新しい社会経済の在り⽅を考え、真の社会課題解決を実現するビジネス構築ワークショップ

「あらゆるビジネスは、なんらかの課題を解決するために存在している」——。誰しも⼀度くらい、この⾔葉を聞いたことがあるだろう。

だが⼀切の留保なしで、この⾔葉を掛け値なしに信じることができる⼈は、⼀体どれくらいいるだろうか? たしかに、ビジネスは誰かの、何らかの課題を解決しているのだろう。あるいは、少なくとも解決に近づけているだろう。だが同時に、その解決⼿段である製品やサービス、そしてその基盤となっているテクノロジーは、解決以上に⼤きな問題を⽣み出していないだろうか。

ディープフェイク技術、⾃律型兵器、⾼度な監視技術など、悪⽤を想像しやすいものばかりではない。⽣成AI、遺伝⼦編集技術、地球⼯学など、いずれのテクノロジーも⾼い倫理性と慎重な議論、そしてそれを適切、かつ的確に伝える公開性や透明性が⽋かせず、それなくしては「解決」は独りよがりに過ぎず、そのビジネス、製品、サービスは「混迷」を増やし、⾃らはもちろん周囲にも「危機」をもたらすであろうことは想像に難くない。

欲しいのは、真の課題解決。

未来へと向かう⾜元を照らす、正真正銘の社会課題解決ビジネス。

——12⽉4⽇、そんな思いを抱えた20名が、富⼠箱根伊⾖国⽴公園内にて55年の歴史を有する、⽇本アイ・ビー・エムの宿泊型研修施設「天城ホームステッドに集い、<新しい社会経済の在り⽅を考え、真の社会課題解決を実現するビジネスを構築するための⼀泊⼆⽇のワークショップ>を⾏った。

 

複雑で厄介な社会課題に向き合い続けるには、冷静さと情熱、胆⼒と繊細さが求められる。

皆が持ち寄った体験や知⾒をどのように共有するのか。そこからどんなアプローチで「こと」をスタートしようとするのか——。ここからはその模様を、筆者の主観的な視点から紹介する。

 

会場に到着してまず⾏われたのが、「社会課題解決ビジネスについての各社・各者の考え⽅共有セッション」。

通常、こうした集まりでは数名だけが細かく⾃⼰紹介をし、あとは簡単にとなりがちだが、この⽇は全員が5-10分ほどの⾃⼰紹介を

⾏い、企業や組織の中での役割の話にとどまらず、ご⾃⾝の経験からの気づきや興味関⼼分野へのつながりなどについてお話しいただいた。

その後、参加者は3つのグループに分かれ、その時点における取り組みたい社会課題について伝え合い、参加者それぞれがその課題を解きたいと思う理由や、そこに⾄る個⼈的な思いや経験について深掘りをしていった。「⼀⼈の⼈間としての想い」と「ロジックだけではなく感性を」——。ポイントをそこに置いて話し合いを続けたのには⼤きな理由がある。

「社会的価値と経済的価値はトレードオフで、その両⽴など夢物語」と捉えるビジネスパーソンがまだまだ主流の中で、社会性と事業性を同期させたビジネスを追求し続けるには、要領の良さや理論、合理性や器⽤さだけでは持続することは難しい。⾃らから湧きでる衝動や胆⼒、社内外の仲間からの⽀援や広範囲の共創などがなければ、まるで⻭が⽴たないというケースも少なくないからだ。

ここで、皆さんの話を聞きながら、筆者の頭に浮かんでいたことを記載しておこう。

•     企業や組織の成⻑は「結果」であり、それが⽬的化してはならない。

•     「誰かを犠牲にしてはいないか?」——この問いを常に忘れないように。

•     「売らなければならない」は営利企業の宿命だが、「売れれば良いというものではない」も⼤前提である。

 

時はあっという間に過ぎ、1⽇⽬は就寝時間の22時半まで、施設内のあちこちで対話が続いた。

ここからはセッションリーダー⼭本による講演の⼀部ご紹介します。

世界の産業界には今、古くは⽇本社会が得意としていた、「社会課題解決ビジネスを通じて企業価値を向上していく」という考え⽅が広がり続けています。

背景にあるのは、「社会課題を解決する企業でなければ存続できない(社会から退場を命ぜられる)」という強い危機感です。そしてここ⽇本でも、⼤企業を中⼼に多くの企業がそのパーパスやミッションに「社会課題の解決」や「持続可能性への寄与」を謳っています。

ところが実際の企業活動に⽬をやれば、⼈⼝減少や少⼦⾼齢化、インフラの⽼朽化、所得・地域・世代・情報と拡がる各種格差など、複雑で厄介な社会課題が⾝の回りに溢れている「社会課題先進国」であるにも関わらず、社会課題や持続可能性に関する取り組みは

「本業のビジネス」とは結びついておらず、CSRや社会貢献の範囲内で⾏っている企業が多いのが⽇本の実情です。

 

「世の中にとって良いことをしたい、社会に貢献したい、⼈を幸せにしたい」という想いを根源的に持つ⼈の⽅が圧倒的に多いのにも関わらず、そうしたビジネスが主流になっていかない理由は何でしょうか。

それは我われが、とても強固なシステムの中に閉じ込められてきたからです。そのシステムとは『資本主義』——。ただし、⽬先の利益が過剰に重視される『⾏き過ぎた』資本主義です。

⽇本に必要なのは、現在の資本主義ではなく、個⼈やチームの努⼒の結果がしっかりと報われる『私有財産制』と、イノベーションが起きやすく需要と供給のマッチングも進む『⾃由市場経済』という、その強みをしっかりと⽣かししつつ、社会を良い⽅向へと⼒強くドライブする「経世済⺠の基盤となる資本主義」ではないでしょうか。そして今こそ、そのためのリ・デザインのときではないでしょうか。

 

そのために今から、まざまな社会課題の原因を増やし続ける負の側⾯が⼤きくなり過ぎてしまった資本主義の構造分析を⾏い、そこから、「お⾦の正体」「サステナビリティーにまつわる事実と予測」「経済と幸福、」つまり、⼈の社会的、経済的、環境的なウェル・ビーイングについての関係を探っていきましょう。

その後、社会課題解決ビジネスの事例をいくつか⾒ていくことで、社会性と事業性を両⽴するビジネスをどのように⼀緒に創っていけるかを、より解像度⾼く考えていきましょう。

⼭本のセッションを中⼼としたインプットとたっぷりの対話を終え、2⽇⽬は「頭での理解」から「⼿を使ったワーク」へと切り替えられ、ビジョンを描くワークと下⼭後アクションプランの策定〜発表が⾏われた。参加者が書いた「ビジョン」から、いくつかをピックアップして羅列する。

 

•     社会課題解決の基盤となる「新しいFACTFULNESS(ファクトフルネス) 」

•     well-beingにつながる地域活性化

•     ゴミ・ムダを資源・価値へと変えるマッチングシステム/サーキュラービジネス

•     デジタルヒューマン[先⽣] [店主] [ドクター] [シェフ] [警備員] [看護師] [政治家] [……]

•     経済格差から⽣まれる教育格差の減少・撤廃

•     貢献経済社会の確⽴

•     カーボンニュートラル・アイランド

•     インターナル・ダイバーシティー & 新しいゲマインシャフト

 

ここで、世の中にありがちな、残念な現実に⾔及しておこう。

志⾼い取り組みにほどありがちなのが「頭でっかち尻つぼみ」。キックオフが最も盛り上がり、そこからどんどんフェードアウトしていくというケースだ。今回の取り組みは、はたしてそうならずに済むのだろうか?

もちろん、たしかなことは⾔えない。誰だって最初から「頭でっかち」にしようとは思っていない。ただ、そうなってしまう理由の多くは、視線の先が遠い未来の壮⼤な社会へと向き過ぎてしまうことにある。

今回の取り組みでは、すでに2025年の開催枠組みを次々と決定している。そのポイントは「⽇程と場所と担当者は早めに決定する。そして取り組む社会課題は絞り過ぎない」。

狙いは、そのときどきで、「最初の⼀歩」をスタートできる状態に近く、かつ社会的インパクトの質と、インパクト範囲と価値を広げられるものから、賛同する同志たちとともに進めていくことにある。取り組み参画にご興味をお持ちの⽅は、ぜひご⼀報いただきたい。

パチ 八木橋

コラボレーションエナジャイザー