第二回ではテクノロジー・ビジネス・マネジメント(TBM)の概要とその有用性について説明しましたが、TBMを実装したIT財務管理をビジネス価値の最大化につなげるには、今ある情報だけではなく、必要な情報が何なのかを理解し、それらを適切に可視化することが重要になります。
効果的かつ継続的なTBM実装を成功させる可視化のためには、いくつかの鍵となるアクションがあります。
この回では、A社B社という二社の事例を使って、これらの「鍵」について解説していきます。
二社はそれぞれ下記の課題認識を持っており、どちらもTBMによりIT財務管理を適正化したいと考えていました。
A社:IT部門の残業時間がかさんでいる
B社:ITにおける戦略的投資が行えていない
最初に取り組むべきなのは、ITコストの管理の現状をチェックすることです。
TBMにおけるIT投資の可視化は今ある情報をわかりやすくグラフや表にまとめただけでは意味がありません。
A社とB社はITコスト構造を同じ分類で示しました。
グラフによると、A社のIT投資のうちソフトの割合が5割を超えているのに対し、保守・運用費は1割であることがわかります。この情報では残業代が多い理由が明確ではありません。このため、IT投資として管理している費目の内容をチェックしたところ、グラフに現れているITコストとして管理しているのは外部委託費用のみであり、実態は保守・運用に社内リソースをかけていることが判明し、これが残業が多い要因でした。
B社はソフトが4割弱で保守・運用費が全体の3割を超えていることが分かります。ソフトへの投資が極端に少ないわけではありませんが、投資の内容をチェックしたところ、既存システムの改修がメインであり、実際の戦略的投資はかなり少ないことが明らかになりました。
このことから、この分類では両者ともにIT投資の実態を把握するのに十分ではなく、認識している課題とは異なる、見えていなかった課題があることが分かりました。
両社ともに、現状のITコスト管理情報では問題があることがわかりました。それをどのように改善するかが目的になります。
目指すべきゴールが明確でないと、管理すべき項目や内容が適切でなくなり意味をなしません。
両社はそれぞれ真の課題の解決のために下記のように目的を設定しました。
A社:これまでITコストとして管理できていなかった社内リソースの実態も把握できるIT投資管理へと改革を行う
B社:それぞれのプロジェクト情報など投資の種類や目的も連携し投資内容の実態をリアルタイムに把握できるIT投資管理へと改革を行う
最後に現状と目的の差分を埋めるための方針策定と取り組みの優先順位を設定します。
A社はIT投資の実態把握のために、IT投資範囲の定義を見直すことになりました。
今までは社内リソース(IT部門の人件費)が含まれていなかったため追加し、IT関連の教育・研究費は対象外としました。
| IT費用に分類する項目 | IT費用に分類しない項目 |
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B社は費目に目的やプロジェクトとの紐付けができるような管理方法を導入することにしました。
まずは投資の目的を戦略投資か、維持のための投資か分類ができるよう管理項目を増やし、またプロジェクト管理方法を見直し、プロジェクトコストの費目はベンダーの見積記載費目ではなく全社共通に定義した費目で管理することにしました。
加えて、両社共に次の取り組みも行いました。
これらはTBMを実装するすべての企業が対応すべき事項です。
| # | 取り組み内容 | 解説 |
| 1 | 変更された費目や項目は、IT部門だけではなく、ビジネス部門、財務部門が理解できるよう、全社共通化を図る | これにより可視化された情報を通じて全社戦略に即したIT投資が行われているのか、説明をIT部門がしなくても把握できるようになります。 |
| 2 | IT投資に関連した費目やデータ項目の定義を行ったが、現時点で取得できるものなのか確認が必要 | 取得できない項目であった場合は、情報を作るためのプロセスを追加する必要があります。 |
| 3 | 目的に向けた取り組みは、一度に全てを完成させるのではなく、実現が容易なところから導入する | 対応期間の長さ、対応範囲の広さにより実現の難易度が上がります。優先順位付けをし、効果を見据えながら全体に波及させると良いでしょう。例えば、新規のプロジェクトから変更していくなども1つの手です。 |
| 4 | 定義した情報を管理できる機能(ツール)を導入する | 良いものを定義しても、定義の変更による負担や新たな属人化を招く可能性もあります。ツールを導入することで、業務の負荷低減や継続性の維持につながります。 |
ここまでTBM実装の成功には、現状の把握、目的の設定、それらのギャップを埋めるための取り組みが鍵となることを解説してきました。
これらに加えて、客観的な視点を持つ第三者(パーソナルトレーナー)の伴走があることで、より効率的かつ効果的にTBM実装を進めることができます。
次回はFinOps/TBMを実現するツールについてご説明します。