※本記事は、2025年9月3日に掲載された「日経ビジネス」からの転載です。
九州全域で金融事業を展開するふくおかフィナンシャルグループ(以下、FFG)は、「一歩先を行く発想で、地域に真のゆたかさを。 」という存在意義を理念に掲げ、先進的なチャレンジに取り組んでいる。中でも注目されるのがDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みだ。内製化を強力に推進し、国内初のデジタルバンクを設立、AI(人工知能)活用にも積極的だ。FFGはデジタルとどう向き合い、今後は何を目指していくのか。同グループのDXをリードする執行役員 DX推進本部長の武重太郎氏に話を聞いた。
—現在の事業展開の状況とDXの位置付けをお教えください。
武重:今年度から第8次中期経営計画がスタートしていますが、今回は10年後を見据えた長期戦略を立て、そこからバックキャストして今後3年間の事業計画を立てました。グループの理念体系も大きく見直し、新たに次のステージに向かうことを宣言しています。
重点取り組みとして「既存ビジネスの変革」「新たな価値創造」「新たな収益の獲得」の3つを掲げ、それらを実現する土台となる取り組みに、外部パートナーとの連携などの「アプローチの革新」と「強靭な基盤造り」を位置付けています。
DXはこの全ての取り組みに関係してきますが、特に大きく影響するのが「既存ビジネスの変革」です。法人向けと個人向けビジネスの新たなアプローチを創出し、質・量ともに顧客接点の高度化を徹底的に追求することが求められています。
—これまではどのようにDXを推進してきたのでしょうか。
武重:DX推進本部ができたのは2022年4月ですが、2016年にiBankマーケティングを設立してフィンテックサービスに先行的に取り組み、それが国内初のデジタルバンクである「みんなの銀行」の設立につながっています。
こうした取り組みは本体から切り離して推進する「出島方式」でしたが、FFG本体では2017年にデジタル戦略部を設けてシステム開発の内製化を開始し、それを全社レベルに広げるためにDX推進本部を新設してDX戦略のグランドデザインを策定、2024年4月にはAI戦略グループを新設してAI戦略のグランドデザインも策定しました。DX推進本部は社長直下の部署であり、トップの強力なリーダーシップのもと、スピード感をもって進めてきました。トップの後押しは大きかったです。
—DXの具体的な取り組みを教えていただけますか。
武重:DX推進のために整備したのが、 「システム化検討プロセス」です。DX投資に関する予算と意思決定権限をDX推進本部に一元化し、各所管部から上がってくるシステム開発要望を、週1回のペースでタイムリーに審議しています。これにより、部門横断的な案件連携が進み、迅速かつ効果的な投資判断が可能となりました。
また、DX推進に不可欠なシステムの領域においては、スピードと柔軟性を兼ね備えたビジネス戦略を支えるシステムアーキテクチャの実現に向けて、 「アーキテクチャCoE(Center of Excellence) 」を設立しました。このCoEは、上記のシステム化検討プロセスと連動し、案件の企画構想段階から社内の有識者によるレビューを実施しています。これにより、アーキテクチャの観点から全体最適を徹底し、経営とシステムの整合性を担保する仕組みを構築しています。もちろん、システムは一足飛びに変わるものではありません。しかし、経営戦略やDX戦略を「鏡」として全体を見渡しながら、常に最適なアーキテクチャを志向するこの取り組みは、持続的な価値創出に向けた重要な要素であると考えています。
DXの取り組みを真に実効性のあるものにするためには、データマネジメントや人財育成、組織風土改革も欠かせません。ビジネスとAI活用を加速するためにデータマネジメントは必須です。また、DXのX(トランスフォーメーション)は組織変革です。不確実性が高く、変化の激しい環境下でも、常に新しい価値を生み出し続ける組織へと変革することが重要です。
—DX推進で最も注力してきたことは何でしょうか。
武重:内製化に積極的に取り組んできたことです。個人向けのデジタルチャネルであるバンキングアプリ、事業者向けポータル「BIZSHIP」、行員が利用する「SFA(営業支援システム)」の3つの大きな開発プロジェクトは全て内製化で対応してきました。徹底的に顧客起点に拘り、価値あるものを早く安く提供することが目的です。
そのために中途採用の強化やデジタルスキルを持つ人財の新卒採用、既存社員のリスキリングなどに取り組み、当初10人程度で発足したDX推進本部はこの3年間で160人にまで増えています。ただ、自分たちだけでは全てに対応できないので、2022年に日本IBMと戦略的パートナーシップを締結し、取り組んできました。
現在バンキングアプリは140万ダウンロードを突破、8割の人が月1回以上利用しています。BIZSHIPのユーザー数は4万先に上り、社内で利用されるSFAには行員が収集した情報や営業ノウハウが蓄積、共有され、社内のデータ利活用に対する組織風土も大きく変わってきました。お客様の状況や変化からニーズを捉え、提案すべき商品や本業支援などを、ネクスト・ベスト・アクション(NBA)として提示する仕組みを整えることで、暗黙知(経験値)を形式知化し、新人でもベテランと同等の営業提案ができるようにしています。こうした取り組みが次のステップへ進むベースになっています。
—DXの成果を上げるためのポイントはどこにあるのでしょうか。
武重:重視しているのはリアルとデジタルのハイブリッド戦略です。例えば、法人ビジネス分野におけるグループとしての強みは、多くの地場企業の経営者と直接向き合い、深くつながっていることです。お会いして直接お話することで生のデータをとることができますし、デジタルチャネルでは利用状況から行動ログが得られます。リアルチャネルとデジタルチャネル、それぞれで得たデータをミックスするのがSFAです。リアルで得た対面情報とデジタルで得た行動ログ(BIZSHIPのどの記事に興味を持たれているかなど)を掛け合わせて営業支援・提案精度を向上させています。これがSFAにおけるNBAの土台になっています。
今後はそれぞれで得たデータをSFAに集めて分析し、顧客起点で次の商材やサービスの開発につなげていくことが重要です。例えば統計データやお客さまの決算書情報、口座入出金などの動態変化、FFG内ハイパフォーマーのターゲティングモデルを組み合わせ、資金繰りやリース、ビジネスマッチングなどの顧客ニーズを特定し、提案につなげています。また、好成績を上げている行員の提案や交渉内容を担当者が必要とするシーンでタイムリーに共有することで営業レベルを均質化するなど、データを活用した新たなアプローチが考えられます。
鍵となるのはAIの活用です。そこで2024年5月にAI戦略のグランドデザインを策定しました。目指しているのはDXからAIX、つまりAIによるトランスフォーメーションです。既存業務の効率化とプロセスの再構築の両輪でAI活用に取り組みます。
ここでもグローバルでAIの知見を持つ日本IBMの存在が活きてきます。本部各部の副部長クラスをAIXオフィサーに任命し、毎月世界のAI活用の最新事情や技術的な進化について情報を提供しています。AIX専用のポータルサイトでは各部のAIの案件状況を見える化しており、各部が他部の取り組みを参考にできるようにしています。毎週開催しているAIX相談会にはすでに200案件が集まっています。
また、3カ月ごとに役員レベルによるAIX協議会を開催し、日本IBMから最新トレンドについてのレクチャーを受けるなど、各部の案件の進捗状況を情報共有しています。トップダウンとボトムアップの両方からAI活用を強力に推進しています。
—銀行が提供するサービス自体はどのように変わっていくのでしょうか。
武重:これまでにない顧客体験と新たなビジネス価値を提供するために、3つのオープン戦略をとっていきます。新規事業を創出するためのオープンイノベーション、金融を機能として提供し顧客企業のサービスとの融合を図るオープンファイナンス、そしてケイパビリティーを獲得するためのオープンアライアンスです。
すでにOpenAIやエクサウィザーズと金融業務の効率化と高度化のための業務提携、みんなの銀行のノウハウを生かしたBaaS(Banking as a Service)によるオープンファイナンスを推進しています。BaaSにより、顧客企業の先にいるお客様にリーチできるようになり、間接的な顧客接点が広がります。また、企業の業務システムに入り込むことで幅広くデータを集め、さらにきめ細かいサービスにつなげることができます。
DXは行員の働き方や営業のアプローチに変化をもたらしますが、最終的には「地域のゆたかさ」につなげることを目指しています。若手の行員でも企業経営者と直接会えることが銀行の強みです。リアルな接点(対面)で得られるリアルな顧客情報を最大限活用します。そのためにも、取引記録簿作成や提案準備は音声AIやSFAによって効率化し、お客様と向き合い、会話し、課題の抽出やその解決にできるだけ多くの時間を使えるよう、DXによって事務や準備作業の効率化を図ります。FFGで培ったDXのノウハウやAIソリューションを顧客企業のDXや生産性向上にも役立て、「顧客のDX」を支援。さらに、サプライチェーン全体を視野に入れて金融機能を提供し、「産業のDX」にもチャレンジします。加えて、産業や業界の垣根を越えた連携を進めることで、 「地域のDX」へと波及させていきます。最終的には、地域のGRP(域内総生産)を上げて経済を活性化し、地域の真のゆたかさに貢献することが我々の目指すゴールです。
—DXが地方創生にも貢献するということですね。
武重:FFGが自ら活用したDXソリューションを地域に展開・共用することで、地域のDXをけん引するエンジンになります。そのモデルを他の地域にも広げて日本全体を底上げすることができます。そういう「DXの民主化」にチャレンジすることも地方銀行としての価値であると考えています。
日本IBMはグローバルなテクノロジーカンパニーですが、私たちの基幹システムを20年以上にわたって担当し、北九州にはDX推進のIJDS社開発拠点(北九州地域DXセンター)も持っています。地域の価値向上に向けてFFGのDXを地域のDXへと昇華させていくために、今後も私たちと一緒に取り組んでくれることを期待しています。
日本IBM、ふくおかフィナンシャルグループとデジタルトランスフォーメーション推進強化のための戦略的パートナーシップを締結
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