たゆまぬ改善活動を進めてきた日本企業の生産現場。さらなる効率化は“乾いた雑巾を絞るようなもの”と思われがちだが、AI+IoTは異次元の“カイゼン”をもたらす力を秘めている。

1. 学習するシステムが新しい生産性改善の扉を開く

SCM領域でWatsonが提供する機能で活用できる非構造化データ(Corpus)の図

今、コンピューティングの世界では、「学習するシステム(コグニティブ・システム)」の時代が到来したと言われている。コグニティブの世界ではお客様自身も加わって教師データを作り、システムが機械学習をする。加えて、これまでシステムは構造化データだけでなく、文章や画像、音声といった非構造化データも扱えるようになり、新たなビジネス課題を解く可能性が出てきた。

IBMが開発したコグニティブ・プラットフォームである「IBM Watson」では、非構造化データをベースに、共通汎用機能として自然言語や画像処理、分析処理機能を簡単に活用できるアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)のサービス群が用意されている。そのほか、文書検索やテキスト・マイニング機能等も用意されており、それらを活用して照会応答や探索発見、意思決定機能を作り上げて、製造業の現場により適切な対応をアドバイスすることが可能になる。

製造業では工場の生産現場だけでなく、製品企画から開発設計、物流、販売、サービスに至るまで、Watsonの学習対象となる有用な知識ベース(コーパス)が多数存在する。これまでごく一部の人だけが使っていた、あるいは昔の人だけが使っていた知見をいかに活用できるようにするかがポイントとなってくるだろう。ここでは生産領域を中心とした活用事例を紹介していく。

2. IBM Watson活用によるプラント運転支援とは

若手運転員とベテラン運転員のスキル違いを説明する図

AIの生産現場での適用でまず紹介したいのが、IBM Watsonによるプラント運転支援だ。現在、プラント稼動の手動制御においては、運転員の経験と勘の差で、稼働効率にばらつきが出ていることが多い。このばらつきを無くし若手運転員でも高い稼動効率を安定的に維持できれば一層のローコスト・オペレーションが実現できる。

プラントの稼動効率を高めるスキルとは何だろうか。 
現場の皆さんに「若手運転員とベテラン運転員のスキル違い」について尋ねたところ、一番多かったのが、若手の場合は、事態が起きてから対応するから、結果的にアクションが後手にまわり稼働効率が落ちる、といったコメントだった。一方で、ベテラン運転員は閾値を超える前に経験や勘を駆使して手を打っているのだ。

しかし、問題は「なぜその手を打ったのか」をベテランに尋ねても、若手が理解できるまでの詳細かつ具体的な答えが、組織の中で共有されていないことが多いのだ。人間の頭の中にあるがうまく表現されていない知識を分類し、どのように判断したかを形式知化するためには、どうしたらよいのか。例えば現場の状況に対してどんな五感を働かせているのか、あるいは状況をどう類別しているのか―。こうした組織として共有化しにくい匠の本質とい ったものを「見える化」するためには、従来の機械から得られる測定データに加えて、作業状況の画像、ベテラン運転員の日報・声など多様なデータをもとにどのような判断・意図を働かせ、どんな操作をしたのかを把握し、パターン分けして、それを教師データにし仕組み化するしかない。

3. 石油・ガスプラントにおけるプラント運転支援事例

Woodside Energy社は、オーストラリア最大の独立系石油・ガス会社。必然的に仕事は極めて高い精度が要求され、安全条件が完全に整わなければ、アクションを起こすことはできない過酷な環境の中での作業となっている。

Woodside の現場従業員は、天候や風から、潮流、動物の移動パターンまで、あらゆる要素を考慮に入れて作業の判断を実施する。その際、過去の判断の背景やその実施の手続きに関する情報が作業員にとって非常に重要だ。そのため、技術スタッフやエンジニアリング・スタッフが、対象分野に関する既存の知識体系を会社全体から探し出し、分析し、現場運転員が正しい判断を導き出す方法を劇的に簡素化することが必要となった。

Woodside Energy は、Watson を活用してカスタマイズされたツールを構築し、現場従業員の作業に関する具体的な質問に対し、詳細な回答を提供できるようにした。Watson は、Woodside の 38,000 点の文書に相当する情報を取り込んだ。人間なら読み終えるのに 5 年以上かかる量に相当する。Woodside の現場従業員は、「プラットフォームに着陸できるヘリコプターの最大重量は?」というように、自然言語で IBM Watson に質問でき、その自然言語に対しWatson が自然言語で的確に回答する。今では従業員は世界のどこにいても、30 年分の専門家の知見にアクセスでき、技術データを探し出して、より迅速かつよりスマートな、事実に基づく意思決定支援ができるようになっている。

4. 画像認識を使ったプラント運転支援

AIを活用したプラント運転支援の概要図

左の図がAIを活用したプラント運転支援の概要図だ。 
ポイントは、Watson Visual Recognition という画像認識技術を使って 運転員の「目」を支援することだ。画像認識技術を使ってプラントがどういう状態のときにNGで、逆にどういう状態の時がOKなのかを、IBM Watsonに学習させる。そして実際の測定器の数値に加えて経験や勘に関係する多様な数値データを取る。生産ロット数や生産のミックスの問題なのか、曜日や温度、湿度ほか、さまざまな要素も加え、さらにベテラン運転員の日報・声の他、専門家の知見等も組み合わせて形式知化を図っていく。こうした全てのデータを人工知能が分析し、ベテラン運転員の判断だとこうなるのではないか、と若手運転員に情報提供していくのである。

こうした見える化は、多様&膨大なデータを“食べて”、パターンを判断するAIが最も得意とする改善分野だ。しかし、AIに教えるのは、人間であり、AIにデータを食べさせるのも人間だ。AIが判断できるようになるまでの“教育期間”の人間の作業をいかに短く効率化するか、IBMでも様々トライアルを繰り返している。

製造業の未来像を示すCognitive Manufacturing

日本アイ・ビー・エム株式会社 
技術理事 テクニカル・リーダーシップ 
自動車産業CTO 
北山 浩透

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日本アイ・ビー・エム株式会社 
理事 GBS事業 
IoTサービス担当 
寺門 正人

スマートファクトリーによる 生産現場改革事例

日本アイ・ビー・エム株式会社 
製造第一IoT ソリューション 
エグゼクティブコンサルタント 
富田 祐司

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