AI、エネルギー、食、人材育成 _ 「IBM Think Lab Day@札幌」を4つのキーワードで

2025年5月9日

 

 

お客様、パートナー様のビジネス課題の解決や⼀層の価値創造に役⽴つ共創を⽬指し、IBM Think Lab (弊社箱崎事業所、東京⽇本橋) ではIBM Researchの先端テクノロジー体験をお届けしています。

「先端テクノロジー体験を⽇本各地の皆さまにもお届けしたい。学⽣の皆さんにもテクノロジーに興味を持ってもらい、IBMを知ってもらうきっかけを作りたい」という思いで2023年から東京を⾶び出しスタートした地域開催イベント「IBM Think Lab Day」。

2024年最終回は、10⽉29⽇北海道札幌アスティホールにて開催いたしました。当記事では、ゲスト講演をしていただいたRapidus(ラピダス)社様、サッポロビール社様の講演内容を中⼼に、4つのキーワード

「AI」「エネルギー」「⾷」「⼈材育成」の切り⼝からご紹介します。

100⼈を超える参加者で熱気あふれる会場の様⼦

⽇本IBM 取締役常務執⾏役員であり、2024年10⽉から北海道地域担当エグゼクティブ(地域の⼈財育成や経済の発展に貢献することを⽬的に新設)として就任した村⽥ 将輝によるオープニングからスタートしました。

先端ロジック半導体を北海道から世界へ – Rapidusの挑戦

⽇本IBM 新川崎事業所⻑ ⼭道新太郎による講演「未来のコンピューティングビジョン」に続き、Rapidus株式会社 専務執⾏役員 ⽯丸

⼀成⽒による基調講演「先端ロジック半導体を北海道から世界へ – Rapidusの挑戦」が⾏われました。

2022年8⽉の設⽴以来、国内外から⾼い注⽬を集めているRapidus社。その技術⼒と先端半導体の未来展望についての講演はあっという間の30分間で、メモを取る多くの参加者の姿が印象的でした。

そして、Rapidus社の「次世代半導体製造イノベーション戦略」の中で何度となく登場したキーワードが、「AI」と「エネルギー」です。以下、注⽬のコメントをピックアップします。

 

• AI

「半導体の製造期間を半分に短縮できたら社会は変わる」とも⾔われている中、AIの進化・開発スピードは凄まじく、半導体もそれに応えられる開発スピードが求められている。

データ量の増加、⽤途拡⼤により、AI半導体の出荷数量の拡⼤は続いており、今後のAI半導体の世界市場は2030年にUSD400B(約60兆円)以上に成⻑する⾒通し。

 

• エネルギー

次世代半導体製造における最⼤の課題は電⼒であり、2022年に推定460テラワット時(TWh)を消費した世界のデータセンター総電

⼒消費量は、2026年には1000TWh以上に達する可能性があり、その半分近くをAI関連が締める⾒込み。そして2030年には、

3000TWh近い消費量となる可能性がある。

こうした消費量の上昇カーブを抑えるのに不可⽋なのが、エネルギー性能・処理効率を⼤幅に上げる「2ナノメートル」という超微細加⼯の⾼性能AI半導体。また、特定処理に特化したチップ開発と、Rapidusの3D積層パッケージ技術も、消費エネルギー抑制に⼤きな役割を果たす。

 

Rapidus社 ⽯丸⽒の講演後、IBM ⼭道が再び壇上に登ると、およそ15分間の2⼈によるファイヤーサイドチャット(カジュアルなトークセッション)が⾏われました。

30年弱前カリフォルニアの某⼤学に同時期に留学しており、実は古くからの友⼈だという2⼈。ファイヤーサイドでは2⼈の体験を交えながら、半導体業界においてもいかに「ネットワークと信頼関係」が重要であるかが語られました。そして会場からの質問をきっかけに、壇上では「⼈材育成」についての2⼈の⾒解が述べられました。

 

• ⼈材育成

「こういうものを作り出したい」というアイデアを持った若者を⽇本社会にもっと増やしていくことが必要。それには、「何があればもっと良い社会になるか」を考える⼈を育てなければならないし、アイデアや意⾒を出しやすい環境・持ち込みやすい環境を作らねばならない。

そのために必要なのは、普段から若者たちの「意思を⼤事にする」社会。「どういう社会にしたいか」を⼀緒に考えていける信頼関係が重要であり、企業も社会も褒める⽂化と密なコミュニケーションを⼤事にしていくべきではないだろうか。

トークセッションは和気藹々と進みました

AIを活⽤したサッポロビール社の商品開発

続いてのセッションは、サッポロビール株式会社 チーフイノベーションエキスパート 滝沢隆⼀⽒と⽇本IBM プリンシパル・データサイエンティストの佐藤和樹によるトーク「AIを活⽤したサッポロビール社の商品開発」です。

セッション終盤には⽇本IBM ビジネス・デベロプメント・エグゼクティブ 三橋朗も交わり、「AIが味の世界にもたらす新たな可能性」についての⿍談が⾏われました。

以下、「AI」と「⾷」という2つのキーワードに絞って注⽬のコメントをピックアップします。

 

• AI

サッポロビール社とIBMによる商品開発AIシステム「N-Wing★(ニューウィングスター)」の共同開発を2019年末スタート。RTD

(Ready to Drink、蓋を開けてそのまますぐ飲める⽸チューハイなどの低アルコール飲料商品の総称)の原料・配合検討における時間短縮に取り組んだ。

AIに学習させたデータは、既存商品約170商品、約700種の原料情報と約1200種の配合、加えて⾹味表現類義語辞書など。それらの学習データをもとに作られたAIモデルと⼈間の開発者による3番勝負を⾏ったところ、1度⽬の対戦では全敗だったAIが、2度⽬の対戦では⼈間を上回った。そこから勢いがつき商品開発AIシステム「N-Wing★」が本格稼働、⽣まれた最初のヒット商品が「男梅サワー通のしょっぱ梅」。しょっぱさを増す隠し味を⾒つけだし、塩分量をほぼ変えることなく、想定数量の1.3倍の受注を獲得した。その後も取り組みは続いており、従来と⽐較して原料検討時間は約75%削減、配合検討時間は約50%削減された。また、従来は属⼈化してしまったナレッジを、誰でも効率良く検索して活⽤できるようになり、AIが「価値創造のパートナー」として活躍する場⾯が増えている。

参考 | 商品開発AIシステム「N-Wing★」を活⽤した初の商品 「サッポロ 男梅サワー 通のしょっぱ梅」数量限定新発売

 

• ⾷

味覚成分の組み合わせを学習することで味覚をデータ化する、持ち運び可能な⼩型学習型AIセンサー「HyperTaste(ハイパーテイスト)」をIBMは開発。イタリア産⾚ワインの産地を98.2%の精度で特定したり、海洋酸性化に関する調査を⼤⻄洋無⼈航海を通じて⾏うなどの活動を⾏なっている。

今後は、トレーサビリティー・システムや、アルコール飲料/清涼飲料⽔の出荷前検査などへの応⽤を検討中。

「⼈間による感応検査は⼤きな労⼒がかかるものなので、その代⽤ができるなら⼤きな意味がある。」「商品の特性を⾒極め真贋鑑定ができるようになれば、材料科学への応⽤も進むのではないか。」(ともにサッポロビール社 滝沢⽒からのコメント)

商品開発AIシステム「N-Wing★」を活⽤した初の商品 「サッポロ 男梅サワー 通のしょっぱ梅」について説明する滝沢⽒

北海道とIBMとの共創・地域創⽣を⽬指して

最⼤規模のセンターを構える札幌をはじめ、現在⽇本国内8カ所で「地域活性のために」を謳い活動しているIBM地域DXセンター。

その運営を⾏なっている⽇本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社(IJDS)を社⻑としてリードしているのが、先⽇、

『Forbes JAPAN』誌で「Women In Tech 30」に選出された、井上裕美です。

参考 | Women In Tech 30 発表︓テクノロジー領域で未来を創造する30⼈の⼥性

 

井上のセッション「北海道とIBMとの共創・地域創⽣を⽬指して」でも、前のセッションと同様に「AI」と「⼈材育成」について多くが語られました。

 

• AI

開発業務のさまざまな場⾯にAIを活⽤する「AIとともに活動する技術者」が求められている。そして以前は、そうした先進的な開発技術を⽤いた技術者として活躍するには、三⼤都市圏に住まなければならなかった。

そうした状況を変え、新しい働き⽅の実現と地域経済への発展、⽇本社会の変⾰の加速に貢献するのが、IBM地域DXセンターの重要な役割。

 

• ⼈材育成

⼥⼦学⽣も学⽣時代の早い時期にプログラミングやAIに触れることで、「⼥性は理数系が苦⼿」という植えつけられたジェンダーバイアス(性差による固定的な思い込みや偏⾒)を取り除きやすくなる。

⼥性が地域のテクノロジー⼈材としてイキイキと活躍する社会を求めている企業、学校、⾃治体は多く、これからもさまざまな組織・団体とコラボレーションを⾏い「地域活性化 × ⼥性活躍推進」で盛り上げていきたい。

参考 | ⽇本IBMのリーダーたちが語る、 多彩なキャリアパスの歩き⽅ | Ambitions Web

「このイベントを『仲間づくり、きっかけづくりの場とぜひご活⽤いただきたい」と村⽥がオープニングスピーチで語っていたよう

に、Think Lab Dayには、登壇者と参加者、参加者同⼠・登壇者同⼠のコミュニケーションの機会がふんだんに盛り込まれていました。

講演終了後には、100名を超えるIBM Think Lab Day@札幌の参加者の皆さんに11組のグループに分かれていただき、登壇者やIBMのスペシャリスト、ファシリテーターたちとのコミュニケーションを⾏うラウンドテーブル・セッションをお楽しみいただきました。

 

そしてラウンドテーブルの盛り上がりが冷めやらぬまま迎えたクロージングでは、⽇本IBM 理事 テクノロジー・エンゲージメント 髙橋志津が、「来年もぜひ札幌で開催させていただきたい、そして地域学校との共創も深めていきたい」と⼒強く挨拶をし、IBM Think

Lab Day@札幌は終了となりました。

札幌開催の⼿応えの⼤きさへの感謝と、来年の開催を宣⾔する髙橋志津

なお、当記事でピックアップしたIBMとその共創パートナーが注⼒している「エネルギー」と「⾷」は、「北海道からグローバルを⽬指すスタートアップを⽣み育てるエコシステムの実現」を⽬指し活動しているSTARTUP HOKKAIDO実⾏委員会掲げている注⼒分野でもあり、⾔わずと知れた⽇本社会を⽀える最重要基盤です。

 

今後も⽇本IBMは、Think Lab Dayイベントを⽇本各地で開催してまいりますので、来年も、ぜひご期待ください。

参考 | Think Lab -未来のコンピューティングを具現化する IBM Researchのラボ-

八木橋 パチ

日本アイ・ビー・エム株式会社、Partner Ecosystem、コラボレーション・エナジャイザー