関西の大学生が挑むAIエージェント開発——IBM watsonxハッカソンレポート

関西の大学生向けAIエージェント活用ハッカソン。

2025年6月、株式会社STAR UPと日本アイ・ビー・エム共催にて、関西の大学生を対象としたハッカソン「AIエージェント活用ハッカソン」を開催しました。

本記事では、イベントの様子、学生たちの熱量をレポートすると同時に、AIエージェントがもたらす未来への向き合い方について考察します。

1. イベント開催の背景 | 「AIエージェント開発」に大学生が挑む意味

ビジネスから教育、ヘルスケアに至るまで、あらゆる領域に大きな変化をもたらしている生成AI。そして2025年は、ユーザーからのインプットに一連の動作を自律的に実行する「AIエージェント」が、本格的にビジネス界に拡がっています。

「新しいテクノロジーが猛スピードで広がる中、解くべき課題にすぐに取り組むことができるように、新しい発想を柔軟に取り入れられる仲間を社会にどんどん増やしていきたい——そんな気持ちから大学生向けのハッカソンを開催しています。」

こう語るのは、株式会社STAR UPの共同創業者でありCOO の松尾 心夢(まつお ここむ)氏です。

ハッカソン最終日に学生たちにメッセージを送る株式会社STAR UP COOの松尾 心夢 氏 ハッカソン最終日に学生たちにメッセージを送る株式会社STAR UP COOの松尾 心夢 氏

松尾氏、そしてSTAR UP社が、社会をより良く変えていくのに必要なのは「発想の若さ」と実装力ではないかと考え、LinkedInでハッカソンの共同開催を検討しないかと呼びかけたところ、日本アイ・ビー・エム エコシステム共創本部からすぐに連絡があったという。

「私たちの考えに全面的に同意いただき、さらに多くのサポートを申し出ていただきました。そのレスポンスや決断力の速さは、正直想像以上でしたね。」

以下は、今回のハッカソンを通じて大学生たちに提供したものだ。

  • 最先端AIエージェント技術の応用実践力
    AIエージェントを実際に活用し、プロダクトへ実装する開発経験
  • IBMの課題発見・課題解決力の習得
    グローバル基準の技術アプローチと体系化されたデザイン思考を学ぶ機会
  • アイデア具現化能力の向上
    短期間でコンセプトをプロトタイプへと昇華させるプロダクト開発スキルの研鑽
  • 成果発表の機会
    日本アイ・ビー・エムの役員も臨席する最終発表会にて、技術的な工夫や成果を発信・報告するチャンス
  • 参加者間の技術交流とネットワーキング
    高い専門性を持つエンジニア同士や、多様な知見を持つ参加者との建設的な意見交換とつながり

  • 開催概要
    • 日程: 2025年6月22日〜29日(8日間)
    • 主催: 株式会社STARUP、日本アイ・ビー・エム株式会社
    • 参加者: 関西出身、あるいは関西を拠点とする大学生・大学院生
    • 会場: Impact Hub Kyoto / 日本アイ・ビー・エム大阪事業所 Makers Studio

2. 正しい問題設定から課題解決を | デザイン思考とIBM watsonx

本イベントでは、IBMの生成AIプラットフォーム「IBM watsonx」を用い、次世代を担う若者たちが自らのアイデアを形にすることに挑戦。

社会課題の解決や、生活をより良くするための革新的なアイデアとプロダクトを生み出すために、およそ10名の大学生たちが濃密な1週間を過ごしました(なお、数名の学生は米国の大学に在籍中のため、全行程オンラインでの参加となりました)。

ハッカソン初日の会場はImpact Hub Kyoto。

「ユーザー視点で物事を捉え、『正しい問題設定』から本当のペインや潜在ニーズにアプローチしなければ、どれだけ技術的に優れていても解決にはつながらない」という課題への向き合い方をしっかり理解いただくために、日本アイ・ビー・エムによる「デザイン思考ワークショップ」が開催されました。

初日最後に行われたが、日本アイ・ビー・エムのAIエンジニアよるIBM watsonxの紹介と技術レクチャーです。

業種・業界を問わず、国内外の大手企業を中心に生成AI基盤としての利用が進むIBM watsonx。急拡大の理由は、信頼性、拡張性、セキュリティの重視だけではなく、既存アプリケーションを連携させローコードでAIエージェントを構築できる「IBM watsonx Orchestrate」の技術的先進性にあります。

実践的な構築例とそれを支える技術的詳細に関する解説に、学生たちは「ここまでできるのか」と驚きを隠せない様子でした。

ハッカソン2日目以降、技術スキルや専門分野の異なる多様なバックグラウンドを持つ学生たちは、自ら選んだテーマに併せて4つのチームに別れました。

その後は、チームごとにテーマ設定とリサーチを進め、各自の課題意識に基づいたプロダクト開発に着手。7日間のAIエージェント活用チャレンジに取り組みました。

そして技術的な壁に向き合いながら、最終日のデモデイへと突き進んでいきました。

最終日午前中、追い込みにかかる学生とメンターたち。日本アイ・ビー・エム大阪事業所 Makers Studioにて。 最終日午前中、追い込みにかかる学生とメンターたち。日本アイ・ビー・エム大阪事業所 Makers Studioにて。

それでは、ここからは最終日デモデイの学生たちの発表と審査員からの講評の一部を紹介します。

3. 旅行、政治、内省、筋トレ、物流… | 最終発表からその一部を紹介

  • グループ旅行のための行動計画AIエージェント | チームA 力武 央 氏、林 優希 氏
    旅の目的やスタイル、予算や期間をインプットすれば、自動で好みに合わせた日程を作成する、旅行先でのアクティビティ選択に悩むグループや幹事向けのAIエージェントを作成。

    開発においては、自分たちの狙いにより近づけるために、watsonx Orchestrateに読ませるYAMLファイル(構造化データ記述ファイル)を別の生成AIツールで作成するなどの工夫が。

    講評
    : グループの特性に合わせる機能を組み込むなどすることで、滞在期間だけではなく、旅行前後の価値も上げることができそう。旅行代理店や既存アプリとの組み合わせで可能性は無限大。

  • 政治的無力感を消し、若者の政治参加を促すAI政治アシスタント | チームB 伊東 祐太朗 氏、濱出 寛明 氏、森本 皓斗 氏
    さまざまな調査で明らかになっている日本の若者の政治への無関心。チームは原因分析を行い5つの理由を推定。中でも最大の課題を「政治的無力感」と推測。

    「つながり」や「集合知」から興味の間口を広げ、自身の声が政党や政治家に届きやすくする機能を開発。他にエンターテイメント要素から興味を高める機能、チャット形式で法律用語や条文を分かりやすく解説する機能などを搭載し、難しい政治をより分かりやすく身近にするAIアシスタントを作成。

    講評
    : 政治を若者に近づけていくのは喫緊の課題であり、このAIアシスタントを待っている市民や政策関係者は多いのではないか。
    一方で、特定の政党への加担を疑われないようにすることや、対立構造や扇動的な政策への誘導がないように、一層の倫理観が問われるものになるだろう。プロダクトのオーナーをどのように見つけるかも重要な観点。

  • 現状〜理想〜未知をつなげるAI音声日記 | チームC 山元 来輝 氏、伊藤 翔 氏
    内省の時間を日々取り続けるのは難しいが、音声にて毎日1分間記録するだけなら、そのハードルは大きく下がる。その内容を蓄積〜分析することで、悩みともに考える仲間や、同様の悩みをすでに乗り越えてきた人、あるいは該当分野の専門家とのつながりを提案してくれるAIサービスを作成。

    「もっと組織を活性化したい」と思っているリーダーや、「もっとつながりを増やしたい」と思っているメンバー向けの企業向けサービスとして当初想定したが、一般に広く利用いただくことで、より大きな社会的インパクトをもたらすことができるのではないか。

    講評
    : 音声をフロー情報ではなく、インサイトを引き出しマッチングするためのストックデータにするという発想はとてもよく、関係性の構築〜維持はエージェントAIとも相性が良さそう。
    また「メンタリング制度」や心の知能指数とも呼ばれる「EQ」などと組み合わせ、人的資本経営の基盤に活かしていければ、企業に大きな価値をもたらす可能性を秘めている。

  • 日本の少子高齢化社会をAI筋トレで解決 | チームD 林 巴朗 氏
    高齢者により長く元気に過ごしてもらうには、足腰を鍛える筋トレが有効ではないだろうか(足腰の弱体化から人とのつながりが希薄化し認知症を発症しやすくなるという説も)。

    何から始めればいいか、おすすめのメニューなど、やさしくガイドする高齢者向けの筋トレAIアプリを作成しようとトライしたが、環境構築に失敗し動くものは作れず。

    講評
    : ヘルスケア×AIの取り組みはすでにいくつか出てきているが、成功の鍵を握るのは「関心・意識にとどまらず、実行・維持の行動変容にまでつなげられるか」。
    今回の環境構築失敗は残念ですが、今後の取り組みに期待します。

  • ドライバーの気持ちが分かるAIが、日本の物流危機を解決 | チームD 坂井 秋太朗 氏
    現在物流会社にてインターン中。ドライバー不足に伴う物流危機の問題をとても身近に感じている。

    ドライバーの運転以外の仕事を削減するために、物流会社の現場でほぼ必ず使用されている「配送指示書」を読み込むだけで、必要作業や時間を計算してスケジュールを作成し、おすすめルートの提示など作業完了までを一元支援する物流支援AIエージェントを作成。

    講評
    : ドライバーとの日々の交流からインサイトを引き出し、実際に用いられている配送指示書をもとに解決策を考えていく「現地現物主義」はとても素晴らしい。効率化・省人化が特に求められている物流分野においては大きな可能性を秘めている。
デモタイム(プレゼンテーション)中の各チーム/発表者の様子 デモタイム(プレゼンテーション)中の各チーム/発表者の様子

4. 学生たちの声 | AIが社会や生活に何をもたらすのか。自分はどうありたいのか。

イベント終了後、少しホッとした表情の会場参加チームメンバーに、感想などを聞いてみました。

チームA 力武さん(同志社大学)、林さん(同志社大学)

もっと「先の世界」まで実現したかったのだが、時間切れで「入り口」あたりで終わってしまい残念でした。

今後、あらゆるサービスに生成AIやAIエージェントが組み込まれるのが当然となってくるのだと思う。だからこそ、エンジニアもユーザーも「どこでどうAIを使うのか、あるいは使わないのか」を見極めることが重要になるのではないかと考えています。

チームB 伊東さん(関西大学)、濱出さん(大阪大学)、森本さん(関西大学)

「何のために作るのか」を見つめることからスタートするAI関連のハッカソンは初めてで、とても貴重な経験を積ませていただきました。それがあったからこそ、自分たちに必要なのに足りていないものとして政治に目が向いたし、政治というシステムに足りていないものに気づきました。

今後、AIは社会の中で多くの「実行」を担うことになるのだと思います。そこで人に必要となるのは、「これが社会や生活に何をもたらすのか」「自分はどんな使命感を持ち、どうありたいのか」を見つめることではないでしょうか。そんな気づきを頂けたのは、IBMが主催者だったからであり、感謝しています。

今日は3つのサービスを統合するところまでは行けませんでした。でも、ここで終わりとせず、政治アシスタントAIを統合的なアプリとして社会に出すところまで進めていきたいと思っています。また、さらに「AIと労働」「AIと人間」まで考えを深めていきたいとも。

エンジニア視点で語ると、「企業向け」ということで、これまで触ってきたAIツールの中で最も特徴的なプラットフォームでした。それでもなんとかデモまで持ってくることができて一安心しました。

チームD 林さん(同志社大学)、坂井さん(立命館大学)

思い通りに進むことが大変少なく、「もっとやれるはず、やれたはず」という悔しい気持ちが強いです…今日の発表が思い通りやることができたのが、せめてもの救いです。

今回の経験をしっかりと振り返って見直し、そしてAIの特性をより深く理解することで、近い将来「AIエージェントならでは」の業務サービスを作り上げたいと考えています。

5. 今後への展望 | 「IBM watsonx」を起点に、教育・企業連携を広げていく

今回、実践的なハッカソンという場を通じて、大学生たちの大胆さと柔軟さ、そしてテクノロジーへの期待感と堅実さのバランスが、未来を形作るエネルギーに十二分に満ちているということが明らかになりました。

このエネルギーをより良い社会づくりへとつなげていくには、「良質な問い」を追求する姿勢と、揺らぎない倫理性に裏打ちされた先進テクノロジーが欠かせません。

今後、AIエージェントはより多くの人に開かれ、生活やビジネス上の当たり前へとなっていくでしょう。

新しい発想で、解くべき課題に皆で取り組める社会に——。私たちは今後も、IBM watsonxを軸とした共創の場を大きく広げ、次世代の人材育成と社会課題解決の接点を創り出していく活動に尽力して参ります。

会場参加者と関係者一同での、ハッカソン終了後の笑顔の集合写真。

会場参加者と関係者一同での、ハッカソン終了後の笑顔の集合写真。左より:

渡邊 智慧(日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 エコシステム共創本部)、林 優希 氏(同志社大学)、力武 央 氏(同志社大学)、坂井 秋太朗 氏(同志社大学)、林 巴朗 氏(同志社大学)、濱出 寛明 氏(大阪大学)、伊東 祐太朗 氏(関西大学)、森本 皓斗 氏(関西大学)、松尾 心夢 氏(株式会社STAR UP COO)、山田 章一(日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 エコシステム共創本部)

著者

パチ 八木橋

コラボレーションエナジャイザー

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    事前構築済みのアプリケーションとスキルをカスタマイズする場合でも、AIスタジオを使用してカスタム・エージェント・サービスを構築し、デプロイする場合でも、IBM watsonxプラットフォームが対応します。

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