AI時代のカスタマー・トランスフォーメーション〜第3回:人とAIの協業がもたらす本質的な価値創造

AI時代のカスタマー・トランスフォーメーション-集合写真

AIは顧客行動や企業の業務プロセスのありようを根本から変えつつあります。いま問われているのは、AIファーストの変革が提起する「人間の価値はなにか」「人間が担うべき役割はなにか」という問いに対する対応です。企業は顧客フロントにおいてなにを考えなければならないか、AI時代のプロフェッショナルに求められる資質という視点を織り交ぜて深掘ります。

AIは「下敷き」であり、人間は「肉付け」をする

高田:AI変革の壁としてさらにあげるとしたら、変わることへの人間の不安や心理的な抵抗もあるのかなと思います。実際にCMO Studyを経営者の方々にご説明すると、AIがこれまで積み上げてきたものを不要にすることへの一抹の寂しさを抱かれていることが多い。
私自身もAIを推進していながら正直に言えば、自分が愛したマーケティングという仕事、人の心を考え抜く楽しさがなくなっていくのではという寂しさを感じる時があります(笑)。
皆さんは現場でどのような変化を感じていますか。

佐々木:それには共感するところはありますが、マーケターという仕事の本質が変わるわけではないとも同時に思います。確かにAIは高速かつ精緻にアウトプットを出してきますが、あくまで「下敷き」でしかありませんし、実際に私が製造業のお客様と進めているのはそこからの人間とAIの協業です。AIの下敷きを見て「ここが足りない」「これは現場の感覚と違う」と、自分の経験に基づいて「肉付け」をしていく仕事の仕方へのシフトに取り組んでいます。AIが提示する8割の正解を、残りの2割でどう独自の価値に変えるか。そこに人間の醍醐味が移ってきたのだと思います。

山本:営業変革のプロジェクトでも同様です。私が担当するどのお客様でも初期に、人間の営業はAIに置き換えられてしまうのかという問いかけが必ずありますが、実際にPoC(概念実証)や実装をご一緒させていただくうちに、一部のルーティン業務を除き、人間の営業が生み出す価値が自社の強みであるという点を再認識されます。AIはたたき台や気づきを即座に提供してくれますが、特に営業業務については、 実際に現場へ足を運び、顧客と対面して得たアナログな情報や肌感覚、経験に勝るものではありません。「AIをパートナーとして使いこなし壁打ちしながら、より洗練され魂のこもった仮説や想いをぶつける」ことこそが、AI時代における営業の差別化要因になると思います。

IBV - AI時代のカスタマー・トランスフォーメーション-集合写真1

高田:経営者の方々とお話しすると、そういった判断に必要なノウハウや感性は、実務を経ないと身につかないのではという懸念を持たれる方も多くいらっしゃいます。

佐々木:確かに若手育成の観点では、最初から「下敷き」がある環境で育つ世代が、どうやってその「肉付け」のための経験を積むのかという懸念はあります。しかし、知識やスキルが代替されるからこそ、早い段階から「何をやりたいか」を定義するディレクション力や、自分の感性を磨くことに集中できる時代だと考えていくべきかと思います。こういった変革も含めてご提案していくことが私たちの役割ですね。

AI時代のカスタマー・トランスフォーメーション

高田:お客様企業だけでなく、あるいはそれ以上に、私たちコンサルタントもAIによる影響がありますね。カスタマー・トランスフォーメーションを担う私たち自身の変革について、どのように考えていますか。

中矢:AIは業務の内製化を促しますし、私たちがやっていた多くの業務も確かにそこに含まれますね。一方で、テクノロジーを入れればすぐにそれが実現できるわけではありません。AIの進展はむしろ、現場に深く入り込み、共にリスクを取りながらゴールを目指す「伴走型」の支援の重要性を増していると感じています。お客様の意思決定を共に担うという点では、ある意味コンサルタントとしての原点回帰という側面もありますね。

新井:同じ認識です。コンサルタントとしてやるべきことは、お客様にとってどう新しいテクノロジーを活用してビジネスを作っていくのかということであり、その本質は変わらないと思います。

高田:コンサルティングの原点というなら、課題・論点設定、すなわち「問い」を立てることで、これは人間にしかできないだろうと。

中矢:そうですね、テクノロジーが進化すればするほど、「なぜそれをやるのか」という目的の設定と、「これでいく」という最終的な意思決定。この「始まり」と「終わり」の二端をデザインすることが、コンサルタントの本質的な仕事になるはずです。

山本:ツールを導入することではなく、お客様のビジネスやその先にいるお客様にコミットしていくことが私たちの仕事ですよね。そこでの私たちのユニークネスとしては自社の変革ノウハウも組み込むことで、要は経験をお客様に提供していくこと。これはテクノロジーが変われど変わらない本質的な価値で、むしろ重要性が増していく役割なのではとも感じます。

高田:IBM自身もグローバル事業会社として自社でのAI変革に取り組み、顧客フロント領域においても高い成果をあげていますが、これらを「クライアントゼロ」事例としてお客様にご紹介しているのはまさにそういう価値をお客様に提供していきたいからですね。

IBMのカスタマー・トランスフォーメーション概要。Marketing、Sales、Commerce、Serviceの4領域とAIファーストの業務変革を示す図

新井:ただその手段としてのシステム開発などはあり方が変わるでしょうから、積極的に私たち自身が、新たな価値やスキルを求められていることも間違いではありません。お客様へのサービスのご提供の仕方として、例えばこれまでは既製服であるソリューションパッケージに合わせるアプローチも多かったわけですが、弊社で発表しているIBM BobといったAI駆動開発ツールを取り入れていくと、よりオーダーメードに顧客体験を追求するアプローチが主流になっていきます。つまり先ほども話に出た、人による「肉付け」が競争力や差別化に不可欠となっていくわけですから、私たち顧客フロント領域のコンサルタントは顧客体験を中心に、こういった新たな手法を身につけることで、ますますお客様に価値発揮していく存在である、そうなっていかなければならないと考えています。

佐々木:コンサルティングプロジェクトのデリバリーにおいてもAI活用をさらに進めていく必要があります。それによってお客様への提供スピードも高速化しますが、コミュニケーションスキルとディレクションスキルを高めていくことができます。私たち自身がAIを使いこなし、能力を拡張して、AIコンサルタントとして変革していくことが、お客様への価値提供を高めるために必須の取り組みになっていきますね。

高田:最終的には、人間がAIのアウトプットに「意味」と「文脈」を与え、魂を吹き込めるかどうか。感性と経験を武器に、より本質的な価値創造へシフトする。AI時代のカスタマー・トランスフォーメーションとはなにか、そしてそこにおけるコンサルタントの役割も再認識できたように思います。私たちカスタマー・トランスフォーメーション事業部ではマーケティング・セールス・コマース・サービスのAI変革を、顧客体験を起点としたEnd-to-Endで実現するべくお客様とともに歩んでいきたいと思います。

みなさん、本日はありがとうございました。

寄稿者

高田 晴彦

コンサルティング事業本部, カスタマー・トランフォーメーション事業部 理事・パートナー

中矢 徹

コンサルティング事業本部, カスタマー・トランスフォーメーション事業部, アソシエイト・パートナー

新井 貞敏

コンサルティング事業本部, カスタマー・トランスフォーメーション事業部, アソシエイト・パートナー

山本 博人

コンサルティング事業本部, カスタマー・トランスフォーメーション事業部, シニア・マネージング・コンサルタント

佐々木 祐輔

コンサルティング事業本部, カスタマー・トランフォーメーション事業部, シニア・マネージャー・コンサルタント