九州を主な営業基盤とする国内最大の広域展開型金融グループである株式会社ふくおかフィナンシャルグループ(以下、FFG)は、長期ビジョンに向けて、ビジネス・IT・人財・組織のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進しています。グループ全体でアジャイル開発を積極的に活用し、個人向けバンキングアプリや法人向けポータルサイトの充実、営業支援システムの強化を図ってきました。現在、グループ全体で約500名超のデジタル人財を擁し、スピード感を持って取り組みを進めています。毎年多数のアイデアを生みだし商品化も実現していますが、その原動力はどこにあるのでしょうか。FFG DX推進本部 副本部長の山崎圭介氏と、FFGの共創パートナーである日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、IBM)の山方一晃に話を聞きました。
FFGがデジタル化に向けて大きく舵を切ったのは2016年のことです。「iBank構想」を掲げてスマートフォンを活用した新たな金融サービスプラットフォームを立ち上げ、2021年には地方銀行として初めてのネット専業銀行である「みんなの銀行」を開業するなど、チャレンジを続けています。
その基盤としてFFG内部では2018年4月にアジャイル開発体制を導入し、社内のデジタル人財によるシステム開発の内製化に着手。当時は毎年多数のデジタル化のアイデアを募り、相応に実績も上げてきましたが、取り組みは特定の部署に偏りがちでした。そこで2022年4月にDX推進本部を立ち上げて、DXの全社展開を目指してきました。
「スピード感を持ってDXを一気通貫に進めるためには内製化が必要ですし、組織風土の改革にも取り組まなければなりません。しかし、社内のリソースやノウハウは不足しています。そこで2022年11月にIBMと戦略的パートナーシップを締結し、プロダクト開発を通じてノウハウを蓄積し、段階的に内製化を進めています」と山崎氏は話します。
この戦略的パートナーシップのテーマとされたのが「共創」です。DX組織として必要とされるプロダクトの開発、DX人財の育成、先進テクノロジーの導入、手法やプロセス等のナレッジ共有などに共に取り組むことで、独自のDX戦略を加速させていくのが狙いでした。
「お互いに異なる文化や知見を持っています。技術面でのサポートに加えて、私たちとは異なる観点から、本来はこうあるべきというアドバイスをもらえることを期待しました」と山崎氏はパートナーシップの狙いを語ります。
その後、共創によって複数のプロダクトが開発されました。その代表例は、個人向けのバンキングアプリと法人向けの事業者ポータル「BIZSHIP」です。個人向けバンキングアプリは100万ダウンロードを超えています※。
※「福岡銀行アプリ」「熊本銀行アプリ」「十八親和銀行アプリ」の累計口座登録ユーザー数。2024年9月11日付け、ふくおかフィナンシャルグループのニュース・リリース参照
山方は「お客さまのニーズにどのように応えられるかを議論しながら、アジャイルで迅速に開発しました。ものづくりでは、とかく発注者と受注者という関係になりがちですが、両社のメンバーがワンチームで開発したことでパートナーシップが深まりました」と話します。
「日本IBMとはこれまでも基幹システムでのお付き合いがあり、安心感を持っていましたが、デジタル・チャネルを構築するプロダクトを無事リリースできたことで、社内からより高く評価されるようになったと感じています」(山崎氏)
これに対して山崎氏は、「向かうべき方向を共有して、過度な遠慮をしないで意見をぶつけ合えたことがよかったと思います。そのために日頃から互いをリスペクトしてコミュニケーションをとってきました。別々の会社が一緒に働くわけですから、摩擦があって当然です。健全なコンフリクトこそが成功の鍵です」と振り返ります。
またFFGでは、優先度の高い案件をアジャイルで柔軟に開発する一方、正確性や安全性が優先されるシステムはウォーターフォール型も取り入れるなど、目的に応じた使い分けを行っています。
さらに、共創を促進するために設けられたのが、プロダクト共創の場「KaTaRi-Ba」です。パートナー企業も利用できるようにして物理的な距離を縮め、その場でアイデアを出し合い、一緒に議論することで相互理解を深めることができました。
「内製化を進める上で苦労したのは、人財の確保です。現在、グループ全体で約500名超のデジタル人財がいますが、採用は競合も多く、なかなか思うようにいきませんでした」と山崎氏。専門人財向け人事制度を導入したり、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を策定するワークショップや1on1のコミュニケーションを実施したり、人財の定着に向けてもさまざまな工夫をこらしてきました。さらに、エンジニアが働きやすい環境やツールの整備も行いました。
業務部門の現場を巻き込むことも大切です。社内SNSや社内兼業によって職域の壁を超えて交流する仕組みを整え、「みんなデDX!」というキャッチフレーズのもと、ひとつの営業店を2名以上の本部行員がサポートする「営業店サポーター制度」と営業店の若手行員を中心とした「実践ワークショップ研修」を実施してきました。
「『営業店サポーター制度』では開発者がサポーターとして担当する店舗でアプリ紹介等の営業活動を行います。自分たちが作ったプロダクトを直接推進することで営業現場の生の声を聞いて気づきが得られるだけでなく、営業店側も意見を言いやすくなるというインタラクティブな関係が構築できています」(山崎氏)
「実践ワークショップ研修」では、プロダクトの開発者も交じって、デジタル・ツールの利用デモやお客さまへの活用方法などをディスカッションしました。16の会場で実施され、営業店の若手行員1,000名が参加しました。
「現場がプロダクトをより深く理解することで、DXを続けていく機運が高まっています。要望も届きやすくなり、DX推進に積極的に関わりたいという人も増えています」と山崎氏。一人ひとりの自主性を重んじる社風も追い風になっています。
こうしたDXの広がりは、今後のAI活用においてもプラスの効果をもたらすと期待されています。FFGでは2024年4月にAI戦略グループを新設し、全従業員が対話型AIを利用できる環境を構築するとともに、融資業務支援や社内FAQへの活用など複数の分野で概念実証(PoC)を実施しています。
「AIを起点に、営業改革、業務改革とデジタル施策を組み合わせ、既存のビジネスモデルの変革と新たなビジネス価値の創出につなげ、持続的に収益向上を図っていきます」と山崎氏はAI戦略を語ります。
AI活用を加速させるために、社長をはじめ役員がDX・AIX(AIトランスフォーメーション)への見識を深め取り組み状況を共有する「AIX協議会」を設け、各部署で旗振り役となる「AIXオフィサー」やその実務を担う「AIXクルー」を任命しました。DX推進本部だけではなく、企画部門、事務部門が主体的に取り組むことが重視されているのです。
山方は次のように意気込みを語ります。「AIを活用するには、ガバナンスが不可欠です。コンプライアンスの遵守、リスク回避、セキュリティーの確保のためには、ルールの整備が必要です。これらの観点を十分に整理した上で、FFG様の業務変革を推進する速度を維持しつつ、ユーザーが安心して利用できる開発を行っていきます。組織づくりも含め、今後もFFG様とIBMで新たな取り組みを共に進めていきたいと考えています」
金融サービスの世界では従来のリアルな接点に加えてデジタル接点も急速に広がっていますが、FFGはデジタル施策のみを推し進めているわけではありません。リアルとデジタルをシームレスにつなぎ、お客さま本位のビジネスへの変革を進めようとしています。
山崎氏は「DXの本質はビジネス変革にあります。その先にはお客さま本位の実践があります。まず全行員がDXを“自分事”としてとらえることが真の変革につながると確信しています」と風土づくりの重要性を強調しました。
2,000の組織を対象に、AIへの取り組みについて調査を行い、何が機能し、何が機能していないのか、どうすれば前進できるのかを明らかにしました。
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