当ページは日本IBM 技術理事テクニカル・リーダーシップ自動車産業CTO 北山浩透の講演をまとめたものです。

製造業は次世代に受け継がれるべき基幹産業です。しかし、日本の生産人口は減少し続け、いかにして「匠」の技術を継承していくかが喫緊の課題となっています。工場設備にはさまざまなセンサーや通信モジュールが実装され、生産ラインの状態監視や故障の未然防止などに役立てられています。さらには、モバイルやウェアラブル・デバイスなどを活用した技術により、モノと人との協調による生産環境の改革が進められています。このような先進テクノロジー活用の延長戦上に、匠の技術の継承、そして日本の製造業が目指すべき未来があります。

「匠」と呼ばれる熟練者の技術をいかに次世代に継承するか

資源に乏しい日本は、資源を輸入し、生産現場の人を育て、高品質な製品を輸出することで、豊かな国を築き上げてきました。GDPの約20%を占める製造業は、次世代に受け継がれるべき基幹産業です。しかしながら、日本の生産人口は2010年から2025年までの15年間で約1,000万人減少することが予測されており、工場の効率化と共に「匠」と呼ばれる熟練者の技術をいかに次世代に継承していくかが喫緊の課題となっています。
匠への成長には大きく2つのステップがあります。

まずは一般作業者として経験を積み、「準匠」に成長するまでのステップです。設備の扱い方やマニュアル類の読み方、工場で使われるシステムの操作方法、同僚の得意技や特徴などを学ぶうちに、徐々に効率よく作業ができるようになり、ベース・ナレッジが頭の中に定着していきます。さらに、さまざまな成功・失敗体験を通じてマニュアルにはない記載されていない五感を活用した対処方法など、自分なりのベスト・プラクティスが形成され、効率的な行動様式が生み出されます。

次のステップは、こうした準匠から本物の匠への成長です。準匠になると他の作業者からも一目置かれ、リーダー的な役割を担うようになり、情報が集まりやすくなります。これが好循環を生んで「個人の知」に「集合知』が加わり、ベース・ナレッジやベスト・プラクティスが底上げされていきます。

センサーが匠の五感の役割を果たす

IBMでは、こうした匠への成長ステップを、Cognitive Manufacturing の仕組みによって支援する工場プラットフォームを考案しています。そこではセンサーが匠の五感の役割を果たし、装置の異常を発見することも可能です。たとえばプレス機に取り付けられたセンサーは、加重(視覚)、音響(聴覚)、油温(嗅覚)、振動(触覚)のほか、モーターの電流値などを検出します。さらに、これらのデータを受け取った分析システムが、機械学習などの手法を用いて故障につながるデータの規則性やパターンから予測モデルを抽出します。

実際の業務での運用段階に入ったあとは、この予測モデルに基づいたリアルタイムの判定が行われます。正常時の特徴や傾向から外れていると判断された場合に、故障予兆のイベントをアラートとして送信します。さらに工場の頭脳の役割を果たすナレッジ・サービスが、設備の問題発生時に出現するさまざまなデータを取り込み、知識源として活用します。そこでの作業者とのインターフェースとして利用するのは、音声認識や音声合成、対話制御などの仕組みを実装したタブレット上のバーチャル・アシスタントです。

匠のベース・ナレッジとベスト・プラクティスを学習したバーチャル・アシスタントの図

匠のベース・ナレッジとベスト・プラクティスを学習したバーチャル・アシスタントが作業者と対話しながら、円滑な問題対応をリードしていくことが、将来に向けて描いているシナリオです。「故障の予兆を検知する」「障害対応に必要な情報を集めて提示する」「課題解決に向けたアプローチをアドバイスする」といった働きをバーチャル・アシスタントが担うのです。工場の5M(Man、Machine、Method、Material、Measure)の変化点など、作業者に“気づき”を与えるとともに、最終的には問題対応の報告書作成まで支援します。作業者はこうした対応経験を次回の対応に生かすことができます。

ただ、バーチャル・アシスタントの技術を実用レベルに高めていくためには、「対話制御についても現場レベルでの工夫が必須となります。対話フローは問題発生時の匠の思考プロセスに大きく依存するからです。したがって実際の匠との対話から学習を開始し、対話フローを継続的に洗練させていくことになります。また、対話のリードをバーチャル・アシスタントに任せることになりますが、自由な会話を行うのはまだまだ困難です。そこで対話の基本的なストーリーをあらかじめ対話サービス側に登録しておき、そのフローに従って問題解決に導いていく必要があります。

ナレッジ・サービスの概念図

人間の独創的な活動をCognitive Manufacturingが支援

こうした取り組みの延長線上に実現する新しい仕組みが、Cognitive Manufacturingです。Cognitive Manufacturingは、工場で働く人に着目し、かつてない価値を提供します。高度化していく機械(システム)によって作業者を支援するほか、次世代の工場プラットフォーム上で人間が独創的な活動を行えるように支援していくことなどを目的としています。

従来の工場内のシステムは人間がプログラミングしなければ実行できませんでした。これに対してコグニティブ・システムでは、コンピューターが人とのやりとりを通じて自律的に学習し、ある意味で自らをプログラミングすることで新しいタスクを実行します。そこでの鍵となるのが、「推論」「学習」「対話」の3つのキーワードです。

これらの技術を工場内のサイバー・フィジカル・システム(CPS)と結び付けていくことで、単独では成し得なかった集合知を提供することが可能になると考えられています。そしてサイバー・フィジカル・システム上のデータから推論や学習を繰り返すことで、より精度の高い推論や新たな推論を行うことが可能となり、人との自然な対話を通じて人がより高度な活動を行えるように支援していきます。

どんなに時代が流れても、製造業における価値の源泉が“人”であることに変わりはありません。特に生産人口が減少していく日本において、次世代の生産方式を確立していくための“両輪”として、スマート・ファクトリーとともにCognitive Manufacturingはますます重要度を高めていくと考えられます。

コグニティブ・ファクトリーとスマート・ファクトリーの関係図

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著者 インダストリー・エキスパート

日本アイ・ビー・エム株式会社
技術理事(IBMディスティングイッシュト・エンジニア) 
テクニカル・リーダーシップ 自動車産業CTO

北山 浩透

1988年日本アイ・ビー・エム株式会社入社以来、自動車産業にかかわりを持つ。1990年代は、BOM、PLM、CAD/CAM開発に従事。2000年よりIT戦略やEAを手掛け、2010年以降、IBMセールス部門において、Smart Mobility、Smart Factoryなど新規ビジネス開発の技術リーダーを担う。現在、自動車産業CTOとしてIBMの技術企画・実行をリードする。

 

 

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北山 浩透

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