を確保し、組織が経済的変化や競合する優先事項に対処できるようにすることで、リスクを最小限に抑え、ビジネス価値を最大化できます。

組織ガバナンスの下位分野であるSPMは、ビジネス・プロセスとポートフォリオ管理テクノロジーを一元化し、最も費用対効果の高い最善のビジネス戦略を実行するためのさまざまなオプションを意思決定者に提供します。チームやビジネス・リーダーは、主要なメトリクス（コストなど）に基づいて、会社の戦略的ポートフォリオ（既存のプロジェクトと提案済みプロジェクト）を評価し、まとめて管理することができます。

SPM機能は多くのIT戦略家やプランナーによく知られていますが、より広範なビジネスの成功にはますます不可欠なものとなっています。また、定義、目標、投資のニーズが企業によって異なる一方で、SPMは企業を次のように支援します。

• ビジネス目標との整合性に基づいて、プロジェクトの優先順位を変更したり、キャンセルしたりできます。
• 特に重要なプロジェクトやプログラムに対して、容量とリソースの管理を自動化します。
• ビジネス目標との関連性に基づいて、組織のポートフォリオ内の投資フローを調整します。

SPMプラクティスを効果的に実施すれば、全社的なビジネス戦略に向けたリソース配分を効率化し、予算、タイムライン、ロードマップ、依存関係について、チームやワークフロー全体で確実かつ正確に伝達できるようになります。

また、SPMは、リアルタイムのプロジェクト・データと組織データを使用して、ビジネス・インテリジェンスの焦点を絞れるように支援し、経営幹部やその他の意思決定者が変化する予算、市場の状況、ポートフォリオの優先順位、全体的なビジネス目標に対応できるようにします。

今日のダイナミックなビジネス環境とIT環境では、時間、リソース、人員、予算がすべて限られています。ビジネス組織は、長期的な存続を確保するために、これまで以上にイノベーションを推進し、よりリスクが高く、より影響力のある意思決定を行い、継続的な動きを推進する必要があります。

その結果、意思決定者は、（組織の戦略目標との整合性などの要素に基づいて）どのプロジェクト、製品、プログラム、イニシアチブを追求し、何を放棄するかを選択する必要があります。

望ましいビジネス成果を支援しない投資は排除の対象となり、戦略的目標とよく一致する投資は優先されます。

しかし、意思決定プロセスは、大企業レベルの企業にとって重大な課題となる可能性があります。例えば、戦略目標が明確に定義されていない、または実施に関与する利害関係者全員に適切に伝達されていないために、戦略目標が不明確である場合、投資決定に支障をきたすおそれがあります。

また、ポートフォリオ管理に不可欠なシステム全体の情報とプロセスの可視性に苦労している組織もあり、重要な領域（キャパシティー・プランニング、リスク管理、財務管理など）に情報のサイロ化が生じています。これらの問題は、アジャイル・プラクティスのアグレッシブなスケーリングにより悪化することが多く、ポートフォリオ・プランナーとファイナンシャル・プランナーの双方に盲点が生じる可能性があります。

情報サイロが改善されていないため、プロジェクト・ポートフォリオ・マネージャーは企業データを包括的に把握できず、キャパシティー・プランニング、予算配分、全体的な意思決定に支障をきたします。さらに、予算、リソース、作業の割り当てを追跡する分散された記録システムにより、変化する市場の状況に動的に対応することが困難になります。

しかし、会社全体のチームが自律性を高め、より迅速な意思決定を行うにつれて、信頼できる唯一の情報源との継続的な連携がますます重要になります。

SPMプラクティスは通常、別々のチームが処理する分野を統合することで、可視性と整合性の問題に対処します。これには、戦略管理、プログラム・ポートフォリオ管理（PPM）、統合ITポートフォリオ分析、リーン・ポートフォリオ管理、アジャイルな財務管理が含まれます。

SPM環境では、これらの作業は一元化され、相互接続されているため、ビジネス戦略、運用モデル、ITポートフォリオ、エンタープライズ・アーキテクチャーの変更は、必要なすべての関係者にすぐに伝わります。リアルタイムの企業全体の可視化により、効率化されたポートフォリオ調整、価値指向の意思決定、継続的なポートフォリオの適応性が促進されます。

このように、SPMは、企業、プロジェクト・マネージャー、プロジェクト管理オフィス（PMO）が、デジタルおよびテクノロジー関連の投資を通じて優れたビジネス成果を達成し、競争上の優位性を維持できるよう支援します。

企業は戦略的ポートフォリオ管理により、次のような複数のビジネスおよびIT分野を組み込んで、信頼できる唯一の情報源を作成できます。

ビジネス戦略と運用モデルの開発は、企業の戦略的ビジョンを定義するうえで不可欠です。このプロセスには通常、ビジネス・モデルと運用モデルを特定し、確立された目標を達成するための戦略的テーマを考案することが含まれます。また、チームはビジネス戦略とITイニシアチブを連携させ、企業戦略をサポートするイニシアチブを優先する必要があります。

運用モデルは、組織がオペレーションを視覚化し、構造化する青写真として機能します。顧客が提供するサービス、ビジネスの機能、企業構造を結び付けて、価値提供が組織の戦略目標に沿っていることを保証できるように支援します。

ビジネスのさまざまな部分がどのように相互作用するかを明確に定義することで、オペレーティング・モデルは効率的なプロセスを促進し、顧客満足度を向上させ、より一貫性のある戦略的な運用を実現させます。

ITと企業のポートフォリオ管理により、組織全体のすべてのテクノロジー関連の資産とイニシアチブを全体的に把握することができます。これにより、企業はITポートフォリオ全体を整理し、俊敏性を高め、ポートフォリオの変更を簡素化し、ポートフォリオの影響を最適化することができます。

また、一元化されたポートフォリオにより、プロジェクト・マネージャーは包括的な影響分析を行い、資産の相乗効果を高め、計画ミスを最小限に抑えることができます。

ITと企業のポートフォリオ管理によって、企業のIT環境を幅広く理解することで、企業はリソースの割り振りやプロジェクトの優先順位付け、全体的な戦略について情報に基づいた意思決定を行うことができます。また、チームやビジネス・リーダーは、ITリソースをより適切に監督・維持することで、継続的なイノベーションとビジネス目標との整合性を確保できるようになります。

企業のアーキテクチャー・ガバナンスは、複雑なビジネス・システムの構造層（ビジネス、アプリケーション、情報、および技術層を含む）を定義します。IT資産とプロセスを管理および最適化するためのフレームワークを提供し、意思決定者がリソースとツールを他のビジネス部門と連携させることを可能にします。

効果的なガバナンスは、統合を最適化し、インフラストラクチャーの俊敏性を最大化するのに役立ちます。これにより、チームは競争力のあるデジタル・トランスフォーメーションをより簡単に実装し、変更基準を設定できるようになります。

アジャイル・トランスフォーメーションとは、企業全体をより敏捷で応答性に優れたビジネス手法に移行する反復的で包括的なプロセスを指します。

SPMプログラムの一環として、アジャイル・トランスフォーメーションは、目標や戦略的テーマの開発からポートフォリオの保守まで、システムの一元的な可視化を支援します。この可視化により、アジャイルのアウトプットがビジネスの優先事項と一致するようになります。事業計画や戦略実行における変化が、上流の戦略や下流の活動にどのように影響するかを強調します。

ビジネス・リーダーやポートフォリオ・マネージャーは、市場の成功を妨げる可能性のある障害や、戦略的な成果に対する製品の影響など、新製品の性能について明確な見通しを持つことができます。

アジャイル・パイプラインの包括的な可視性により、チームは問題や改善の機会が発生したときに新製品を調整することができ、企業がポートフォリオ戦略と運用を継続的に最適化するのに役立ちます。

財務管理により、チームは コストをビジネス戦略に合わせて調整し、正確な 予測 と予算編成に重点を置くことができます。これは、ビジネス・リーダーが現在と将来のビジネスの優先順位（および必要なITサポート）と、ビジネスのさまざまな部分にわたるコスト削減対策の財務的な影響を理解するうえで有用です。

ITコスト最適化の意思決定の影響を正確に予測することで、企業は財務の健全性を維持しながら、長期的な目標をサポートする戦略的な意思決定を行うことができます。このアプローチにより、効率的なリソースの配分を確保し、財務リスクを最小限に抑えられるようになります。

リスクおよびセキュリティー管理とは、潜在的な脅威を特定し、脆弱性やコンプライアンスの問題がある領域を保護する手法です。ITインフラストラクチャーをリスクにさらしかねないシステムに関する知見を組織に提供し、リスクの内容と最善の対処方法を詳しく説明します。

効果的なリスクとセキュリティー管理により、企業はIT資産を保護し、事業継続性と消費者の信頼を維持し、会社の利益を守ることができます。

SPMは、プロジェクト・ポートフォリオを戦略的目標に合わせて調整することに重点を置き、既存のプロジェクトや提案されたプロジェクトがそれらの目標に及ぼす貢献を最大化します。すべてのプロジェクト・ポートフォリオとキャパシティー・プランニングの機能をまとめて評価し、各ポートフォリオ全体でリソース管理を最適化するためのイニシアチブの戦略的適合性を測定します。

意思決定はポートフォリオ・レベルで行われ、多くの場合、経営幹部が関与して、戦略的目標への関連性に基づいてプロジェクト・ポートフォリオの優先順位が付けられるようにします。

PPMでは、効率的なプロジェクトとプログラムの管理を優先し、タスクが時間どおりに、予算内で、組織の目標に沿って完了するようにします。

SPMと同様に、PPMはプロジェクトの選択、プロジェクトの優先順位付け、リソースの割り当て、リスクと依存関係の管理に重点を置いています。ただし、SPMとは異なり、PPMの範囲は各ポートフォリオ内の個々のプロジェクトに限定されているため、意思決定はプロジェクトまたはプログラムのレベルで行われます。短期から中期的な視点に立ち、プロジェクトのライフサイクルを端から端まで効率化し、最適化することを目指しています。

SPMは汎用性が高く、カスタマイズ可能なポートフォリオ管理アプローチであるため、実装は組織の予算、目標、ビジネス・ニーズ、IT要件によって異なります。ただし、大手企業は次の4つの主要なプロセスに依存する傾向があります。

リソースの要件を理解し、割り当てプロセスを開始するには、利害関係者全員が、意図するビジネス成果と戦略ポートフォリオの現状を明確に理解する必要があります。短期的な目標と長期的な目標の両方を検討し、利用可能なすべてのリソース（予算や人員など）を棚卸しし、確立された優先順位を見直すことが重要です。

プランナー、PMO、リソース・マネージャーは、投資に優先順位を付けて分類し、より広範な目標に向けて機能していない作業やプロジェクトを特定し、それに応じてリソースを振り向けることができます。

すべての利害関係者が同じ認識を持つことで、チームは重要業績評価指標（KPI）を選択し、成功を測定するための継続的な監視プロセスを開始できます。意思決定者は、必要に応じてアプローチを調整し、ポートフォリオをビジネス戦略と整合させます。

多くの企業では、分析を効率化するために、ステージゲート法（プロジェクトをより小さく、管理しやすいセグメントまたはステップに分割する）を使用しています。アジャイルやハイブリッド・プロジェクト管理手法も、分析を最適化するために頻繁に使用されます。

プロジェクトやポートフォリオ分析から得られた知見を使用して、チームは特定のプロジェクトや戦略的イニシアチブを詳細に説明したポートフォリオ計画を策定して、優先順位の上げ下げを指定したり優先順位を取り消したりすることができます。計画策定プロセスには、予算と人員の割り当て、リスク評価、問題の特定作業も含まれます。

目標、目的、KPIを設定することで、プロジェクト・マネージャーやPMOは進捗状況を測定し、ビジネス・リーダーは進捗状況を視覚化できます。

ポートフォリオ計画が整ったら、チームは戦略実行プロセスを開始できます。ただし、ポートフォリオを戦略目標に沿った状態に保ち、条件や予算の変化に応じて適応するには、継続的な監視とアセスメントが不可欠です。

SPMツールはこれらのタスクを自動化し、現在と将来の作業、完了したすべての作業の統合ビューを利害関係者に提供します。このアプローチにより、利害関係者全員が戦略的ポートフォリオの状況を把握できるようになります。あるプログラムが戦略プランに最適でなくなった場合、リーダーはそのプログラムを延期または中止することができます。

SPMへの移行は困難な作業になる可能性があります。企業の予算が限られている場合、利害関係者全員を満足させる優先順位付けの決定を下すのは難しいこと合があります。また、相互に関連するプロジェクトの大規模なポートフォリオ管理は複雑になるかもしれず、一貫性と整合性を維持するために高度なツールとプロセスが必要になります。

ただし、SPMは、次のようなさまざまなメリットを企業にもたらします。

• より強力な意思決定。SPMツールは、ダッシュボードを使用してすべてのポートフォリオ・プロジェクトの全体像を示し、ビジネス・リーダーやポートフォリオ・マネージャーが、どのプロジェクトを推進、維持、終了するかを迅速に決定できるようにします。

• 戦略的な整合性と可視性の向上。SPMプラクティスは、すべてのプロジェクトがビジネス目標と合致していることを確認するのに役立ち、会社全体の透明性と説明責任を促進します。

• ビジネスの俊敏性の向上。SPMは、必要に応じてリソースを再配分し、プロジェクトの優先順位を変更することで、組織が市場の変化や社内の変化に迅速に対応できるようにします。

• 最適化されたリソース使用。SPMにより、企業はリソースを効率的に割り当て、生産性を最大化し、無駄を最小限に抑えることができるため、優先度の高いプロジェクトに必要なサポートを提供できるようになります。

• 協働を簡素化。SPMは、複雑なプロジェクトやプログラム間での効率的な協働を促進し、信頼できる唯一の視覚的な情報源を提供し、最優先するビジネスに常にチームが取り組めるようにします。

• 先見的なリスク管理。SPMプロセスでは、ビジネス環境とIT環境に多くの監査ポイントと管理ポイントが導入されるため、ポートフォリオ・マネージャーはポートフォリオ・レベルでリスクを特定し、対策を立てることができます。先見的なリスク管理は、プロジェクトが頓挫し、戦略目標の達成を妨げる可能性のある混乱を防ぐのに役立ちます。