本記事では昨今の主要テーマである人的資本経営の実現に向けてクライアントの皆様が優先的に取り組んでおられる課題についてフォーカスして触れ、IBM流の組織人材変革のアプローチをご紹介します。
個々の人材の資質・能力に投資をし、ヒトの成長を中長期的な企業価値向上に繋げるという意味合いの「人的資本経営」という言葉が市場に登場して約3年が経ちました。
不確実な市場で競争力を持続させるための将来の事業ポートフォリオを描きその戦い方を示すのが経営戦略です。「戦略を実現するには、どんな人材がどこに、どれだけ必要なのか?」「今の人材とのギャップはどのくらいあるのか?」こうした問いに対して、明確な答えを出すことは簡単ではありません。
部門をまたいだ情報の可視化ができていない、要員計画を描くためのリソースが足りない、人的資本KPIの開示業務に追われてしまう…。人的資本に“戦略的に投資する”以前に、立ちはだかる壁は多く存在しています。どんな人材にどのような機会を与えどう報いるか、投資先の選択と集中の方向性を決定する際にはこれらの壁をまず一つ一つ乗り越える必要があります。
また、昨今の人的資本経営レポート情報開示の外圧で、各種人的資本に関するKPIを網羅的に情報開示する業務自体が目的化してしまうリスクも増えました。CHROレベルでは戦略が明確であっても、情報開示の業務や実際の人事施策検討の現場とは切り離されているケースも多く、戦略が現場に浸透しないまま義務的な情報開示業務に時間を使う事は、本来避けたい状況ではないでしょうか。
投資家に響くメッセージを打ち出すために本来優先すべきは、自社独自の中長期的な企業価値向上のストーリーと連動して人的資本の投資領域の選択と集中を十分に検討することだと考えます。
IBMでは、常に未来から逆算して考える視点を大切にしています。未来の事業構想に必要な組織やスキルを描いた上で、そこに至るために“何を伸ばし、何をやめるのか”を徹底的に考える。強い選択と集中は時にリスクはありますが、人の領域に関しても、従来取り組んでいた施策をやめる判断をし、リソースを集中すべき分野に振り向けることを積極的に行う風土があります。自社における実践の中の成功・失敗経験からの学びも踏まえながら、網羅性ではなく戦略性を重視した人的資本投資方針策定、及びその実現に向けた戦略的な要員計画プロセスの実装、タレントマネジメント構想策定のご支援をしています。情報開示のその一歩先の人的資本経営の実現に向けたIBM流の視座を本シリーズの中でご紹介していきます。
人的資本経営の根幹にあるのは、戦略的人事の実現です。そのために不可欠なのが、統合的なタレントマネジメント基盤の構築です。しかし多くの日本企業では、”戦略に直結する人材データが存在しない”
“データがあっても施策に活かせない”という課題が根強く残っています。
IBMでは、グローバルおよび日本企業の両視点を踏まえたタレントマネジメントシステムの構築を支援してきました。ポイントは、「技術導入」そのものではなく「戦略との連動」にあります。タレントマネジメントシステム導入の現場では、戦略・人事施策と同時並行で検討を進められるケースは実際は多くありません。持つべきデータの定義を、人事戦略と紐づいて検討していく体制が作れていないことが1つの大きな壁になっているのです。
例えば、以下のような目的設計は必ずスタート地点で重要になります。
これらの問いに対し、導入プロジェクトに関与するメンバーが共通理解と目的意識を持つことが、システム投資の効果を最大化する鍵です。
戦略との連動が難しい背景には、各企業それぞれ、人事組織のサイロ化や経営と現場の連携不足などといった構造的課題があります。これらも踏まえ、IBMではタレントマネジメントシステムの構築において、システムの構想・実装と並行し組織風土や運用体制そのものの変革もご支援しています。
具体的なタレントマネジメントシステム・データ活用の勘所も、本シリーズにて詳しくご紹介していきます。
最後に触れておきたいのが、人的資本への投資を“現実の行動”に変えるための、土台づくりです。
人的資本経営で注目されているテーマとして、ダイバーシティの実現や人材獲得・能力開発への投資が上位に挙げられますが、経営から見ると人事部門はコストセンターとしての側面が強く「その施策は本当に事業成長に繋がるのか」「ROIは明確に示せるのか」と貢献度に対して厳しい目を向けられることがあります。投資ですからROIが求められるのは当然のことですが、人事部門からは「ヒトの成長と事業の成長の直接的因果とそのインパクトを数値化するのは難しい」という声をよくいただきます。
IBMでは、人的資本への投資余力を生み出すことで価値向上へのインパクトを示せるよう、ノンコア人事業務の構造改革をご提案しています。例えば、給与・勤怠など標準化可能な業務は、外部BPOとシステムの活用によって業務効率とコスト削減を両立可能です。IBMの強みは、業務分析・再設計から実行・運用まで一貫して支援できる点にあります。特に複雑且つ正確性が求められる給与関連業務では、高度なシステムによる効率化・業務自動化等の実績も豊富です。
このように間接機能の見直しによって削減できたリソースは、戦略的人事企画・人材開発・DE&I推進などの成長ドライバーに再配分することができます。わかりやすくROIが示せるため、経営への説得力が増し、より価値向上直結の施策を進めやすくなります。
BPO(Business Process Outsourcing)を活用した構造改革のIBM流アプローチやお客様との変革実例についても本シリーズにてご紹介していきます。
人的資本経営は、単なるKPIの開示や制度導入ではなく、経営戦略に資する人材戦略を構想し実行し続ける力にかかっています。未来を見据えた構想と、そこに至るための実行プロセスをきちんと描くこと、実現のために必要な組織風土や人材の意識改革も含めて包括的に進めていくことです。多くの日本企業が未来型の人的資本経営を実現できるよう、私共も日々進化してまいります。