未来型人的資本経営THINK第3回:講演会開催レポート

スーツを着た4人のビジネスマンが白い椅子に座り、タブレットやノートパソコンを使って仕事について話し合っています。

寄稿者

児玉 都

日本アイ・ビー・エム株式会社 組織人材変革コンサルティング部門 パートナー

未来型人的資本経営THINKシリーズ

日本アイ・ビー・エム株式会社 組織人材変革コンサルティング部門

本記事では2025年5月22日、IBM Innovation Studio(IBM虎ノ門オフィス)にて行った「クラウド/AI全盛時代の人事業務刷新と人事システムの未来戦略」をテーマとした講演会の様子をお伝えします。

本イベントでは、テクノロジーと人事の融合によってもたらされる変革の可能性について、経営・人事の各視点から議論を深めました。

ビジネスウェアに身を包んだ3人がテーブルに座り、背後にはノートパソコンとスクリーン。

1.登壇者と講演内容のご紹介

矢島 孝應 氏(NPO法人 CIO Lounge 理事長、元大手企業CIO)

「日本のIT化が遅れた3つの理由と、これからのDX活用」

Panasonic、ヤンマー等でCIOを歴任された矢島氏は、長年の経験とグローバル視点をもとに、日本のIT化が立ち遅れた三大要因を構造的に解説。情報システムを経営戦略の中核に据える視点が不足していることを指摘し、松下幸之助氏の言葉である“素直な心”をもって既成概念を見直すことが、DX時代を切り拓く鍵であると強調されました。

日本のIT化が遅れた三大要因

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要因

比較

1

資金投入への見方

日本:終身雇用により人件費が固定されているため、ITへの投資はコスト増

海外:投資による業務効率化は人件費の削減に直結するため、費用対効果あり

2

DXレポート(2018)の解釈

日本:情報システム部門マターとして、2025年の崖をシステム老朽化対応と解釈し問題が矮小化

海外:経営アジェンダとして、DX実現による企業価値向上を目指す必要性があると解釈

3

企業内情報システム要員(SE)の扱い

日本:人材不足によるアウトソーシングがデフォルト化
外部ベンダー依存による当事者意識の希薄化

海外:内部人材のITリテラシーが高いことによる、共通言語化と自分事化(読み・書き・IT)

中村 拓 氏(日本IBM 執行役員 人事担当)

「日本IBMにおける人事変革 ~AI活用と従業員体験の進化~」

IBMが掲げる「教育に飽和点はない」という価値観に基づく人材育成の在り方と、従業員問い合わせ業務の生産性向上40%という成果を上げたAIエージェント「Ask HR」の導入事例を紹介。CHROとしての実体験を伴う変革の道筋と乗り越えてきた苦悩を語っておられ、人事変革の本質は“効率化”ではなく、“従業員体験の質的向上”にあるというメッセージが印象的でした。

特に以下のポイントが示唆に富む内容として参加者の関心を集めました:

  • 「変えること」「変えないこと」の判断は、企業としての覚悟を問われる意思決定
  • 成功の鍵は「①断捨離」「②シンプル化」「③自動化」という変革の順序
  • 「大きく考え、小さく始める」ことで失敗から学び、継続的に進化させる

2. パネルディスカッション:人的資本経営の実現に向けた論点

中村氏に加え、人事・組織変革領域コンサルティングを牽引する立場として私も参加し、進行役としてHRテクノロジーコンソーシアムの香川 憲昭氏に登壇いただきました。

以下のような実践的視点が出ました。

  • 適材適所の再定義(矢島氏)
    • 米国企業はビジョン・課題を会社が定義し、必要な人材をアサインしていくのに対し、日本企業は既存の人材をどう生かすかに終始している。適材適所でどうやったら気持ちよく働いてもらうかを真剣に検討することが人的資本経営では重要である
  • 目に見えないリターンを信じる(児玉)
    • 人への投資は短期的にROIが出にくい、かつビジネスインパクトが示しづらい面はある。だからこそスキル向上がもたらす未来の可能性に対して信念をもって取り組む姿勢が重要。それがないと継続できない
  • Pay for Performanceの文化醸成(中村氏)
    • 給与・報酬に対する投資は継続的に必要だが一律賃上げのような形で本当に人のパフォーマンスが変わるのかは疑問である。IBMは実力主義であり年功序列ではないので、成果を出したものには大きく報いる、一方でキャリアを考えて今必要なことをする方に対してはその成果に見合う報い方をするなど、メリハリをつける。この「Pay for Performance」の考え方がもっと浸透すると良い
  • スキル投資と自律的な学びを促す仕組み作り(児玉)
    • 報酬以外にも、スキルアップ出来る環境への投資が今後ますます重要になる。産業構造が根本から変化している業界において変化に対応し持続的に成長する企業であるためには、将来的にどんなスキルが必要とされるのか未来予測し、早いタイミングから多くの人材がリスキルに取り組む必要がある。どう予測するかに加え、自律的に学びスキルアップ出来る環境・体験をどのように提供するか、これらを設計することが人材戦略の肝となるようなものと考えている
  • 過剰な人事サービスからの脱却(中村氏)
    • 日本企業の人事業務は過剰サービスになりがちだが、企業の成長のためのパーパス、人事戦略、投資に沿って価値を生み出す業務を洗い出すことが大事である。断捨離は覚悟が必要だが、客観的な意見としてIBMがお手伝いできるところもある
  • 経営主導の判断文化の必要性(矢島氏)
    • どの業務を断捨離するかの判断は経営層ややホワイトカラーがドライブできるかどうかにかかっている。現場主導である日本企業が依然多く、この業務はいらない、と言いづらい雰囲気があるのではないか。欧米ではホワイトカラーがはっきり決める文化である。日本の現場力はこれまでの日本の成長の大きな要因だが、今後はトップダウンで戦略的な判断を落としていく方向性も取り入れなければならない

今回のイベントを共同企画した団体「一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム」では、人的資本経営の最前線の好事例を世に発信することにも注力しておられます。今後も連携しながら、CHROの方々向けの情報発信や意見交換の場を作って参りますので、ご興味のある方は是非ご参加いただければと思います。