サステナビリティーのトレンド:2024年に注目すべき5つの問題
2024年2月7日
所要時間:5分

2024年には、サステナビリティーが中心的な位置を占めるようになります。

排出量、環境への影響気候変動への貢献を追跡し、削減する取り組みは、もはや珍しいことでも任意のものでもなく、標準となっています。企業も、政府も、個人も、サステナビリティーを世界的な必須課題とみなしています。先進的なテクノロジー、より厳格な報告基準、利害関係者からのより強力な支援により、環境に優しい取り組みとそれを奨励するインセンティブが勢いを増しています。ここでは、その見どころを紹介します。

ネットゼロ:競争は前進する

近年、ネットゼロ排出(人間活動による温室効果ガス排出量と大気中からの除去量が差し引きゼロになる状態)の達成に対する世界的な注目が高まっています。多くの国々が、2050年までにネットゼロを達成することを約束しており、これはパリ協定の「地球温暖化を摂氏2度未満に抑える」という目標に沿っています。そして、さまざまな分野の企業がサステナビリティーに関する厳格な目標を設定し、再生可能エネルギー源に投資し、二酸化炭素排出量を削減するための革新的なソリューションを開発しています。こうした取り組みは、多くの場合、利害関係者の期待、規制要件、持続可能なビジネス慣行が収益の改善をもたらすという認識によって推進されます。そして、経済的利益をもたらす可能性もあります。調査によると、カーボンニュートラルな商品やサービスの市場は、2050年までに世界経済に10兆3000億ドルの価値をもたらす可能性があります1

ネットゼロを追求するために、組織は2024年にサステナビリティーへの取り組みを2つの方向に集中させます。

  • クリーン・エネルギー:化石燃料から 再生可能エネルギー源 への移行は、サステナビリティー戦略とネットゼロ・イニシアチブの中心であり、昨年の国連のCOP28世界気候行動サミットでも中心的な議題となりました。エネルギー転換計画の一環として、多くの国が二酸化炭素排出量の削減のために、クリーン・エネルギー、つまり太陽光、風力、地熱など、リサイクル可能で再生可能なエネルギー源から発電された電力の利用を増やしています。企業は再生可能エネルギー・プロジェクトに投資し、エネルギー効率の高いテクノロジーや慣行を導入しています。このような取り組みは、多くの場合、より広範な企業のサステナビリティー・イニシアチブと連携して行われて、大幅なコスト削減と環境パフォーマンスの向上につながります。
  • 持続可能なサプライチェーン:持続可能な製品に対する消費者の需要の高まりと、商品の生産と輸送が環境に与える影響に対する意識の高まりにより、サプライチェーン業務のサステナビリティーを高めることを目指す企業が増えています。これには、より環境にやさしい梱包材や生産資材の使用、廃棄物の削減のほか、公正な労働慣行や安全な労働環境の確保など、人間中心の取り組みも含まれます。このような変化には、組織の慣行を見直し、新たなパートナーシップを構築することがしばしば必要となります。企業は、その影響が自社の事業だけにとどまらないことをますます認識するようになっています。その結果、スコープ3の二酸化炭素排出量、つまりバリュー・チェーンの他の事業者が排出する炭素排出量に対処するための措置を講じています。
サステナビリティー報告:記録上の説明責任

サステナビリティー報告において、今年はこれまでで最大の年になるかもしれません。欧州連合(EU)の企業サステナビリティー報告指令(CSRD)は、欧州をはじめとする世界中の企業に対し、事業活動が環境と社会に与える影響について年次報告書を作成することを義務付けており、1月に発効しました。CSRDに加え、カリフォルニア州では2024年に新たな報告義務規則が施行され、世界各国では独自の非財務情報開示と文書化要件が導入されようとしています。

投資家、規制当局、利害関係者は、化石燃料への依存や気象現象に対する脆弱性など、気候関連リスクへのエクスポージャーの開示を企業に求めるようになっています。報告の義務化と自主開示の両方を通じて、企業は気候変動に関連するリスクを特定および管理し、投資家やその他の利害関係者に価値ある情報を提供することで、透明性を高めることができます。

報告は、企業の社会的責任の取り組みにおいても重要になってきています。より多くの企業が幅広い環境・社会・ガバナンス(ESG)目標を設定する中で、進捗状況を追跡し、正確に文書化する方法を見つけることがますます重要になっています。定期的かつ徹底的な報告によってもたらされる透明性は、グリーン・ウォッシング、つまりサステナビリティーや環境への影響に関する誤解を招く主張を回避するための1つの方法です。規制された文書があれば、消費者、政府、その他の利害関係者は、信頼できる情報に基づいてより良い意思決定を行うことができます。

しかし、世界中に存在する広範な報告義務規則を遵守することは、混乱を招き、複雑になる可能性があります。ある調査によると、81%の企業が、増え続ける開示要求に対応するため、新たな役割と責任を設けており、99%の企業が、ESG報告に関連するテクノロジーやツールに投資する可能性が「少々ある」または「非常にある」と回答しています2。例えば、より簡単にESGデータを取得、管理、報告できるソフトウェア・ソリューションに注目する動きもあります。

循環型経済:廃棄物を資源に変える

無駄にしない、欲しがらない:不要な廃棄物を最小限に抑え、資源を最大限に活用することを目指す循環型経済モデルが急成長しています。モノを使い捨てと見なすのではなく、製品の再利用とリサイクルを奨励しています。調査によると、循環型経済への移行は、2030年までに4.5兆米ドルの経済的利益を生み出す可能性があると予想されています3

企業は循環型経済を推進する上での重要な役割を果たしており、それは製品をより耐久性があり、再利用やリサイクルが可能なものに設計し直し、資源の消費を減らし、製品のライフサイクル全体を通じて廃棄物を削減することで達成されます。小売業者、特にファッション業界では、循環型ビジネス・モデルの導入が進んでいます。レンタルや再販プログラムは成長の機会を提供し、埋め立て処分の代わりに修理サービスが導入されています。他の企業は、製品の寿命を延ばす手段や、リサイクルや改修の計画を提供することで循環型経済に関与しています。

生物多様性:ネイチャー・ポジティブを受け入れる

生物多様性の損失は、気候変動とエコシステムの崩壊がもたらす影響の1つであり、地球の未来に重大な脅威をもたらします。世界経済フォーラムの『グローバル・リスク報告書』では、生物多様性の損失が今後10年間の人類への脅威のトップ5にランクインしており、世界のGDPの半分以上が中程度または非常に自然に依存しているとしています4

2022年12月、国連のCOP15サミットで各国が生物多様性に関する世界的なフレームワークに署名し、生物多様性と天然資源の保全に向けた取り組みが加速しました。世界中の政府、企業、非営利団体が、保護地域の設置、悪化した生態系の修復、持続可能な農業や林業の実践の促進などの取り組みを実施しています。

また、「ネイチャー・ポジティブ」という新しい視点にも目を向けています。排出量の文脈における「カーボン・ニュートラル」と同様に、ネイチャー・ポジティブとは、環境破壊を食い止め、回避し、反転させることを指します。これは、樹木の被覆率、生息地の完全性、種の数などの指標を測定することで定量化でき、持続可能な開発原則の指針となります。目標は、2030年までに現在よりも多くの自然を残すことです。それは、2024年に実行可能な措置を講じることを意味します。

持続可能なテクノロジー:より多くのことを行う新しい方法

人工知能(AI)機械学習(ML)、その他多くの先進テクノロジーのブームにより、2024年はテクノロジー主導のサステナビリティーの年となる見込みです。企業が来年、気候変動への影響を検討する際に、いくつかのツールや機能が主要なサステナビリティー目標の指針として役立ちます。

  • 人工知能:AIは、エネルギー消費の最適化、排出量の削減、サステナビリティー戦略の策定における意思決定プロセスのサポートに役立ちます。サステナビリティーを追求するためにAIの能力を活用している組織もあります。例えば、より正確な気候予測の提供、建物のエネルギー使用の最適化、サプライチェーンの無駄や非効率な領域の特定のためにAIが利用されています。
  • インダストリー4.0:製造業者は、モノのインターネット(IoT)クラウド・コンピューティング、AI、機械学習などの新しいテクノロジーを生産設備や業務全体に統合しています。インダストリー4.0を構成するスマート・ファクトリーは、自動化、予知保全、プロセス改善の自己最適化、排出量と総コストの両方を削減する効率性を高める機能を備えています。
  • ソフトウェア・ソリューション:前述のとおり、ソフトウェア・ソリューションは、企業がますます複雑化するESG報告義務に対応するのに役立ちます。例えば、 IBM Envizi ESG Suiteは、何百ものデータ・タイプを効率的に収集し、サイロ全体のデータを分析し、監査対応のレポートを簡単に提供できます。そうでなければ、これは労力とコストがかかるプロセスになります。環境・健康・安全(EHS)ソフトウェアは、データ収集とインシデント報告の合理化、安全検査と認証の追跡、リスク評価と緩和の指針を提供します。一方、環境インテリジェンス・ソフトウェアは、天候を監視して混乱の可能性を検出し、意思決定に役立てることができます。
2024年のサステナビリティーのトレンド:今後1年

2024年に向けて、こうしたサステナビリティーのトレンドは、気候変動対策と環境への影響という差し迫った課題に対する世界的な対応を形作ることになります。これらの主要なサステナビリティーのトレンドを理解することで、組織はより持続可能な未来への道をより適切に進むことができます。

1 Green transition creates $10.3T opportunity for the global economy by 2050, a new report findsibm.com外部へのリンク)、2023年1月

2 Sustainability Action Report(ibm.com外部へのリンク)、Deloitte、2022年12月

3 The Circular Economy Could Unlock $4.5 trillion of Economic Growthibm.com外部へのリンク)、Accenture、2015年9月

4 The Global Risks Report 2020ibm.com外部へのリンク)、世界経済フォーラム、2020年1月

 
著者
Amanda McGrath Writer