カスタマー・サービスのメトリクスは、企業が顧客体験に関する満足度を追跡し、組織のカスタマー・サポートのチームとサービスを最適化するために使用する単位です。
主要業績評価指標(KPI)は、サポート担当者のパフォーマンス、顧客とのやり取りの品質、ユーザー・エクスペリエンスなどのその他の重要なサポートのプロセスを評価するのに役立つメトリクスです。こうしたプロセスはカスタマー・ジャーニーの鍵であり、顧客の問題に対処するための最善の道筋です。
カスタマー・サービスのKPIには、運用メトリクスと組織メトリクスの2種類があります。どちらもカスタマー・サービスのパフォーマンスを総合的に測定し、カスタマー・ジャーニーの全体像を理解する上で重要な役割を果たします。
運用メトリクス: カスタマー・サービス・チームがサポートのプロセスとワークフローをどの程度効率的かつ効果的に処理しているかを測定するメトリクスです。このメトリクスは、数値やデータといった定量的な分析に基づいています。測定対象となる情報には、受信したEメール数、対応した音声通話の件数、応答率などが含まれます。
組織的メトリクス: 運用メトリクスとは異なり、これらのメトリクスはエクスペリエンス・データとも呼ばれ、ビジネスが提供する商品やサービスを顧客が実際にどのように体験するかというコンテキストを強調します。言い換えれば、顧客がビジネスについてどのように感じているか、そして会社と顧客の実際の体験のどこにギャップがあるのかを示す、人間によるフィードバックです。
企業が顧客体験と、顧客の行動、感情、ニーズの複雑さを学ぶことをますます重視するにつれて、カスタマー・サービスのメトリクスは企業の成功と長期的な事業継続を実現する上で極めて重要な役割を果たします。
マッキンゼーの調査によると、「満足と喜び」の両方を経験した人の価値には明確な関連性があることが分かりました。1この調査では、提供された商品やサービスに楽しさと満足の両方を感じた顧客は、クロスセル、アップセルの傾向があり、ダウンセルの可能性は低いことがわかりました。ここで共有された例は保険商品です。企業がすでに満足している顧客の一部に楽しさをもたらすことができれば、収益をさらに8%~12%伸ばすことができる可能性があります。
カスタマー・サービスのメトリクスが重要であるもう1つの根本的な理由は、顧客満足度とのその直接的な相関関係です。平均応答時間、解決までの時間、顧客フィードバック・スコアなどの指標を測定することで、企業は顧客のニーズや期待にどの程度効果的に応えているかという洞察を得ることができます。高い満足度は顧客ロイヤルティーを育むだけでなく、ブランドの評判を強化し、リピート客やポジティブな口コミにつながります。
さらに、カスタマー・サービスのメトリクスは、業務の効率を改善し、顧客の問題に対応するための実行可能なデータを提供します。初回連絡での解決率や顧客維持率といったメトリクスから、企業がどこでプロセスを合理化し、顧客とのやり取りでのフリクションを軽減できるかが明確になります。
初回連絡での解決率が低いということは、スタッフへの研修の改善や、情報システムへのアクセスの改善の必要性を示しています。サポート・チケットでのこうしたボトルネックを明らかにして、迅速に対処することで、企業はリソースを最適化し、より迅速で効果的なサービスを提供できます。このように効率を高めることで、待ち時間や不満が減り、顧客にメリットをもたらすだけでなく、従業員の士気や生産性も向上します。
顧客の苦情の傾向、ネット・プロモーター・スコア (NPS)、カスタマー・エフォート・スコア(CES)などのメトリクスからは、顧客の好みの変遷や問題点についての価値ある洞察を得ることができます。こうした問題には、チケットの量、チケットのバックログ、未処理のサポート・リクエスト件数などが含まれる場合があります。こうしたメトリクスは、顧客満足度、業務効率、新たに生まれつつあるトレンドに関する質の高いデータを提供し、企業が充実した情報に基づく意思決定を行って、継続的な改善を進めていくことを可能にします。
カスタマー・サービス・メトリクスへの投資では、単に性能を測定するだけではなく、顧客の心に響く卓越性と応答性の文化を育み、長期的に持続可能な成長を促進することも重要な要素です。
顧客満足度スコアは、顧客が企業の商品やサービスにどの程度満足しているかを測定し、主なタッチポイントでの顧客の感情についてのスナップショットを提供します。顧客満足度のアンケートは、企業がカスタマー・サービスの強みと弱みを特定するのに役立ち、目標を絞った改善を可能にします。CSATを長期にわたって追跡することで、企業は自社での変更やイニシアチブが顧客体験に与える影響を把握することができます。
測定方法: 企業は通常、連絡または購入の後、顧客に1~5、1~10などの尺度で満足度を評価するよう求めるCSATアンケートを使用して、CSATスコアを測定します。メトリクスには「非常に満足している」から「非常に不満である」までの幅があります。その後スコアを計算します。満足した顧客(特定のしきい値を超える評点をつけた顧客)の数を回答者の総数で割り、100を掛けてパーセンテージを割り出します。
カスタマー・エフォート・スコア特に問題の解決や取引の完了に際して、顧客が企業とやり取りするのがどれほど簡単か、または難しいかを測定します。このメトリクスは、組織がカスタマー・ジャーニーにおけるフリクション・ポイントを理解し、どこでプロセスを合理化して全体的なエクスペリエンスを改善できるかを明らかにするのに役立ちます。エフォート・スコアが低いほど、顧客が自分のニーズを簡単に満たすことができると考えていることを意味し、満足度とロイヤルティの向上につながります。
測定方法:企業は通常、顧客に「問題を解決するのは簡単でしたか」といったわかりやすい質問をリアルタイムで投げかけます。1を「非常に難しい」、7を「非常に簡単」とする1~7までのスケールを使用します。その後、回答の平均を出してスコアを計算し、企業は時間の経過に伴う変化を追跡して、改善すべき領域を特定することができます。
ネットプロモータースコアは、顧客が企業の製品やサービスを他の人に薦める可能性を測定して、顧客ロイヤルティを評価します。回答者を「プロモーター」、「パッシブ」、「デトラクター」の3つのグループに分類し、全体的な顧客感情と成長の可能性についての洞察を得ます。NPSを分析することで、企業は利用すべき強みと対応すべき弱点を把握して、最終的に顧客の維持率を高め、支持を得ることができます。
測定方法:多くの場合、企業は顧客に対して、自社を友人や同僚に勧める可能性を0から10の範囲で評価するように求めるアンケートを送信します。スコアは、プロモーター(スコア9~10をつけた人)の割合、からデトラクター(スコア0~6をつけた人)の割合を差し引いて計算し、最終的に-100から+100までのスコアが得られます。
ソーシャル・メディアのメトリクスは、様々なソーシャル・プラットフォーム上で表明された顧客とのやり取りや感情に関する洞察を提供し、企業が顧客からの問い合わせや懸念にどれだけ効果的に対処しているかを理解するのに役立ちます。応答時間、エンゲージメント率、感情分析などのメトリクスからは、カスタマー・サービスの品質と、ブランドに対する全体的な認識の両方を知ることができます。これらのメトリクスを追跡することで、企業はストラテジーを適応させ、顧客満足度を高め、オンラインで顧客とのより強固な関係を築くことができます。
測定方法: ソーシャルメディアの管理ツールを使用することで、顧客からの問い合わせに対する応答時間、メッセージの受信件数、コメントでの感情を追跡することができます。さらに、企業はアンケートや直接のフィードバックを利用することで、ソーシャルメディアとのインタラクションに関連する顧客満足度を定量化し、この分野でのパフォーマンスをより明確に把握することができます。
顧客離脱率は、顧客が企業との関係を断つ割合を測定するメトリクスであり、顧客満足度とサービスの有効性を示す決定的な指標です。離脱率、または顧客の減少率を分析することで、企業は顧客の不満を示すパターンを特定し、根本的な問題に対処し、顧客維持のストラテジーを改善することができます。カスタマー・サービスのメトリクスという文脈で顧客離脱率を理解することで、企業は顧客体験と顧客のロイヤルティを向上させるための事前対応型の対策を取ることができます。
測定方法:顧客離脱率は、特定の期間に失われた顧客数を、その期間の開始時点の顧客総数で割って算出します。これはパーセンテージとして表現できるため、企業は時間の経過に伴う変化を追跡し、カスタマー・サービスの取り組みの有効性を評価することができます。
初回応答時間(FRT)は、担当者が顧客からの問い合わせや苦情に対して最初に返信するまでにかかる時間を測定します。顧客の問い合わせへのより迅速な対応は、多くの場合、カスタマー・サービスのエクスペリエンスの向上と、サービス品質の印象改善につながると考えられるため、このメトリクスは非常に重要です。FRTを監視することで、企業は対応のプロセスにおいて改善すべき分野を特定し、顧客を尊重して迅速に話を聞く体制を確保できます。
測定方法:企業は、顧客からの問い合わせを受けたときのタイムスタンプと、最初に回答が送信されたときのタイムスタンプを追跡します。その後、複数件の問い合わせにかかる平均時間を計算して明確なメトリクスを取得し、パフォーマンスを評価して、傾向を特定するために長期にわたって分析するこよができます。
平均解決率は、顧客からの問い合わせや問題のうち、所定の時間枠内で問題なく解決された割合を測定するもので、カスタマー・サービスの取り組みの有効性を示す重要な指標となります。平均解決率が高いということは、企業が顧客のニーズや懸念に効果的に対処しているということであり、満足度とロイヤルティの向上につながります。平均解決時間を分析することで、企業はサービスのパフォーマンスにおけるトレンドを特定し、より多くのトレーニングやリソースが必要な領域を特定することができます。
測定方法: 解決された問題の数を特定の期間に寄せられた問い合わせの総数で割り、100倍してパーセンテージを算出します。このメトリクスを長期にわたって追跡することで、問題解決における改善や悪化を監視することができ、カスタマー・サービス・チームの全体的なパフォーマンスについて、価値ある洞察を得ることができます。平均解決時間が長い場合は、より強力なナレッジ・ベースが必要であるというサインかもしれません。
平均処理時間は平均解決時間とは異なります。これはサービスでのやり取りにおいて、顧客が音声通話にかける時間によって決まるためです。これは、カスタマー・サービス・チームの効率を測定するもう一つの方法です。このメトリクスはカスタマー・サポートのエクスペリエンスにとって重要なもので、また重要なカスタマー・サービスの指標でもあります。また、このメトリクスでは保留中や順番待ちの時間は含まれないことにも注意が必要です。
測定方法:企業は平均通話時間、平均保留時間、および通話後のタスクにかかった合計時間を合計し、その合計を受信した通話の数で割って平均処理時間を測定します。担当者はスピードと品質の間で適切なバランスを取る必要があることから、このメトリクスの扱いはやや難しいものです。このメトリクスはEメールの場合でも、すべての時間(メールを開封してから問題を解決するまで何分かかったか)を合計し、受信したチケットの総数で割ることで算出できます。
優先コミュニケーション・チャネルとは、音声通話、Eメール、ライブ・チャット、ソーシャル・メディアなど、顧客が企業とやりとりをする際に優先する連絡手段を企業が把握するための、顧客サービスの運用メトリクスです。こうした選好の理解は、顧客のニーズを満たし、全体的なエクスペリエンスを向上させるためにカスタマー・サービスのストラテジーを調整するうえで不可欠です。顧客が優先するコミュニケーション・チャネルを分析することで、企業はリソースをより効果的に割り当て、選択したプラットフォームを通じて顧客にリーチすることで、エンゲージメントを向上させることができます。
測定方法:企業は顧客にアンケートを実施し、問い合わせやサポートで優先して使用したい連絡手段を尋ねることができます。また、さまざまなチャネルでのやりとりの件数を追跡することで、利用パターンに関する定量的なデータを得ることができ、企業が傾向を特定してカスタマー・サービスのアプローチを調整するのに役立ちます。
顧客維持率は顧客が満足しているサインであり、通常は企業が顧客にポジティブなエクスペリエンスをもたらしたことを意味します。メトリクス自体は、一定期間にわたって企業と取引を続けている顧客の割合です。維持率が高いことは、顧客がサービスに満足し、ロイヤルティを保ち続ける可能性が高いことを示しており、顧客生涯価値の向上と顧客離れの低減につながる場合があります。このメトリクスを理解することで、企業は顧客ロイヤルティに寄与する要因と、新規顧客を獲得するためにどのような対策が必要かを把握することができます。
測定方法:企業は期末時点の顧客数から、その期間に獲得した新規顧客数を差し引いてこのメトリクスを計算します。その後、計算結果を期初の顧客数で割ります。この数値を100倍してパーセンテージにすることで、企業は時間の経過に伴う顧客ロイヤルティの変化を追跡できるようになります。
初回連絡での解決率は、顧客の問い合わせに対する企業の最初の対応でチケットが解決された割合を測定します。このメトリクスは、チームがどの程度効率的にコミュニケーションを取っているか、フォローアップしているか、そしてチームがお客様の問題をどの程度よく理解しているかを示す、非常に重要な指標です。FCRはまた、サービス担当者が顧客から最初に連絡を受けた際、どれだけの情報を求めているかを示す指標でもあります。
測定方法:企業はFCRチケットの件数を、対象チケットの合計数で割り、それを100倍することでFCRを計算します。計算の結果、FCR率はパーセンテージで表されます。企業は、カスタマー・サービス・チームが顧客の要求にタイムリーに応答し、顧客と明確なコミュニケーションを取っていることを示す、高いFCR率を目指す必要があります。
サービス・レベル契約(SLA)は、チームがチケットの優先順位を付け、顧客の期待に応えるのに役立ちます。SLAは、企業と顧客の間で設定される最初の契約であり、企業が期待するサービスのレベルとサービスの測定基準について定めたものです。SLA率は、企業が顧客の期待にどれだけ応えられているか、またその期待に時間通りに応えられているかを示すものです。
測定方法:企業のSLA遵守率は、遵守した契約の件数を契約の総数で割り、その数値に100%を掛けることで算出します。その他のSLAの測定方法としては、特定のメトリクスを定義する、サービス管理ツールを使用してデータを収集する、ベンチマークに対するコンプライアンスを監視する、といったものがあります。
カスタマー・サービスのメトリクスと、オートメーション、人工知能 (AI)、クラウドベースのソリューションといった新興テクノロジーは、企業が顧客とやりとりする方法を変革しています。従来のカスタマー・サービス・メトリクスは、長年にわたってさまざまな業種・業務で収集されてきました。ですが、高度なテクノロジーを統合することで、こうしたメトリクスを強化するだけでなく、顧客とのやり取りの進化するランドスケープをよりよく反映する、新しいメトリクスも生まれています。
自動化されたシステムは定型的な問い合わせを処理することができ、人間の担当者のワークロードを軽減して、チームが処理できるチケットの平均数を増やすことができます。チャットボットやバーチャル・アシスタントが顧客からの問い合わせに即座に対応するため、自動化によって初動時間などの指標を大幅に改善することができます。その一方、生成AIのテクノロジーは自然言語処理(NLP)を使用して、パーソナライズされた回答や提案を作成し、セルフサービス方式で顧客に直接提供することができます。
今後、企業ではカスタマー・サービスのメトリクスを管理・維持するために、カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)システムを含めたソフトウェア・システムの利用が増えることでしょう。CRMはオンラインでホストできるため、先述した各種のテクノロジーのシームレスな統合を促進し、変化する顧客の需要に適応するための柔軟性と拡張性をさらに高めることができます。
カスタマー・サービスのメトリクスとテクノロジーを融合させることで、より応答性が高く効率的なサービス・モデルの整備を促進し、最終的にはカスタマー・サービス・チームのパフォーマンスを向上させることができます。これらのテクノロジーの進化は、より有意義なエンゲージメントにつながり、最終的には競争が激化するランドスケープでの顧客ロイヤルティとビジネスの成長を促進します。
Fueling growth through moments of customer delight, McKinsey & Company、2024年8月13日(リンクはIBM.comの外部にあります)。
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