当ページは日本IBM コグニティブソリューションズ 製造第一IoT ソリューションズ エグゼクティブコンサルタント 富田 祐司の講演をまとめたものです。

モノづくりの現場のデジタル化が進むにつれ、発生するデータが爆発的に増加している。IT技術の進化によって大量データがリアルタイムに処理できるようになったことで、データを駆使した新たなモノづくりのブレークスルーを目指す大きな変化が起こっている。データから状況を理解し、推論によってアクションを実行。その結果を繰り返し学習することで、さらなるビジネス価値を生み出す工場―「スマートファクトリー」の出現である。

工場をスマート化するというと遠い将来の目標と思われるかもしれないが、決してそうではない。世界各地で始まっている実践事例を見ると、生産現場の具体的な課題に対してこれまでにない技術とアイデアを適用することで成果を上げていることがわかる。身近なデータに着目し、いかに活用してビジネスに貢献するか。ここでは生産現場ブレークスルーの一環としてすぐに始められる、スマートファクトリー実践へのアプローチを考えていきたい。

現場で得られるデータの活用がQCD向上のカギになる

スマートファクトリーへの取り組みは工場内で発生するビッグデータから始まる。これまでもさまざまなセンサーなどを通して、工場内ではデータを収集してきたはずだ。しかし、その多くは活用されることなく廃棄されるか、どこかに保管されるだけだったのではないだろうか。
ところが、時代の変化とともに、ビッグデータを扱える新しいコンピューティング技術が低コストで利用できるようになってきた。

工場のビッグデータを活用することで得られるビジネス価値は大きい。モノづくりの普遍的な要素である品質、コスト、納期、つまりQCDの高次元のバランスであり、さらには安全性の確保や、お客様満足度の向上である。
こうした取り組みはすでに現実のものとなっている。ここからは実践事例を通して、5つの切り口でスマートファクトリーへのアプローチを紹介していく。

データから状況を理解し、推論によってアクションを実行、その結果を繰り返し学習することで、さらなるビジネス価値を生み出す工場

ブレークスルー1: 品質予測モデルを使って検査にかかるコストと時間を削減する

工場の鋳造工程では数百項目に上る鋳造データが取得されている。これらのデータを有効活用して、検査にかかるコストと時間を削減するというアプローチがすでに始まっている。データ・マイニングによってプロセスデータと検査結果の関係性をひもとき、検査コストの削減を実現しているのだ。ここでは仮にX社とする。

X社はエンジンの部品を鋳造する工程で、全数検査を行ってきた。数%以下の確率で発生する不合格品を検出するために、作った部品すべてを冷却しX線検査にかけてきた。確実な方法だが、冷却処理とX線検査に時間もコストもエネルギーもかかる。そこには膨大なコストの無駄があることはわかっていた。

そこでX社では、鋳造工程で取得している各種のプロセスデータを用いてリアルタイムスコアリングを実施し、検査が必要と判断されたものだけをX線検査にかけることでコストを削減しようと考えた。過去のデータから品質予測モデルを作り、実際のプロセスデータを予測モデルに当てはめることで判定を実施したのである。

具体的には、準備として約7,300件の過去のデータのうちの約5,000のデータを使って品質予測モデルを作成。残りのデータでモデルを検証し、それを繰り返して精度を高めた上で、本番のリアルタイムスコアリングを実施した。そこで良品と判定されたものは次の工程に進み、不良と判定されたものは再利用処理に回し、残ったものだけをX線検査の対象とすることで、大幅に鋳造工程のコストと時間を削減することができたのである。

X社鋳造工程における品質予測モデルとリアルタイムスコアリング

ブレークスルー2: ヘルススコアモデリングによって故障を予知して保守コストを低減する

トラブルを事前に知る予知保全への期待は大きい。特に人命にかかわるような場面では、予知保全の重要度はより大きくなる。ある航空機のジェットエンジンを提供する企業では、重大な故障を未然に防ぎ、稼働時間を最大化しながら保守コストを削減しなければならないという課題を抱えていた。

ジェットエンジンのメンテナンスは、ジェットエンジンを取り外して点検や部品を交換するため多大なコストがかかる。1回のメンテナンスには数億円という費用が発生する。航空会社としてはコンディションによって不定期に発生する整備コストは経営を圧迫しかねない。一方でエンジンメーカーは純正部品を使ってくれないなどの航空会社のコストダウン指向によって、開発投資の回収に時間がかかるなどの悩みを抱えていた。しかも、安全の確保は絶対的な優先事項だ。こうしたジレンマの中で注目したのが、1フライト1テラバイトといわれるジェットエンジンのセンサーデータだった。機体自体の膨大なデータもある。そこでヘルススコアモデリングという概念を導入して課題解決に臨んだ。

準備段階として、蓄積された過去のデータから障害記録と稼働データを突き合わせて、ヘルススコアモデルと寿命モデルを作成。過去のデータを使って事前に精度を評価した上で、稼働中のエンジンや機体のデータを各モデルに当てはめることで、故障を予知できるようになったのである。

ヘルススコアモデリングはビジネス・モデルも変えた。エンジン整備の保守計画が最適化され、定額サービス化されたのである。航空会社は時間当たり数千円という費用で整備を受けることができ、安定収入を得ながら開発投資の早期回収、純正パーツの販売確保を実現。1エンジン当たり3年間で数十億円のコストダウンにつながっている。

ジェットエンジン予知保全モデル

ブレークスルー3: 工場全体をリアルタイムに管理してフレキシブルに生産ラインを変更する

製品や設備の至る所にICタグやバーコードを付け、それらを読み取るセンサーやカメラが設置され、品種の異なる1個流しでありながら、大量高速に製品を製造する工場を目指す動きがある。

こうした取り組みは“マスカスタマイズ”と呼ばれる。量産とカスタマイズという相反する要件を両立させたもので、いままでの生産方式とは大きく異なる。しかし、常に加工仕様や組立条件が変化する今のモノづくりの世界では、ニーズは高まるばかりだ。

マスカスタマイズの実現には、IoTを駆使した4つの視点からの総合的なアプローチが必要となる。ラインのフレキシブルな自動化、ジョブショップの高速化、ロボットのリアルタイムな連携、そしてオンデマンドでの作業者の支援である。IBMは高速ジョブショップとして、半導体の前工程の生産ラインなどでそれを実現している。

IBMでのマスカスタマイズの特徴は、前述の4つのアプローチのコンポーネントにIBM Watsonを適材適所で活用することだ。Watsonは現場からリアルタイムに収集したデータをもとに、工場でいま起きてきること理解し、推論し、学習し、工場全体の最適化の観点から、各部分を的確に指示するとともに、アドバイスを提供する。これは次世代スマートファクトリーの目指す姿といえるだろう。

ブレークスルー4: アルゴリズムを駆使して調達部品の品質低下の兆候を早期に検出する

サプライヤーから調達している部品の品質が知らず知らずのうちに低下しているのを、早期に発見するのは難しい。IBMでもサーバー製品の組み立て後の試験でようやく問題を把握するなど、対策が後手に回っていた。

そこでIBMでは約10万点の管理ポイントを設定し、サプライヤーから収集した部品の品質情報を、新たに開発した早期警戒監視アルゴリズムを使って分析。品質低下の傾向を早期に把握して、不良品の流入を防ぐことで、問題の未然防止を実現した。このアルゴリズムを搭載したシステム「QEWS(Quality Early Warning System)」は徐々に変化していく傾向を検知するのに優れた累積和管理図を応用したもので、個別ビンテージの不良の様子を網羅的、定常的に把握しながら、通常では確率的にあり得ない状況が起きているかどうかを判定するものだ。

実際には故障率を時系列で見るトレンドグラフと、目標としていた故障率と実際の故障率を比較するAVTグラフ、独自のアルゴリズムで異常傾向をわかりやすく表示するQEWS解析結果グラフの3つの合わせ技で判断してアラート信号を表示する。このQEWSは、従来現場への適用は難しいとされてきた早期警戒監視アルゴリズムを、閾値の設定などに工夫を凝らすことで、現場に適用できるようにしたもので、現在製品として提供されている。

QEWSの画面 (一部拡大)

ブレークスルー5: リアルタイムスケジュールによってボトルネックスループットを改善する

半導体工場では、秒間数十ものイベントに対応している。MESや装置から着工完工などのイベント情報がもたらされ、それに応じて最適なスケジュールを組むことが求められる。IBMの半導体工場では、こうしたイベント情報からCPLEX(数理計画法)を応用して、最適化技術によるリアルタイムスケジューリングに取り組んできた。

CPLEXによるリアルタイムスケジューリングでは、イベント情報から読み取れる状況の変化に応じて5分ごとにスケジュールを見直し、8時間先までの最適化されたスケジュールを計算する。この仕組みを導入したことで、複数のエリアでの仕掛中のウエハーの枚数のばらつきが平準化され、全体として処理待ちのウエハーが減少、工程の処理に要する時間が改善された。

この取り組みはIoTの先駆け的なものであり、製造装置のデータモデルをリアルタイムに更新することで、高い成果を上げた。現在では、半導体後工程、液晶パネル、LED、PCBなどを製造する世界中の各工場でCPLEXリアルタイムスケジューラーが導入されている。1,000億円規模の工場で全体のスループットを2%から3%の改善し、20億円から30億円の生産高の向上を実現している事例もある。

最後に

IoTを駆使したスマートファクトリーへの取り組みはまだ始まったばかりだ。とにかく実験して、結果を分析して、次のステップに進んでいくしかない。

IBMではこうした取り組みを後押しするために「Watson IoT Platform」を提供している。そこでは気温や湿度、気圧、照度といったデータをセンサーから収集し、クラウドに蓄積したり、分析したり、WatsonのAPIを使ってアプリケーションを開発することができる。

スマートファクトリーは一社で実現できるものではない。一緒に取り組んでこそ成功への道が開ける。パートナーとしてぜひ我々日本IBMも一緒に挑戦させていただきたい。

「インダストリー4.0で目指す新しい工場システム」

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先進テクノロジーを活用してQCDを向上する「インダストリー4.0」の考え方を取り入れたスマートファクトリーを構築するための方法をまとめた資料です。

著者 インダストリー・エキスパート

日本アイ・ビー・エム株式会社
コグニティブソリューションズ 製造第一IoT ソリューションズ
エグゼクティブコンサルタント

富田 祐司

製造業コンサルタントとしてMES、SCMの構想企画から導入までの一連のプロジェクトを20年以上手がける。近年は、MESやSCMなどの実行系アプリケーションから生成されるビッグデータを有効活用した情報分析(アナリティクス)によるQCD向上・生産の自動化を担当、製造業におけるIoT事例紹介などの講演も多数実施している。

 

 

IBM、IBMロゴ、ibm.com、CPLEX、およびIBM Watsonは、世界の多くの国で登録されたInternational Business Machines Corporationの商標です。他の製品名およびサービス名等は、それぞれIBMまたは各社の商標である場合があります。現時点でのIBMの商標リストについては、www.ibm.com/legal/us/en/copytrade.shtml(US)をご覧ください。

富田 祐司

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