最近、IBM Global Senior Partner—Microsoft PracticeのMiha Kraljと座って、コンピューティングの急速な進化について話し合う機会がありました。そこでは、データ・ストレージ、ITインフラストラクチャー、システム・インテグレーター、クラウド・テクノロジーの成長など、さまざまなトピックについて意見を交わしました。パート1では、ソフトウェア開発者とインフラストラクチャー専門家の役割の変化について、パート2では、データ・ストレージの大規模な進化について話し合っています。
Matthew Finio:無限ストレージが素晴らしいのか、それともひどいのかという議論に入る前に、なぜこのような状況に至ったのかを説明していただけますか。
Miha Kralj:はい。ストレージに対する考え方は、時間の経過とともに進化してきました。昔は、層ごとに段階的に構成されていました。各層には異なる目的、異なるコスト、異なる考慮事項がありました。かつては、CPUに非常によく似た、簡単にアクセスできる超高速ストレージがありましたが、非常に高価だったため、その可用性は限られていました。その後、ソリッドステート・ドライブ上にニア・ストレージができました。一方、従来型低速スピンドルドライブや、アーカイブにかなりの時間のかかる極めて低速なものもありました。
その後、私たちはより現代的で使いやすいストレージへと進化しました。CDとDVDについて考えてみましょう。わずか10年前には、あらゆるデータを銀色のディスクに嬉々として書き込んでいましたが、これらはもう入手できません。読むことすらできません。デジタル腐敗が起こり、データは消えてしまいました。
しかし今では、適切なストレージ、特にクラウドベースのストレージがあるため、ストレージは無限で、非常に安価になり、データに永久にアクセスできるという思い込みがあります。今日、何が高コストで、何が速く、何が遅く、何が安いかということが考慮されることはほとんどありません。ストレージはサービス・エンドポイントのようなもので、データを投げ込むと100%の耐久性が期待されます。データが消えることは決してない、と。
つまり、コードやデータに必要なストレージの量を数えなければならなかった不足の時代から、データの取捨選択をする必要のない豊富な時代へと移行しました。ストレージ使用量を節約しようと考える人はもういません。
MF:つまり、安価で耐久性のあるストレージが無限にあるということですね。それはいいことではないですか。
MK:そうですね、そこには2つの側面があります。ここから、主によい側面についてお話します。ストレージ容量は無制限になり、今後何も削除する必要がなくなりました。私が言っているのは、50年前の証書や保険証書といった公的記録だけではありません。つまり、顧客とのあらゆるやり取りが永久に保存され、記録されるということです。
無限のストレージという幻想によって、データの取り扱いに対するまったく異なるアプローチが生まれました。なぜなら、今では突然、データの耐久性が非常に高くなったからです。これだけのデータで何ができるでしょうか。今では、生成AIにより、企業全体からあらゆる情報を抽出できるようになりました。
金融、医療、教育など、あらゆる業界で、過去に使用していたツールよりも100倍、1000倍強力なツールが利用されるようになっています。これは素晴らしいことです。
例えば、過去には、不正行為の検知は常に比較的時間がかかり、手間のかかるプロセスで、大規模な金融取引などにのみ使用されました。今では、ガソリン・スタンドでのすべてのカード決済からチューインガムの購入など、あらゆる場面で完全な忠実度で不正行為を検知する能力と余力があります。
それにより、突如として、あらゆる業界で、そのプロセスがいかに高価であるか、あるいはいかに遅いかについて考えなくなっています。「容量の大きなことを実行すべきか。フルバージョンのフィルタリングの忠実性、制御、ガバナンスを行うべきか」などと考える企業はなく、今では、すべて行えるようになっています。
MF:もう一つの側面はなんですか。悪い側面はどのようなものでしょうか。
MK:そうですね、例えば、欠点の1つは、すべての企業データをインデックス化したときに、そこに何が含まれているかがわからず、それを把握することもなく、アウトプット時にフィルタリングも行わない場合には、公開されるべきではない大量のデータが突然公開されてしまう可能性があることです。
さて、生成AIを使用すると、すべての企業データを使用してトレーニングされたAIが存在し、そうしたトレーニング用データは人間ですら把握していないものであると想像してください。突然、例えば、企業内の検索エンジンと生成AIインデクサーが見つけることができた、給与が記載されたことすら忘れられていたスプレッドシートにアクセスできるようになります。すると、同僚の給与を見ることができたり、機密性の高い人事ファイルに突然アクセスできたりするようになるなど、そういったことが起こるでしょう。
しかし、さらに重要なもうひとつの欠点はサイバーセキュリティー、つまり、データの脆弱性にあります。確かに、私たちは現在、非常に洗練された防御ツールを使うことができるようになった一方で、攻撃も極めて洗練されてきています。サイバー攻撃やサイバーセキュリティー、防衛、抑止力などの状況は、わずか5年前や10年前とは大きく異なります。ほとんどの人は、コンピューターへの攻撃がどれほど攻撃的かつ速いかさえ認識していません。
よい例としては、従来の古いオペレーティング・システム(Windows 7など)をインターネット接続された対策の施されていないシステムにインストールした場合が挙げられます。インターネット回線に接続された、オープンで無防備なコンピューターがいつ検知され、ハッキングされ、ボットに変えられ、分散型サービス拒否マシンに組み込まれるかは、数秒で予測できます。どこにいても、これらすべては数分以内に起こります。
わずか5年または10年前に適用されたセキュリティー・ルールと役割は完全に書き換えられ、再定義された場合、どのように身を守れるでしょうか。サイバー戦争に情はありません。企業はもはや単独で完全に自らを守ることはできません。
MF:解決策はあるのでしょうか。組織はデータをどのように活用すべきでしょうか。
MK:解決策ではないかもしれませんが、推奨事項はあります。プライベートなデータセンターやプライベートクラウドを保護することは、パブリッククラウド・プロバイダーのサイバーセキュリティー防御策を信頼するよりもはるかに困難です。安全を確保したい場合は、パブリッククラウドを使用するほうがよいでしょう。パブリッククラウドには、大手クラウド・プロバイダーが存在するからです。これは、プライベートな環境で購入、開発、保護できるものとは異なります。パブリッククラウドは現在、主にサイバーセキュリティー上の理由でデフォルトになっていますが、理由はそれだけではありません。費用対効果も高くなります。また、非常にスパイクの多いタイプのシステムを組み込めます。こうしたシステムは組織の弾力性を高め、他の企業との合併や買収が驚くほど簡単になります。とは言え、パブリッククラウドが選ばれている最大の理由はやはり、サイバーセキュリティーです。。クラウドで保護される方が、オンプレミスで保護されるよりもはるかに頑健です。
MF:企業はその点を考慮すべきですね。最後に、無限ストレージのメリットについて、まだ触れていない点はありますか。
MKさん:あります。まあ、すべての人にとってメリットがあるわけではないかもしれませんが、一部の人にとってはメリットがあるかもしれません。
新しいビジネス・システムの設計、ビジネス競争、これらすべてが今でははるかにオープンになっています。最新システムは非常に有能ですが、企業は突然、AIシステム、生成AIシステム、AIエージェントといった最新システムによりもたらされた可能性を最大限に活用し、完全にビジネスを革新する方法がわからなくなっています。
これには少し時間がかかるでしょう。それぞれの業界で最初にそれを理解するのは誰でしょうか。これを最初に理解した企業が、競争相手と比べて驚くほどの大きな優位性を得ることになるでしょう。
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