生成AIの活用によりクレジット・カード業界を支援するIBMのソリューション

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コード決済、電子マネーなどキャッシュレス決済の普及が加速度的に進んでいる昨今、多くの事業者が革新的なサービスや付加価値を打ち出し、しのぎを削っています。長年、消費者とのタッチ・ポイントの最前線に位置し、リテールのさまざまなビジネスを推進する存在となっていたクレジット・カード業界にとっても、差別化を図るための新たな打ち手が問われています。

日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、IBM)は、生成AIをはじめとするテクノロジーをうまく活用することが事業者に勝機をもたらすと考えています。金融機関向けのDX戦略策定支援や新規事業をけん引してきた3人のコンサルタントが、クレジット・カード業界の課題と最新の解決策について語りました。

キャッシュレス決済のフロントに立ち続けるために

――現在のクレジット・カード業界の状況についてお聞かせください。

小宮山 クレジット・カード業界は、コロナ禍による巣ごもり消費の拡大やECなどの非対面サービスの利用、タッチ決済などの非接触決済利用の拡大から、キャシュレス決済への需要が高まり、堅調に売上を伸ばしています。2023年の日本のキャッシュレス決済比率は39.3%(126.7兆円)と、政府が目標に掲げていた「2025年までに4割」という数字に迫ってきています。今後は消費回復の流れを追い風に、利用がますます拡大していくことが推測されます。
一方、決済方法は近年多様化しており、クレジット・カードが83.5%(105.7兆円)、QRコード決済が8.6%(10.9兆円)、電子マネーが5.1%(6.4兆円)、デビット・カードが2.9%(3.7兆円)という内訳になっています。特にQRコード決済の台頭が著しく、今後クレジット・カード事業者は、消費者はもとより加盟店からも、これらの新興勢力との厳しい選別に直面することになります。さらに、QRコード決済事業者が銀行業務やカード決済業務に参入するなど、業界のプレーヤ―が変わってきているのが現状です。

鵜飼 もちろんチャージなどの際は手数料を得られるため、クレジット・カード事業者と新興勢力が持ちつ持たれつの協調関係にあると見ることもできます。しかしそれでは、他の事業者の単なる「財布」にされてしまう可能性があります。顧客との関係性を深めるためにも、フロントに立ち、タッチ・ポイントを増やすことが不可欠です。

小宮山 ビジネス環境の変化に伴い、これまでクレジット・カード事業者が行ってきた決済金額に応じたポイントの付加、旅行保険や傷害保険などの付帯サービスだけでは不十分になっています。新しい技術の活用を視野に入れ、他社と差別化できる価値の提供が問われています。

膨大な顧客アセットを活かした新たなマーケティング

――競争が激化しても、クレジット・カード業界はキャッシュレス決済の先駆けとしての強みがあると思います。

後藤 そうした観点からクレジット・カードをあらためて眺めたとき、最大の優位性としてあげられるのは発行枚数の多さです。2023年3月末のクレジット・カード発行枚数の総数は3億860万枚。大手クレジット・カード事業者ともなれば、単独でも数千万枚に上ります。
また高額商品の決済を行う際には、現金や電子マネー、QRコード決済よりもクレジット・カードを優先的に利用するという消費者の選択意識が働くのも強みです。この膨大な顧客アセットに対して、的確なマーケティングのオファリングを行うことで、クレジット・カード事業者はさらなる優位性を確立することができます。

※一般社団法人日本クレジット協会の調査による

小宮山 昨今、見られはじめた象徴的な動きの1つが、「グループアプリ統合とクロスセル」の取り組みです。これまで分断されていた銀行、クレジット・カード、保険、証券などのフィナンシャル・グループ各社のサービスをモバイル・アプリ上で統合するものです。
インターネット関連サービスや通信事業者などによるグループ経済圏でのポイント戦略が激化するにつれて、老舗である銀行系カード会社は利用者にとってのメイン・カードとしてのポジションを奪われつつありました。この状況を巻き返すべく、グループの統合顧客ID化や統合アプリの開発による顧客基盤の再整備に向かっているのです。

後藤 サービス統合の背景には、90%に迫る国内のスマートフォンの普及とオープンAPIなどの技術要素も大きく関係しています。従来からグループ内、あるいはグループ外の事業を相互連携したサービス提供の動きが進んでいますが、昨今は金融・非金融を問わず、スマートフォンのアプリ内でさまざまなサービスを組み込むことができるようになりました。サービス提供事業者は、自社で全ての事業を営む必要はなく、必要なサービスを埋め込み、連携することで自社の顧客へ付加価値を提供できるようになり、この動きは広がりつつあります。

小宮山 実際、ある大手金融機関グループでは2023年から銀行、クレジット・カード、証券、保険などの金融サービスを集約した統合アプリの提供を開始。決済時にクレジット・カードにキャッシュ・カード、デビット・カード、ポイント払いの4つの機能を集約したフレキシブルペイ機能を搭載しています。この取り組みについて、IBMはWebやモバイル・アプリを通じた顧客体験の創造、エンゲージメントの強化策において、支援しました。

加盟店のマーケティング高度化や付加価値提供サービスを強化する

――加盟店に対するサービス強化も求められています。

後藤 単に手数料を引き下げるのではなく、電子マネーやコード決済を含む多数の決済手段に対応するマルチ決済端末の提供、決済情報の提供による加盟店向けマーケティング・サービスなど、いかに加盟店に付加価値を提供し、選定していただけるかが勝負になります。IBMは、需要予測領域において課題を抱える中小規模の課題に対し、簡単な操作で高度な予測ができるソリューションを提供しています。クレジット・カード事業者は、IBMとソリューション包括契約をし、保有するデータと組み合わせて、加盟店へ需要予測のサービスを提供することができます。 

小宮山 加盟店はクレジット・カード事業者に対して、決済データやモバイル・アプリを活用したマーケティング活動の支援も期待しています。さらに、シームレスでより良い顧客体験に寄与する新たなサービス提供も望んでいることでしょう。

――具体的にはどのようなマーケティング施策を提供できるでしょうか。

小宮山 まず「オムニチャネル・マーケティング」です。ネット上の顧客接点を持つ決済代行事業者と、実店舗との接点・決済端末を持つカード会社が提携し、リアルとネットの購買行動を紐付けた分析サービスの提供など、一貫性のあるマーケティングを支援します。これまでリアルとネットで個別に分析していた事業者にとって、クレジット・カード情報による顧客データ統合は、購買分析の効率化と質の高い購買提案につながる価値ある情報提供になります。

次に「O2Oマーケティング」では、実店舗で使えるクーポン配信、ポイント還元ルーレット、大型モールや地方自治体との協賛による大型ポイント還元祭、対象エリアまでの電車やバスQRコード切符の配布などを行います。購買意欲を喚起するとともにネットからリアル店舗への送客を実現します。

さらに「OMOマーケティング」では、顧客のお気に入り商品や記事をあらかじめ登録し、来店チェックイン、モバイル決済、チャットでの相談やフィードバックなどをモバイル・アプリ上で行います。また、それらの行動に対してポイントを付与し、より深い顧客情報を収集することでパーソナライズされたサービスを提供するなど、シームレスな購買体験を実現します。

AI活用に向けて高まる期待

――問題は、そうした施策をどのように実現するのかという点です。

小宮山 いかなるオファリングを行うにしてもITの活用は欠かせません。数千万人といった顧客アセットに対してパーソナライズされたサービスを手作業での提供することは不可能だからです。中でも注目されているのがAIの活用です。

クレジット・カード事業者の多くは、AIに対して積極的に取り組んできました。例えば多くの人手や時間を要する与信審査業務を支援して効率化する、あるいはコールセンター業務を担当しているオペレーターに対して過去の問い合わせ履歴や回答内容を提示するといった取り組みです。

こうしたビジネス・シーンでのAI活用を高度化することで、即時与信や人手を介さない与信を実現するほか、新たな与信ロジックそのものを構築し、従来はローンや融資などの恩恵を受けられなかった層にもサービスを拡大する「ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)」を加速させていくことが可能となります。同様にコールセンター業務においても、人手に頼らずにサービスを完結する完全自動化が模索されています。

鵜飼 「生成AI」に対する期待も高まっています。新たなコンテンツを創造するという、これまでのAIになかった特徴を持つ生成AIをマーケティングに活用すれば、類似した属性や行動パターンをもとにした顧客の大枠なセグメンテーション/クラスタリングではなく、本当の意味で顧客一人ひとりの嗜好や潜在的なニーズ、ライフスタイルに寄り添い、パーソナライズした商品提案を行うことも夢物語ではなくなることでしょう。

従来は一方的にメッセージを送るだけだったところも、インタラクション型にして簡単な回答を得るなど、情報を蓄積することで、より具体的な提案ができるようになります。また、顧客からの問い合わせにAIアバター(デジタル・ヒューマン)が24時間いつでも自然言語と豊かな表情で対応するなど、“人間的”なコミュニケーションを実現することもできます。

生成AI活用において必須となるリスク回避とガバナンス

――期待は膨らみますが、生成AI活用のリスクも懸念されます。

後藤 生成AIの活用には注意が必要です。生成AIのあらゆる挙動や、出力される結果は予測不能であり、学習データに起因したリスクが生じることを常に認識しておく必要があるからです。著作権侵害や個人情報・機密情報などの情報漏洩、一見確からしいが実際は事実とまったく異なる回答をするハルシネーション(幻覚)、差別的な発言などは、その最たるものです。

IBMではこれらのリスクを細かく分類し、それぞれの対策の指針を定義するとともに、「信頼できるAI」が備えるべき5つの基本特性として、「説明可能性」「公平性」「堅牢性」「透明性」「データの権利/プライバシーの尊重」を提示しています。

鵜飼 具体的な対策の1つとして、例えばコールセンターで生成AIを活用する際には、「グラウンディング」という手法を活用し、クローズドな実行環境で特定業務に特化したLLM(大規模言語モデル)と、汎用的なLLMを使い分けるなどしてリスクを回避、軽減させることが考えられます(図)。また、不適切な表現を誤って出力しないように、AIモデルのファイン・チューニング(微調整)をすると同時に、プロンプトの入力側と出力側の手前にフィルターをかけて制限するなどの方法も有効です。

さらに、生成AIが提示した複数候補の中から最終的にどの施策を選ぶのかを委ねられるのは人であり、そうした場面での意思決定を支援する分析系AIの重要性もますます高まっていくと考えられます。

企業内データの利用法(グラウンディング)図

小宮山 クレジット・カード業界が抱える一番の課題は「不正」です。被害額は500億円を超えており、その対策のためにAIが積極的に使われています。もちろんAIにはリスクがありますが、もはや使わないという選択肢はありません。いかにリスクをコントロールしながら活用できるかが重要です。

IBMにはIBM Watsonを通じて脈々と培ってきたAIガバナンスに対する知見があります。また、その業界に精通しているインダストリー・コンサルタントによるサポートも大きな強みだと思います。一般的なビジネス・コンサルタントが行うような戦略的な面でアドバイスだけではなく、お客様のビジネスの変革を行うためのロードマップを作ってサポートをさせていただいています。今後もクレジット・カード業界の皆様にとって信頼いただけるパートナーとしてご支援してまいります。

寄稿者

小宮山 光雄

日本アイ・ビー・エム株式会社, コンサルティング事業本部, クレジットカードサービス事業部, インダストリー・コンサルタント

後藤 晴夫

日本アイ・ビー・エム株式会社, コンサルティング事業本部, クレジットカードサービス事業部, アソシエイト・パートナー

鵜飼 敦

日本アイ・ビー・エム株式会社, コンサルティング事業本部, クレジットカードサービス事業部担当部長