IBM Industrial Forum 京都 2017 コグニティブがものづくり企業にもたらすイノベーション ロゴ画像

日本のものづくり企業は今、多様化する顧客ニーズへの対応や人手不足、現場の技術の伝承などさまざまな課題に直面している。一方で、AIやIoTといったITテクノロジーがビジネスの姿を大きく変えようとしており、ものづくりの世界でもその影響は大きい。日本の製造業がこの変化を取り込み、グローバル競争に勝ち抜くためには、どのようにすればよいのだろうか。

「IBM Industrial Forumm 京都2017」(以下、京都フォーラム)では、AIやIoTを積極的に活用し、課題解決に乗り出したお客様事例6社が紹介された。今回は生産現場でのイノベーションに焦点を当てて紹介する。

(当記事は、2017年2月16、17日に行われた「京都フォーラム」のパネルディスカッションとお客様事例講演を中心に編集・構成したものです。)

1. 日本の製造業の強みの源泉をいかに継承、発展させていくか

パナソニック・神戸製鋼・クラレからのメッセージ

人とITの協調が本来の強みをさらに際立たせる

日本のものづくりの未来を考えるために、まず日本の製造業の強みと課題を押さえておきたい。パネルディスカッションでは、日本の「ものづくり」の中核を支えつつ、時代に応じて変革を続け発展を遂げた3社による意見交換がなされた。

パナソニック アプライアンス社 副社長 技術担当 技術本部 本部長の今井淨氏は、「日本の製造業の強みは“職人”であること」と指摘する。「職人は、お客様の価値観を聞く心を持ちながら、しっかりとした美意識やアイデンティティーを持っているが、それを商品・サービスへと展開する際に暗黙知が阻害要因になることもある」と話す。

登壇者の様子 写真
会場の様子 写真

クラレの林洋秀氏は、独自技術にこだわる精神が自社のDNAとして受け継がれていることに触れ、オンリーワン、ナンバーワンの技術が同社を発展させてきたと話す。だがその一方で「独自技術にこだわることで、次の大きな柱が作れていないことも確か」と課題を挙げる。

神戸製鋼所 理事 鉄鋼事業部門 加古川製鉄所 副所長の浅田秀樹氏は自社の課題を「人」「設備」「顧客」の3つの観点から語る。技術技能継承と人材育成が急務であること。大規模設備の維持管理の高度化とコンピュータシステムの複雑化・高度化が課題であること。そして、顧客に対しては、多品種少量生産への対応や、グローバル市場への対応が必要になっているという。

データ活用で「匠の継承」の活路を見いだすことはできないか?

こうした課題の解決策の1つとして、各社ではデータの活用に取り組んでいる。しかし、活用が部分的に留まっていたり、社内の体制が整っていないなど、悩みも多い。「製鉄は装置産業のため、受注から出荷までの全工程はデータ化されているが、それらは分散しており、人手でデータをつなぎ分析を行っているのが現状」と浅田氏。「分散しているデータの統合やデータの収集自体にもコストがかかるが、その費用対効果が見えにくい」と問題点を指摘する。林氏も「社内にはITに精通した人材が少なく、経営トップに説明するスキルが不足しており、限定的に導入して成功事例を積み上げていくしかない」と話す。コスト以外にも悩ましい点がある。今井氏は「技術の進化も早く、どのタイミングで導入するのかが、素人には目利きしづらい。だからこそITを提供する側の提案に期待する」と語る。

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人とITの協調の先に未来の製造業がある

では、製造業の未来に向けて、今後はどのような分野が重点領域となっていくのか―。林氏は「技術者の経験不足をビッグデータやディープラーニングによってサポートできると嬉しい。パートナーとともに開発していきたい」とAIの製造現場への適用を期待する。また浅田氏も「機械でできることは早く機械にシフトし、人が創造性のある仕事にシフトできれば競争力が強化される。一方、製造現場の安全確保や災害防止の面でもITの支援を期待したい」と話す。課題解決のヒントの1つは、人とITの協調と役割分担にあるようだ。

では、実際に生産現場でAIやIoTを積極的に活用し、課題解決に乗り出されたお客様事例を紹介しよう。

2. 生産革新事例:安川電機 様

安川電機のインダストリ4.0~止まらない工場から進化する工場へ~

顧客ニーズ、環境の変化に対応するため“安川版インダストリ4.0”を目指す

創業100周年を超えた安川電機は、「2025年の経営ビジョン」を掲げ、コア技術であるモーション・コントロール、ロボット、パワー変換技術を軸に事業を展開している。

同社ロボット事業部部長を務める藤野賀須男氏はロボット市場のトレンドをこう語る。「大規模生産は新興国に移り、先進国は多品種少量生産、言い換えると変種変量生産に進んでいる。商品の移り変わりが早く、作る量も日々変わる。そういうものづくりに対応していかなければなりません」。

講演の様子 写真

またロボットの技術トレンドである、ハードウェアの集中制御から分散制御へのシフト、ソフトウェア面での「知能化」に対応し、デバイスの自律分散制御を目標としていると話す。

こうした変化に対応すべく同社は“安川版インダストリ4.0”を目指している。それは自社工場を自動化し、顧客ごとに求められる製品をBTO(Build to Order)で生産していくことだ。外部の技術も活用し、100社に合った100個の製品を作れるようにするとともに、進化したシステム自体をコンポーネントとして顧客に提供していく考えだ。

安川版インダストリ4.0 概要図縮小
藤野 賀須男 氏 写真

しかし、BTOを実現するための自動化ラインには阻害要因があるという。工場の柔軟性で あるロバスト性を高めることと、人と接触しないような安全柵を用意するといった安全性の確保には矛盾するところがあるのだ。同社はそれに対して、ロボット にポータブル性を与え生産プロセスの自動変更を可能にすることと、受注から出荷までの自動管理と作業の自律化と知能化に取り組んでいる。「この2つを同時 に行なってこそ、プロセスにロバスト性を持たせることができる」と藤野氏は強調する。

ここで期待されるのがAIやIoTの活用だ。AIによってロボットに作業内容を理解させ 軌跡を学習させることで、オーダーに対応した自律制御が可能になる。またプロセス全体のIoT化によって稼働状況の把握や予知保全が可能になり、生産ライ ンが最適化される。オーダー対応と安定生産を合わせることで、BTO生産、つまりスマートファクトリーが実現する。

実際にオーダーが変わった場合には、ロボットに作業変更を指示するティーチング作業が発生する。安川電機はここにAIやプランニング技術を使用して、作業の効率化を図るプランニング機能を開発中だ。これが実現すればティーチングが数分で済む ようになると期待されている。一方の安定生産でも課題がある。「違うものを作れるようになっても、それを管理できなければ生産ラインは乱れます。そこで必 要になるのが情報の可視化、予防保全、復旧条件の判断、不良発生要因の検出です」と藤野氏。同社ではこれらの対応をロボット側のエッジ機能に任せようとしている。

工場内のエッジ・コンピューティングに求められるのは、ロボットや周辺装置のデータを効率良く収集し、工場の見える化を 実現することだ。エッジ側に一旦データを集め、必要なデータだけ上位のビッグデータ層に渡す。故障予知や復旧のためのトラブルシューティングのデータもエッジに集められ、上位のシステムで原因を 分析して結果をエッジに戻す仕組みだ。同社ではこのエッジ・コンピューティングと前述のプランニング機能によって、 変種変量生産を目指している。

藤野 賀須男 氏 写真

Watsonと製造現場をつなぐことで人とロボットの共存作業を実現

この仕組みのパートナーの一つとして安川電機が選択したのが日本IBMである。「個々のロボットのデータ分析は私たちの技術のコアの部分であり、常に追求してきたところです。しかし、横同士の繋がりに比ベて上位のシステムとの繋がりは弱い。全体最適を考えると当社だけでは対応できません。そこにIBMの協力が必要でした」(藤野氏)。

具体的には、製造現場のエッジ機能とクラウド上のIBM Watson IoT for Manufacturingを連携させ、ビッグデータからビジネス価値を生み出そうというのが狙いだ。同社は現場で培ってきたノウハウで、製造現場のデータをリアルタイムに収集し、Watsonがそのデータを学習して知見を引き出し、それを製造現場にフィードバックしていく。

オープンイノベーションで実現 IBMのテクノロジーと安川電機のロボットメーカーとしての強みを組み合わる概要図縮小

全体最適の取り組みにコンサルタントとして1年以上かかわってきた日本IBM 理事の安藤充は「安川電機が持っているモーションコントロールの技術と、当社のIBM Watson IoTを使った分析技術を組み合わせて提供できるようにしていきたいというのが、私たちの共通の考えです」と語る。仕組みを作ったら終わりではなく、エンジニア集団が現場で支援を続けていくことになる。

藤野氏は「工芸品のようにデータがないものと違って、工業製品にはデータがあります。蓄積したデータを使い切っていないのが現状です。しかし、完全自動化は考えにくい。見えていない部分も多々あり、それらを取り込みながら進化していける仕組みが大事です。これはIBMのコグニティブの考え方に近い」と両社の相性の良さを指摘する。

「未来のものづくりは、人とロボットの共存作業。ロボットが作業に応じたスキルをクラウドから採り入れることで、人と共存した作業が可能になると信じています」と藤野氏。ロボットメーカーとしての安川電機の強みにIBMのテクノロジーを加えるというオープンイノベーションで、自社の生産現場の効率化と、新たなビジネス価値の創出が進められている。

3. 生産革新事例:日立造船 様

ビッグデータを活用することでプラントの自動化を目指す日立造船

運転員の知見をモデル化して判断を自動化

もう一つの事例として日立造船でのビッグデータ活用の取り組みを紹介したい。

同社では全国22カ所の清掃工場の遠隔監視を24時間体制で実施している。そこではごみの燃焼状態から状況を判断し、プロセスの自動化を図る試みが始まっている。

「ごみは投入されてから灰になるまで4~5時間かかります。その間、ごみの質による発熱量の急変などがあって制御が非常に難しく、経験豊かな運転員が炉内カメラの映像から燃焼悪化などの予兆を読み取って、手動介入してきました。ただ、今は自動化の内容がかなり高度になってきている一方で、熟練した運転員も減ってきています」と同社 環境事業本部 開発センター ACC & ICTグループ長の川端馨氏は課題を説明する。

課題解決に向けて同社が取り組んだのが、運転員の知見をモデル化して、判断を自動化することだった。その実現に必要になったのが“眼”となるセンサーと、それを元に判断する“脳”の存在だった。同社では、まず眼に相当するものとして、教師データが少なくてもそれなりに動く学習機能を持った画像識別器を用いて、人の感覚を直接学習するCoSMoS※を2011年に開発した。「眼の部分はかなり進化させることができました。次は知能をどうするかでした。運転員の深層心理や暗黙知をどう示したらよいかが問題になりました」(川端氏)。

工業用ロボットのイメージ画像

そこで同社が注目したのがIBM Watsonの活用だ。「手順の違い」や「どう説明していいのかわからない」ことをWatsonで分析し対比法で抽出する技術を開発し、3人の運転員の操作を分析してその違いを具現化することで、最適な運転手法のモデル化に取り組んでいる。
※CoSMoS(Combustion Sensing Monitor System:コスモス):日立造船と同社のグループ会社である株式会社ニチゾウテックが開発した学習機能を持った燃焼画像認識システム

「Watsonの『Personality Insights』という性格分析の機能が運転員の操作を理解するのに役立つのではと目を付ました。Watsonを使えば、人間がとても書けないような複雑な決定木に匹敵する判断ロジックを構成することができて、操作の範囲を変えながら最適運転手法のモデル化ができるのではないかと考えました」(川端氏)。

現在、日立造船ではWatsonと予知保全ソリューションであるIBM PMQなどを使って試行錯誤が続けられている。「いろいろな技術を組み合わせればWatsonのシステムはどんどん賢くなります。プラントの場合、さまざまな制約があり、付けているセンサーだけですべてのことを知ることはできないし、オペレータの深層心理で操作しているところもあり、全自動ではなく人が介入して進化し続けられるシステムを目指しています」と川端氏。同氏は「これからが非常に楽しみな、面白い仕事だと思う」と締めくくった。

工業用ロボットのイメージ画像

日立造船の取り組みに関する詳しい情報はこちら

ニュース・リリース:

日立造船では、これまで匠の世界だったゴミの焼却処理を、運転員の知見をWatsonでモデル化し、最適運転管理に役立たせている。

この日立造船の取り組みについて日本IBM理事の寺門正人は、「着目すべき点は画像や テキスト、音や振動といった非構造化データを分析に活用していることにある」と話す。
文章を解析し、画像を認識し、さらには音や臭いを区別することで、匠 の感覚値を形式知化できると指摘する。
同時に、こうした非構造化データの活用は熟練工のノウハウを生かせる“日本らしいインダストリー4.0“の取り組み であり、
新しいテクノロジーを使って人の暗黙知を伝承することが重要な課題だと語った。

両社の取り組みに日本IBM 理事の安藤充は、“止まらない工場”から“進化する工場”への変革だと説明する。顧客ニーズへの対応や現場の技術の伝承など、多数のお客様で共通する課題に対して、生産現場ではオープンイノベーションを通じて未来のものづくりに向けた 取り組みが着実に進んでいる。自社の強みを価値の源泉として、さらに先進テクノロジーでその強みを伸ばす――製造業のCognitive Manufacturingの実像が段々と見えてきた。

安藤 充 講演の様子 写真

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