先進テクノロジーを活用した新しいモノづくり改革が脚光を浴びている。

日本の強みである現場力を維持・発展させながら、多様化する世界の顧客ニーズに対応できる新しいモノづくりの基盤構築に取り組む必要がある。

※当ページは日本IBM 理事 GBS事業 IoTサービス担当 パートナー 寺門 正人の講演をまとめたものです。

現在、世界中で進行する国家レベルの製造業改革プロジェクトには、ドイツのインダストリー4.0、中国の製造強国2015、米国のIICなどとよばれている、国をあげての取り組みがある。これらのプロジェクトに共通している新しい生産基盤は、工場の設備等に設置したセンサーデータを活かして製造をより効率化していく「スマートファクトリー」だ。

これに対して、これまで日本はその対応が、少し立ち遅れていたが、2015年からインダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI)など3団体が発足し、活動が活発になってきている。また工場が自律化する中で、日本企業が強みとする熟練工のノウハウなど“人の知識”をいかに継承し、価値の源泉としていくかも重要なテーマだ。
そうした日本企業らしさを活かした新しい日本のモノづくりについて考えてみたい。

1.インダストリー4.0はどこからどう進めるか

まずインダストリー4.0の世界について簡単に触れる。実施すべきと言われている点は大きく4つある。1つ目は「作業者」に着目し、人がしていた作業を機械化し、工場を自動運営できるようにすること。あるいは作業者をIoTで把握し、人と機械の共生を目指す。2番目は「設備」に対して、センサーから収集されるビッグデータを使い、設備監視や故障予知、不良予知を行うこと。さらには多能工ロボットや人工知能を導入し工程をフレキシブルに自動化することも考えられる。3点目は「生産方式」を見直すこと。MES(Manufacturing Execution System :製造実行システム)など製造工程の状況を吸い上げる仕組みも不可欠だ。4つ目は「部品」について、マス・カスタマイゼーションに対応するために在庫の持ち方を検討する必要がある。

では実際に着手するにあたっては、どこからどのように進めていけばいいのか。3つのステップが考えられる(図1)。

どのように進んできいて、これから、どこに行くのか?

まず中核となるのは、製造現場に設置した各種のセンサーからデータを集めてリアルタイムに分析することだ。これにより、設備の状態の遠隔監視や故障予知、製造不良予知などビッグデータを使った工場運営が可能になる。ここを目指すと、本来なら過去にインダストリー3.0(電子機器やITの利用による生産プロセスの自動化)の段階で整備すべきだった点の見直しを迫られるケースも出てくる。その場合は一段階前に戻り、MESやスケジューラー、コンフィグレーターの見直し、バリューチェーンや部門間連携を評価し直すことになる。

そして、イノベーションの度合いを高くするためには、データのリアルタイム分析を超え、よりサイバー・自律化の世界へと向かう。すなわち、サイバー(デジタル)空間で製造現場を可視化する、あるいは製造ロボット自体が人工知能を持って多能工化し、高品質のモノを早く作れるようにするといった世界を目指すことになる。以下、まずセンサーからデータを収集して工場を可視化しながら最適化していく取り組みから見ていこう。

2.スマートファクトリーへの取り組みの広がりと課題

スマートファクトリーを実現する仕組みを簡単に説明する(図2)。 まず製造現場である物理層、すなわち部品やFA機器、ロボット、設備、作業者、検査装置などにセンサーを付けることで、IoTを介してそれらのデータを収集できるようになる。その結果、製造工程の進捗状況ほか、設備や製品の状態などが可視化される。さらに多様なデータが集積されることで分析が容易になり、作業履歴等と対照してQCD(Quality, Cost, Delivery:品質・コスト・納期)への影響等も分析可能になる。

その結果から製品不良や機器の故障を予測し、事前に対策を講じることができる。最終的には、そこで出てきた示唆に基づき、製造現場や工場運営層にフィードバックを行ったり、設備の自動制御に反映させるなど、PDCAを回す。これが、我々が考えるインダストリー4.0におけるスマートファクトリーの姿だ。

Smart Factoryとそれを構成する主なソリューション

モノづくりは技能と知識の結晶であり、高度で難しいものだが、IoTはビッグデータを駆使してその難しさに新しい光を当てて、従来になかった価値を引き出す。 スマートファクトリーは次のような領域で取り組みが広がりつつある。

【設備予知保全】 工場内の設備について、ビッグデータを取りながら予知保全をするケースが増えている。例えば、自動車メーカーの生産ラインでは、溶接ロボットが故障で停止する前にメンテナンスする仕組みを構築した。ロボットのアームの関節部分にかかる負荷をセンサーで計測しながら、アームの回転量や溶接時の位置決めの時間、そして「軸が摩耗して鉄がこすれ、鉄粉が関節の中に入ってしまう」状況との関連をデータで監視。不具合が起こる危険性があることをロボット会社やメーカーに早めに知らせて、溶接ロボットが止まらないようにしている。他にも、化学プラントなどで配管の内面腐食が起こる原因を分析して発生を予測したり、風力発電プロペラの減速機のセンサー解析による故障予知の例がある。どの設備がどういうタイミングで故障しそうなのかを予知し、事前に適切なメンテナンスを促すことにより、工場運営の効率化に貢献できる。

【製造品質予知】 似たような仕組みを製品製造の際の不良を予知することに適用することもできる。ある自動車メーカーのエンジン製造工程において、鋳型に鉄などを流し込んでシリンダーブロックを作る工程において、従来は全数X線検査を実施していた。スマートファクトリーでは、鋳型に流し込むときの温度、スピード、流し込む鉄やアルミの成分比、それぞれのポイントにおける温度など、さまざまなデータを取得し、500ほどのパラメーターを設け、どのような不良がどういう状態で起こったかについて、履歴データからモデルを作成。センサーデータから製造中の製品ごとの状態をチェックし、ある程度の品質予知を行えるようになった。

このように検査に人手や時間をかけずに、より効率的な製造運営をするのがインダストリー4.0の取り組みである。自動車製造における塗装や組み立ての工程、鉄鋼の焼き入れの工程、電機メーカーの半導体の工程など。さまざまな製造工程における不良を、センサーデータで予知することが可能だ。なお、さまざまな事例で取り組みの成果が上がっている一方で、今後に向けた課題も見えてくる。

日本企業の現在の取り組み状況を見ると、製造工程や製品の品質解析や統計解析は統計の専門家が担当しているケースが多い。しかし、人に属した品質管理ノウハウを形式知化して、工場あるいは企業全体の競争力の源泉にするためには、専門家でないさまざまな人が統計モデルを作って運用できることが大事である。そのためには、IBM SPSSのようなユーザーインターフェースのわかりやすいツールの活用も役立つだろう。もう一つ大事な点は、こうした品質解析などの取り組みを定常的な業務に落とし込むことだ。さらにそれらを他の工程や設備、工場へと展開していく必要がある。さらに、そのためには専門組織の立ち上げや人材育成も必要となってくるだろう。

3.製造業でのコグニティブ活用の可能性

ここからは、さらに人工知能などのコグニティブの適用の可能性について見ていく。
インダストリー4.0やIoTにはいくつかの規格がある。有名なのはドイツが提唱するインダストリー4.0だが、米国はIIC(Industrial Internet Consortium)、日本はIVI(Industrial Value chain Initiative)があり、連携が目指されている。3つは共通点も多々あるが、コンセプトやターゲットに若干の違いがある。日本のIVIの特長は、価値の源泉を「人の知識」に置いているところだ。個々の会社に受け継がれているノウハウを未来の生産手法へと効率的に移行していくことこそが競争力になりうるものとしてとらえている。

従来、現場に受け継がれているノウハウは属人化した暗黙知であることも多く、継承は難しいとされてきた。しかし、技術が進化し、従来はコンピューターで処理できなかったような非構造化データも処理できるようになってきた。自然言語や画像の認識も可能な「IBM Watson」(以下、Watson)のようなシステムの登場により、眠っているデータを使える可能性が出てきた。Watsonは従来のテキストマイニング技術とは違い、同じ言葉でも、使い方から意味合いを判別する能力を持ち、人と同じように文章を読み込み、求められた問いへの答の確信度を評価した上で回答する。こうした飛躍的な進化を遂げた技術が出てきたので、我々は製造業に活かしたいと考えた。

いくつか人工知能の活用事例を紹介する。

【熟練工のノウハウやマニュアルを参照し、人に解決策をアドバイス】
日本の製造業の場合、大事な事柄を文書で記録するのが一般的だ。経済産業省も海外と比べた日本の製造業の良さの一つに、ノウハウが蓄積されている点を挙げている。「作業日報」「ヒヤリハット報告書」「過去トラブル報告書」「熟練技術者のノウハウ」「技術論文」「操作マニュアル」「外部データ」「画像データ」といったものをWatsonに読み込ませて、作業員やオペレーター、エンジニアが、故障が起きた場合に「原因はどこにあるのか?」、「こういう場合の最適な対策手順は?」とWatsonに問い合わせることが考えられる。かつて現場で熟練工が若手に教えてくれていたようにWatsonを介してできないか。ひいては熟練工のノウハウを後世に残す手段になるのではないかという考えで新しい取り組みを始めている企業がある(図3)。

IBM Watsonを製造業に活用すると…

4.匠の技の継承を実現するCognitive Manufacturing

また、製造設備自体がどんどん賢くなっていくという方向性がある。

【人の言葉を理解し、作業する産業用ロボット】
ハノーヴァーメッセ2016でIBMは、人の言葉を理解する産業用ロボットの展示を行った。これは、工場の中で人とロボットが協調して作業するようになることを想定したもので、事前にシステム上で指示しなくても、人間とのやり取りを通じて最適な製造設定ができるロボットが生まれている。

Watsonは「人」ができることに近づくべく、機能を増やしている。音声認識はもちろん、会話の内容から性格分析をしたり、音声のトーンから状況を理解したり、画像認識を活用するなど、今後、一層多様な事例が出てくるだろう。

【人や設備とのコミュニケーションをとりつつ自律的に稼働】
例えば、初心者の作業者がある設備の現在の状態についてWatsonに問いかける。性能に関するセンサーデータを見るときはこのパラメーターを見るべきだということがWatsonの中に知識として蓄えられている。さらには、2カ月ごとに保全の手順を踏むというルールを認識して、保全管理をする。さらにWatsonは、日報やマニュアルの細かいところまで確認しないとトラブルが起こるケースがあることを見て、技術者や作業者にすべきことをアドバイスする。熟練工が若手に設備や工程の見立てを教えているのと同様に、個々人に蓄積された知恵や経験を授けるのだ(図4)。

Watsonとのコミュニケーション

今、日本のモノづくりの強みは“現場力の強さ”にある。この人に属した暗黙知や熟練工の高いノウハウや技術を、AIや新しい技術で紐解いて、新しい時代の現場を支える人に形式知として正しく継承させ日本の製造業の競争力の源泉になってきた現場力をさらに向上させる戦略とソリューション、それが「Cognitive Manufacturing」である。

熟練工の暗黙知は、様々なドキュメント、画像、音声、動画、即ち非構造化データの中に眠っている。こうした大量の非構造化データをIBM Watsonに認識させて、熟練工の暗黙知を企業として共有する形式知としてIBM Watsonが再構築する。
これにより若手社員は、熟練工ならどう判断するかを、IBM Watsonに聞けばWatsonが熟練工に代わって若手社員にアドバイスしてくれる。
画像や音声を認識し判断する技術を持つIBM Watsonだからこそ実現できるのだ。

今、こうしたCognitive Manufacturingが注目されている。これは、少子化や若年層の就業意識の変化といった日本の社会が抱える構造的な問題の中で、日本の製造業の現場マネジメントの間に、人材の確保・スキルの向上に大きな課題がある、という認識が広がっているためだ。Cognitive Manufacturingに関する詳細な内容は以下のリンクをご覧いただきたい。

5.日本らしいスマートファクトリーで競争力の向上を

マニュアルや文章を読み解く、人にセンサーを付ける、画像でパフォーマンスを把握するなどの手法は、日本企業に脈々と受け継がれている熟練工のノウハウを継承する良い手段だと考える。IoTのセンサーデータのみならず、文章データや人のIoTにうまく活用していくというのが、日本がこれまで手にしてきた競争力を失わない形でのインダストリー4.0の姿ではないだろうか。

なお、IBMではお客様の事業戦略や取り組み課題に応じて、スマートファクトリーの実現に向けたロードマップを提言する「スマートファクトリーの将来像策定サービス」を提供している。

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著者 インダストリー・エキスパート

日本アイ・ビー・エム株式会社 理事
GBS事業 IoTサービス担当 パートナー

寺門 正人

サプライチェーンの分野で20年弱のコンサルティングの経験を持つ。サプライチェーンの構想策定や業務改善支援を中心に実施し、生産や販売など、現場における指標策定・運用のコンサルティングを強みとする。また、新興国におけるサプライチェーン推進の経験も豊富。IBMが提唱する次世代SCMの推進にも従事し、次世代SCM・指標運用に関する執筆多数あり。

 

IBM、IBMロゴ、およびIBM Watsonは、世界の多くの国で登録されたInternational Business Machines Corporationの商標です。他の製品名およびサービス名等は、それぞれIBMまたは各社の商標である場合があります。現時点でのIBMの商標リストについては、www.ibm.com/legal/copytrade (US) をご覧ください。

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