気候変動の歴史

2024年2月8日

ブログを読む

地球規模の気候変動に対処し、温室効果ガスの排出量を追跡することは、総力を挙げての取り組みとなっています。世界銀行は最近、NASAおよび欧州宇宙機関と共同で、衛星による大気中の温室効果ガス濃度の測定結果を収集および整理する取り組みを開始しました1

地球上では、世界中の企業が、自社の事業やバリュー・チェーンから排出される温室効果ガスの排出量を追跡しています。ソフトウェア・ツールを使用して、ESG目標を達成し、環境規制を遵守するために、炭素排出量削減の進捗状況を測定している企業もあります。

気候変動の緩和をめぐる緊急性はかつてないほど高まっていますが、そのような緊急性を駆り立てるような理解と認識が育まれるには、2世紀ほど要しました。気候変動が、あまり知られていない概念から、世界中で行動を促す広く受け入れられた現象へとどのように進化したかを見てみましょう。

1800年代:初期の気候科学

気候変動に関する理論は、19世紀初頭にまでさかのぼります。後に温室効果として知られるようになった初期の観測は、フランスの数学者であり物理学者でもあったジョセフ・フーリエによるものでした。1824年、フーリエは、地球の大気中のガスが熱を閉じ込め、地球を本来よりも暖かくしていると記述しました。

1856年、アメリカのアマチュア科学者ユニス・ニュートン・フットは、さまざまなガスの組み合わせによる実験を通して、水蒸気と二酸化炭素(当時は炭酸と呼ばれていた)が熱を閉じ込める原因であることを突き止め、「そのガスが大気中に存在すると、地球は高温になる」と記述しました2

皮肉なことに、地球温暖化ではなく氷河期への好奇心が、現代の気候変動の理解をさらに進めるきっかけとなったのです。アイルランドの物理学者ジョン・ティンダルは、地球の大気組成の変化が先史時代の氷河期に影響を与えたかどうかを調べることに着手しました。フットと同様に、ティンダルはさまざまなガスで実験を行いました。1860年代、彼は石炭を加熱して発生するガス(二酸化炭素、メタン、揮発性炭化水素から成る)が大量のエネルギーを吸収することを実証しました3

ティンダルの発見をもとに、1896年にスウェーデンの物理学者スヴァンテ・アレニウスが、大気中の二酸化炭素の濃度の違いが地球の気温にどのような影響を与えるかを示す気候モデルを開発しました。ティンダルと同じように、アレニウスは、火山の噴火による放出物など、地球の氷河期をもたらした可能性のある条件を理論化することから始めました。アレニウスはまた、その当時最新だった排出源、つまり第二次産業革命における化石燃料の燃焼と、それらが引き起こす可能性のある平均気温の上昇についても考慮しました。

アレニウスは、大気中のCO2濃度が2倍になるのに3000年かかり、摂氏5~6度の上昇につながると予測しました。しかし、今日の考え方とは対照的に、アレニウスは地球の気候がそのように変化する可能性に警戒心を抱いていませんでした。むしろ、平均気温が上昇するにつれて、人々は「より暖かい空の下で、今、置かれている環境よりも過酷でない環境で暮らすようになるだろう」と予測しました4

1900年代:気候変動に対する考え方の変化

1930年代、イギリスの蒸気技師でアマチュア科学者であったガイ・カレンダーは、世界中の過去の気温情報と二酸化炭素の測定値を収集し、分析しました。そして、1880年から1935年の間に、地表温度が摂氏0.3度上昇し、大気中の二酸化炭素が6%増加していることを発見しました。この2つの傾向を結び付けるために、カレンダーはアレニウスの方程式を改良し、独自の計算を行いました。最終的に、化石燃料の燃焼による二酸化炭素濃度の変化が、1880年から1935年の間の地球の気温上昇の半分を占めていると結論付けました。

しかし、アレニウスと同様に、カレンダーの気候変動に対する見通しは楽観的で、北半球の作物生産の増加と将来の氷河期の予防を予測していました。[4]しかし、1950年代になると、明らかに異なる見解を示す科学者が現れました。1953年、物理学者ギルバート・プラスは米国地球物理学連合(American Geophysical Union)での発表で、人為的な二酸化炭素の排出により、地球の表面温度は今世紀あたり1.5度上昇していると警告し、大きな話題となりました5

その10年後、アメリカの海洋学者で気候科学者のロジャー・レヴェルは、大気中の温室効果ガスの量を緩和する効果があると考えられている海洋が、これまでの予想よりはるかにゆっくりとガスを吸収していることを示しました。レヴェルの同僚であるチャールズ・デービッド・キーリングは、ハワイに二酸化炭素モニタリング・ステーションを建設しました。マウナロア火山での測定の結果、二酸化炭素濃度の上昇を示す長期的な観測データが得られ、発見者の名に因んでキーリング曲線と呼ばれました。後に「今日の気候変動に対する深刻な懸念の基盤を築いた」として称賛されました6

20世紀後半以降:テクノロジーが後押しする発見

1950年代から60年代にかけて、コンピューター・モデルが気候科学者にとって極めて重要なツールとなる時代が到来しました。最も影響力のあったのは、米国海洋大気庁(NOAA)の一部である地球物理流体力学研究所の研究者、眞鍋淑郎とリチャード・ウェザラルドが作成したモデルです。眞鍋とウェザラルトは、モデルの結果を文書化した1967年の論文で、大気中の二酸化炭素が現在の2倍に増加した場合、地球の気温は摂氏2.3度上昇すると結論付けました7。デジタル・コンピューティングの初期に行われた彼らの予測は、後に発表されたより高度なモデルによる発見と驚くほど近いことが証明されました。

1969年、NASAのニンバス3号衛星の打ち上げにより、気候変動を研究するためのテクノロジーがさらに進歩しました。気象衛星に搭載された機器により、大気のさまざまな部分について前例のない温度測定が行われ、科学者は地球の温度変化をより包括的に把握することができました。今日、人工衛星は引き続き気候変動データを収集するための重要なツールとなっています。最近、NASAはIBMとの共同研究を開始し、人工知能(AI)テクノロジーを使用して衛星データから洞察を引き出しています。

科学者たちが宇宙から得られたデータを分析し続ける一方で、地下で得られる情報を活用する科学者もいます。1960年代以降、古気候学者は南極大陸やグリーンランドなどの氷床や氷河から掘削された氷の円柱である氷床コアの組成を研究してきました。深層氷床コアには、エアロゾルなどの粒子や、数千年前に収集された気泡が含まれており、地球の気候システムに関する歴史的情報を提供しています。南極の氷床コア調査から得られた証拠は、80万年の間に二酸化炭素が180から300ppmの範囲にあったことを示しています。これは、現在測定されているCO2濃度よりも著しく低く、地球が前例のない状況に直面しているという懸念の信憑性をさらに高めています8

気候科学が世界の公共政策に影響を与える

気候変動の重大性と深刻性に関する証拠が増え続けたことにより、1980年代後半に始まった政策立案の世界的な取り組みに拍車がかかりました。

1987年:モントリオール議定書は、地球大気のオゾン層を破壊することが判明した物質の使用を段階的に削減することを世界各国に義務付けました。

1988年:国連は、人間活動に起因する気候変動に関する科学的知識を深めるため、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)を設立しました。

1997年:京都議定書は、先進国が温室効果ガス排出の削減に向けて法的拘束力のある目標を設定する最初の国際条約となりました。

2015年:パリ協定により発展途上国が仲間入りし、200近い署名国が排出目標を掲げました。新しい協定は、世界の平均気温が産業革命前のレベルより摂氏2度以上上昇するのを防ぐことを目標としました。同年、国連は17の持続可能な開発目標(SDGs)を採択しました。その中では、持続可能なエネルギー・システムの導入、持続可能な森林管理、排出量の削減などに重点が置かれていました。

今日の気候変動:政策とイノベーションを通じた緊急の行動

IPCCは、2023年に発行した第6次評価報告書の中で、気候変動による人間やエコシステムへの悪影響は、重要かつ時宜を得た緩和と適応の取り組みによって軽減されると予測しました。IPCCは、2014年に発行した第5次評価報告書以降、気候変動緩和に関する政策と法律は拡大していると指摘しました。

しかし、現在行われている緩和努力も、気象パターンの変化や異常気象など、気候変動の目に見える兆候を食い止めるには至っていません。近年、干ばつ、熱波、山火事、豪雨の増加は、海面上昇や北極海の氷の減少と同様、気候変動に起因すると考えられています。ヨーロッパの気候監視機関であるコペルニクスは、2023年が記録上最も気温の高い年であることを宣言しました。

この憂慮すべき傾向を受けて、ワシントンD.C.からオーストラリアのシドニーに至るまで、政府や企業の指導者たちは、温室効果ガス排出の削減と気候変動との闘いにおいて一層の努力をするよう促されています。こうした取り組みには、エネルギー効率の改善、再生可能エネルギー源への移行、 ESG データのモニタリングおよび分析ツールに基づいた意思決定などが含まれます。

「最終的には、ネットゼロつまりカーボン・ニュートラルの結果を出さなければならない」と、オーストラリアを拠点とするGPT Groupのサステナビリティー担当責任者であるスティーブ・フォード氏は語りました。同社は、モニタリングおよび分析テクノロジーの助けを借りて二酸化炭素排出量を削減している多角的不動産グループです。「それをエネルギーと気候に関連する環境への影響を解決する答えだと考えない人は、間違っているのです。」

排出量の削減に注力する企業が増えるにつれ、サステナビリティーの取り組みを軌道に乗せるためのデータ管理が中心的な役割を果たすようになっています。IBM® EnviziのESG報告対応ソフトウェアは、すべてのESGデータを単一のデータ管理システムに取り込んで管理し、監査可能で金融グレードのデータであることを確信してレポートを作成するための一連のモジュールを統合しています。

 

著者

Alice Gomstyn

IBM Content Contributor

脚注

1”How is satellite data revolutionizing the way we track greenhouse gas emissions around the world?”(ibm.com外部へのリンク)。Data Blog、World Bank、2024年1月25日。

2”How 19th Century Scientists Predicted Global Warming.”(ibm.com外部へのリンク)。JSTOR Daily、2019年12月17日。

3”Climate Change History.”(ibm.com外部へのリンク)。History.com、2023年6月9日

4“CO2, the greenhouse effect and global warming: from the pioneering work of Arrhenius and Callendar to today’s Earth System Models.”(ibm.com外部へのリンク)。Endeavour, Vol. 40, Issue 3、2016年9月。

5”The scientist who raised dangers of carbon dioxide in 1950s.”(ibm.com外部へのリンク)。The Guardian、2023年6月22日

6“Obituary notice: Climate science pioneer: Charles David Keeling.”(ibm.com外部へのリンク)。Scripps Institution of Oceanography、2005年6月21日。

7“Thermal Equilibrium of the Atmosphere with a Given Distribution of Relative Humidity.”(ibm.com外部へのリンク)。Journal of Atmospheric Sciences, Vol. 24, No. 3、1967年5月。

8“What do ice cores reveal about the past?”(ibm.com外部へのリンク)。National Snow and Ice Data Center、CIRES of at the University of Colorado Boulder、2023年3月24日。