IT組織の果たす役割は従来業務および新たなビジネス・トレンドへの対応により、指数関数的に重要性を増しています。経営のトップはこれらの役割を果たすために組織構造の見直し、最適化を図らなければなりません。
このブログ・シリーズは以下の4パートで構成されており、IT部門が直面する課題を乗り越えるための取り組みについてご紹介します。
IT組織変革のすすめ|迫りくるビジネス・トレンドと課題(1/4)
IT組織変革のすすめ|戦略パートナーとの共創による課題解決(2/4)
IT組織変革のすすめ|IBMとの“DXパートナーシップ”による変革(3/4)
IT組織変革のすすめ|IBMとの共創によるIT組織変革事例(4/4)
本パート「迫りくるビジネス・トレンドと課題」では、IT部門のリーダが取り組まなければならない新たな課題や従来からの課題について整理しています。
2023年、IBM Institute for Business Value(IBV)では、数千ものクライアントとの対話に基づき、今後世界をかたち作ると予想されるビジネス・トレンドとして「成長を賭けた7つの決断」を提言しました。
1.生成AI
生成AIの台頭を皮切りに“AIファースト”での抜本的な業務見直しが迫られていますが、日本企業はAI活用に対する「業務利用へのリスク(著作権・プライバシー侵害など)」や「透明性の確保、データ履歴の可視化」への懸念から、限定的な活用にとどまりAI活用による効果も狭まる傾向にあります。
企業のリーダは、これら利用上の注意事項を理解し適切に取り組むことができる人材・組織を確立・育成し、事業構造改革を進めなければなりません。
2.サステナビリティー
サステナビリティーへの取り組みと収益性の向上は対立するものであると考える経営層は非常に多いようですが、IBVが3,000人のCEOを対象に行なった調査では「サステナビリティーへの投資で5年以内にビジネス成果を上げられる」との回答が80%にものぼりました。
同調査によれば消費者の「環境に配慮したブランドに対しては、より多くのコストを支払う」傾向が強まっていることも判明しています。単なるレポーティングだけではなく、企業は自社の企業価値向上を後押しすべく、必要な取り組みを明確化しなければなりません。
3.あらゆるもののデジタル化
業界を問わず、物理的な製品はデジタル技術によって機能を強化しており、ソフトウェア・プロダクト・エンジニアリングの能力とスキルの必要性が高まっています。また、顧客体験と同等に従業員体験の重要性も認識が高まっており、従業員向けのデジタル・プロダクトおよびデジタル体験の全面的な向上を目指す企業も増えてきました。デジタル志向の世界においては、物理的サプライチェーンと同様にソフトウェア・サプライチェーンおよびソフトウェア人材への投資の重要性が日々高まっています。
4.エクスペリエンス
Open AI社のChatGPTが巻き起こしたセンセーションは記憶に新しいですが実は同社が2018 年に発表した大規模言語モデル(LLM)はあまり話題になりませんでした。現在の爆発的な普及の要因は人間からのフィードバックによって応答が調整され、シンプルなUIで発表されことにあるのだと考えられます。
優れたひらめきだけでは価値を生まず、優れた顧客体験につながることで利益に変わります。企業全体で一貫した体験戦略を策定し、デザイン思考に取り組む姿勢が求められています。
5.空間コンピューティング
ロボット工学と拡張現実(AR)の融合による現場作業や、医療現場では接触デバイスと仮想現実(VR)の融合を通じて疑似的に触れあえる体験が提供されています。
デバイス面でまだ成長余地を残していることから投資を躊躇する企業も多いようですが、確実に技術は進展しており、これらの成長を見越して自社ごとの時間・空間にまつわる課題を明らかにして活用に備える必要があります。
6.レジリエンス
レジリエンスとは「困難をしなやかに乗り越え回復する力」を意味します。今のような挑戦と変化を求められる時代において強靭な企業になるために、付加価値を生まない業務を廃止・簡素化し、業務プロセスを「デジタル・ファースト」の思考により効率化、人材活用・新たなスキル開発に努める必要があります。また、外部のクラウド・ソース、パートナ・アウトソーシングを活用し、スキルや柔軟性を確保してビジネス・サイクルの変動に対応しなければなりません。
7.働き方の再定義
AIやリモートワークの進展により働き方や求められるスキルが大幅に変化しており、企業はデジタル環境、スキルに対して一層投資を進める必要があります。また、中間管理職者の重要性の認識が高まっており、IBVの調査では70%を超えるCEOが人事管理者のスキル向上に投資を増やす予定であることを明らかにしています。ハイブリッドな職場環境は時にメンバーに疎外感を持たせてしまうことがあるため、中間管理職はチーム・メンバーのやる気をかき立て、育成し報奨をあたえる存在にならなければなりません。
このように、IT部門は今、新たなテーマへの対応に迫られています。一方で、すでに以下3つの重要な役割を担っています。
1.長年リニアに拡大し続ける IT業務(IT戦略、ガバナンス、システム企画、開発、運用保守)
企業内のアプリケーション数は増え続け、従来型のシステム企画・開発・運用保守の業務量も比例的に増えるケースがほとんどです。実際はシステム連携、データ・マネジメントなどシステム構造の複雑性は増大しており、この範疇の運用保守だけでも相当な課題を抱えています。
2.近年拡大したIT/DX業務(レガシーモダナイズ、セキュリティー高度化)
レガシー資産のモダナイズは2010年代後半から多くの企業が直面している課題です。経済産業省発刊のDXレポート(2018年)ではこの問題を論点としており、モダナイゼーションもDXの一部と定義しています。
3.近年拡大したIT/DX業務(DX推進)
この領域は、業務革新、新規事業基盤、働き方改革、データドリブン、 IoT、クラウド・ファーストなどいわゆる一般的に取り組まれているDXを指します。
これら従来型の3つの重要な役割に、「成長を賭けた7つの決断」への対応が加わることで、IT組織の業務ボリュームと重要性は指数関数的に上昇します。DXが謡われ始めた2010年代台後半から2020年台初頭、IT組織は大きな変革を求められました。7つの決断により、IT組織はここからさらに変革することを求められます。
IT組織の役割と重要性は大きな拡張点を迎えています。もし従来型の3つの役割に課題があるならばまずはその課題解決に着手する必要があります。先行企業をキャッチアップ出来なくなるリスクを消失させることが極めて重要です。
それではIT組織に内在する具体的な課題を見ていきます。
戦略 - 業務のDXを実現する経営戦略を立案できていない - グローバル・他社の知見/先進事例を自社に取り込めていない 人材 - IT戦略・企画を立案できる高度IT人材が自社にいない - ホスト・レガシーシステムの技術者安定確保に不安がある人材 予算 - 新事業を創出するデジタル領域への投資予算を確保できていない - 固定費が肥大化しコントロール出来ない システム - システム老朽化や肥大化、事業サイロなシステム乱立により複雑化し、システ ム管理/維持に苦慮している(技術的負債問題)
特に人材については顕著な課題があることが明らかになっています。
IPA DX白書2023によれば、2023年度の回答では「量の不足」対する認識が米国対比で約4倍、「質の不足」に対する認識が約2倍と大きく差があります。加えて量、質ともに「大幅に不足している」の回答は2022年から20%近く増加しており改善のきざしが見られない状況です。
このように、企業として新たな取り組みが求められる一方で、IT組織は解決の難しい多くの課題を抱えていることがわかります。次のパート2ではこのIT組織の課題に対する解決の方向性についてご紹介いたします。