品質対応力を磨き、国内市場・海外市場でシェアを拡大しているのがナブテスコ株式会社(以下、ナブテスコ)である。ナブテスコは、モノを精密に動かし、止める「モーションコントロール技術」を、日常の中にある身近な製品や、 輸送機器、産業用ロボット、 建設機械、新エネルギーといった機器に展開し各業界で高いシェアを保持している。

特に、鉄道の基幹部品であるブレーキやドアといった製品は、乗客の安全・安心に直結するため世界的に機能安全が 規格化され、その規格を上回り顧客の信頼を維持し続ける高い品質対応力が求められる。Industrial Forum 京都 2018では、ナブテスコ株式会社 鉄道カンパニー 技術統括部 主席技師の竹市 正彦氏が、 鉄道の機能安全基準を満たしつつ、開発の効率化を図るための取り組みを紹介した。

1. 鉄道製品メーカーが準拠すべきRAMS規格

竹市 正彦氏の写真

鉄道関連規格について、その代表的なものの1つがRAMS規格(IEC62278)である。RAMSとは、Reliability(信頼性)、Availability(可用性)、Maintainability(保守性)、Safety(安全性)の頭文字を取ったもの。
近年、特にヨーロッパや東南アジアの鉄道プロジェクトの契約ではこのRAMS規格を適用することが求められているため、これに対応できないと、いかに日本国内での運用実績が高い日本メーカーの部品でも海外でのビジネス展開は難しい。竹市氏は「RAMSの中でも特にSafety=機能安全のハードルが高い」とその対応の難しさを指摘する。

講演の様子

特に、国内の製品開発で見られる、製品開発進めながら機能を検証し、後から仕様書で機能を確定していくような擦り合せ開発が、この規定下の海外では運用が難しい。一つ一つのソフトウェアやICチップが安全であることをデータで示しながら前進する開発手法が必要だ。また、国内では既に実績ある基本機能に新しい機能を加えた場合、新しい機能のみの差分開発の手法で進められ、基本機能部分は運用実績を示せば済むのだが、RAMSの世界では、この基本機能部分を含む全ての機能のSafetyに関して機能認証が求められる。

鉄道業界は、品質に関するところは長年きっちりやっている。ただ、ISO9001が出てきた時期から、とりあえず書類だけ集めて、認証取って、表向きだけ“やっています”と言っている企業が増えてきた。しかしこのような表向きだけの機能安全対応では、これからの海外品質・安全要求に対応し続けることはビジネス的にも難しく、クオリティが高くコスト・エフェクティブで、品質の良いモノを造ろう、という本質的な部分で対応していかないと、特にヨーロッパではビジネスが難しくなる。

2. 規格に対応し製品品質を向上し続ける5つの柱

図1:規格対応を支える重要な5つの柱:認証取得、プロセス、コスト削減、製品品質、要員スキル

求められる規格を満たすためには、「認証取得」「プロセス」「コスト軽減」「製品品質」「要員スキル」という5つの柱をもとに、製品開発の抜本的な見直しが必要になる。竹市氏は、これらの柱ごとに必要となる対応とナブテスコでの現状や取り組みについて説明した。

認証取得に関しては、特に海外の認証規格会社、特にドイツの認証規格企業との特殊な仕事の進め方への対応、学術的な情報力の必要性を竹市氏は強調する。
エレクトロニクスやITなどの専門性の高いドキュメントを海外の認証 規格に則ってまとめる必要があるため、ナブテスコではIBMとの協業の下にこうしたドキュメントの作成を進めている。

図2:5つの柱:プロセスの説明 ボトムアップではなくトップダウンの開発プロセス

そして、規格に則った製品開発を進める「プロセス」の改革が、この中では何よりも重要である。まず図2にあるとおり、ナブテスコでの要求トレーサビリティの部分は、IBMのRational DOORSを使って実施している。このツールは自動車や航空機の開発などで欧米で非常によく使われているツールなので、鉄道規格対応にあたってナブテスコでも導入した。 
プロジェクト管理に関しては、インターナショナルな観点で、プロジェクト管理を実施している。ただ、日本にいると「気合いと根性で日程を守るんだ!」というプロジェクトマネジャーはたくさんいるのだが、合理的に、科学的な根拠に基づいて、うまくスケジュール、プロジェクトを進めるのは難しく高いスキルが必要なところである。

竹市氏は「品質・安全の要件を満たすために企業が行うべき作業は膨大だ。従来の人に頼った形では、もはや対応しきれない。人手不足の課題が顕在化する中、強い現場力を維持・向上しつつ、しかも付加価値の創出・最大化を目指すためにはシステム的なアプローチが不可欠だ」と品質・安全の分野における先進テクノロジー活用の重要性を訴え講演を結んだ。

3. 品質対応力で海外事業を拡大するためには先進デジタルの利活用が必要

片井 正行の写真

ナブテスコ 竹市氏の講演を受けて、IBM GBS事業本部 オートモーティブ・デリバリー アソシエイト・パートナーの片井 正行は、以下のようにコメントを加えた。

“自動車の機能安全規格ISO26262は、外部認証は不要だ。端的に言えば認証やりました、と宣言した段階で「機能安全規格対応は完了した」と言っていい。しかし鉄道の場合はさらに外部からの認証を求められる。鉄道車両メーカーはサプライヤーに対して、外部からの認証を持ってきてください、と必ず要求してくる。私がナブテスコ様をお手伝いする中で、この海外とのコミュニケーションや交渉が、ものすごく難しく大変であることを実感している。

もう一つ大変なのが、図3の一番下にある、安全評価についての文書制定(セーフティケース)。このセーフティケース自体、目標があって、文書で安全を論証する、つまり大量の文書の塊である。

図3:RAMS規格に対応した海外プロジェクトの概要図

欧米の機能安全の世界では、安全とか信頼性を説明するには、文書しかない、というのが基本的な考え方。特に、構成管理はその代表的なドキュメントである。「コンフィグレーションマネジメント」といって鉄道業界では形態管理、ITの世界では構成管理と表現するが、このコンフィグレーションマネージメントに関する文書の一連の成果物に関して、絶えず更新をかけておいて、信頼性とか安全についてしっかり説明ができるように文書として残さなければならない。これも、日本のメーカーにとっては大変重たいところだ。

その解決策の一つとして、私はAIの活用とシステムエンジニアリングのIT化が効果的と考えている。また、鉄道事業者が今IoTを使ったリアルタイムな予知保全プロジェクトなどもスタートさせているので、サプライヤーもこうしたIoTへの対応も検討する必要があるだろう。製品品質の顧客対応を考えれば、AIやIoTといった先進テクノロジの活用は不可避ではないだろうか。”

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