今、エリアマーケティングが熱い。IoTやICTをはじめとするテクノロジーの進化によって可視化される世界の精度が格段に変わってきたのだ。これまでは年次あるいは四半期ごとに更新されるような静的情報に基づきビジネス戦略を立てていたところが、人や車の動き、SNSのつぶやきなどの動的なデータで多様な都市の“今の”姿をとらえ、新たな施策を打てるようになってきた。さらに先進企業は顧客の位置情報を活用したリアルタイムのプロモーションも開始している。

IBMでは先進エリアマーケティングを支えるソリューションとして、「IBM Metro Pulse」(旧称:City Analytics)を提供している。コグニティブ・テクノロジーを活用した当ソリューションは、お客様のビジネスにどのような価値をもたらすのか―。またMetro Pulse自体が進化を続けており、より多くのお客様に利用いただきやすい形へとサービス内容を充実させつつある。その最新情報もお伝えしたい。

多様なデータを統合分析することで見えないところが見えてくる

Metro Pulseは、都市に関わるさまざまなデータを集約・分析して商圏をはじめビジネス領域全般を可視化し、洞察を得ることで、ビジネスに役立てることを目的とするソリューションだ。喧噪の中に潜む都市の(Metro)鼓動(Pulse)に耳を傾けて、より精緻なエリアマーケティングを実現し、新たな価値を生み出す。

これまでもエリアマーケティングにはさまざまな情報が活用されてきた。しかし社内データの活用は進んでいても、外部の多様なデータを取り込み、それらを統合的に分析するには至らないケースが一般的だった。

一方、Metro Pulseは企業が所有するPOSデータや顧客情報に加え、住人の年齢・性別・年収といった統計情報、学校や商業施設の情報、気象データやSNSなどのなどのオープンデータや、地域のイベント情報などを含む、より多くのデータ項目を組み合わせて統合分析することによって、新たな知見が得られる環境を提供する。さらに、その知見をもとに、例えば今後の売上がどのように推移していくのかというシミュレーションや予測をし、ビジネス施策実行への決断を素早く行うことを可能にする。

Metro Pulse (City Analytics) とは?

 

ビッグデータという観点で取り込む対象となるデータを見渡すと、構造化データと非構造化データ、業務系データと非業務系データが存在する。従来のマーケティング活動では、構造化された業務系データ(POSデータなど)の分析により、商品の売れ筋や死に筋などを把握するに留まっていた。

業務連絡や日報・週報といったレポート類、議事録やお客様アンケートなどは豊富な情報を含むが、閲覧はされても統計的に役立てられる機会は少なかったに違いない。こうしたテキスト、あるいは画像、動画などから成る非構造化データは使うのが困難であったが、Metro Pulseではフォーマットを問わずに活用できる。IBMのコグニティブ・テクノロジーがそれを可能にしたのだ。Webに掲載されたローカルな情報や、ブログやSNSでの投稿も分析対象になり、より深い消費者理解につなげられるようになる。

可視化から新たな洞察を得て次のアクションにつなげる

Metro Pulseの海外でのユースケースを紹介する。

  • 飲料自動販売機のエリアマーケティング自動販売機は日本全国にもおよそ250万台設置されており、その総量を巡る企業間の競争は熾烈だ。自販機の売上は外部要因によって左右されやすいという特徴があり、設置地域の顧客のニーズや気候の変化に応じて、商品構成を機敏に変化させることで一層の売上向上が実現できると考えられる。

Metro Pulseを使った具体的なエリア・マーケティングとして、昼間/夜間人口、土日の人の動きなどを含む住民構成、近隣の商業施設、SNSデータなど、該当地域の特性情報を取り込み、合計13のデータ項目で統合分析を行い、販売実績との相関関係を調査する。その結果、自販機ごとに最適な商品構成を導き出すとともに、周辺環境の違いによる商圏のポテンシャルを試算し、新設や移設の可能性を分析し、売上増加とコスト削減を実現できる。例えば、ある売上が芳しくない販売機ではお茶やミネラルウォーターが多かったが、Metro Pulseの分析では設置場所が学校の近くであることに着目し、子供たちの人気の高い缶コーヒーや炭酸飲料を増やしたところ、売上が向上した。

Metro Pulse ユースケース:飲料メーカーでのエリアマーケティング

 

  • 不動産会社による店舗向け用地開発の最適化 全国展開している、ある不動産会社では、顧客の新規出店に際して候補地情報の提供を依頼される。どういう土地(空き地)があるのかという情報収集も、そこがどのようなビジネスに向いているのかの判断も、従来は「人(従業員)に依存」しており、提供できる情報の量・質ともに限界がある状態だ。

これを、空き地情報、用途地域情報、周辺の交通量、携帯電話から取得した人のリアルタイムの移動情報(個人情報の観点から充分にマスキングをかけたデータ)などを活用することで、今まで見えなかった商圏の特徴や土地の状況がわかり、最適な用地提案につなげることができる。

Metro Pulse ユースケース:不動産会社の用地開発最適化

 

いずれの例も、Metro Pulseの利用により、現状の可視化にとどまらず、次のアクションにつながっている。実際にMetro Pulseを利用した、あるお客様からは「ここまで見えてくるんだ」という声もいただいている。

Metro Pulseは広い業務・業界での適用が可能だ。例えば銀行では、顧客の取引パターンと周辺地域のイベント情報等とを組み合わせることで、ATM内の現金需要を予測できる。保険会社は、地域住民の特性を基に商品のレコメンデーションが可能になる。小売業ではトレンドを把握しながらお客様に対応し、需要データを蓄積することで在庫切れを回避できる。ホテルチェーンは将来の需要予測に基づき施設内のアメニティサービスや価格に対するお客様の要望を評価することで、稼働率の向上を図れるだろう。

データの利活用のハードルを下げる クラウド型の「Data On Cloudサービス」も提供

Metro Pulseは現在、個々のお客様ニーズに応じたデータ分析ソリューションを提供している。一方、今後はデータ分析基盤や分析のための仕掛けなど、基本機能をクラウド・サービス化して、より多くのお客様に低コストかつ手軽に利用いただけるサービスも開始する予定だ。

世の中ではビッグデータ時代と言われつつも、本格的なデータの利活用はまだまだ進んでいないという現実がある。総務省の調査研究*によると、その理由の上位には「データをどのように利用してよいかわからない」、「分析・利用する体制が社内にない」、「データ利用による費用対効果がわかりにくい」といったことが挙げられている。データの利活用にはハードルがいくつも存在しているのだ。
*「データの高度な利活用による業務・サービス革新が我が国経済および社会に与える波及効果に係る調査研究」(平成26年)

IBMはMetro Pulseにおいてデータの配信基盤「Data On Cloudサービス」を展開し、この点を解決していきたいと考えている。データを格納した基盤を予め用意し、お客様や3rdベンダーを含めたAPI/アプリケーション開発者が使いたいときに必要なデータ項目だけを抽出して、分析に使えるようにする。さらに多種多様なデータ形式やデータ項目もIBM側で整備した上で、データ分析のトライアル環境も用意する計画だ。

Data On Cloudサービスの全体像

 

Data On Cloudのアーキテクチャーの中核を成すのはIBMが提供する開発環境「IBM Cloud」だ。IBM Cloud上には、自然言語の解釈などを可能にするコグニティブ・コンピューティング・システム「IBM Watson」の一部の機能のほか、さまざまなAPIがすでに用意されており、これらをお客様のアプリケーション開発に活用いただける。IBM Cloudは、APIコネクトという課金・認証・セキュリティーを管理するソリューションも稼働しているため、非常に安全で拡張性が高く、セキュアな環境である。

さらにIBMでは、先進エリアマーケティングをより容易に実現していただくために、「商圏見える化API(エリアマーケティングインサイト)」、「大型店舗開発解析支援API」、「都市開発基礎情報提供API」の3つを開発することを想定している。

このような基盤があれば、お客様にクイックにデータを活用してエリアマーケティングを実感していただけるものと確信している。アプリケーション/API開発者や3rdベンダー、新しいサービス提供者もここに参加してきて、Data On Cloudを利用することで新しいサービスが立ち上がってくるであろう。そうなれば、ユーザー様は利用料を支払い、それがAPI/アプリケーション開発者や、データやコンテンツをこのクラウド上に提供するベンダー様の利用料に還流していく。こうした新しいビジネス基盤をData On Cloudによって広めていきたいと計画している。

コグニティブ・テクノロジーや パートナー様との協業を強みに “一歩進んだ”エリアマーケティングを支援

このように、Metro PulseのData On Cloudサービスでは、エリアマーケティングの核心を成すデータ統合の基盤を整え、多くのデータを蓄積し、配信するサービスを提供していく。単にデータを揃えるだけではなく、APIによってフレキシブルに活用いただける。IBM Cloud上でWatson APIなどと連携できることもIBMならではの強みだ。例えば、モバイルアプリケーション上に簡単にエリアマーケティングの情報を取り出し、対話的な形で伝えることもできる。その際にシミュレーションやシナリオを作ることも今後可能になっていくだろう。
さらにIBMが重視しているのが、データやコンテンツを持つお客様、パートナー様との協業だ。コンソーシアムを立ち上げて、データの提供側と利用側がエコシステムを形成し、データを利活用する基盤を拡充していければと考えている。

日本では今、自動運転に関する日本独自の地図を構築するダイナミックマップ基盤の企画会社が設立され、自動運転の実現に向けた検討が始まっている。こうした流れとともに、今後、さらにエリアマーケティングの精度が高まるとともに、利用も広がっていくことだろう。
Metro Pulseではデータの利活用の仕組みを整え、“一歩進んだ”エリアマーケティングを支援することで、お客様の新たなビジネスの創出に貢献していく。

著者

著者


根元 良一の写真

根元 良一

コグニティブソリューション事業 流通事業担当 担当部長

25年以上のIT業界経験を有し、サン・マイクロシステムズ(現オラクル)、Symantec、日本CAなどでプロフェッショナルサービス部門の立ち上げを担い、部門長としてマネジメント職を務める。流通、製造、金融などのお客様向けソリューションセリングの経験を持ち、IBM入社後はアナリティクス、コグニティブソリューションを主に担当、お客様にソリューション提案を推進している。


IBM、IBMロゴ、ibm.com、CPLEX、およびIBM Watsonは、世界の多くの国で登録されたInternational Business Machines Corporationの商標です。他の製品名およびサービス名等は、それぞれIBMまたは各社の商標である場合があります。現時点でのIBMの商標リストについては、//www.ibm.com/legal/us/en/copytrade.shtml(US)をご覧ください。